
ヒト <未来をつくるキーパーソン。Vol.1>
2020.03.12 THU.
「ザ・ノース・フェイス」が考える、サステナビリティのこれまでとこれから。
温暖化を中心とした気候変動や、人口の増加による資源不足などの深刻化を食い止めるため、サステナビリティ(持続可能性)が地球全体で取り組むべき問題として浮上しています。企業も本業を通じて社会の課題解決に取り組み、それが企業の成長の原動力となるビジネスモデルの確立が求められる時代になってきました。そんな中、好調を続けるゴールドウインの〈ザ・ノース・フェイス〉ブランドはどのような理念でサステナビリティの実現に取り組んでいるのか。企画やマーケティングを統括する大坪岳人氏にインタビューするとともに、ユナイテッドアローズ社の社内セミナーに登壇していただきました。
Photo:Keisuke Nakamura
Text:Kumi Matsushita
ゴールドウインの歴史と、モノづくりへの想い入れ。
―岳人(がくと)さんという名前からして、アウトドアブランドとの相性が抜群ですね。
大坪:両親が山登りが好きで、幼いころからアウトドアに親しんでいました。大学では航海学を学んでいたのですが、ラグビーをしていたこともあり2004年にゴールドウインに入社し、山に戻りました(笑)。専門店向けの営業職を1年半担当した後、〈ザ・ノース・フェイス〉の企画に携わってきました。最近はマーケティングや他のブランドのマネジメントもしていますが、自分の魂であり大事にしていることはモノづくりで、日々大切にしながら生きています。
―今回のテーマは「サステナビリティ」です。ゴールドウインは企業としてどのようにサステナビリティを捉えているのですか?
大坪:「グリーンイズグッド」をポリシーに、2007年に環境配慮型のプログラムをスタートしました。「愛着以外は循環します」と打ち出し、循環型リサイクルの実現や、環境配慮型素材の使用、環境負荷の低減、さらには、「繰り返し使う」「選んで使う」「大切に使う」といったマインドをお客さまに伝えるとともに、企画や活動につなげてきました。早期からペットボトルから生まれたリサイクルポリエステル製の商品も作ってきました。最近は世界危機的な文脈でグリーンテックやサステナブルがビジネス的にも重要視されるようになっていますが、もともと全社を通じて、「グリーンな活動っていいよね!」というポジティブな文脈でお客さまとコミュニケーションを図ってきました。
―商品開発の中枢はどこにあるのですか?
大坪:本社のある富山県小矢部市にある2つの施設です。一つは「テクニカルセンター」で、サンプル作成を始め、リペア品や修理品を集めて併設する工場で直したりもしています。もう一つが2017年に開設した「テック・ラボ」です。最先端技術を駆使したスポーツウエアの研究開発基地で、アーカイブを展示したり品質検査室や恒温恒湿室、人工気象室・人工降雨室、モーションキャプチャーができる運動研究室なども備えています。すべてガラス張りでトランスペアレンス、透明性を高め、誰がどんな仕事をしているのか見えるようにしました。従来は「古い、汚い、外部に見せたくない」との声もありましたが、自分たちがどうやって商品を作っているのか世界に見せていきたいし、良い意味での緊張感やここで働きたいというモチベーションにもつながります。〈カンタベリー〉のラグビーワールドカップ日本代表ユニフォームもここで作りました。
ブランドの歴史と、創業当時から変わらない考え方。
―〈ザ・ノース・フェイス〉ブランドの創業の経緯とサステナビリティの根幹となる概念を教えてください。
大坪:3人のレジェンドが密接にかかわっています。創業者のダグラス・トンプキンは1966年、サンフランシスコのコロンバスアベニューにアウトドア専門店をオープンしました。近くにあるヨセミテ国立公園をクライミングしたり、アウトドアライフを楽しむ人々を支えるためのお店でした。初カタログの表紙はガソリンスタンドに座り込んでいるホームレスの写真で、パンチが効いています。当時はベトナム戦争真っ只中で、ビートジェネレーションに象徴される、既成社会の保守的な価値観を否定するカウンターカルチャーが台頭していた時代感を見事にとらえています。〈パタゴニア〉の創業者のイヴォン・シュイナードとも親友で、不慮の事故で無くなったときも一緒にいらっしゃったと聞いています。自然を愛するアウトドアカルチャーや自分たちの遊び場である地球や自然を守る環境保護の啓蒙者でもありました。
―1968年にはオリジナル商品を作り始めてメーカーに転じていきましたね。
