B&Y

Yu Nagaba
Artist
ハーフスリーブ

Text Takuhito Kawashima
Photography Naoto Usami


Published June 25, 2021

Text Takuhito Kawashima
Photography Naoto Usami

Published June 25, 2021

紙の上に描かれるのは1色のアナログな線。どこを見ても情報量が押し寄せてくる今日において要素を極限まで削ぎ落としたドローイングスタイルで知られるアーティストの長場雄さん。特に記憶に残るのが2014年の「POPEYE」9月号のサンドイッチ特集。編集者が試行錯誤し、書店でひと際目立たそうと思い、色をふんだんに使ったり、文字を大きくあしらったりするなか、POPEYEの表紙は、ネイビーの線と文字で「サンドイッチと……」だけ。この衝撃的なドローイングで表紙を飾ったことを皮切りに現在では個展や広告などで幅広く活躍する。そんなどこか力の抜けたアイコニックなスタイルは長場さんが長い時間をかけ試行錯誤した末に完成したものだった。「悲しいことが嫌なんです」と語るように描かれた絵の中には明るくポジティブな人たちが映る。そんな長場さん自身はまるで子供のような無邪気さを持ちながら時々、物事の本質を鋭く突くようなことを口にする。それは複雑化した世の中が実はもっとシンプルであることを教えてくれる。

“Love & Peace”を象徴するアイコンのジョン・レノン。長場さんはジョン・レノンを様々な作品で描くほど。この写真は長場さんのアトリエ1階にある打ち合わせテーブルから見た風景。

Cut&Sewn, Olive, BEAUTY&YOUTH ¥7,920

今回の撮影のために、アトリエの窓に特別に描いてくれた長場さん。普段は紙やキャンバスの上に描く長場さんだが、「これはこれでいいですね」と嬉しそうに完成したジョン・レノンを自身のスマートフォンで撮影していた。

Sneakers, Olive, NEW BALANCE for BEATY&YOUTH ¥10,890
Cut&Sewn, Olive, BEAUTY&YOUTH ¥7,920

<New Balance>の礎を築いた1970年代のレトロなランニングシューズを再構築し、高いデザイン性と快適な履き心地を両立させたライフスタイルモデルの「327」。メッシュデザインのアッパーは、暑い時期にも履きやすく、軽い質感がポイント。オリーブは、BEAUTY&YOUTH限定モデル。

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丸編み生地の世界的産地として知られる和歌山市で1964年に創業した名門ファクトリー<カネマサメリヤス>に別注した軽い着心地のスウェットTシャツ。ゆとりのあるサイズ感に加え、Tシャツのようにカジュアルになりすぎず、ほどいいリラックス感と清潔感が保たれる一着。

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1949年に撮影されたパブロ・ピカソの「光のドローイング」を模して。4秒間という長時間露光での撮影は、時間という制限に加え、仕上がりが見えないため、何度も何度もトライ。モニターをチェックする長場さんの目はキラキラと輝いていた。

アトリエ2階は、長場さんとマネージャーの仕事場。「デジタルでは描いた気がしない」という長場さん。有機的な線は手仕事だからこそ生まれるのである。

Short Sleeve Shirt, Navy, BEAUTY&YOUTH ¥11,000

「昔は遅くまで働いていたんですけど、最近は9:00AMに出社して、できるだけ17:00に帰宅するようにしています」と長場さん。

Short Sleeve Shirt, Navy, BEAUTY&YOUTH ¥11,000

京都丹後地区で織り上げた生地はドレスシャツのような光沢感があるショートスリーブシャツ。独特な生地の膨らみ感・ぬめり感がありながらも適度な張りもあるため、着用していてとても気持ちのいいシャツ。

ファッションや映画など「自分が好きなもの」を手がかりにしながら、写実的に描いたりシンプルに描いたり、自分にしかできない表現を探究した長場さん。たどり着いたのが、シンプルな線でのハンドドローイングというスタイルだった。

Short Sleeve Shirt, Navy, BEAUTY&YOUTH ¥11,000

撮影日に長場さんがインナーに着用していたのが、トラヴィス・スコットとTENETとのコラボレーションTシャツ。上質な生地のショートスリーブシャツに、グラフィックTシャツという合わせはBEAUTY&YOUTHというブランドを象徴するスタイリングだった。

1976年世田谷生まれの世田谷育ち。POPEYEなどの雑誌をはじめ、書籍や広告、UNIQLOやG-SHOCKなどのようなブランドとのコラボレーションなど領域を問わず幅広く活動する。また2020年には「レイヤード・ミヤシタパーク」内のギャラリー「サイ」にて、個展『The Last Supper』を開催するなど、アーティストとして作品発表を行なっている。

Q&A with Yu Nagaba

Q: 偉大なアーティストや著名人のモチーフのみならず、長場さんの作品には一般の人々がモチーフになっている作品も多数あります。彼らのどういったところに興味を引かれるのでしょうか?

