ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

ヒト

2021.08.05 THU.

これからの時代に“well”なモノづくり。藤原 裕氏と「CITEN」が生み出すデニムシリーズとは。

2021年秋冬シーズンに新たにローンチするブランド〈CITEN(シテン)〉。“FUTURE ESSENTIALS.“のコンセプトの下、素材の選定からお客さまが袖を通すまでの各工程に対して丁寧に向き合い、ニューノーマルな日常を豊かにすることをテーマに掲げています。長く快適に着られるモノづくりを実践する中で、人気ヴィンテージショップ〈ベルベルジン〉のディレクターであり、ヴィンテージデニムアドバイザーとして活躍する藤原 裕氏とともにデニムシリーズを展開しました。ヴィンテージを知り尽くす氏が手掛ける”古くて新しい“デニムアイテムに迫ります。

Photo:Kazuma Takeuchi(Ye)
Text:Hisamoto Chikaraishi

ヴィンテージから新しいデニムを生み出すという大きな挑戦。

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ー今回、新ブランド〈シテン〉のデニムシリーズを手掛けることになった経緯について教えてください。

最初にファッション業界の先輩から、ユナイテッドアローズさんで新しいブランドが立ち上がり、デニムアイテムを作るにあたりアドバイザーとしてわたしの名前が挙がっているというお話を聞きまして、そこで、〈シテン〉がどういったコンセプトを持っているかを知り、わたしは何ができるかを考えました。これまでデニムアドバイザーとしていくつかの企業と協業をしてきましたが、今回は新規事業のメンバーとして取り組ませていただけて、しかもメンズとレディース両方のデニムアイテムを見ることができる。これは、自分の経験や知識を活かしながら大きな挑戦ができる、わたしにとって嬉しい機会です。「ぜひやらせてください」とお返事をしました。

ー藤原さんが考えた「自分ができること」とは何でしょうか?

いまのライフスタイルに合う快適な服であること、というブランドコンセプトを聞いていたので、「シンプルでベーシック」をきちんと形にしたものを作りたいという思いがありました。また、レディースを手掛けるには、女性らしさや美しいシルエット、いまという時代性を表現しなければいけません。わたしがこれまでに集めてきたヴィンテージのデニムアイテムを持ち寄り、サンプルにすることで、ディテールを突き詰めることができると考えました。


Gジャン初心者も愛好家も着たくなる「Tバック」の秘密。

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ーデニムシリーズを手掛けるにあたり、ディレクターをはじめとした制作チームとはどのようなディスカッションをしましたか?

どんなアイテムを作るかは、もちろん〈シテン〉ディレクターの秋川さんと話し合う中で決めていくのですが、わたしとしては第一弾にふさわしいメンズとレディースのベーシックなジーンズと、第一弾だからこそラインナップに加えたいGジャンをイメージしていました。だいたいブランドの中のデニムシリーズというと、ジーンズからはじまって後々Gジャンが作られます。ただ、昨今はヴィンテージのGジャンの市場が盛り上がっていますし、オーバーサイズというトレンドの中で、トップスはユニセックスの展開で男女ともに着ることができます。はじめから本格的なセットアップが手に入るのもいいなと思ったんです。

ー数々のデニムアイテムを見てきた藤原さんですが、パターンやデザインに関しては、どのように決めていったのでしょうか?

メンズもレディースも最初のジーンズとして、今後残る形を作ることを意識しましたね。メンズのジーンズに関しては、どストレートのシルエットというよりは、着こなしがキレイにまとまるスリムストレートを思い描いていました。基本的にはわたしの体型をベースには考えないのですが、今回は自分のようなお尻まわりが大きい人が穿いてもスッキリ見える、浅すぎず深すぎないちょうどいい股上に調整しています。シャツをインしていただいても、いい見映えになるように仕上がっているんじゃないかな。わたしをご存知の方は、藤原=ボタンフライをイメージするかもしれませんが、そこをちょっと変えたいなと思って、穿きやすいジッパーにしています(笑)。

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4_2107062257デニムのひげや、裾裏のチェーンステッチなど、ヴィンテージを知る藤原さんのこだわりがつまったデザイン。

レディースのジーンズに関しては、ディレクターの秋川さんとより話し合いを重ねて。彼女が感じる“かわいい”という発想を大事にしながら、1930年代に初めて女性用に作られたジーンズをベースに、いくつかわたしのサンプルを穿いていただいて、細かく検証していきました。サンプルは結構太いのですが、脚がきれいに見えるように、シルエットはいちばんシンプルなスリムシルエットに落とし込んで、股上の深さは残して、理想の形ができました。

5_2107063345藤原さん私物のヴィンテージデニムたち。

ーユニセックスを想定したGジャンのデザインも、何か参考にしたアイテムはありますか?

