ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

ヒト

2020.02.27 THU.

あの名手「カルーゾ」が描く近未来へのビジョンとは?
キーパーソン2人のインタビューからその答えを紐解きます。

テーラードを手掛ける数あるイタリアのブランドの中でも、特に洗練されたモダニズムを感じさせるブランドといえば〈カルーゾ〉を置いて他にありません。そして数々の世界的メゾンのOEMを請け負っていることで知られるそのイタリアの名門が、2020年春夏シーズンからまた新たな一歩を踏み出しました。〈ヴァレンティノ〉や〈ベルルッティ〉で経験を積んだアルド・マリア・カミッロ氏がクリエイティブディレクターに就任し、ミラノのショールームも移転リニューアル。そんな成長著しいイタリアの雄が志す新しい時代に向けた服作りを探るべく、前述のアルド氏、そして2018年からカルーゾ社のCEOを務めているマルコ・アンジェローニ氏にそれぞれインタビュー。ブランドのあり方やこれからの〈カルーゾ〉の方向性や展望などについてじっくりと語っていただきました。

Photo:Shunya Arai(YARD)
Text:Kai Tokuhara

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―まずはアルドさんにお話をうかがっていきます。カルーゾのクリエイティブディレクターに就任される前はどのようなキャリアを歩んで来られたのでしょうか?

私は13歳からニューヨークでデザインの勉強を始め、またそれ以外にも文学など様々なジャンルを学びました。そして20歳の頃、小さな規模ですが自分のブランドを発表し、生まれ育ったローマを飛び出すために数々のコンクールに参加したところ〈ヴァレンティノ〉でデザイナーとしてのチャンスに恵まれました。その後パリに移り、〈チェルッティ〉や〈ベルルッティ〉で仕事をしました。そして2018年、ピッティ・ウオモのスカウトチームからスポンサードのオファーをいただき、正式に私自身のブランドをショーという形で発表できたのです。

―そしてこの2020SSシーズンから〈カルーゾ〉のクリエイティブディレクターを務められていますが、どのような経緯で就任が決まったのですか?

以前から私の考えるデザインコンセプトとマッチしたブランドとコラボレーションしたいという思いは常にあったので、当然ながら〈カルーゾ〉の動向については興味を抱いていましたし、元々知り合いだった現CEOのマルコ・アンジェローニともコンセプトについての話し合いを何度も重ねました。そして自分のブランドをピッティで発表した後、マルコから正式にクリエイティブディレクター就任のオファーを頂いた時に、私自身、自分のブランドを1シーズン休んででも〈カルーゾ〉に自分が持つ力を注ぎたいなと。機が熟したと感じたのです。

―マルコさんとはどのような話し合いを?

ディスカッションというよりも、日常的な会話を重ねる中で同じ価値観を持っていることがわかりましたし、サルトリアに対する真摯な姿勢にも共感を抱きました。その過程で、もう少し〈カルーゾ〉にコンテンポラリーな要素を加えていきたいという意見がごく自然にお互いから発せられたのです。

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―お二人に備わっていた感覚が近かったということですね。そこからどのように、〈カルーゾ〉ブランドの伝統を生かしながら現代的なコレクションにアップデートしていったのでしょうか。

〈カルーゾ〉の真骨頂はやはりジャケットです。そのクラシックなジャケット作りをベースにしつつ、従来にはなかったモダンなファブリックやカラーリングでそのジャケットに合わせる近代的なワードローブを作り出し、ルックブックなども駆使しながら新しい時代にマッチしたトータルコーディネーションを提案していきたいと思いました。

―クラシックとコンテンポラリーの融合はさじ加減がキーポイントになると思いますが、アルドさんはその両面をどのように共存させているのでしょうか。

私の頭の中に常に存在するのは、レボリューションではなく“エボリューション”。ただ改革するのではなく、時代とマーケットが何を求めているのかを理解して発展させることが何より大切だと思っています。決して崩してはいけない、人々が求めるベーシックさをしっかり理解しながら冒険する。ファイナルユーザーとのカンバセーションがスムースであってこそ、アグレッシブなチャレンジができるのです。

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―この2020SSシーズンはどのようなコレクションに仕上がっていますか?