大坪:レジェンドの2人目のハップ・クロップは、シュラフを皮切りにダウンジャケットなどのオリジナル商品を開発しました。ヨセミテ国立公園の大岩「ハーフドーム」を象ったブランドロゴも作り、長く社長を務めてブランドとして成長させた人物です。彼が残した言葉は今でも僕たちの指針で、サステナブルを考えるとき、迷ったときに思い返しています。実は昨冬、ザ・ノース・フェイス本社のあるデンバーでお会いしたときにも、「あなたたちの仕事はジャケットを売ることではない。世界を変えるために仕事をしているんだ。ジャケット1枚を売っただけでは世界は変わらないかもしれないが、そのジャケットを着たことによって、その人の意識は変わるかもしれない。意識を変えることが、世界を変えることにつながる。〈ザ・ノース・フェイス〉というブランドは何のために存在するのか、考えて生きるべし」と、映像で見ていたのと同じことを話されました。売上や利益、在庫などのプレッシャーもありますし責任もありますが、自分の目的は意識を変え世界を変えることだと信じて、チームが大きくなった今でも皆に伝え続けています。
―3人目のレジェンドは?
大坪:ドーム型の構造設計の開発で知られるリチャード・バックミンスター・フラー博士です。「宇宙船地球号」の著者で、地球をベースに人類の生存を持続可能なものとするための方法を探りつづけ、自然の節理などを建造物などに生かした建築家・科学者です。彼が提唱したのは「レス・イズ・モア」「ドゥ・モア・ウィズ・レス」「最小限のエネルギーで最大限の機能を引き出す」で、これがブランド全体のデザインの考え方のベースになっています〈ザ・ノース・フェイス〉には「2メータードーム」という有名なテントがありますが、構造・設計次第で、たった1枚の布と、数本のポールというとても少ない材料で、風に強くて、どこのテントよりも広い空間を創り上げました。製品開発をしていると、機能など何かを足していきたくなるのですが、どんどんそぎ落としていったほうが、結果的に多用途で使えるということを教えてくれた人です。これはアウトドアウエアの基本でもあります。明日晴れるか雨かで必要な装備も変わります。1時間ぐらいのスポーツなら天候にかかわらず自分の体力でなんとか乗り切れるかもしれないですが、キャンプや登山、1~2週間の遠征に行くなどとなると、あらゆる変化に対応できなければならないんです。しかも、できるだけ少ない荷物で異なる環境に対応できるようにしようとする考え方で、これもサステナブルにつながるものなんです。ミニマルな生活やミニマルな行動で、自分の世界を変えられることを教えてくれた人物でもあります。
〈ザ・ノース・フェイス〉で進めるグリーンサイクル。その柱が愛着以外は循環させる「エクスプローラーソース」。
―では、日本の〈ザ・ノース・フェイス〉で一番顕著な取り組みは何でしょうか?
大坪:循環型や資源の再利用を図る「グリーンサイクル」ですね。かなり早い段階からリサイクルフリースを販売してきましたし、実現できている企業が少ないので、うちのオリジナリティの一つになっています。本質的にやりたいのは、回収されたもので新たなものを作ることではなく、みなさんが捨てないことなんです。捨てずに古着回収ボックスに持ち込みたくなる導線を作るために、「人と人をつないでいくような回収業」「循環業」をやりたいと思い、「エクスプローラーソース」を立ち上げました。これはウエアからウエアにつながるポリエステルの循環です。日本環境設計社の〈BRING〉に協力いただきながら、使用済みのポリエステルの商品を新しいポリエステルの原料に生まれ変わらせ、石油資源に頼らない、依存しないモノづくりが実現できます。かなり機能性の高いテクニカルなものまで作れるようになりました。僕が使ったものが次の誰かの冒険のウエアに含まれたり、彼らの冒険で使えなくなったものが回収され、今度は自分が着るウエアに含まれていたり。モノとともに冒険の要素がずっと循環していければ新しい力になるのではないかなと思っています。コミュニケーションも重要です。「あなたが着ている服は誰かが飲んだペットボトルですよ」というよりも、「あなたが着ているウエアは、誰かの冒険を支えたウエアからできています」というのでは響き方が違いますよね。循環するのはポリエステルで、言ってしまえば石油のカスだけれど、自分が一緒に走ったもの、登ったもの、使ったものに、愛着は残しつつ、次の誰かに循環させる。今後もブランド全体でリサイクル製品の比率を高めていきますが、アパレル全体で50%にも達していないのでまだまだ高めていきたいです。
―リサイクルを含めたサステナブルな商品を作るうえでの最大の課題や悩みは何ですか?
