ヒト
2017.08.09 WED.
『LIFE311』の地、気仙地域で暮らし、働き、生きる人々。
岩手県の住田町は藩政時代から経済的・文化的に結びつきが深い、隣接する陸前高田市、大船渡市とともに「気仙地域」と呼ばれています。東日本大震災直後、住田町は津波被害を受けた陸前高田市や大船渡市からすぐに被災者を受け入れるため、木造の仮設住宅を用意しました。林業の町としても知られる住田町でつくられた仮設住宅は、地元で育った気仙杉を使用して完成。この建設費を支援するために立ち上がった「LIFE311」プロジェクトを、ユナイテッドアローズ社は「REDUCE SHOPPING BAG ACTION」を実施し、サポートしています。今回は、「LIFE311」を立ち上げた森林保全団体「more trees」水谷伸吉さん、李明燁さんと住田町を巡り、そこに生きる人々のスナップをお届けします。
トップ写真:住田町役場のみなさん
Photo:Takahiro Michinaka
Text:Noriko Ohba
広大な森を相手に仕事に邁進! 住田町の林業男子。
(左)松田林業 湊康弘さん
木造仮設住宅の材料となる原木を山から伐り出すなど、住田町の木造仮設住宅の建設にもすぐに対応した松田林業。湊さんはここで働き始めて7年目、今日は朝8時から、伐採された丸太を集める“集材”という作業を行っていました。「ここで働き始めて1か月経った時に震災が起きました。それから6年間、今一緒に働いている仲間たちとの関係も日々深まり、毎日笑いの絶えない現場で、自然に囲まれながら働いていることが何よりもうれしく、毎日が充実しています」。
(右)松田林業 千葉一道(かずみち)さん
松田林業で働き始めて4年目、社内ではいちばんの新人だという千葉さん。「この業界では、木を切る、集める、運ぶ、とそれぞれの仕事を分業する企業が多いなか、松田林業では一連の作業すべてを行っているので、全体を大きな流れのなかで経験できるのが醍醐味ですね」と仕事のやりがいを聞いていると、横から先輩の「彼は、林業界のビッグダディなんですよ」という声が。聞けば千葉さんなんと8児の父親なのだそう! 「松田林業に入ってからもふたり生まれました(笑)」。
松田 格(いたる)さん
兄の松田 昇さんとともに松田林業を営む弟、格さん。この日は、AM3時に120キロ先の宮城県石巻市に丸太を運んで帰ってきたばかり。これから再び近くの製材所に丸太を運びに行くのだそう。「震災後、『LIFE311』のイベントで住田町の木造仮設住宅を『六本木ヒルズ』で展示した企画は、忘れられないものとなりました。ずっと現場で仕事をしてきて外へ出る機会などあまりなく、自分の街を外でPRするという初めての経験。自分の仕事について、林業のこれからについて、あらためて考えるきっかけとなりました」。
三陸木材高次加工協同組合 佐野清隆さん
住田町で「製材工場、集成材工場、プレカット工場」が1か所に集まった木工団地で働く佐野清隆さん。さまざまな部署を担当しながら、今年で14年目を迎え、現在は仕入れを専門に行っています。「国産の木材のみを扱っていることは誇りです。ここで加工された木材が家の柱などに使われ、その後何十年とその人の人生に関わり、長く使われることは仕事のやりがいです」。
温かなコミュニティを築き、仲間と生きる。
菊池つばささん
住田町役場の企画財政課で働く菊池つばささん。「昨年まで震災復興支援室で行っていた業務は、この4月から企画財政課で行っています。震災から6年経ち、『more trees』さんや『more trees』の活動を支援してくださっている『ユナイテッドアローズ』さん、NPO団体の方など、さまざまな方面とのつながりができて、それが今も継続していただけていることは本当にありがたいです。現在、住田町の仮設住宅に入られているのは25世帯。今のつながりを大切にしながら、再建の道を精一杯サポートします」。
(右から)村上みき子さん、及川ケイ子さん、小野寺リツ子さん
住田町にある仮設住宅のコミュニティ支援の一環として毎月開催されている「お茶会」。この日は中上団地で恒例のお茶会にお邪魔しました。集まった女性たちは、手づくりの料理や飲み物を持ち寄っておしゃべり。
村上みき子さん
仮設住宅に来てから始めた貝殻と布で仕上げたきれいなお手製チャームづくりは1200個を超え、訪問者へのプレゼントとして喜ばれています。ほかにも色合いの絶妙な鉛筆立てをチラシでつくるなど、手先の器用な村上さん。「仮設に入って6年間立ちますが、この仮設住宅にいる人たちとは、災害にあったという線で結ばれているの。この年齢になって、新しい仲間ができるなんて思わなかったけれど、新しい町内会ができたような感じだよ。ここでこうして集まって顔を合わせるのを楽しみにしてるの」。
及川ケイ子さん
「サポートしてくれる方にはどれだけ感謝してもたりないよ。木造の住宅は、住みよくて“こでらいね”(申し分ないの意)。結婚して50年住んでいた町は津波で何もなくなってしまったけれど、みんなに助けられて、ここにいられるだけでも幸せだ。お茶会はいい気分転換になるし、楽しいよ」と、この日はお手製のふきの酢の物をふるまってくれました。
小野寺リツ子さん
