ニードルズ|大ブレイクの軌跡とトラックパンツ大ヒットの理由|知っておくべきブランド

ニードルズ|大ブレイクの軌跡とトラックパンツ大ヒットの理由|知っておくべきブランド

いくら直幸


蝶のトレードマークでおなじみ、今では日本にとどまらず海外にもファンの多い<ニードルズ(NEEDLES)>。そのアイテムは街やメディアで頻繁に目に触れるものの、ブランドのプロフィールは意外と知られていなかったり。代表作のトラックパンツはもちろん、現在までの歩みや魅力をお伝えします。

出発はセレクトショップのオリジナル

<ニードルズ>の大ブレイクはここ5~6年のことですが、その実、およそ30年もの歴史を重ねています。デザイナーは国内外に展開するセレクトショップ、ネペンテスの代表でもある清水慶三氏。氏を語らずして、このブランドを知ることはできません。

清水氏は1958年生まれ。兄の影響から13歳でアイビーファッションに興味を抱き、高校生のときに出版された雑誌『メイド イン U.S.A カタログ』に心を強く揺さぶられ、服飾専門学校へ進学。が、わずか3ヵ月で退学処分に。少年時代から憧れだった和製アイビーの祖、ヴァン ヂャケットの販売アルバイトとして伊勢丹新宿店に立って学費を貯め、翌年に文化服装学院に入学したそうです。

卒業後の'81年に渋谷のインポートショップに入社すると、翌年にはアメリカのワークウェア&ブーツを中心とするレッドウッドを同社より立ち上げて店長に。まずはアパレル業界人に話題となり、山本耀司氏や熊谷登喜夫氏といったトップデザイナーも顧客だったとか。また国内ではマイナーだったリーボックのスニーカー、ファッションの店として初めてナイキを正規で取り扱ってエアジョーダン1を仕入れるなど、のちにメガヒットとなる商品をイチ早くバイイング。さらに'80年代中盤から起こり始めるアメカジや渋カジ(渋谷カジュアル)の大ブームでは、最重要ショップの一翼にまで成長させたのです。こうして培われた経験と実績、磨かれた審美眼、ファッション界に風穴を開けてきた持ち前の行動力を引き下げて清水氏は独立、件のネペンテスを'88年に創業します。
<NEEDLES> フィールド ジャケット

タフかつ軽やかなコットンナイロン素材により、印象は無骨にしてシャツ感覚で羽織れるフィールドジャケット。多用されたスナップボタンとマチ付きの大きな胸ポケットがアイキャッチに。

当時のネペンテスの主なラインナップは、米国各地を走り回って買い付けてきたオーセンティックな品々。レッドウッド時代からの後輩だった現・エンジニアド ガーメンツのデザイナー鈴木大器氏も参加し、まだ日本では知られていないメーカーをアメリカだけでなくヨーロッパでも足を使って探し求め、今でいう別注も直談判してショップに並べていました。ほかでは見られないアイテムが一堂に会す商品構成は、これまたアパレル関係者やコアな洋服好きの間で評判が広がり、商売は順調そのもの。

ただ、US生産のメーカーは減少の一途を辿るうえ、時代とともにアメリカでの買い付けが容易になったことでライバル店も出現し、仕入れ品だけで独自性を表現するのが難しくなり始めます。そこで'95年に始動したオリジナルブランドが<ニードルズ>なのです。

ベーシックでいてツウ好みなアイテム

その名は洋服作りに不可欠な針=ニードルと、必要以上は要らないといった意味の Need-less =ニードレスを掛けた造語。コレクションは世界屈指の技術と品質を誇るメイド イン ジャパンを中心に、タイムレスなワードローブを現代的かつ大人の感性で再解釈しています。種々さまざまなファブリック、ペイズリーやバティックといった民俗模様のほかアニマルパターン、タイダイやムラ染めなどの色柄、精緻にして大胆なシルエット、さらにヒネリの効いたディテールが織りなすプロダクトは、特定のカテゴリーに収まらない無二のもの。

