ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

ヒト

2020.05.22 FRI.

お客様のアクションで森が豊かに。
多様性のある森づくりプロジェクトスタート。

お買い物の際マイバッグをお使いいただき、ショッピングバッグ包装をご辞退いただくと、1回につき10円をユナイテッドアローズ社が森林保全団体に寄付する「Reduce Shopping Bag Action」(アクションにご参加いただいたお客様にはハウスカードポイント10ポイントを差し上げています)。全ストアの実店舗で実施し、これまで多くの方にご協力いただいてきました。今回は、4月より支援している多様性のある森づくりプロジェクトについて、寄付先である「more trees」の事務局長・水谷伸吉さんにお聞きします。

Photo:Keisuke Nakamura
Text:Noriko Ohba

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1秒間にテニスコート15面分も失われている世界の森。

ー最初に「more trees」の活動について教えてください。

僕たちは、2007年に音楽家の坂本龍一さんによる呼びかけで立ち上がった森林保全団体です。どんなことをしているのか、その活動を紹介する前に、今現在の国内外の森林の状況を簡単に説明しますね。最近ニュースにもなりましたが、アマゾンやオーストラリアでの森林火災など、今地球規模で森林が急速に減っているという状況があり、その速度は、1秒間にテニスコート15面分も失われていると言われています。

一方、日本では戦後、木材不足を解消するために国を挙げて日本中に木を植える動きが広まりました。その成果もあって、日本は国土の67%が森林に覆われるほどの森林大国となりました。ですが、この時に植えたのが「スギやヒノキ」といった限られた種類の樹だったので、バランスに偏りが出ているのが日本の森林の現状です。

ー確かに日本の森林といえば、スギの木という印象はあります。

当時植えたスギやヒノキが過密状態になってしまっている土地も多く、「more trees」では、間伐(木を間引くこと)をするのも活動内容のひとつです。さらに、そのプロセスで供給された木材の出口を作るために、木材のプロダクト開発やワークショプなど、木材の利用を促すこと、消費者とのマッチングを行うのも仕事です。

また、ここ2、3年の活動として行っているのが、多様性のある森づくりです。今の森は、植えてから5、60年経ち収穫どきを迎えている森も多く、そこでは間伐のように間引くのではなく、すべての木を伐採する皆伐が行われています。皆伐したスペースには、再び木を植えるのですが、その際にこれまでのようにスギだけを単一に植えるのではなく、いろいろな木を植えましょう、針葉樹だけでなくその土地に適した広葉樹も植えて、さまざまな種類の樹木が育つ、バランスのいい豊かな森を作ろうという活動が「多様性のある森づくり」です。

今回、「Reduce Shopping Bag Action」に協力していただいたお客様の支援によって、ユナイテッドアローズさんと一緒に行うプロジェクトもまさにその多様性のある森づくりです。このプロジェクトは、岩手県の住田町の森で行います。

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長年の支援先「岩手県住田町」で始まる、新規プロジェクト。

ー岩手県の住田町といえば、「LIFE311」のプロジェクトが行われた場所ですね。

はい。被災地周辺の地域木材を活用して木造仮設住宅をつくる「LIFE311」は、2011年の東日本大震災直後に立ち上がったプロジェクトです。ユナイテッドアローズさんには、「Reduce Shopping Bag Action」を通して、最初から最後までご支援いただきました。僕たちとしても本当に感謝をしています。やはり震災直後はありがたいことに支援金も多く集まりましたが、年月を経るごとにご協力が減少してしまうなか、最後まで寄り添っていただけたこと、「Reduce Shopping Bag Action」にご協力いただいたお客様にも心から感謝しています。

プロジェクトは、2020年3月をもって終了しましたが、この9年間住田町に通い、またそこで地元の方との繋がりも多くできました。何より住田町は、林業の町。この場所で僕らが行っている多様性のある森づくりをしたいと今回のプロジェクトが立ち上がりました。

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ーそもそも多様性のある森は、限られた樹種の森と比べて、人や町や自然にとってどんないいことがあるのでしょうか?

