#ART

Product Selection by Takahiro Goko
めちゃくちゃカッコいいプロダクトに出会う。たとえば、それがキャンドルだったとする。食卓に置き、火をつけてみる。ゆらゆら揺れる明かりを眺めていると、時間の流れがいつもよりゆっくり感じられ、忙しい日々に追われせかせかしていた気持ちが落ち着いて、ご飯も一層おいしくなる。そうやって、ものには取り入れた空間や時間、感覚さえも変えてしまう不思議な力がある。ただひたすら惹かれるものだけを集め販売し、さらにはインテリアコーディネートや地域再生のためのプロジェクトまでをも手がける Swimsuit Departmentの郷古隆洋さんに、生活を豊かに変えてくれた「もの」について教えてもらった。
2021.4.16
Text Satomi Yamada
Photography Bonten Terasaka

郷古隆洋/1972年東京都生まれ。2010年にSwimsuit Department設立。ヴィンテージ雑貨などを販売する〈BATHHOUSE〉を運営。輸入代理店をはじめ、世界各国で買い付けたヴィンテージ雑貨などをトランクショー形式でのイベントも行っている。店舗のインテリアコーディネートなども手がける。
インテリア雑貨をはじめ、あらゆるジャンル・地域のものを独自の感性でセレクトし、販売している郷古隆洋さん。「今日買ったのは“盛り塩器”。中が円錐にくり抜かれただけの木の道具なんだけど、品があってカッコよくて、ついつい……。家に神棚があるので、明日から盛り塩が習慣になるかもと思うとドキドキしてしまいます」。京都の伏見稲荷に行く用事があり、道中に立ち寄った土産物屋さんでたまたま見つけたという。郷古さんの生活は、ものから始まり広がっていく。
「もう一歩踏み込んで道具を使うと自分の感じる空間や時間が変わってきて、その感覚がすごく大事だなと思う。“こんな道具がなんの役に立つの?”って思う人もいると思うけど、昔の一般家庭にはそういうものがいっぱいあっただろうし、本来は使われていたわけだから。いまでも実際に使ってみるとぜんぜん違う空間が生まれて、次はこれにどういうものを合わせようっていう話になってくる」。
なかでも、郷古さんがこれまで特に大きな影響を受け、生活を変えた7つのものを教えてもらった。
倉敷のノッティング
「いわゆる椅子敷きです。民芸館などで見た使い古された姿に憧れて〈倉敷本染手織研究所〉のものを購入。漆は渋いから自分が持つことはないと思っていたけど、このノッティングに合わせるため鳥取の〈辰巳木工〉の椅子を買うことに。想像していたほど取り入れづらくなくて、よく馴染んでいます。ノッティングのおかげで木の椅子と出合って漆のよさを知り、箪笥やほかの家具も増えていきました。固定観念に縛られることなく、家具を選ぶ楽しみの幅を広げてくれた存在です」/私物
ピーター・シャイアーのマグ
「奇抜なデザインなので、はじめは正直あまり好きじゃなかった(笑)。でも、ピーターのスタジオに行く機会があり、衝撃を受けました。人柄も、過去の作品もとてもユニーク。それまでに見たことのない世界観だったから、一気に引き込まれました。それからは、このマグを使うために毎朝必ずコーヒーを淹れるようになったんです。せっかくならと、豆も自分で挽くようになって。いままで出合ったもののなかで、一番大きく生活を変えてくれました」/各¥14,300〜15,400(Swimsuit Department)
山内武志さんの暖簾
「寝室やバスルームの扉を開けっ放しにすると、風通しがよくなり季節を感じられます。暖簾をかければ湿気を飛ばしてくれるし、目隠しの役割もあるから来客があっても気にならない。美しく機能面にも優れていて、後世に残したいもののひとつですね。今回選んだのは、山内武志さんの作品。型絵染めの人間国宝である芹沢銈介の門下生だった山内さんは、たしかな技術でモダンかつカジュアルなデザインが特徴的。手軽にいつもの空間を気持ちよく変えられて、若い人でも取り入れやすいと思います」/¥46,200〜(Swimsuit Department)
ジョージ・ネルソン・アソシエイツがデザインした電動鉛筆削り
「丸っこいフォルムが愛くるしい電動の鉛筆削りです。結構大きいから場所を取るけど、どうしてもデスクに置きたくて。そしたら、仕事で簡単なスケッチを描くときに色鉛筆を使うようになりました。文字を書くときはシャープペンやボールペンもいいけど、絵を描くには濃淡をつけたり、斜めに塗りつぶしたりと、表現の引き出しが増えたのでよかったです。デザインはジョージ・ネルソン アソシエイツが手がけ、ボストンというメーカーの80年代のもの」/私物
宮城県の肥料かご
「もともとは肥料を撒くために使われていた農作業用のかご。手の収まりがよい太めの柄や、細かなものもこぼれ落ちない編み方とか、機能も見た目もちゃんと考えて作られている。このかごに出合って、それまで少量で購入していた玉ねぎや芋など保存の効く野菜は、多めに買ってストックするようになりました。風通しのよい場所は、根菜にとってもいいだろうし。昔の田舎では、勝手口の床にこんなかごが置かれた光景をよく目にしたけど、なんだか少し豊かな気持ちになりますよね」/私物
森山ロクロのビールの袴
「旅館や料亭でよく使われているイメージのあったビールの袴。家でお酒を飲まない日はないから、最もヘビーユースしている道具です。高さが違う2サイズあって、背の低い方は350ml缶に。500ml缶には背の高い方を使うけど、こっちには瓶を入れた方がカッコいいから、瓶ビールを買うようになりました。中身が垂れたり、水滴がついたりしても、テーブルを汚さないという役割もあるし、そのまま置くより見た目も美しいですよね」/私物
Swimsuit Departmentのティッシュボックスケース
「お店や宿泊施設のインテリアをコーディネートする仕事のときに、なかなかいいティッシュボックスケースが見つからなくて、Swimsuit Departmentオリジナルで作ったもの。余計な生活感が出てしまうから、ティッシュは人目につく場所に置きづらかったけど、このケースがあればその恥ずかしさがなくなって、部屋のどこにでも置けるようになりました。テキスタイルはピーター・シャイアーと出会った影響で興味を持った、80年代のようなデザインを選んでます」/¥4,400(Swimsuit Department)

郷古隆洋/1972年東京都生まれ。2010年にSwimsuit Department設立。ヴィンテージ雑貨などを販売する〈BATHHOUSE〉を運営。輸入代理店をはじめ、世界各国で買い付けたヴィンテージ雑貨などをトランクショー形式でのイベントも行っている。店舗のインテリアコーディネートなども手がける。
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