#ART

色と形と質感と。器が変える卓上の世界。

Coordinated by Chihiro Maruyama(cherche)

多くの人が毎日使う食卓。朝ごはんにオムレツを食べたり、コーヒーを飲んだり……。ある程度ルーティン化してしまう卓上に変化を与えてくれるのが器です。「洋服のコーディネートを考えるのと器を選ぶのは似ています」とシェフの丸山智博さん。決まった器を使うばかりでなく、その日の気分や料理の色味に合わせて、自由に器を選んでみましょう。器の形や色、質感や素材に着目する丸山さんは一体どんな器をどんな食材と合わせるのでしょう。7つの例とともにコーディネートの術を教わります。

2021.3.12

Text Takuhito Kawashima
Photography Daisuke Nakashima

丸山智博/〈シェルシュ〉代表。プロデューサー兼エクゼクティブシェフ。1981年生まれ。長野県出身。代々木上原にあるフレンチレストランMAISON CINQUANTECINQをはじめ、居酒屋LANTERNE、AELUなど人気の飲食店を展開する。2020年10月には器の展示・販売を行うAELUギャラリーを同ビル4階に移転した。

 

代々木上原のMAISON CINQUANTECINQや、居酒屋LANTERNEなど人気レストランを手がける一方で、日常的に使える器やアートピースなどを販売するギャラリー&レストランAELUも運営するシェフの丸山智博さん。

 

 「もともとレストランで扱っている器を作家さんにオリジナルで作陶していただいていたんです。見た目の美しさだけでなく、作家さんの器から料理のインスピレーションを受けて、新しいメニューを何個も創作してきました。こうしていろいろな作家さんとご縁があったので、敷居の高いギャラリーとはまた違うアプローチで、僕たちらしく見せることができないか? と考えたのが、今のギャラリーです。また同ビル1階のレストランでも、お取り扱いさせていただいている作家の器で料理を提供しています。味だけではなく、器ごと楽しんでいただく体験を作るのが僕たちらしさなのかなと。実際に今まで器に興味がなかった方々に器を好きになっていただけたり、AELUとの企画だったら色々と挑戦してみようかなという気持ちになってくださる作家さんもいたりと……本当に嬉しいことです。作品として、料理人として、自分達の器好きが高じてスタートした取り組みだったのですが、今もこうして続けられていることをただただ嬉しく思っています」

 

 私生活だけでなく、お仕事でも器を扱う丸山さんが考える器の魅力とはどこにあるのでしょうか?

 

 「お家で作る料理のレパートリーってどうしてもレストランと比べると、限られてくると思うんです。ルーティン化している方も今は多いと思います。そんな時は、いつも使っている器を変えてみる。毎日の食卓にもリズムが生まれて、いつも同じ食事が少し違って感じるかもしれません。そんな魔法が器にあると僕は思っています」

 

 この器を買ったからこういう料理を作りたいでも、こんな料理を作ったからこの器に盛ってみようのどちらがあってもいい。和食には和食器、洋食には洋食器などの固定観念を一度捨てて、もう少し自分のセンスを信じて感覚的に選んでみる。

 

 そんな丸山シェフと7つの器の個性をピックアップし、食材とのコーディネートアイディアを紹介します。

 

 

 

 

シンプルな顔立ちの白磁茶碗をボウル代わりに。

 

「どこか清楚で⾼潔なイメージのある李朝⽩磁をベースに新しい白磁の制作をおこなう陶芸作家・小泉敦信さんの茶碗。ある種クラシックな佇まいの茶碗を茶碗としてではなく、ボウルとして使ってみるのはどうでしょう? 若干青みがかったニュアンスカラーが、ピンクのグレープフルーツをより一層を引き立たせます。天気のいい朝にぴったりのフルーツサラダですね」

 

 

 

ブルーとグリーンのカラーコーディネート。

 

