日常の創造 ギャレス・ケイシーと自由のかたち

フランスからのメッセージ パラブーツ、100年とそれから

Photograph_Mai Yoshida
Edit & Text_Rui Konno
Interpretation_Hiroto Honda

洒落ているのに高級靴の気取ったムードはなくて、むやみな主張はせずとも存在感は十分に。パラブーツは、つくづく独特なシューズだ。でも、きっと多くの人がその魅力に触れたことはあるけれど、本当の個性は意外と未知のまま。パラブーツをフランス本国で展開しているリシャール=ポンヴェールは創業から118年。“Paraboot”の商標が登録されて、来年でちょうど100年が経つ。そんな折にフランス本社と、併設された自社工場とを訪ねる機会に恵まれた。CEOのエリック・フォレスティエさんが教えてくれた、生粋のフレンチシューメイカーのこれまでと今、そしてこれから。僕らが履きたくなったなら、いつでもパラブーツは、きっと変わらずそこにある。

パラブーツ入りを決めた理由

―すごく貴重な機会をありがとう! 早速だけど、エリックさんがパラブーツの社長になるまでのこと、聞かせてもらえるかな?

そうだね。僕は大学で経営学やマーケティングを学んでいて、キャリアの最初はパリの広告代理店だったんだ。いろんな企業やブランドのコミュニケーションだとかPRを担当したよ。自動車メーカーにシャンパンメーカー、ウィメンズのファッションブランドだったり、銀行だったり。僕は好奇心が強くて、広告関係の仕事はいろんなジャンルの相手と関われて、それぞれの分野の特性や個性を学べたから、すごく面白かった。

―なるほどね。その後は?

代理店の後はサロモンから引き抜きの話があって、スキー全般をやってる部門に行って、スノーボードの部署に配属されたんだよね。それが2000年だったかな。僕自身は’84年にスノーボードを始めたんだけど、たぶん、フランスでも最初のスノーボード世代だったから。それからはアルペンスキーやノルディックの担当になって、どちらかというとイノベーションの部署に移って、サーフィンやスケートボード事業にも関わったよ。僕はスケートボードはやってないけど、スポーツは全般的に好きなんだ。

―得意分野を踏まえての起用だったと。

あとは格闘技も好きだよ。そう言えば、来週末にはパリで相撲の大会…パリ場所があってさ。それを観に行くよ。

CEOのエリックさん。話を聞かせてくれたのち、社長室にて。

―パリ場所! 新鮮な響きだね。まだ日本では観ていないの?

まだなんだ。それは夢のひとつだね。本場所を観に行くより、まずは相撲部屋を観に行くのが先かも、なんて思ってる。スモウレスラーがどんなトレーニングをしてるのか、すごく見てみたいって気持ちがずっとあるよ。

―今度の来日時にでもそれが叶うといいね。脱線させちゃってごめん。話を経歴に戻そうか。

うん、サロモンの後だったね。その後は4つのブランドを抱えてる会社に移ったよ。デグレ・セット(DEGRÉ 7)、ラクロア(LACROIX)、アンリ・デュヴィラール(HENRI DUVILLARD)の3つはラグジュアリーなスキー用品のブランドで、あともうひとつはアルパン(ARPIN)。アルパンは1817年創業の老舗で、フレンチアルプスにあるウールの紡績工場が母体のブランド。昔ながらのゴワッとしたウールを使ったカーテンやブランケット、それから服もつくってた。そこで何年か働いた後、2019年にパラブーツに入ったんだ。

―パラブーツの名前が出てくるまでに、ずいぶんかかったね(笑)。

広告にスポーツ業界、インテリアやスキーウェア、アパレルには関わってきたけど、靴は初めてだったよ。でも、1世紀以上の歴史があって、今も100年前とほとんど同じ手法で靴をつくってるっていうパラブーツに興味がすごくあって、オファーを受けることにしたんだ。

―実際に参加する前に抱いていたパラブーツのイメージはどんなものだったの?

堅牢な靴で、長く履くものって印象だったかな。これはパラブーツのパブリックイメージでもあると思うけど、’80年代、’90年代にはフランスやイタリアでは結構広まっていて、日本でも売れ始めているんだよ。それで、当時からいろんなところでパラブーツを履いている人を結構見かけていて。この話はたまにするんだけど、フランスでは18歳になった子供に、親が良い靴を買い与えるっていう習慣があるからね。そう言えば一ヶ月半くらい前かな? 若いお客さんがパリのパラブーツのお店に来てくれて、修理を頼まれてさ。それが亡くなったおじいちゃんの靴棚から出てきたモジーンというチロリアンシューズで、それを「直して履きたいんだ」って彼は言ってたね。

―いい話だね。日本だと、パラブーツはおしゃれな人ならまず知ってるよね、という感じの知名度なんだけど、フランスではどれくらいポピュラーなの?