大坪:以前は素材価格が上がってしまうこと、機能性やパフォーマンスが落ちてしまうことがよくありました。特に僕らのようにアウトドアのフィールドで使うものは化学繊維、石油から生まれるポリエステルやナイロンなどを使った商品が多く、リサイクル糸では本当に欲しい機能が発揮できない、見せたい色や素材の表情が作れないなど、納得するクオリティを実現するのが難しかったですね。最近はテクノロジーが追い付いてきて、「フューチャーライト」という新素材や「エンジニアードニット」などをスタートしています。昨年冬にローンチした防水通気素材である「フューチャーライト」は、パフォーマンスを最大限に高めましたが、実はリサイクルでサステナブルな素材で、ただ軽いだけでなく、「着たまま行動できる」という新しい軽さを提案しています。色染やフィルム加工や撥水加工もしていますが、できるだけ少資源で使用エネルギーも削減しています。
―主力商品であるダウンでも、グリーンダウン(リサイクルダウン)商品を展開していますね。
大坪:ダウンは劣化をしないので、自社だけでなく他社を含めたダウンジャケットや家庭に眠っている布団などから回収したダウンを、ダウンを愛して高い洗浄技術を持つ河田フェザーと一緒に再生し商品化しています。リサイクルダウンは洗浄時に油分や汚れ、不純物などが落ちるので、最初の使用時以上にきれいになり、ふわふわでフィルパワーが高くて暖かいダウンになります。また回収すれば再利用できますから半永久的に使えます。定番商品の一つ「ヌプシジャケット」という90年代から展開している、黄色と黒、あるいは赤と黒などの配色になっているダウンは、ほぼ100%リサイクルダウンに切り替わっていて、発売当時に実現できなかった環境配慮製品としてアップデートしています。
―一方、ハイテク素材やバイオマテリアルなどの研究開発も進めています。昨年、脱石油由来繊維として期待がかかる、“人工クモの糸”を開発するスパイバーと協業し、「ムーンパーカ」を発売して話題になりました。
大坪:〈ザ・ノース・フェイス〉の基本的なフィロソフィーは、デザインサイエンスという考え方です。バックミンスター・フラー博士が伝えてくれた精神、「最も少ない物質で、最も少ないエネルギーで、最も少ない時間で最大の効果を実現する」ことを目指しています。山形のスパイバー社は慶応大学SFCで始まったプロジェクトから立ち上げたベンチャー企業で、世界で最も強くてしなやかで細いクモの糸を人工的に作ろうとしていました。自然素材というのはよくできていて、生物が何万年もかけて進化とともに作ってきたものなので、ダウンも皮膚もクモの糸も人工で簡単にマネできません。それでもクモの糸の遺伝子を分析してタンパク質を原材料にビールのように発酵させて生成しました。ただし弱点があったので、成分を変えたりもしてきました。第1弾のTシャツは、同じ構造タンパクからカシミヤのような特性を持った繊維作りを目指しました。地球にある生物と植物のバランスをTシャツに置き換えて表現しようと、天然由来のセルロースを82.5%、プロテイン=タンパク質を17.5%で配合し、とてもなめらかな肌触りに仕上がりました。第2弾がムーンパーカで、100%人工的にタンパク質を発酵させて作った表地を使ったアウトドアウェアです。2015年のプロトタイプ発表から発売まで4年かかりました。この人工構造タンパク質は、われわれの循環サイクルに対してより加速的にいい方向を作り出していくと考えています。ムーンパーカで目指したのは、一つは「脱プラスチック」です。一般的なアウトドアウェアに使われるナイロンやポリエステルなどの化学繊維は、石油などの地中から採掘した化石燃料から作られていて、地球温暖化の原因である二酸化炭素を排出する原因の一つになります。ムーンパーカはそういった化石燃料の消費をせず、最大限の機能を発揮することを目指しています。今回発売したのは50着と少量でしたが、今後は量も増え、機能面に関してもさらに進化できると考えています。名前の由来となった糸の色が月の色に似ていたことと、月に向けたムーンショットと同じように、ありえないと思われていることにチャレンジする第一歩を踏み出せました。こういった物語があり夢があることをますますチャレンジしたいと思っています。
