#LIFESTYLE

Story by Takuhito Kawashima
顔の印象なんてものは簡単に変えられない。バッサリ髪を切るか、メイクやプチ整形をするか。前者ならまだしも、後者の選択肢に対してまだまだ抵抗がある自分にとってアイウェアを変えることは、もっともリアリティのある“イメチェン”方法である。
2022.4.22
Photography Junpei Kato
Edit Takumi Sato(kontakt)
川島拓人/1986年生まれの編集者。大学の講堂で視力の悪さに気づく。メガネ歴は17年(うち6ヶ月間のみコンタクトレンズ使用)。卒業後はファッション雑誌HUGEの編集部に。独立し、神田春樹と編集プロダクションkontaktを立ち上げる。UNITED ARROWSのカタログやウェブコンテンツほか、アイウェアブランドayameの制作物にも携わる。
編集者という仕事柄いろいろな人にあってきた。リアルな場所でも、ウェブ上でも。そして自分では到底考えられないクリエイションに心打たれ、憧れ、そして一歩でも近づきたいと思い、こっそり“真似”た。装いだけでなくメガネまでも。デイビット・ホックニーのようなお茶目で愛らしい丸メガネ。スティーブ・ジョブズのような神経質そうなリムレス(縁ナシ)のメガネ。それにイヴ・サンローランの品のいいレクタングルも。身近にかっこいい先輩たちもいた。STUDIO VOICEという雑誌で一緒になった野村訓市さん。それにニューヨークから帰国した後すっかりお世話になりっぱなしのヘアスタイリストのKENSHINさん。海外でもアーティストのトム・サックスの精神性に感銘を受けたし、バーグドルフ・グッドマンのメンズディレクターのブルース・パスクにも。取材が終わると「それどこのメガネですか?」と聞いていた。メガネっ子ならではの衝動が抑えきれなくて。
David Hockney, artist
ブロンドヘアに極太の丸メガネ。アーティストという“キャラクター”を作るためのセルフプロデュースを完璧にしたデイビット・ホックニー(もちろん作品も素晴らしい)は、現在でもメンズファッション史の教科書に出てくるアイコン。
Yves Saint Laurent, fashion designer
伝説的なファッションデザイナーのイヴ・サンローラン。サンローランといえば、この気品を感じるレクタングルのメガネ。クラシックさとモダンさが同居するアイウェアは、彼が手がけるファッションデザインとも重なる。
Tom Sachs, artist
こんなおじさんになりたいなというきっかけを与えてくれたアーティストのトム・サックス。NYのアトリエに伺った時一目ぼれした白Tとクリアフレームのメガネという姿。「デザインレスで気に入ってしばらくかけているこのメガネはフランス製のもの。ほかにも、ほのかにピンクががっている日本製のクリアフレームも持っている。このメガネに出合う前は、イギリスのナショナルヘルスサービスのメガネをかけていたよ」と。どこで作られているものなのかを気にするトムらしさがメガネ選びにも…。Photography by Mario Sorrenti
Kunichi Nomura, editor
「メガネは結構壊しちゃうからさ」と話す野村訓市さん。20代の頃に一緒に雑誌を作る機会があり、雑誌作りで大きく影響を受けた編集者。「視力が悪くてメガネをかけている自分にとって基本的にメガネは実用品。白Tと一緒で、自分に合うサイズ感が大事だと思ってる。だからどこのをかけるかはそれ次第。だけどもメガネが被ることが嫌だからヴィンテージのものを選んではいる。ヴィンテージとなると自分でも探せるものではないので、いい色に出合えたら買う。一期一会の機会を大切にするよね」
Bruce Pask, men’s fashion director, Bergdolf Goodman & Neiman Marcus
BRUTUSでNYの老舗高級デパート、バーグドルフ・グッドマンを取材した時に気持ちよくアテンドしてくれたのがメンズ部門のディレクターのブルース・パスクさん。取材当日は(テンパっていたからか)気にならなかったが、フォトグラファーから写真が送られてきた時に彼のメガネがとにかくよく見えた。「ヴィンテージのメガネをたくさんかけ続けてきた末に興味を持ったのが、オーダーメイドという選択肢でした。僕にとってメガネは毎日かけるものなので、この際、自分のために作られたスタイルとフィット感のあるメガネに投資しようと決心。店主がスケッチをしながら、私の顔の正確な寸法を測り、さらに色々な形のメガネを試着。私も自分の好みを一生懸命言葉にして伝えました。素晴らしいコラボレーションの時間でした。このメガネを使いはじめて数年経ちますが、本当に気に入っています。フィット感や掛け心地が素晴らしいだけでなく、自分だけの特別なものを身に着けているのだと実感しています」Photography by Stephen Wilde