おそらく、フランスではほとんどの人が知っていると思う。さっきの彼の例もあるけど、20代くらいの人はファッション的な目線でパラブーツを捉えていて、それが70代のおじいさんとかになると、あくまで道具としての靴っていう認識になるのかな、という気がしてるよ。それを子供や孫だったりとか、次の世代に受け継いでいくっていう、そんな存在。履き方にしたってスーツでもジーンズでも、ショートパンツだって、何にでも合うよね? それはパラブーツが元々持っていた幸運な必然で、本当に老若男女、いろんな人が親しんでくれてるブランドだと思ってるよ。

営業部長のフレッドさん。陽気な人柄で迎えてくれた。

―道具としての靴だった時代からパラブーツのものづくりがほとんど変わってないとしたら、僕たちみたいにおしゃれの選択肢としてパラブーツを捉えてることについてはどう感じてる?

素直に嬉しいかな。すごくポジティブだよ。日本のお客さんは目が肥えてるし、つくりがいいものや美しいものをちゃんと見極めて、ものを選んでる人がすごく多いでしょ。これはお世辞じゃなくて、そういう審美眼を持ってるお客さんがこんなに多い国って、世界中を見渡しても日本以外にほとんどないと思うんだ。だから、そんな国の人たちがパラブーツを認めてくれてるっていうのは、世界的にも胸を張れること。日本でも30年ちょっと前までは存在すら知られていなかったと思うけど、そのお眼鏡にかなったから、今のパラブーツのポジションがあるんだと思ってるよ。

―最初、パラブーツからオファーが来たと言ってたよね。そのときの率直な感想は?

単純に面白そうだと思ったよ! 僕がこうして話をしている社長室の壁の向こうでは、今も自社工場で靴づくりが行われてるんだ。そうやってものづくりの様子が見える安心感も後押しになったと思う。パラブーツっていうブランド自体が、今も8割以上はフランスの自分たちの工場で生産を行ってるからね。

―確か、元々あったフランスの工場が老朽化して今の場所に移転したんだよね? 10年くらい前だったかな?

そうだね。このサン・ジャン・ド・モワランはフレンチアルプスの山に囲まれてるから、景色がすごくいいでしょ? 街は決して大きくなくて、どちらかと言えば村って感じだけどね。夜の9時以降にお腹が減っても、マクドナルドかケバブ屋さんくらいしかないっていうようなところ。そのくらい小さな街だけど、この環境が本当に素晴らしいと思ってる。

レザーを取り巻くアルチザンたち

―まだ街はちゃんと見られてないんだけど、結構歴史を感じる建物もありそうだったね。

元々修道院だったところが、シャルトルーズっていう薬草酒をつくっていて、あとは日本にも進出したボナってショコラティエの本店とかもあったりして、そこに寄っても面白いかも。あとで案内するよ。

―ありがとう! すごく楽しみだよ。でも、パラブーツってそういう土着の会社で、代々家族経営というイメージだったんだけど、なぜエリックさんは外部から起用されたんだろう?

僕も創業家のリシャールファミリーから声をかけてもらったんだけど、「パラブーツは100年以上の歴史があって、ものづくりのノウハウも確立されてるし、安定した地位も得てる。日本でも成功していると思う。でも、安定した分、会社としての伸びしろもだんだん少なくなってきているから、もっと成長させたいんだ」って、最初に言われたよ。

―ずっと同じ体制で停滞しそうなところを変えたかったんだね。

そうそう。今は81歳のミッシェル(・リシャール・ポンヴェール)が当時の社長だったんだけど、初めて彼らに会ったのは確か2019年の1月か2月だったかな。最初は予約したレストランでお会いして、次にパラブーツで今もお世話になってる会計事務所のすぐ近くで会って話して、3回目でオフィスを訪ねたよ。面白かったのが、ミッシェルだけじゃなく、彼の子供にも会ったし、従兄弟にも会った。本当にリシャールファミリーの全員に会ったんじゃないかってくらい(笑)。

―つくづく一族が守ってきた会社なんだね。

そうやってリシャールファミリーのことを知っていくうちに、彼らと向き合っていれば、お互いを尊重して評価し合えるし、やりがいのある仕事ができそうだなと思ったんだ。

―色々としっくり来たよ。あれ? そのデスクの上にあるのは、レザーのサンプル?