まず経済的なリスクヘッジが挙げられますね。樹の種類が限られていると、たとえばその樹の木材価格が下がってしまった場合、森林全体の経済価値も大きく下がってしまいます。人間の財産で例えるなら、資産は現金だけでなく、株や不動産などいろいろな形でもって、リスクを分散させるのと似ています。

また環境という意味でも、仮にスギに害を及ぼす病害虫が発生した場合、被害が森全体に及んでしまうのも大きなリスクです。色々な種類の樹があれば、さまざまな種類の根が張ることで、土砂災害などの防止にもつながり、落ち葉によって土も豊かになるなど環境面でもメリットがあります。いろいろな種類の樹木があれば、そこに集まってくる鳥や虫の種類も増え、生物多様性の高い森となる点もメリットです。

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また、広葉樹の落ち葉には植物プランクトンに必要な栄養が含まれます。その栄養の溶けた水が川へと流れるので、川の状態が良くなり、そこから続く海にまでプラスの作用があるなど、森から始まって海にたどり着くまでのよい連鎖が生まれることも考えられます。

実際に、気仙沼の漁師さんたちが、森に入って木を植えているんですよ。水源となるその土地の森が豊かになれば、ホタテや牡蠣が太って美味しくなるといって、始めたそうです。最初はあまり理解されなかったようですが、最近になって北海道大学の教授によってそのメカニズムが解明されています。漁師さんたちはそんな分析や検証が進むもっと前の段階で、直感的に山を豊かにすることが海につながると、植樹の活動をしていたのというのもすごいですよね。

komoro針葉樹と広葉樹が混在する多様性のある森(長野県 小諸市)

来春からスタートする森づくり。完成はいつ!?

ー住田町にも川が流れていますね。

住田町を源流とする気仙川というがあります。夏になると鮎やイワナが釣れ、県外からも多くの人が来る有名な清流で、陸前高田の水源にもなっています。今回行う住田町の森づくりがゆくゆくは気仙川をもっと豊かにするイメージで、プロジェクトを進めていけたらと思います。

ー住田町の森林には、どんな種類の樹木を植えるのでしょうか?

それは僕らが「こんな樹があったらいいな」と決められるものではありません。その森にどの種類の樹が適しているかは、森の気候や地質、また同じ山でも標高の違いによっても変わってきます。これまでに僕らが行ってきた多様性のある森づくりでは、専門家にその土地の森林を見てもらい、いただいた樹木の「処方箋」から苗木の選定を行います。

また、昔からその森を知っている地元の方もエキスパートです。何十年も前の森を知っている彼らに、スギが植えられる前にあった木を聞く等、生き字引のような知識もお借りし、それらの意見をすり合わせて決めていきます。最終的には、環境にもよく、また町の経済にもプラスになるような森づくりを行えたらと思っています。苗を植えるのは来年の春からですね。

ー来年の春に植えた苗木は、どれくらいで森に育つのでしょうか?

…そうですね…非常に気の長いプロジェクトでお伝えしにくいのですが…森林と言えるくらいまで育つにはだいたい80年くらいかかります。ですから、僕らもすべての森を多様性のある森林に、と主張しているわけではありません。もちろん木材生産を目的にスギだけを50年サイクルでまわす森もあっていいと思いますし、一方で多様性のある森も少しずつ増えていき、両方がうまくゾーニングできたらと思っています。

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ー最後に今後プロジェクトを進めていく中で「Reduce Shopping Bag Action」に協力していただいたお客様と一緒にやってみたいことはありますか?

このプロジェクトは単なる森づくりだけにとどまらず、地域と関わっていく取り組みでもあります。店頭で「Reduce Shopping Bag Action」にご協力いただいたお客様や、お客様にお声がけいただいているショップスタッフの方などと一緒に現地に行って苗を植えたり、また途中の経過を見たいただくことができたらいいなと思います。そのなかで住田町という地域の魅力を知っていただけたら、とてもうれしいですね。

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PROFILE

水谷伸吉

1978年東京生まれ。慶応義塾大学を卒業後、2000年より(株)クボタで環境プラント部門に従事。2003年よりインドネシアでの植林団体に移り、熱帯雨林の再生に取り組む。2007年に坂本龍一氏の呼びかけによる森林保全団体「more trees」の立ち上げに伴い、活動に参画し事務局長に就任。

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