A: 2020年、 Artek Tokoy Storeの1周年を記念するプロジェクトで、表参道にいる一般の人たちを題材にした作品を作ったことがありました。自分がファッション好きなのもあって、表参道を歩きながらおしゃれな人や雰囲気のある人をチョイスしていましたね。

Q: 長場さんにとっての“おしゃれな人”はどういう人ですか?

A: 洋服との距離感の取り方が上手い人ですかね。服そのもののパワーに負けていない人や服と対等に向き合えている人が魅力的だと思います。ブランドロゴの主張が激しいものとかですと、人によってはいやらしく見えたりもしますが、自分のものにできている人はそこが上手ですよね。

Q: その視点は昔から持っているものですか?

A: 仕事にはしませんでしたが、ファッションは昔から好きでした。それこそボトムスの裾の溜まり具合とかよく見てましたし、実際自分が中学校の時とかにもすごく頭を悩ませているような少年でした。

Q: 昨今、デジタルで作業をするアーティストの方も多くいますが、鉛筆を使ってドローイングしているのにはどのような理由があるのでしょうか?

A: これからテクノロジーも進化していくのだろうとは思うのですが、今のところデジタルだと描いている実感がないんですね。鉛筆の方が結局自由なんです。

Q: 情報量や線、色を減らしてドローイングとして見せる今のスタイルの始まりはいつごろになりますか?

A: 2014年から始めました。その前は写実的なものだったり、色を多く使ったり、キャラクタータッチの絵を描いていました。描けるものは沢山あったけど、突き抜けるものではありませんでした。自分らしいものの見方をうまく表現できるスタイルはないかと試行錯誤して、ようやく辿り着いたのが今のスタイルでした。

Q: 新しいスタイルを発表するとき、怖くなかったですか?

A: 怖かったです。いわゆるイラストレーターは依頼されて初めて仕事ができる職種なので、例えば「色を使いません」と言うと、もっとしっかりものを表現してくださいと言われたりしました……。でもこのタッチだと限界があります。怖かったけど、「もういいや」という諦めもあったのかもしれません。もしこれ以上のことを求めるなら他の人に頼んでくださいと。でも今思えばそれが良かったと思います。それを早く理解してくれたのが前田晃伸さんをはじめとする雑誌「POPEYE」のチームでした。

Q: 同じスタイルで作品を作り続けることが辛くなることはありますか?

A: 流れ作業になっていくと、ルーティンワークになってしまい、当然面白くなくなっていきます。でもそれは自分に原因があると思っています。だから自分で面白くするためにはどうするべきかを考えるんです。今、京都のACE HOTELで個展をやっているのですが、ACE HOTELのメモパッドに有名人を描けば絵としては成立するとは思うのですが、もうちょっと考えてみようと踏み止まった。最終的には、京都に行って、自分が見たものや感じたものを言葉にして、それをドローイングの作品にしました。そういうプロセスを楽しんでいると、毎回毎回フレッシュな気持ちで仕事ができます。

Q: ファッションにおいても、白いTシャツをつまらないものとして見るのか、遊べる余白があるものとして見るのかで向き合い方は変わってきますよね。

A: せっかく生きているんだから楽しまなくちゃもったいないと思います。楽しんだもの勝ちだと思うので、つまらない事や嫌な事をいかに楽しいに変換するかが大切だと思います。それを見つけ出すためには努力が必要なんですけどね。

Q: ここのアトリエにはポラロイドカメラの名作SX70やダイソンのデスクライトなど作られた年代も趣もバラバラなものが置かれていますね。ものを買うときの基準はありますか?

A: 最近はできるだけ増やさないようにしているのですが、新しいテクノロジーを搭載したハイスペックなプロダクトを見るとついつい試したくなってしまう。一方で、2階の作業場では今音響を整えていて、レコードというクラシックウェイで聞いています。どちらも好きです。一方に偏る必要もないと思っています。せっかく乗る車ならかっこいい方がいいし、せっかく食べるなら美味しいご飯がいい。テンションの上がらない洋服もあまり袖を通したくないんです。それだけで1日は大きく変わりますよね。

Q: 僕の仕事も日々ルーティン化してしまうので、そこに何か寄り道のようなものができないかと考えます。いい器でコーヒーを飲んでみたり、少し暑いけど気分の上がるボトムスを履いて出社してみたり。時にその選択は利便性や機能性を無視したもので、気分のためにやっていることです。

A: 服や食べ物、何にしても価値観はアップデートしていきますよね。それが上がりすぎたからと言って、下のものを選ぶと成長が止まってしまうように感じます。常により良いと思うものに触れて自分を引き上げるように、自分自身の教養にしていきたいんです。

Q: 買い物は、本能的な行動だと思っています。しかし現在は、それ以外に環境配慮やフェアトレードなど理性的に考えなくてはいけない時代になっています。どちらがあってもいいと思うのですが、今は理性の方に少し偏りすぎている気がするんですね

A: でもお気に入りの洋服を買って長く着ることは環境にも良いと思います。僕たちは少し物事を複雑に考えすぎているのかもしれませんね。

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