そうだよ。パラブーツで使われてる、リスレザーの見本。この革って鞣しにしても染料にしても、つくる上で人工的なものを一切入れていないんだ。だから長く履ける。それでずっと履いていくうちにシワが入ったり、色が褪せたりとエイジングしていく。人の顔みたいに経年変化していくものだね。

―このレザーの生産背景について、聞いてもいい?

大丈夫だよ。リスレザー…正式にはリスワクシーレザーと言うんだけど、この革に関してはデギャルマン(DEGERMANN)とアース(HAAS)っていう、アルザスにあるふたつのタンナーから供給されてるんだ。この2社は3キロくらいしか離れていなくて、何年か前に、まとめてシャネルグループに買収されて傘下になっていて。でも、それ以降も昔と変わらずアルチザナルなやり方でレザーをつくってる。工場としての姿勢はパラブーツと似てる気がしてるよ。リスレザーは、原皮を仕入れてから最終的な革になるまでに大体6週間くらいかかるんだ。他の工場やタンナーで真似しようとしても、たぶん難しいんじゃないかな。

―そんなに時間が要るんだ? 分厚くて、質感も他の革とは違うよね。

118年間、ほぼ同じ製法でつくられてるカウレザーだからね。唯一染料だけは昔とは変わっていて、今はピグメントを使うようになったけど、元は栗の木で染めたりしてたそうだよ。いまだにケミカルなものが入っていない、呼吸できる革。レザーは生きているし、本来呼吸をするものなんだけど、鞣しにクロームを入れちゃうと、それがしにくくなっちゃう。パラブーツはメンテナンスさえすれば、30年履いた後でもちゃんと革が生きてるはずだよ。

―実際に長年履いているけど、本当にタフだよね。パラブーツの革は。

知ってた? 実はこのリスレザー、牛のおしっこにも耐えられるようにつくられているんだよ。

―…え?

パラブーツは元々はワークシューズとして、ワイン生産者とか農家とか、そういう人たちに履いてもらうことも想定してつくられたものだからね。特に農家は牛や馬と一緒に畑を耕したりもするから、そういう状況でもガシガシ履けるように、このレザーが使われ続けたっていう歴史があるんだよ。ちなみにリス(Lisse)はフランス語でなめらかという意味で、要はスムースレザーのことだね。

ラバーソールはもちろん自社製。ここは焼成するための工程で、辺りはかなりの熱気。

―それは新情報だね(笑)。そのリスレザーを仕入れて、自社工場で靴にしていくんだね。

うん。でも、やっぱり革も天然の素材だから品質の管理が大事なんだ。タンナー側がOKを出したものでも、僕らの基準だと許容できないものも正直あって。そうすると、また戻して一からつくってもらわなきゃいけない。そういうことが重なってくると、納期に影響が出ちゃったりするんだ。パラブーツはゴムソールも自社工場でつくっていて、これは化学の話だけど、配合がちょっと変わるとクオリティが変わってしまう。だから、そのあたりも愚直にやってるよ。

―特に自社工場生産のモデルは、人と生産ラインの限界があるだろうし、つくれる足数を急に増やしたりしにくいんじゃない?

うん。ミカエル一足をつくるにも、150以上の工程があるからね。しかも途中で商品に傷がついたりしたら、すべてがダメになってしまう。予測できないトラブルはどうしても出てくるものだから安心はできないね。生産効率を上げるためにゆくゆくは夜間も工場を動かしてみようかと思ってるんだ。まずは夜働きたいっていう有志を集めて、二部制にしてみようかなと。

―やっぱり生産量やスピードは悩ましい課題なの?

そうなんだ。幸い、僕が就任して以来7年間、本当にちょっとずつだけど、業績は確かに上がってきてるんだけど、納期遅れのトラブルはいまだに少なくなくて。例えばアール・ピー・ジェー(パラブーツの日本総代理店)から「ユナイテッドアローズさんから、『別注モデルの数はこのくらいで、納期はこれくらいが希望なんですが、いかがでしょうか?』と連絡が来ているんですが、どうでしょう?」と言われたら、とりあえずNOとは言わないようにしようと。どんなに難しかったとしても、まずはポジティブにやってみようと取り掛かるんだけど、進めていく中でスケジュール通りにいかなそうだなとなってくることもあって。

―UAのみんなは、「それでも僕らは待っています」と言ってたよ(笑)。

本当に心苦しいよ(苦笑)。フランス人に対して、時間にルーズっていうイメージを持ってる人、きっと少なくないんじゃないかな? 約束の時間に来ないとか。でも、僕らは納期に間に合うよう、必死に頑張ってはいるんだけどね。

―エリックさんから見ても、やっぱりフランスの人にはそういう時間感覚の人が多いの?