「繊細な薄さと軽さと美しいターコイズブルーが魅力的な器は陶芸家の鈴木麻起子さんが手がけるラ・メゾン・デ・ヴォンのボウル。この色彩からインスピレーションを受けて盛り付けてみたのは、グリーンピースとモッツァレラチーズを使った冷製スープです。ブルーとグリーンの色彩は彩り鮮やかで、まるで西洋画のようです。爽やかなターコイズブルーの器は、色々な料理との相性も良い。それに軽くて使いやすいのも重宝する理由です」

 

 

 

奇形なアートピースは日常的な食材でバランスを楽しむ。

 

「デンマークを拠点に活動するグーリ・エルベックゴーさんは日常的に使える器から、写真のようなちょっと変わったフォルムのアートピースまで制作する作家さんです。4つ葉のクローバーのような形をした一風変わった器には、なんとでもない食材、例えばゆで卵なんかを合わせてみます。不思議とちょっとリッチなゆで卵に見えるのは、この器のおかげですね」

 

 

 

ナチュラルワインはステムなしのコップでカジュアルに。

 

「香川県にガラス工房を構える蠣﨑マコトさんのコップ。すっと整ったデザインや、宙吹きならではの柔らかいフォルムとクリアで透明度の高いガラスのコップはとにかく使いやすいのが特徴です。日常的に味わえるナチュラルワインは、ステムがついたワイングラスだけでなく、こうしたコップに注いでラフに楽しむのもいいですよね」

 

 

 

焼き魚ではなく、オープンサンドで抜け感を。

 

「長方形の染付の器をみると、秋刀魚や鯖といった焼き魚を盛り付けるのかな? とイメージしてしまうと思います。佐藤もも子さんは、落ち着いた呉須の色味で骨董のような雰囲気がありながらも、少し洋風なデザインも持ち合わせた陶芸家さんです。食卓に馴染みやすく、和にも洋にも相性は◎。なので今回は同じ魚料理でも、しめ鯖をブルスケッタのオープンサンドで意外な組み合わせを楽しんでみました」

 

 

 

マットブラックで、食材を引き立てる。

 

「従来の絢爛豪華な輪島塗ではなく、“普段使い” としての漆器を追求し続ける塗師の赤木明登さんの漆器です。吸い込まれるような漆黒の器は、野菜が持つ自然な色味をさらに引き立たせてくれます。写真は、産地直送のラディッシュ。赤をより赤く、よりフレッシュな印象に仕上げてくれるので、食欲がかきたてられます」

 

 

 

グレーとべージューの旬な色合わせ。

 

「ショートパスタを土ものの器で楽しむ提案になります。ゴルゴンゾーラチーズを使ったクリームパスタのベージュとグレイッシュな小野象平さんの浅鉢のコーディネートはまさにアースカラーの組み合わせです。小野さんは自ら山に土を掘り、釉薬の原料も一から作っているため、グレーの色味も非常に奥深いのが特徴で、食材選びが楽しくなる作家さんです」

 

 

 

「AELUのギャラリーでも、初めて来るお客様を見ていると、まずは使い回しやすそうな器を選んでいる方が多いのは確かです。しかしある程度購入されている方々に関しては、見た目が好きだから、色味がきれいだからなど、感覚的な部分を頼りに購入されている傾向も見られます。どんな料理を盛り付けるかはキッチンで考える。こうした器の選び方ができるとどんどん楽しくなってくると思います。実際に料理を盛り付けみると、違和感ありそうな組み合わせでも、意外とハマったり。また馴染ませるために、自然を感じるハーブや野草の葉っぱを添えてみたりなどと、工夫を凝らすプロセスさえも楽しかったり……。これってトップスの色と靴下の色味を合わせるような感覚に近いですよね。洋服のコーディネートと同じ考え方なので、着こなしが上手な人は器のコーディネートも上手だと思うんです」

 

 

 

丸山智博/〈シェルシュ〉代表。プロデューサー兼エクゼクティブシェフ。1981年生まれ。長野県出身。代々木上原にあるフレンチレストランMAISON CINQUANTECINQをはじめ、居酒屋LANTERNE、AELUなど人気の飲食店を展開する。2020年10月には器の展示・販売を行うAELUギャラリーを同ビル4階に移転した。