Text Mikiya Matsushita
Photography Asuka Ito
Published September 3, 2021
Text Mikiya Matsushita
Photography Asuka Ito
Published September 3, 2021
金融の中心地、アートや新たなライフスタイルとは程遠いイメージのある街、日本橋兜町。その兜町が最近、面白いと耳にした。調べてみると退廃的な銀行跡にホテルが出来ていたり、その周りにもナチュールワインの専門店やビストロができたりと、なんだか気になる動きをしている。そんな「Kabutocho Project」に都市の編集者として参加するMEDIA SURFの弘志さんは実際に、世界中数多くの都市を巡りその目で都市の特色を観察してきた。そんな彼が大切にしていることは思い出や記憶、歴史との繋がり。都市のみならず、自分の所有物にすらも、過去の痕跡を求め、その過去に思いを馳せ、大切に長く使う。立ち止まることが良しとされない世の中において、時には立ち止まり、過去に未来を見出すことも必要なのだと弘志さんは教えてくれた。
Boston Big Buckle, Black, BIRKENSTOCK×BEAUTY&YOUTH ¥24,200
撮影を敢行したのは弘志さんが勤務するMEDIA SURF。「新しい生き方、新しい働き方」を提案するコワーキングスペースMIDORI.so内。働く人たちが自ら作り出した空気感と、ポートランドから輸入したインテリアで独特な世界観のある空間だった。
Boston Big Buckle, Black, BIRKENSTOCK×BEAUTY&YOUTH ¥24,200
BIRKENSTOCKの名作「Boston」をベースにBEAUTY&YOUTHが別注をした今作。太くボリューミーにサイズを拡大したベルトとシルバーのバックルが目を引く。
弘志さんとパートナーの美音さんが出会ったのは、ドイツのベルリン。
普段の移動は二人とも、自転車が多く撮影後も行きつけのバイクショップ「Tempra Cycle」に一緒に行くと話していた。
Boston Big Buckle, Black, BIRKENSTOCK×BEAUTY&YOUTH ¥24,200
「普段から膝の上に足を乗せてくるんです」と美音さん。愛くるしい表情で誤魔化す弘志さん、二人の仲の良さが伝わってくる撮影だった。
Boston Big Buckle, Black, BIRKENSTOCK×BEAUTY&YOUTH ¥24,200
BEAUTY&YOUTH別注の「Boston」は上品なブラックのスエードアッパーを使用。ブラックとシルバーの配色はコーディネートを選ばず、カジュアルからモードまでさまざまな雰囲気にフィットする。
Midori.soの一室には、壁を埋め尽くすほどの本棚があった。本のジャンルは雑誌やアートブック、歴史書とジャンルレスな並び。弘志さんも実際に普段はこの部屋で働き、コーヒーを飲みながら本を手に取り、休憩している。
1978年に発売された「Boston」は40年以上が経った今もなお、アーティストやミュージシャンと年齢や職業を選ばず世界中で愛され続けている。歴史や人から受け継がれるものを大切にする弘志さんにもぴったりの一足。
普段都心で働いている分、週末は昔から好きだったという自然に触れ合いにいく。移動は彼の趣味でもある自転車。「免許もいらないし、遠くにもいける。乗っていると自由な気持ちになれるんです」と弘志さん。
Boston Big Buckle, Black, BIRKENSTOCK×BEAUTY&YOUTH ¥24,200
弘志さんの趣味の一つに、お気に入りのカメラで写真を撮ることがある。ミュンヘン発のブランドA KIND OF GUISEのエディトリアルにフォトグラファーとして参加した経歴も持つ。
パートナーの美音さんは中世美術の研究をしていた過去がある。写真やカルチャーへの造詣も深い弘志さんと一緒にいると、どこかインテリジェンスな空気感も感じる。
いつでも等身大で様々な意見に対してもオープンな姿勢の弘志さん。彼の魅力に惹きつけられるように、周りには、職業や年齢、出身を問わず様々な人が集まる。
Interview with Koji Egi
Q:弘志さんが勤めるMEDIA SURFは自らを「都市の編集者」と名乗っていますが、どういった活動をされているのか教えてください。
A:日本における金融の中枢である日本橋兜町にHOTEL K5を始めとする文化的施設を作った「Kabutocho Project」は都市の再発展、再活性化をテーマとしたものでした。「何が都市を突き動かすのか」その答えを出すために、都市を観察し、アクションしています。
Q:いくつかの都市に実際に住み、そのほかの都市にも多く訪れている弘志さんから見て、東京はどのような街でしょうか?
