Text Takumi Sato
Photography Asuka Ito
Published September 24, 2021
Text Takumi Sato
Photography Asuka Ito
Published September 24, 2021
「日本人が日本を認めて欲しかった」と語るルーカスB.B.さん。カルチャー誌『TOKION』を創刊し、現在は旅を通して日本文化を伝えるトラベルライフスタイル誌『PAPERSKY』の編集・クリエイティブディレクションを手掛けている。ルーカスさんの“編集”は誌面に限らず、日本各地を自転車で巡る企画「ツール・ド・ニッポン」では読者参加型のイベントもプロデュースする。彼が関わるものに一貫するのは、当たり前の慣習に疑問を持つこと。そして些細なことを面白がれることの大切さ。ルーカスさんが生活を営む自宅兼オフィスはまさにその考えかたを体現しているような場所だ。
恵比寿と渋谷の間に位置するルーカスさんの自宅兼オフィス。庭には、土地柄を意識したミニモアイ像。
オフィスにはルーカスさんが手がけてきた数々の雑誌やプロダクトがアーカイブされている。
「夏場はこれで水浴びをするのが気持ちいい」と庭の植物に水をやりながら話すルーカスさん。
コンパクトに収納できる袋には、”LOUNGE”(ひと休憩)するためのリラックスウェア、“SLEEP”(寝る)するためのパジャマ、 “WALK”(散歩)するためのワンマイルウェアとしてのメッセージがプリントされている。
「お菓子食べる?」とキッチンで仲睦まじく話すルーカスさんとパートナーの香織さん。香織さんはPAPERSKYの編集を担当。
常に笑顔で、こちらにも質問を投げかけてくれるルーカスさん。そんな好奇心を武器にあらゆる情報を収集し、彼が持つ“独自の視点”でモノを表現していくその姿に、人は魅了されているのだろう。
Interview with Lucas B.B.
Q:カルチャー誌から旅雑誌、さらにフリーマガジンまで手がけるなど、編集領域がとても広いと感じました。その中で、ルーカスさんが面白いと感じる人やモノに共通点はありますか?
A:あると言えばあるのかもしれないけど、それが「自分」っていう話になるかもしれません。自然が好きですし、文化を知ることも、そして学ぶことも好きなので、興味の対象は広いかもしれないですね。
Q:アメリカに生まれたルーカスさんが、外の文化に興味を持ち始めたきっかけはなんだったのでしょうか?
A:カリフォルニアの大学に行っていて、僕の友達がオランダ人やスペイン人、中国人とか、いろんな言語や文化に触れることが多かった。当時の自分はアメリカのことしか知らなかったんです。もっといろんなことを知りたかった。だから大学卒業後はどこかまったく知らない世界に飛び込んでやろうと……ね。
Q:なぜ日本だったんですか?
A:当時はコスチュームデザインが好きで、趣味で劇やダンスなどの衣装をデザインしていたんだけど、その時にサンフランシスコの紀伊國屋で日本の雑誌を目にしたんです。日本のことは寿司、侍、芸者くらいしか知らなくて、その雑誌に掲載されているものや情報が見たことないものだらけでした。それが、この国に行ってみたいというきっかけで、大学卒業した翌日に日本に飛んでました。
Q:勢いがすごいですね(笑)。そこからカルチャー誌『TOKION』が誕生するわけですね。
A:普通だったら、日本が面白いから海外に発信したいってなるけど、僕はまず日本人が日本を認めて欲しいと思っていた。特に当時の日本は、国外への興味が強く、自分たちの文化を掘り下げない傾向があったのかもしれません。だからそれを紹介したかったのと、まだ日本人が知らない海外のことも伝えられたらいいなと思っていたんです。
Q:海外からの反響が凄かったですよね。ただ『TOKION』から、今のトラベルライフスタイル誌『PAPERSKY』への切り替えは、意外でした。
A:6年間作り続けたけど、『TOKION』の問題は読者とのギャップだった。歳をとっていくと、どうしても若い人といる場所や空気感が違う。自分が感じているモノとのギャップに嘘をつきながら作ることもできたけど、それではいいものは作れない。だから、ものづくりをしていくには何がいいかなって。そしたら「旅がいいんじゃない?」ってパートナーの香織が。旅に行けば、自然や文化はあるし、これがテーマだったら飽きがこないかなって思って着手したのが『PAPERSKY』でした。
Q:好奇心に素直に作られていますよね。普通は、いろんな世の中のニーズを考えてしまうと思うんですけど、お二人が作られているものって個人的な興味から生まれている。だからこそ共感できる。
A:僕はもともと好奇心がすごいあって、初めて会った人とか、行ったことない場所とか知りたいってどんどん思うタイプで。ワクワクできる。いろんな編集者がいると思うけど、例えば車。車のことならなんでも知っていて、それについて専門的にやっていく編集者もいます。けど、僕の場合は、浅くなんでも興味を持つから逆に知らないことだらけでね(笑)。ただそこに些細なものでも、何か惹かれるものがあると、どんどん知りたいって入っていけると言うか……。
Q:今の世の中は何かと情報過多なので、逆に好きなものが見つけにくいのかなとも感じます。
A:まず目の前にあるものをみてみることですよね。例えば、コーヒーがまずかったなら、どうやって美味しくできるだろうとか、シンプルに目の前のことを自分なりにアレンジしていくことが大切なような気がします。そこから何かが広がっていくんじゃないかなと思いますよ。
Q:普段見逃しがちなことに意識しているからこそ、『PAPERSKY』のようなコンテンツが作れるんだなと感じました。
A:雑誌を読んで、ちょっとでもいい気分になったり、癒されたりすることや、人々にとって何かの「きっかけ」を作ることが、私たちが作るもののコンセプトになっています。逃げる場というか、安心できる場があればすごくいいですよね。ちょっと前までは雑誌にそのような役割があったと思います。しかし今ではネットやSNSから、不安になることも多い。自分にはこれが足りないから買うとかやるとか、世の中に合わせていく感じ。そうではなくて、自分が本当に面白いと思う人や、この人を知ったらみんなが少し豊かになるとか、人に自信を与えられるメディアになるのが理想です。
Q:『PAPERSKY』の毎号表紙にある、この多角形のグラフィックについて教えてください。
A:『PAPERSKY』は、平和が大きなコンセプトになっていて。バックミンスター・フラーというアメリカの建築家が作った世界地図を表紙に載せている。地球儀を切り抜いた形になっていて、この地図が地球全面を一番正確に再現していると言われているんです。どうしても世界地図を作るとなると、自国を大きくしたり、真ん中に置こうとする。でもバックミンスターはそれをなくしている。誰が、どこが、真ん中とかなくて、地球を一つの島としてみるんです。自分がいるところはもちろん大事だし魅力的だけど、自分の場所以外にも面白いところがあります。あまりみなさん知らないかもしれないんですけど、お互い知った方がちょっとでも平和に繋がるっていうメッセージがこの世界地図に込められているんです。まぁ雑誌を読んで素直にそれを感じてもらえることが一番なんですけどね。
Q:ひと括りにするのではなく、色々な価値観があっていい。一人ではなかなか作れないものですね。
A:日本の雑誌は男性向け・女性向けとか、児童書とか分けてしまうことがほとんどだけど、僕たちは二人で作っているから男の人と女の人が一緒に作る世界観はすごく人間性というか、リアリティーがあるなと感じます。あと、今年のオリンピックの卓球を見ていて、男性同士や女性同士だけではなくて、男女混同のダブルスでプレーしている姿は、すごく面白いなって思いながらテレビで観戦していました。
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