みなさんの話をニコニコ聞きながらうなずく小野寺さん。最近は、団地内の若い人たちにも変化を感じるとのこと。「この仮設から仕事に出かける若い方もいます。彼らに『いってらっしゃい』や『今日は暑いですね』と話しかけていたら、最近は向こうから声をかけてくれることもあってね、うれしいですよ。毎月のこのお茶会は楽しみのひとつ。集まってお茶っこ飲みましょうって団地内で誘ってくれる人がいるから、こうして楽しい時間がもてるんですよね」。
住田町仮設住宅「本町(もとまち)団地」自治会長 小林捷義(かつよし)さん
住田町にある仮設住宅団地のひとつ「本町団地」で、この春から自治会長を務めている小林さん。「私も妻も津波の被害を受け1年半ほど盛岡に移り、その後ここに来ました。木造の一戸建てに足を踏み入れたとき、木の香りに安らぎ、部屋も広く感じたことを覚えています。何よりうれしかったのは、会ったこともない私たちを仮設の皆が温かく迎えてくれたこと。ここにいるみんなが『家をなくした』という同じ境遇にいて、いちいち語らなくても気持ちをわかってくれることが本当にありがたかったです。
私はこの4月から自治会長となりましたが、前会長がつくってくれたいいコミュニティを大切に継続していきたい。ここにいる人たちは、再建にむけてそれぞれの事情を抱えています。何かがあったとき遠くから見守られているような安心感やここにいるのが苦にならないコミュニティづくりを心がけたいです」。
村上 馨さん
住田町の仮設住宅「本町団地」に暮らしていた村上さんご夫妻は、3年前に陸前高田市に家を構えました。山を切り開き、住宅地として開発したエリアに暮らし、家の裏の斜面では、さまざまな季節の野菜が元気に育っています。「今は20種類ぐらいの野菜を育てています。土から開墾したんですよ。実は野菜づくりは、仮設住宅に住んでいるころに始めたんです。野菜づくりを始めたいと言ったらすぐに多田町長が『ここ使っていいよ』と場所を用意してくれました。仮設のメンバーは皆ファミリーのようでしたね。夏の暑い日や雨が降った日など、それぞれの家で工夫していることを教え合ったり、そこから輪ができたり、とても風通しのいい環境で、情報やそれぞれの考えなどを伝え合えていました」。奥様は新しいこの場所で生け花教室を再開。以前の生徒さんも再び訪れてくれています、とお話くださいました。
酔仙酒造 菅原教文さん
1年前まで住田町の仮設住宅「本町団地」に住んでいた菅原さん。震災直後の2011年4月に「more trees」代表の坂本龍一氏が仮設住宅を訪れた際には、菅原さんの娘さんが『戦場のメリークリスマス』を披露、その様子は話題となりました。中学生だった彼女も今は大学生となり県外の大学に通っているそう。現在、菅原さんは、陸前高田市の災害公営住宅で生活しています。「今はここの公営住宅で役員をしています。300世帯ほどの大きな規模ですが、とてもよくまとまっています。住田の仮設住宅では自治会長のもと円滑なコミュニティを学ばせてもらった。それが生きていると感じますね」。
酔仙酒造のみなさん
震災で社屋、商品すべてを失う甚大な被害を受けた「酔仙酒造」は、2012年8月から大船渡市にある新しい工場で、再び酒造りを行っています。この日は、製造部の金野泰明さんに酒蔵内を案内していただきました。全国から集めたタンクを使用し酒を寝かせている貯蔵室、支援してくれた方々の写真や品物が並ぶ部屋、蔵人の安全を配慮した仕込み部屋…etc.「震災の1年後にこの場所で酒造りが始められたのは奇跡のようだと感じます。私たちも必死でしたが、多くの支援があったからこその今だと感謝しています」と金野さん。受付の横には、『酔仙』はじめ、爽やかな発泡性清酒『酔仙 Shuwawa』、香り豊かな吟醸酒『煌琳』などがずらりと並んでいます。
「more trees」(右)水谷伸吉さん・(左)李明燁さん
毎年、住田町に目録を届けに訪れる「more trees」事務局長の水谷さん。6年の年月の間に多田町長はじめ、町の人たちとの親交も深まり、町を歩けば今でもあらゆる場所で「お〜水谷さん。これからどこ行くの?」などと声がかかります。ユナイテッドアローズ社も支援する『LIFE 311』の今年の支援金は613万9006円。その目録を多田町長に渡します。
「僕らのことを住田町の人たちはいつも温かく受け入れてくれることが、ありがたいですね。多田町長からもいつも『お金以上の繋がりをもらっている』と言っていただき、その言葉は僕たちの活動をする上で励みになります。今回は、仮設を出られた方のお話もお伺いでき、みなさんの木造仮設に対する気持ちもお伺いできました。仮設住宅の建設費用を支援する『LIFE311』の活動が少しでもお役に立てたのならば、本当にうれしく思います」と水谷さん。
「more trees」のスタッフであり、水谷さんとともに住田町へも足しげく通う李さんは、「『more treesの森』は、北海道から宮崎まで全国各地にあり、それぞれに地域性がありますが住田に来ると、シャイで心の温かい方々の優しさをいつも感じます。心のつながりを大切にしながらこれからもていねいに繋がっていきたいです」。
REDUCEとウツワ
“ショッピングバッグ”から始まるふたつの“いいこと”
REDUCEとモノ
岩手県気仙郡住田町。林業の町の「川上から川下」までを追って。