マルコとカンバセーションして作った最初のコレクションは、まずジャケットにコットンやモヘアといった春夏らしい素材を多用し、スタイルはクラシックだけれど軽やかに着られる仕立てになっています。しかしながら、エレガントさを演出するのに常にジャケットが必要なわけではないというのも新しい〈カルーゾ〉の考え方。例えばカジュアルなカーディガンであってもエレガントさは表現できるということをスタイリングで提案したり、ニットをはじめとするジャケット以外の各アイテムもサルトリアの要素をしっかり盛り込みつつ、パステルカラーや裏地の細かなディテールで遊びを加えています。そしてもちろん、100%メイド・イン・イタリーであることは変わりません。

―やはりイタリアの人々のスタイル、彼らが求めるワードローブも変わってきているということでしょうか。

イタリアのみならず、ファッションはグローバルレベルで進化してきていると思いますね。ジャケット1つとっても無数にスタイルがありますし、何よりクラシックとコンテンポラリーのボーダーが無くなってきているので、着る人の自由度も非常に高まってきていると思います。しかしながら、そのような流れの中で“もうサルトリアのジャケットは終わった”と語るジャーナリストもいますが、私自身はそう思ったことは一度もありません。2018年に発表した私のブランドのスーツスタイルも、〈カルーゾ〉のジャケットも、サルトリアに息づくクラシックのエッセンスがあってこそモダンな要素を加えた時により魅力的なコレクションに仕上げることができるのです。

4〈カルーゾ〉が提案しているジャケットのモデルの中でも、最も軽い着心地を持つ「バタフライ」をベースにしたのがこちら。ジャケットはボタンレス仕様、ボトムスはウエスト部分をハーフギャザーにしたイージーパンツ型でUA&SONSの別注スーツ。〈カルーゾ〉とUA&SONSのダブルネームのタグがつく。

5同じくアンコン仕立ての「バタフライ」をベースにした4Bダブルスーツ。リネンで仕立てたリラックス感とエレガントさが共存した一着。

6ウエストに絞りのない「ドロップ0」モデルの2Bジャケット。生地にはハイツイストのコットンを使用しており、独特の風合いを持ちシワになりづらいのが特徴。明るいブルーが新鮮。


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コンセプトは「プレイフル・エレガンス」。独自のカルーゾファッションを提案していきたい。

―次に、前任のウンベルト・アンジェローニさんから2018年にCEOを引き継いだマルコ・アンジェローニさんに、〈カルーゾ〉のカンパニーとしての取り組みについてお話をうかがっていきます。CEOに就任し、カルーゾブランドを新たに牽引していくプロセスでまず最初に取り組んだこととは?

以前はソラーニャの自社工場で生産を担当していましたが、社長になってからは〈カルーゾ〉というブランドがこの先どうあるべきか、アイコンであるジャケットを起点にどのようにフレッシュなトータルルックをお客様に提案していくべきかという点にまずはフォーカスしました。そこで〈カルーゾ〉のヘリテージを維持しながら新しいものを作りあげるためにアルドの力が必要だったのです。ジャケットだけではなくニットもコートもある。彼と一緒に作り上げたトータルルックによって着実にお客様の認識が変わってきている手応えを感じています。コンセプトは「プレイフル・エレガンス」とでも言いましょうか。スーツならこういう色合わせ、こういうコーディネートでなくてはならない。そのような昔ながらの型にとらわれすぎることなく、これからも時代に合った独自のカルーゾファッションをどんどん提案していきたいと考えています。

―その思いは社長に就任する前から温められていたのでしょうか?

そうですね。ファクトリーのスタッフと日々一緒に働きながら無意識のうちにアイデアが蓄積されていったように思います。何事もそうですが、作り手が楽しんでいないとそのブランドに未来はありませんから。眉間にシワを寄せすぎず、よりリラックスして服作りに取り組んでも良いのではないかと。

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―自社工場でジャケットを作れることが〈カルーゾ〉の根底に存在する強みだと思いますが、そのクオリティを維持していく上で心がけていることとは?