ベーシックとアバンギャルドが絶妙に共存し、ときにマニアックでアクの強いデザインは、誤解を恐れずに言えば一般ウケするシロモノではありません。かねて “ 洋服屋が好きな洋服屋 ” と呼ばれるネペンテスのセレクションと同様、ファッションの玄人や好事家から熱烈な支持を集めています。
【別注】 <Needles> マルチ ストライプ カーディガン

人気定番のひとつであるモヘヤカーディガン。ヴィンテージライクな雰囲気を漂わすこちらの一着は、過去に好評を博したマルチストライプのデザインを基に配色をアレンジした別注モデル。

なかでも、季節ごとに素材や色柄を変えてリリースされるVネックのカーディガンはリピーターも多数。また、膝が出るようにフロントが大きく膨らんだ極太の “ ヒザデル ” こと「H.D.パンツ」もバリエーションが充実し、看板アイテムのひとつとなっています。

ジーンズに代わる新たな定番パンツ

そして何といっても代表作は、セットアップ対応のトラックジャケットとともに提案されているトラックパンツです。初登場は2008年、今ではブランドのシンボルとなったパピヨンのモチーフもこのときに誕生しました。

しかし近年とは違い、発売開始から数年間は見向きもされないアイテムだったとか。それでもめげずに継続して作ったのは、何より自分が穿きたいから。併せて、ジーンズに代わる新たなスタンダードを確立したいとの思いもあったと言います。実際に約10年間、ほぼ毎日これを愛用し続けたのです。やがて、その偏愛は社内スタッフや卸し先のバイヤーにも伝播し、ショップでも徐々に受け入れられるように。そして'18年、大きな転機が訪れます。ファッションアイコンでもあるニューヨークのラッパー、エイサップ・ロッキーが着用してファンであることを公言。一躍注目を集め、海外でも人気に火が点いたのです。
<NEEDLES> BOOT-CUT TRACK PANT/ブーツカット トラックパンツ

ベロアや総柄ジャカードなど多彩なファブリックで提案されるトラックパンツのなかでも、基本となるポリエステルスムースのジャージー生地を使用。クセになるほど快適な穿き心地を味わえる。

やや光沢があって程よい肉感のジャージー生地は動きやすく、繰り返し穿いても表面が傷みにくく、膝抜けもしにくく、洗濯後も乾きやすい。5本のラインが配された太めで粗めのサイドテープも小気味よいアクセントになり、センタークリース風のコバステッチには脚線を長くキレイに見せる効果も。加えて、スポーツメーカーとはひと味違うカラーリングもストリートに映えてくれます。しかも毎シーズン欠かさず数種類の新色が発表されているにもかかわらず、これまで完全に同じカラーの組み合わせは一度もなく、似たように見えても微妙にトーンが異なるこだわりぶり。さらには各シーズンのコレクションも最初にトラックパンツの配色を決め、それを起点にして全体のアイテムを考えるというブランドの軸になっています。

今では基本のストレートを筆頭に、細身のナロー、裾が適度に広がったブーツカット、先述したワイドバギーのH.D.、裾をファスナー&ゴムシャーリングで絞ったジップドの5つのフィットがあり、色違いやシルエット違いで何本も買い足すユーザーも。トラックパンツを入口にして<ニードルズ>にハマるケースも少なくなく、男女や年齢を問わず影響力のあるミュージシャンや俳優にも愛されています。

いっさいブレず、時代に迎合することもなく、ただただひたすらに自らの “ 好き ” を突き詰めてきた清水氏の洋服人生。それをダイレクトに投影し、絶えず貫いた結果ようやく世の中が追いつき、魅力に気が付いた。セレクトショップのオリジナルブランドという枠を超え、国境・性別・世代も超えた現在の<ニードルズ>のポジションは、こうして築き上げられたのです。
ファッションライター いくら直幸

ファッションライター いくら直幸

人気アパレルメーカーのPRを経て、1990~2000年代に絶大な影響力を誇ったストリートファッション誌『Boon』の編集者に。現在はメンズ雑誌&ウェブマガジンをはじめ、有名ブランドや大手セレクトショップのオウンドメディアにも寄稿。近年はYouTube番組への出演、テレビ番組のコーディネート対決コーナーで審査員を務めるなど活動の幅を広げている。

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