B&Y

Kento Nagatsuka
Musician
デュアルパック

Text Takuhito Kawashima
Photography Naoto Usami
Hair&Make-up Yasunori Watanabe


Published May 14, 2021

Text Takuhito Kawashima
Photography Naoto Usami
Hair&Make-up Yasunori Watanabe

Published May 14, 2021

光が入る窓際のキッチンには、ペティナイフを軽快に操り、まるでプロのシェフのように食材を調理していくWONKの長塚健斗さんの姿があった。
「メインの魚は鰆で、あさりのお出汁と合わせて作ったソースに少しだけ、燻製のオリーブオイルがかかっています。玉ねぎは淡路島の新玉ねぎを低温でじっくり焼きました。上に乗せたのは、えんどう豆とその若葉です」と、長塚さんは自らの料理をそう紹介する。日本のみならず海外にまで活躍の幅を広げるバンドWONKのボーカリストである長塚さんが料理を始めたのは幼少の頃にまでさかのぼる。実家のキッチンで、子供用のステップの上に立ち母を手伝っていたという。
サーブされた料理を食べてみる。燻製のオイルが舌の上から鼻の奥に抜け、次にえんどう豆をピューレしたソースの甘み、さらに鰆の脂が口内にジュワッと広がる。複雑にレイヤードされた料理に全員が舌鼓を打った。
音楽と料理。この2つだけは長塚さんが飽きることなく、ずっと続けてきたもの。なぜ飽きなかったのか?それは、自分が作ったもので直接人を幸せにすることできるから。「一品の料理、一曲で人の心を揺さぶることができて、思い出に残すことができる。僕はそれがすごいことだと思うんです」と長塚さんは言う。「あの歌良かった」、「あの料理美味しかった」という言葉だけで自身の探究心や興味関心を育む長塚さんがどこか羨ましいと思った。

Q&A with Kento Nagatsuka

Q: 長塚さんの料理は基本フレンチベースですか?

A: 中華に始まり和食やイタリアンと色々と通ってきましたが、基本はフレンチです。フレンチの特徴は、一個一個の素材を見つめて、分解して再構築していくスタイルにあると思っています。今回作ったエンドウ豆のソースもそうですけど、火入れしてそれをピューレにするのか、そのまま使うのか。それが口に入った時の食感とか香りとかを計算して、一皿にまとめあげていくんですね。それがフレンチの魅力であり、僕ががっつりハマっている理由だと思います。

Q: フランス料理のスタイルは、長塚さんの音楽作りとも関係してそうですね。

A: それはあると思います。素材にこだるようにひとつ1つの音にこだわることはもちろん、それぞれが最高の形で調和するようにミックスして、ベストな聞き心地になるようにマスタリングしてようやく楽曲として世に出せる。すべての料理に言えることかもしれませんが、フレンチの世界のそれと特に近いと思います。例えば、今日の料理でいうと、僕はボーカルなので、鰆なんです。そしてフックになるシンセサイザーの音が、最後にかけた燻製のオイルみたいな働きをしているんじゃないかと思います。

Q: 今回の撮影では、料理を楽しそうにされている長塚さん、そしてレコーディングスタジオでは玉置浩二さんの「田園」や久保田利伸さんの「流星のサドル」、宇多田ヒカルさんの「First Love」などを歌っていただきましたが、本当に楽しそうだったのが印象に残っています。

A: 基本的には飽き性な性格で。料理と音楽以外にも色々と試してきたのですが、唯一ずっと興味が尽きなかったのが音楽と料理だけでした。昔からこれだけで生活できたらいいなと本気で思っていたぐらい。これは僕だけでなく、バンドメンバー全員に通ずることなのですが、興味の範囲はすごく広い。知らないことでも面白そうだと思ったことに関しては、食わず嫌いせずにとりあえず調べてみようという空気感があるんです。

Q: ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの「ひまわり」を見るなら、まずはゴッホのことについて調べてから、作品を見てみろと先輩に言われたのを思い出しました。

A: 知らないで触れるものと知ったうえで触れるのとでは、受け取り方が変わりますからね。あまり頭でっかちになりすぎて知識だけに縛られるのもよくないと分かりつつ、知識に対して貪欲なのかもしれません。その中でも特に料理と音楽は興味が尽きることがないんですね。

Q: 特別な素材が必要な例えば彫刻のようなものとは違って、料理や音は身の周りにあるものですし、特に料理に関しては比較的ずっと作っていられるものというのも長塚さんに合っているのかもしれませんね。

A: しかもその成果物が直接人に渡せるし、うまくいけば幸せを与えることができる。自分が作ったものがある程度直接的に、人を幸せにすることって貴重なことだと思うんです。僕らは、一品の料理、一曲で人の心を揺さぶることができたり、思い出に残すことができることをやっています。「あの歌良かった」「あの料理美味しかった」そう言われた時は最高に嬉しいし、やりがいを感じるんです。

Q: 洋服を着ることも食事をすることも、日常的にしなくちゃいけないことです。それだけに適当に扱うこともできますが、長塚さんのようにプラスアルファ的な考え方で掘り下げていくと日常生活がもっと楽しくなりますよね。

A: WONKメンバーと出会って良かったと思う点ってまさに、みんなそれを自然にやれていることです。最初は全然だったファッションも、今ではメンバーそれぞれが自分のスタイルを見つけたことで、日頃身につけるものも随分と変わりました。他にも最初は僕以外全然コーヒーを飲まなかったのに今となってはみんな日常的に愛飲するようになっていたり……といろんな面で相互作用しているんです。だから今すごくいいチームだと思っています。

Q: 好きなものが増えるって実は素晴らしいことなんですよね。

A: 好きなものが増えれば増えるほど、そしてそのなぜ自分がこれを好きなのかを理解すればするほど、自分の生き方って自然に定まっていくと思うんです。

Q: 何を食べる、何を着る、選択全てがその人の生き方につながっていくってことですね。長塚さんの“選択”について知りたいです。

A: クリエイターとして何が求められているのかは考えますし、WONKとしても個人としても何を発信したいかということも常に考えます。その上で、一言で言い表すことは難しいんですが、「選択」の幅をどんどん広げていって、自分たちが新しいなと思えることをどんどん生み出していきたい。単純なところだとこれまで使ったことのないソフトや機材を使って、これまでにない環境でレコーディングしてみたり。味わったことのない組み合わせで、各地の良い食材を良い調理機材を使って調理してみたり。経済的な意味も含めて段々と成長できてきているからこそ生まれる“選択肢”の広がりによって制作物の出来上がりが毎回変わってきているのは事実です。受け取る人全員が気付けないことが多いかもしれないけど、僕らはそういうところも好きでやっているんでしょうね。まぁでも、最終的にいいねと言われるものを作りたい気持ちはずっと変わってません。

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