職人たちの手作業と機械を使っての工程をバランスよく組み合わせることでしょうか。デリケートな部分の縫製や仕上げはすべて手作業で行ないつつ、そのサルトリアの伝統を守りながらも、コスト、時間、正確性を考えた時に機械化したほうがベターな工程に関しては新しいテクノロジーを積極的に取り入れています。服作りも時代に合わせてどんどん革新していかなくてはなりませんから。

―次に、ファクトリーの拠点であるパルマ県の「ソラーニャ」との関連性についてもお聞きします。どのような街なのでしょうか?

ソラーニャは人口5000人弱のとても小さな街です。工場の従業員が約500人なので、街全体の1/10の人々が〈カルーゾ〉の工場に携わってくれている計算になりますね。街にとって〈カルーゾ〉の工場はとても重要ですが、その逆も然りで、〈カルーゾ〉にとってもソラーニャという存在は欠かせません。お互いが支えあっている関係と言えますね。

―カンパニーと地域の良好な関係を築くために必要なこととは?

私が〈カルーゾ〉で働く以前にはどういった取り組みが行われていたか定かではありませんが、現在は会社側と従業員がともにリスペクトしあえていると実感しています。私自身、ソラーニャの工場のみんなとクリスマスを一緒に祝うなど、彼らの仕事ぶりをねぎらう時間を持つことは常に心がけています。去年の年末も、「カルーゾのクオリティを永続的に保つために僕1人でできることは少なく、むしろ皆さんの力にかかっていると思っていますのでお互い頑張りましょう」という言葉で締めくくりました。本当に小さなことの積み重ねですけれど、カンパニー全体に一体感をもたらすために従業員を気遣ったり彼らのモチベーションを高めることは本当に大事なんです。

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―今後の〈カルーゾ〉ブランドはどのようなビジョン、戦略をもとに成長を求めていきますか?

ビックブランドを目指すのではなく、あくまでミディアム規模を保ちながら世界の3〜4ヶ所にお店を構えたいなと。トレンドを追従することなく、でも堅苦しくなく、軽やかで、お客様1人1人が自由にコーディネートをカスタマイズできる。それでいて芯にある独自のエレガンスはしっかり感じさせることができる。そのような服作りが理想ですね。また現在の主なビジネスフィールドはヨーロッパや日本になりますが、アメリカに進出したいとも考えています。

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―最後に、マルコさんが率いる〈カルーゾ〉社の理念とは。

従業員それぞれに“個人事業主”であるという意識を持ってもらうこと。それがより良いプロダクトやスタイリングを生み出すために最も必要な要素だと考えています。イタリア語でいうと「Imprenditori ben vestiti(インプレンディトーリ ベン ベスティーティ)」。「おしゃれな起業家」という意味ですね。

〈カルーゾ〉のモノ作りについてソラーニャ工場を取材した記事はこちら。

PROFILE

マルコ・アンジェローニ

イタリア・ローマ生まれ。2008年以来、現在のカルーゾの礎を築いてきたウンベルト・アンジェローニ氏の後を継ぐ形で、カルーゾのソラーニャ工場勤務から2018年に同社CEOに就任。気鋭デザイナー、アルド・マリア・カミッロ氏をクリエイティブディレクターに招聘するなど、数々の改革を施しながらモダンクラシックスタイルの新境地を追求している。

アルド・マリア・カミッロ

イタリア・ローマ生まれ。ヴァレンティノのアシスタントデザイナーとしてキャリアを始め、その後エルメネジルド ゼニア、チェルッティ 1881、ベルルッティなど数々の名門でそのクリエイティビティを発揮。2018年には自身のブランド「アルド マリア カミッロ」をピッティ・ウオモで初披露。2020年SSシーズンよりカルーゾブランドのクリエイティブディレクターに就任。

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