―とてもエモーショナルでハートに刺さりますね。
大坪:作るものは濡れない、保温透湿など自分の命を守ったり、アスリートの可能性を最大限に引き出すようなファンクションストーリーが求められます。それ以上に、山で命綱を持ってくれる人、暗闇を一緒に歩いてくれる人同士が大切にするような気持ち、エモーショナルな結びつきを大事にしたいんです。サステナブルであることもファクトとしては重要ですが、それ以上に人の心に刺さるかに重きを置いています。リペアやアップサイクルのワークショップなどを行ったり、冒険家やスキーヤーなどを招いたアスリートサミットなどを開催して、世界の状況や自身のチャレンジを語ってもらったりもしています。
上司の言葉で自分もマイボトルを持つようになった。
―大坪さん、マイボトルを持ち歩いているんですね。
大坪:先に上司がペットボトルやめる宣言をしてその影響を受けました。今はコンビニの使い捨て紙カップなどももったいないなと思うようになったので、個人レベルでも意識が備わってきた感じがします。タバコと似ていて、ついこないだまで居酒屋でたばこ吸っていても気にならなかったものが、いま隣で吸われると「本気か?」みたいな空気になりますよね。それと一緒で、事実は変わっていないけれど、人の意識が変わると感じ方も変わります。いまはその真っ只中であり、ブランドを通じて人々の意識を変えることで世界を変えていきたいと本気で思っています。
ユナイテッドアローズ社でもサステナビリティ推進プロジェクトが進行中、「スペシャルUAサロン」を開催。
今、ユナイテッドアローズ社でもサステナビリティを推進するプロジェクトが進行中です。その一環として社員向けの社内セミナー「スペシャルUAサロン」を開催しています。2回目となるこの日は、大坪さんのお話を伺いつつ、疑問や相談などディスカッションの時間も設けて、自分ゴト化を促すとともに、社員やお客さまに伝える、巻き込むヒントなどもお聞きしました。
―天然繊維のサステナブルについてはどのように考えていられますか?
大坪:ブランドの約85%が化学繊維で商品展開をしているので、天然繊維の取り扱いはそれほど多くありません。ただ、綿にはポリエステルに比べて吸放湿性があり着心地の良さもあります。スポーツには向いていなくても、アウトドアウエアの広がりと同時に天然繊維は徐々に増えてきています。ただし、天然素材の代替はなかなか難しく、品種改良などをしても余計なエネルギーがかかってしまったりもします。今、シンプルに一番大きな問題は気候変動なので、温室効果ガスの排出が少ないオーガニックコットンに切り替えたりしています。ブランドの目的は、お客さまの便益、イコール、機能性です。機能をキープしたまま天然繊維の良さを生かしていくには、モダールやリヨセルなど植物由来の「再生繊維」を使っていくのが良いかなと考えています。また、ゴールドウインではニュージーランドのメリノウールブランド「アイスブレーカー」を扱っていますが、羊毛で薄くて暖かく、防臭性が実感できるものもあるので、洗濯回数を減らすのには役立つかもしれません。
―サステナビリティの戦略を担う組織や統制はどのような形をとられていますか?
