パラブーツ|上品かつタフで気張らない、フランスの国民的レザーシューズ|知っておくべきブランド

パラブーツ|上品かつタフで気張らない、フランスの国民的レザーシューズ|知っておくべきブランド

いくら直幸


フランスを代表するレザーシューズの名門<パラブーツ(Paraboot)>。休日スタイルはもちろん、ちょっとドレッシーな装いにもよく似合い、近年ではオフィスカジュアルに合わせるビジネスパーソンも多数。革靴でありながら堅すぎず、いい意味でひとクセある老舗ブランドが歩んだ、紆余曲折の軌跡と魅力を辿ります。

ヨーロッパ初のラバーソールシューズ

フレンチアルプスの麓、グルノーブル近郊の小さな田舎町に本社&工場を構えるシューメーカー、リシャール ポンヴェール社。登山靴を専門とするガリビエ、作業靴やフランス軍の靴を担うパラショックという2つのプロユースブランドを展開する同社が、それらの長所も取り入れつつタウンユース向けに提案しているのが<パラブーツ>です。

創業は1908年、革靴の裁断師や仲買人であったレミー・アレクシス・リシャール氏が自身の工房を構えたことが歴史の始まり。2年後には裕福なポンヴェール家の娘と結婚し、現在のリシャール ポンヴェール社を設立。以降、4代目となる今日までファミリーでの経営を続けています。当初はパリの上流階級、周辺地域の企業経営者、山岳労働者、軍の関係者といった顧客にオーダー靴を製作。片や端正なドレスシューズ、片や頑丈なワークシューズと、いわば両極を手掛けるスタンスは既にこの頃からであり、先述した3つのブランドの原点となりました。

大きな転機は'26年のこと。レミー氏は渡米先で見たラバーブーツに可能性を見出し、自社での製造をスタート。さらに主流だったレザーやウッドのソールに代わる新たな底材としてラバーソールの開発に乗り出します。試行錯誤の末に完成させたそれを、同社のすべてのワークブーツに採用したのです。ゴムの原料であるアマゾン産の天然ラテックスはブラジルの “ パラ ” 港から出荷されており、そのアイデアソースがアメリカの “ ブーツ ” だったことから<パラブーツ>のブランド名を冠して発売し、'27年に商標登録。のちに彼は空気による緩衝構造を内蔵した、いわゆるエアクッションソールも発明します。
<Paraboot>CHAMBORD シャンボード Uチップ レザーシューズ

1987年にデビューした名作Uチップ「シャンボード」はブランド随一の人気モデル。滑りにくく衝撃吸収や耐久性に優れ、摩耗にも強いパラテックスソールを採用する。

その後、第二次大戦下の物資不足も何とか乗り越えますが、さらなる苦難が待ち構えていました。戦争によって化学が発展したことで、プラスチックソールを貼り付けた安価な使い捨てシューズが登場したのです。難しい技術を必要とせず生産性に長けたその台頭は、昔ながらの工場だった同社を閉鎖の危機へと追い込みます。しかし2代目を継いでいた息子のジュリアン氏は効率や目先の儲けを捨て、元来のノルヴェイジャン製法やグッドイヤー製法を貫くことを決断。ハンティングやフィッシングを趣味とした彼らしく、ヘビーデューティーな靴作りを選択したのでした。結果、タフで履き心地がよく長持ちする靴は、立ち仕事や歩き回る職種から絶大な支持を得て存続は守られたのです。

またジュリアン氏は、建築家や測量士といったエンジニアをターゲットにライトデューティーな作業靴にも着手。そうして'45年に発売されたのが、アルプス・チロル地方の民族靴をヒントにして'37年から作られていた山岳向けの「モジーン」をアップデートした一足でした。彼の息子・ミッシェル氏(現会長)の誕生を祝い、そのラテン読み「ミカエル」とネーミングされたこれは、チロリアンシューズの傑作として発売80周年を迎えた今もブランドを象徴するベストセラーとなっています。

傑作「ミカエル」が救った存亡の危機

'60年代になるとアウトドアスポーツの分野にも参入。<パラブーツ>ブランドの発足以前から続くガリビエを登山靴やスキー靴に特化させると、有名アルピニストたちがこぞって愛用。現在の一般的なマウンテンブーツの原型となるヒット作を生み出し、また南極探検隊や火山研究者といった特殊な環境に身を置くスペシャリストにもブーツを供給するなど、業界のリーダーとなったのです。