日常生活では、やっぱり結構ルーズだね。僕も含めて。

―え。エリックさんもルーズなの?(笑)

日常生活ではね(笑)。僕みたいなフランス人だけじゃなくイタリアとかスペイン、ポルトガルの人にも時間にルーズな傾向はあると思うんだけど、例えばスイスの人たちはまたちょっと違ったりするんだ。以前のスキーブランドの仕事でスイスで15年くらい働いてたんだけど、僕はフランス人なのでどうしてもミーティングに遅れがちで。たまには時間通りにも行くんだけど。

―たまには(笑)。

だけど、3回くらい続けて遅れたときに、チームのリーダーにちょっと離れたところに呼び出されたんだ。「スイスでは、会議は時間通りに始まって時間通りに終わるんだ。もし君が時間通りに来ないなら、もう来なくていいよ」って。そこからは時間をちゃんと守るようになったよ(笑)。

―うーん…。まぁ、よかった…のかな?(笑)

例えばナイキやアディダス、サロモンやホカなんかのブランドがシューズをつくるとなったら、2年くらい前から動いているのが普通。だけど、パラブーツの工場で働く職人さんたちは手仕事が多いから、ものづくりの現場で何が起きるかはそのとき次第、みたいなところが正直あるんだ。トラブルが起きないよう、しっかり予測や準備をしていって、少しでも前倒しで動いていけるようにしようと思ってる。そういう考え方をみんなに持ってもらうのが、一番大変かもしれない。

工場の一角でエリックさんとレザーについて意見を交わす、PRのピエールさん。

過去と未来の、その間で

―そんな不器用さも愛おしくはあるけどね。そう言えば、パラブーツの本社にはアーカイブルームっていうのがあると聞いたんだけど、見せてもらうことってできるのかな?

大丈夫。こっちだよ。
(と、社長室を出て、別の部屋へ)

―おぉ! すごい。昔のパラブーツのカタログだとか、見たことのないものがたくさんあるね。

シューズ以外にも、最近見つかったものではパラブーツ製の旅行用カバンなんかも置いてあるよ。ただ、これはパラブーツに限った話じゃないと思うんだけど、何でもアーカイブに残そうっていう考えが昔はなかったから、現存するモデルのどれが一番古くて、それが何年代なのかとか、はっきりとはわからないことも多いんだ。

―老舗だと、そういう話をたまに聞くよね。あれ? このミカエル、“HERMÈS”って刻印が入ってるよ?

そうだね。それはエルメスとのコラボレーション。確か’85年の1年間だけ販売されたんだ。そのあと、’88年、’89年の2年間はジョンロブのOEMをやっていて。ウィリアムとベルゲンという2型をつくってる。このふたつの企画はどちらもすごくエクスクルーシブで、パラブーツのお店での販売はなかったと聞いてるよ。

―ジョンロブとパラブーツのどちらにも、ウィリアムというダブルモンクのモデルがあるのは、それが理由だって聞いたことがあったね。でも、当時の職人さんたちが道具としての靴をつくっている感覚だったとしたら、この2大ブランドからオファーが来たのには驚いたんじゃない?

上_エルメスとのコラボレーションで制作されたミカエル。履き口横のステッチがアクセント。下_ミカエルのプロトタイプとなったチロリアンシューズ、モジーン。やはり履き口のサイドに入るステッチが特徴的。いずれもパラブーツが長年こだわり続けているノルウィージャン、フランス語ではノルヴェイジャン製法によるもの。登山靴由来のものづくりをタウンユースに生かしたもので、丈夫さやウェルト部分からの水の入りにくさが大きな利点。

当時を知っている人はもう残っていないから予想にはなるんだけど、ワークブーツという意識でシューズをつくっていたのは特に戦前までで、’80年代以降はもう、街の人が履く靴っていう認識を自分たちでも持ってたはず。だから、エルメスやジョンロブみたいなブランドから、自分たちのサヴォアフェールを頼りに依頼があったとしても、なんとなく必然性は感じてたと思うよ。でも、それによってパラブーツの靴業界の中での正統性は確固たるものになっただろうから、本当にありがたいよね。

―こうしてアーカイブを見ているだけでも面白いモデルや名作がたくさんあるけど、エリックさんはそういう廃盤の復刻にはあまり乗り気ではないの?