KENSHIN, hair stylist
ヘアスタイリストのKENSHINさんは元々NYで活躍していたスーパーヘアスタイリスト。そして帰国後、頻繁に会うようになった”マイメン”。とにかくヘアスタイリストとしての仕事だけでなく、植物の力に焦点をあてたEpo Laboでやっていることも、装いもとにかく洒落ている。「メガネをかけていないときの顔って自分の顔じゃないんですよね。それぐらい欠かせないものですし、結構な量を所有している。実は意外と細かく使いわけもしていて。運転するときは、きちんと遠くが見えるものを。仕事ではオールラウンダーのものを。逆に自宅では、目が疲れないように度の弱いものを、といった感じで。この写真でかけているのは、ジャケットとかスーツを着る時によくかけているライトブラウンのデミ柄。持っているラインナップではある程度きちんと見えるメガネですね」
彼らに憧れて真似ることを(ある程度)卒業すると、メガネの役割も少し変化した。元より視力を補うツールとしてのメガネというよりも、自己表現やTPOに合わせた装いとしてのメガネとなった。ちょっとかしこまった打ち合わせがある時は、光が反射しキラリと輝くメタルフレームのものをかける。カジュアルにいきたい時は表情が見えやすいクリアフレームに。声をかけやすそうなTシャツにするか、清潔感のあるニットにするか、またはきちんとして見えるスーツを着ていくか、と同じような感覚でメガネを使いわける。そして僕が気づかない/知らないところで、おそらくなんどもメガネに助けられていたと思う。過去の頭のいい偉人たちが作り上げてくれた「メガネ=賢そう」というステレオタイプには魔法がある。
フレームが細いメタルフレーム。ちょっとした緊張感ある雰囲気になる。
かけてみると肌馴染みもよく、意外と洋服も選ばないグリーンは優しい印象に。
クリアフレームのメガネは、なんとなくクリエイターっぽい。
自分はコレクターでもなければ、「これぞ!」という一本でスタイルを決め込んでしまうような潔さも今のところない。まだまだ、まるで料理をする時のように、冷蔵庫にある具材で、その日の気分や天気やスケジュールに左右されながらレシピを考えたいし、メガネを選びたい。自分に似合うメガネを。しかしこの似合うメガネというのが意外と難しい。イヴ・サンローランのレクタングル、野村訓市さんのウェリントン、と彼らのように決められるならまだしも、「意外とこれいけるんじゃない?」みたいな形や色がおそらく世の中のまだ知らないところで存在するはず。中国でカエルを食べさせられたように、「知的欲求心と探求心だけは失うな」と親から教わった。だからもしもこれからメガネを新たに購入するのであれば、次はオーダーにチャレンジしてみたい。わがままなのか、天邪鬼なのか、人と被らないもの、または人が買えないものを手にしたいと最近より強く思うようになった。それに購入するまでの悩んだ時間がストーリーになり愛着と自信を生むだろう。そのメガネはかっこいいに決まっている。
可燃性の高さから規制が厳しくなり、“セルフレーム”と言われる素材のほとんどはセルロイドからアセテートに代用されていった。しかしセルロイドにはセルロイドにしかない独特の質感、光沢感などの奥行きがある。
Event Information
メガネのパイオニア<Sasaki Celluloid(佐々木セルロイド)>の受注会を六本木ヒルズ店にて開催。
「眼鏡の聖地」として有名な福井県鯖江市を拠点に、90年あまりの歴史をもつ<Sasaki Celluloid(佐々木セルロイド)>。大正時代末期に日本で初めてセルロイドメガネ(プラスチックメガネ)を開発し、国内外問わずさまざまな有名ブランドの眼鏡やサングラスなどを手掛けています。
この受注会では、同社の代表的な3モデルから形を選び、お好きな色のフレーム・レンズがセレクトできます。本体と同じセルロイドから削り出した鼻あてや、テンプルに金属の芯を入れずセルロイド本来の硬さを活かしたシンプルなモデルは、年齢や性別、コーディネートなどを問わず幅広くご着用いただけます。この機会にぜひご覧ください。
Sasaki Celluloid SPECIAL ORDER
開催期間:4月22日(金)~5月1日(日)
開催店舗:六本木ヒルズ店