ただ順風満帆に見えた同社ですが、急激な経営拡大から負債が膨らみ、'70年代に入るとオイルショックの追い打ちもあって再び経営難に陥ります。3代目を引き継いだミッシェル氏は多岐にわたる改革を図るも、奮闘虚しく'83年に破産を申告。ところが組合と商事裁判所は、伝統を重んじて愚直にクオリティを追求してきた姿勢に信頼を置いて経営継続を申し渡したのでした。
<Paraboot>REIMS ランス ローファー

チロリアン靴のミカエルから派生した「ランス」。ポッテリしたフォルムや無骨なモカシン、ブーツ的なマルシェllソールなど、ローファーらしからぬ重厚感が持ち味。

奇しくも当時、世を席巻したイタリアンカジュアルの影響から、足元のトレンドが薄いソールから厚底へと移行。次いでフレンチアイビースタイルが盛り上がり、これらの潮流に乗って「ミカエル」が爆発的に売れ、たちまち経営が回復したのです。さらにはエルメスが「ミカエル」の別注モデルを発表したことで、<パラブーツ>の存在感やステータスは一気に飛躍。かくして高級靴としてのポジションを確立し、現在の4代目へと引き継がれています。

アウトドア靴の技術を品のよい街靴に

先述した名の由来がそうであるように、<パラブーツ>のアイデンティティとも言えるのがソールです。およそ100年前にヨーロッパで初めてゴム底を導入しただけでなく、現在もラバーソールを自社生産する世界で唯一の革靴ブランドとなっています。特性の異なる18種類ほどのオリジナルソールをモデルに応じて使い分けており、グリップ力とクッショニングと耐摩耗性に優れ、1日ずっと着用しても疲れにくいと評判です。

またアッパーのレザーも国産にこだわり、その確保が難しくなった今も7~8割を自国のタンナーから、それ以外もヨーロッパ内で調達。なかでも独自のオイルドカーフであるリスレザーは撥水性が高く、雨ジミや傷みに強く、おろしたてはハリに富み、履き込むほど足に吸い付くように馴染んでナチュラルなツヤをたたえるのが魅力。素材感の美しさから “ フランスの宝石 ” とも称されています。

加えて、お家芸のノルヴェイジャン製法。要する部材や工程が多く、極めて高度な職人技と手間を伴うことから行えるメーカーは限られます。しかし古くから登山靴やスキー靴に使われるなど実に堅牢で防水性に優れ、ストームウェルトというパーツを組み合わせることで水の浸入をさらにブロックできるローテクにして高機能な仕様なのです。
<Paraboot> SUEDE BIT LOAFER/スエード ビット ローファー

上質スエードのアッパーに、程よいボリュームのレイドソールを装着した別注ビットローファー。春夏は素足で軽快に、秋冬はソックス&厚手パンツとの合わせがオススメ。

こうしたクラシックなアウトドア靴のノウハウを活かしつつも上品に仕上げるのが無二の個性。雨天の多い日本にもマッチします。そして高級靴でありながらラグジュアリーの文脈ではなく、トラディショナルで質実剛健、愛嬌のあるポッテリ気味のフォルムと底回りの力強さも相まって、かしこまった服装を程よく和らげ、カジュアルスタイルにはエレガンスを添えてくれる。そのうえワークブーツのごとく経年変化し、かと思えばリラックス感まで併せもつスニーカーのようなシューズでもあるのです。

1世紀以上にもわたりフレンチメイドと真摯なモノ作りを徹底し、素晴らしいプロダクトを届けてきた同社。その功績が讃えられ、国が認証する無形文化財企業の登録も受けており、フランスでは “ 大人になったら<パラブーツ>を履け ” と言われるほど深く根付いています。品格はもちろんファンクションとファッションの両面での実用性も兼ね備え、語りどころも満載。こんな革靴はほかにありません。

最後にひとつ。モデルや足型によって一概ではないものの、<パラブーツ>の靴は日本人には踵回りがゆるめの傾向にあります。その場合は厚手のソックスを合わせたり、前半分のハーフインソールなど適切な中敷きを入れたり、ヒールグリップを貼るといった対処が有効です。もしくは、ハーフサイズ小さめを選ぶのも手段。最初のうちはキツく感じますが、次第に革が伸びて塩梅よくフィットするはずです。
ファッションライター いくら直幸

ファッションライター いくら直幸

人気アパレルメーカーのPRを経て、1990~2000年代に絶大な影響力を誇ったストリートファッション誌『Boon』の編集者に。現在はメンズ雑誌&ウェブマガジンをはじめ、有名ブランドや大手セレクトショップのオウンドメディアにも寄稿。近年はYouTube番組への出演、テレビ番組のコーディネート対決コーナーで審査員を務めるなど活動の幅を広げている。

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