いや、もちろんそういう選択肢もアリだよ。実際に日本からそういうリクエストをもらったりするから、それに応えてリプロダクションをするっていうことも面白そうだと思う。だけど、うちの工場のキャパを考えると、何でも「OK! すぐにやろう!」とは言えなくて。だから興味はあるけど、やるとしても大事にゆっくりでいいと思ってる。パラブーツは老舗で大きなブランドだと思ってる人もいるかもしれないけど、本質的には家族経営で狭い範囲でものづくりと向き合ってきた会社なんだ。だから、一気にいろんなことを変えるのは向いてない。そういう社風の中に、スタッフやチームの居場所を見つけてあげて、ちょっとずつ変えていかないとね。

―ここ10年で言っても、パシフィックみたいな新しい定番が生まれてるけど、そういうニューモデルをつくりたいっていうようなムードが社内にあるのかな?

あるんだけど、新しいモデルというよりは、これまでのアーカイブの再解釈みたいな感じかな。まるっきりゼロから一をつくるんじゃなく、これまでにあったものに今の味付けをしようっていうのが、僕らがやってることだね。118年の歴史があるんだから、まずはそこに注力しようと。今はアビエイターブーツ、パラシュート部隊の靴を製品化しようとしているんだけど、具体的にはまだこれからかな。

―それも楽しみにしてるよ。エリックさん個人が一番好きなパラブーツは、どんなモデル?

アヴォリアーズとミカエルだね。アヴォリアーズはクリュサのハイト違いのトレッキングタイプで、あのフォルムは本当に唯一無二だと思う。アンビリーバブルだよ。ミカエルはパラブーツを代表するアイコニックなモデルで、まさにその歴史をつくってきた靴。2足とも、シンプルだけど誰も真似できないような存在で、時代を超えていく靴だと思ってる。

―逆に、まだパラブーツを履いたことがない人に勧めるなら?

そうだなぁ…。何にでも合わせられて、どこにでも行けるような万能な靴を探しているならシャンボードかな。洒落者に見せたいなら、毛付きのミカエルがいいと思うよ。

―ありがとう。パラブーツは派手なキャンペーンとか、そういうものをほとんどやってこなかったと思うけど、それはこれからも?

それにはふたつ理由があるんだけど、まずは小さい会社だから大きなキャンペーンを打つような予算がそもそも無いんだ。もうひとつは、パラブーツがオーセンティックな靴であり続けるためには控えめさ、謙虚さが必要だと思っていること。各モデル自体に個性があるけど、それ以前に、あらゆる人に履いてもらうためには慎みのあるシューメイカーであることがまず大事なんじゃないかって、僕らは考えてる。それが理由だよ。

エリックさんから、直筆のメッセージ。

Nous partageons les mêmes valeurs par les belles matières, pour une esthétique simple et intemporelle.
Merci! À nos fans Japonais
上質な素材を通して同じ価値観を共有し、シンプルで時代を越える美しさを目指しています。
日本のファンのみなさん、ありがとう!

―その通りだなと思うよ。だけど、きっとそれって、エリックさんが広告代理店にいたころとは真逆の考え方なんじゃないかな?

そうだよね。あのころは、何かを壊して新しいことを打ち立てるみたいな、そういうことを毎日やっていたけど、パラブーツでは118年の歴史の中で根付いた考え方だとか価値観とか、そういうDNAを理解して絶やさず続けていく、その文化が大事だから。広告でどんどん広めていくよりも、まずは慎みのある靴っていう姿勢を貫いていきたい。

―それを聞いたら、今持っているパラブーツをもっと大切にしていきたくなったよ。

僕らは決して大きい会社じゃないけれど、そんなブランドであり続けたいから、大量生産は考えてないんだ。仮にそう望んだとしても、実現するのは2世紀も3世紀も先になっちゃうんじゃないかな(笑)。そうやって時間をかけて、愛され続けるブランドにしていきたいよ。今は世界情勢を見ても難しいことがたくさんあるけど、僕はそんな未来を思い描いてる。自分たちの歴史や価値と向き合って、それを守っていかなきゃ。そのためにもまずは、目の前のクオリティをちゃんと守るところからだよ。もちろん、納期もね(笑)。

Eric Forestier

リシャール=ポンヴェールCEO

1970年生まれ、フランス・リヨン出身。現在は本社近郊の街で、30年来のパートナーとふたりの子ども、保護犬のビルとともに暮らしている。グルメで、「フランス人だから、やっぱりワインとチーズが好き。だけど、大事なのは何を食べるかよりも、誰と食べるかだね」とは本人の談。