A:メルボルン、ロンドン、ベルリン、東京に住んできて、それらの都市は大きく異なる特徴を持っているように感じました。東京に関して最も特徴的に感じるのは、古いものと新しいものが同時に存在しているという点です。メルボルンは自然に溢れ広大な敷地を持つ都市。ベルリンでいうと、例えばベルグハインという世界を代表するクラブがあります。しかしそこはバンカー(掩体壕)。ベルリンは古くからある建築物が違う目的で再利用されることの多い都市なんです。だからか、ベルリンのような建築の使われ方に歴史と深みを感じるわけです。
Q:東京とは違いますね。
A:東京は古い建物の目的が果たされたら、一度取り壊しをして、更地に戻してから、新しい建物を作ることが多いですからね。建物が作られたときに与えられた目的通りにしか使われないのはベルリンやロンドンのように見事な建物の再利用をしている都市と比べると残念に感じます。なので『Kabutocho Project』などで古い建物の再利用に携われるのは嬉しく感じます。
Q:なぜ日本ではベルリンのような建築の使われ方がされないのでしょうか?
A:友人の建築家の話によると、地震や津波のような自然災害の多さからだと聞きました。しかし、一方で建物よりも土地を大切にするというカルチャーが根強くあるのではないかと私は思います。
Q:本格的に東京へ移住する前にも、何度か日本を訪れているとお聞きしました。
A:私の祖母と祖父は広島に住んでいました。幼い頃、訪れたその家は美しい縁側があり、手先が器用だった祖父はいつも陽のよく入るその場所で作業をしていたんです。でも彼らが亡くなった後、その家は取り壊され、その土地に新たなふたつの家が建てられました。私の記憶に鮮明に残るあの美しい光景が今はないことに淋しく思います。
Q:話を伺っていると、古いモノや記憶をとても大切にしていることが伝わります。
A:私は写真を撮ることが趣味で、カメラも10台ほど持っています。その中でも最も大切にしているのが、祖父から貰ったMAMIYAのカメラです。そのカメラは今私が使っても、当時、祖父が使っていた時と同じように使える。カメラと同じぐらい好きなこととして、自転車がありますが、それも新品のものは一つもなく、古いパーツを集めて組みました。
Q:私にも似た考えを持つ友人がいます。彼は古いものだから大切にするのではなく誰かから受け継いだものだから大切に使うんだと言っていました。
A:私もモノを持ちたいと思うときは、物語性をそこに感じたいんです。それは例えば祖父がそれを使っていたという思い出だったり、自転車についた傷から感じる歴史のようなものです。
Q:自然の多い場所に行くことは弘志さんにとって大切なことですか?
A:ベルリンにいた頃は二週間に一度ぐらいのペースで街を出て、湖に自転車で訪れていました。アルプス山脈を自転車で登ったこともあります。自然はいつでも私をリフレッシュさせてくれますが、今は東京にいるのであまり行けていません。最近は新潟の佐渡島まで自転車で行こうと計画しています。今の私のリセットボタンは何もないビーチに行って水平線を見ることなんです。
Q:東京を離れて自然の多い場所に引っ越そうと考えたりしますか?
A:今は想像もつかないけど、10年前はまさか自分が自転車でアルプスを登るとは思わなかったし、東京に住むことになるとも思っていなかったので、可能性としてはあるかもしれません。
Q:お母さんが広島出身だとお聞きしましたが、ヨーロッパでの生活を経て日本に引っ越したのはなぜですか?
A:日本にきた理由は、小さい頃何度か母に連れられて来日しましたが、しばらく来ないようになり、改めて自分のルーツでもある日本とのつながりを感じたいと思ったんです。
Q:住む場所を変えることに不安や怖さは感じますか?
A:言葉が分からなくても、文化がわからなくても住んでしまえばなんとかできるという自信を持っているのかもしれません。それは自転車と同じで、乗っていたら故障や不具合など思っていなかったハプニングが起こるけど、それでもどうにかしてきたように、何かあってもなんとかなると思っています。
Q:憧れの場所や行きたいと思った場所に、行ける人とそうではない人との差はなんでしょうか?
A:自信もそうですが、考えすぎないことが大切です。いろいろな人がやりたいことはたくさんあるけど、その中で本当にそれを実行する人は意外と少ないですよね。行動を止めているのはできないかもしれないという考えだと思います。例えば自分だったら、何もわからないことでも、何か小さいことから初めてみる、小さな一歩を踏み出してみると言うのが大切だと思っています。興味のある物事にはまず、自分の一部を突っ込んでみる。そうすることによって、その物事との関わりが生まれて、結果が後からついてくる。だから最初の一歩を踏み出してみることがとても大切なんです。
Q:人より何かが劣っていたりすると、それがコンプレックスで動けなくなってしまう人も多いのかもしれません。
A:無知であることは悪いことではないと思っています。知らないことでも知っていると見栄を張ってしまう人も多いけど、自分は日本で生活していて、言葉の問題など、他人と比べて劣っている点が多いと思いながらも、毎日朝起きて1日を過ごしている。毎日何か新しいことに挑戦を続けているんです。その積み重ねなのかなと思います。
PEOPLEはBEAUTY&YOUTHが大切にする“美しさ”と“若さ”の両方を持つオトナたちを紹介するメディアです。ときに知的で、ときに無邪気で、ときにラフで。年齢や職業にとらわれることなく、美しさと若さをまとうことが生活を豊かにするというファッションの本質を伝えます。