大坪:いわゆるサステナ事業部などはありません。ただ、自分がリーダーを務める、全社全ブランド横断型プロジェクトとして材料開発委員会があり、サステナブル素材などを含めて単一ブランドでは難しいものを扱っています。とくに〈ザ・ノース・フェイス〉はモノづくりを主体としたブランドなので、うちのチームがリードしながら一緒に考えていくことが多いですね。会社の環境指針と各ブランドの指針はほぼ一緒であっても、スピード感や意識に差があるのが悩みだったりもしています。大切なのは、当事者がどう実行できるか、企画や販売をするメンバーがどう変われるか。会社から何パーセントやれと言われてやるものではないですよね。まあ、言われてはいますが(笑)。なるべく現場から積み上げていく、ボトムアップを主体としたいと思っています。
―当社でも衣料品の回収キャンペーンなど様々な取り組みを行っていますが、どのようにスタッフやお客様とのコミュニケーションをとっていくのが良いのか思案しています。
大坪:自分も同じことを悩んでいます。人数が増えて組織やブランドが大きくなり、関わる人が増えてきているので、思いを先の人々に伝えていく難しさがあります。商品などについては、間に他の人を挟むから店舗のスタッフに伝わらないというのなら、直接自分で乗り出して伝えてしまったりもしますが、テクニック論やメールやLINE、会議でなど情報の伝え方についてはいろいろ議論もあります。ただ、根本的には受け取る側が興味ある内容なのかどうか、自分のこととして受け止めてくれるかどうかに尽きます。自分は「心に訴えかけるしかない」と思っています。なんでも合理的にチャキチャキやりたいほうなのですが、ことサステナビリティなどということに対しては、エモーショナルな、自分の気持ちや、どうありたいのか、気持ちの部分をなるべく伝えて共感してもらえるようにしています。ただし、距離感をすごく大事にしています。上司からのメールにしても、ただ届いただけでは捨てられてしまうので、今は相手の気持ちに触れるようなコミュニケーションを意識しています。お客さまにも一人ひとり伝えていくのは大変ですが、気持ちを伝えることは重要です。その具体策の一つが、前述した「エクスプローラーソース」です。今のお客さまやこれから好きになってくれる方にはもしかしたら響くのではないかと考えたコミュニケーションだったりします。最近、僕からのメールは「エモメール」と言われ、「シビレエイ」のつもりで送っています。自分で発電して人をシビレさせるという(笑)。
―最後に一言、ユナイテッドアローズ社のスタッフやこの記事を読む方々にメッセージをお願いします。
大坪:「ネバーストップエクスプローリング」がブランドのタグラインです。これは自分の人生の目標にもなっています。矛盾や壁にぶち当たると、何かしらの理由を探してやらない場合も多いですよね。でも、とくにサステナブルに関してはアクションすることが重要です。勉強したり約束したりするだけのフェーズは終わり、今は実行するタイミングです。「コミットよりファクト」と社内でも言っていますが、まずは実行していくことが重要です。正しいと思っていたことが、よくよく調べたら間違っていたということもあると思います。そうしたら素直に正すしかありません。サステナビリティは最近は売らんがためのマーケティング用語になりつつある部分がありますし、人と違うことをしなければならない感がありますが、本質的には一緒でよいと思っています。例えば、〈ザ・ノース・フェイス〉は雑誌などで〈パタゴニア〉と比べられることも多いですが、アウトドアを愛する部分は同じです。各々の目線や取り組みのレベルなどは違うでしょうが、他社も含めていい施策があれば同じことをすればいいと思っています。今、気候変動によって、台風の大型化や温暖化による雪の減少などもあります。10歳の娘と4歳の息子がいますが、20年後、30年後、今の僕の年齢になったときに、「デンバーでスキーをして人生最高に楽しい!」みたいな瞬間を彼女たちが迎えられるのか。そこに雪はなく、もしくは渡航すらできない状況になっているかもしれません。僕たちの原点は美しい自然に身を置く、自然を大切にするところから始まっています。サステナビリティとかしこまるよりも、自分の子どもたち世代に、将来同じ景色を見たり体験ができるような環境を残しておくことに使命感を持っています。今アクションを起こさないのは、何もやっていないことと変わりません。今何もしていない、イコール、どんどん悪くなっているということです。一緒にアクションを起こしましょう!
PROFILE

大坪岳人
株式会社ゴールドウイン 事業統括部事業本部 ザ・ノース・フェイス事業一部 副部長 プロダクトグループ マネージャー
1979年生まれ。2004年にゴールドウインに入社。2年間の専門店向け営業を経て、〈ザ・ノース・フェイス〉のアパレルの企画を担当。素材の開発や商品計画も担う。現在は企画・マーケティング全般をマネジメント。本社のテクノロジーセンターや海外の工場に行く一方、米国の本社にも1~2カ月に1度訪れるなど出張が多い。時間を見つけて現地でもスキーや山登りに赴くが、荷物は機内持ち込み1つ分と決め、レス・イズ・モアを実践。一男一女とともに家族でアウトドアを楽しむこともしばしば。