まず、わたしが30代の頃から持っているお気に入りのヴィンテージのGジャンを、今回の形の基礎として提案させていただきました。それは、たぶんいま現在わたしが知っている限り日本に4枚しかないモデルである、1950年代のヴィンテージデニム。ポイントは、背中の2枚はぎの「Tバック」と、大きなボックスシルエットです。本国アメリカでスプリットバックと呼ばれるTバックは、生地幅が足りなくて、後にはぎを入れたというのがはじまりで、バックヨークとはぎの縫い線がTの字に見えるデザインのことです。

いまのヴィンテージ市場では、このような大きいサイズはすごい価値がついてしまったので、なかなか手にすることも見かけることもないんです。なので、秋川さんをはじめ、パタンナーさんたちに1度体感してもらいたいなと思って着ていただきました。その中で、みなさんがシルエットに好感を持ってくださって、「これがなぜいいのか」をディスカッションしました。20年間Tバックを見続けているわたしからは、身幅に対しての四角く見える短い着丈や、その分肩が落ちて短くなっている袖の長さなどバランスについて、自分がこれまで見たり調べたりして知った魅力を説明させてもらったんです。普通、XLサイズを作るなら、当然袖もXLサイズに対応した長さにしないといけないという考えになりますが、実はそこは逆なんです、と。

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ー独特なワイドシルエットがいまっぽくもあり、着てみたくなりますね。形やシルエット以外でこだわられた点を教えてください。

ディテールには、これもわたしがお気に入りの1940年代のヴィンテージデニムを参考にしています。その中で、襟の形とボタンにこだわっています。襟を通常より少し短くすることで、男性がトップボタンまで閉めても首元にキレイに収まりますし、女性が着ても襟が変に主張して野暮ったくなるということがない。また、ボタンは少しオールド感を出しながら、キレイめに落とし込めるものを選定しました。新しくGジャンを着る人はもちろん、Gジャンをすでに何着か持っている人やGジャンを久しぶりに着た人が、「あれなんかちょっと違うな」と気づいてくれるように、古い要素と今の感覚のいいところを取り入れたんです。


素材も縫製も加工も作り手の愛情と技術が詰まっている

ー〈シテン〉のコンセプトにもある、素材や機能を丁寧に選ぶ「Well-Choice」という考えに、藤原さんはどのように関わられているのでしょうか?

〈シテン〉には「FUTURE ESSENTIALS.」というコンセプトがあり、ワードローブのベースとなるような、日常で着てもらえるベーシックな服を丁寧に作ろうという想いが込められています。その一つとして、サステナビリティの観点から注目されているオーガニックコットンを使ったデニム生地作りに携わらせていただきました。デニムを愛する者として、研究熱心なレプリカブランドを手がけるオーナーさんなど、たくさんの尊敬する人たちとお会いしたのですが、わたしがいまから同じところを目指そうとしても到底敵いません。わたしが改めて何ができるのかを考えたときに、ヴィンテージとは違ういまのオーガニックコットンのデニムに、これまで見てきたヴィンテージの魅力を落とし込むことに辿り着きました。それを実現するために、生地屋さんに生地の厚さや藍色の濃さをオーダーして、その結果、自信を持って世の中に出せるデニムを作ることができました。

7_2107061054ポケットの位置やステッチの2色使いなどもこだわりのポイント。

生産背景である岡山の加工場や広島の縫製工場にお邪魔した際には、自分の言葉で目指すデニムアイテムへの想いを伝えました。わたしのサンプルを使いながら〈シテン〉としての要望を伝えて、サンプルができあがるたびに期待を上回っている。日本のモノづくりは、やっぱり世界に誇れるほど技術が高くて、丁寧であると実感しました。

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福山の縫製工場さま、岡山のデニム加工場<癒toRi18>さま。

ー藤原さんが今回のデニムシリーズを手掛けることで大事にしていたことは何でしょうか?

重複してしまいますが、新しいデニムアイテムを作るにあたって、自分は何ができるのかを考えることをいちばん大事にしていました。今回、ジーンズを3型、Gジャンを1型作っていますが、いろいろな人の暮らしやスタイルに馴染むことをベースにしながら、形やデザインで新鮮味を出せるように取り組みました。デニムを好きな人の中には、古着が苦手な方もいると思いますので、そういった人たちがヴィンテージをいままでと違った目線で見てもらえるようになったり、〈シテン〉は若い方にも手に取りやすい価格なので、このデニムシリーズを通して、デニムやヴィンテージに興味を持つきっかけになったりしたら嬉しいなと思っています。あと、世の中にカッコいいTバックのGジャンが増えればいいなって(笑)。


デニムは感性で買っていい! ヴィンテージが作るファッションの未来。

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ーデニムアイテムの魅力に多くの人が気づくきっかけにもなる〈シテン〉のデニムシリーズは、どんな人に着てほしいですか?

服好き、デニム好きはもちろんですが、作りとしても新しい試みをしたものとしては、ブランドのネームではなく、「何かぱっと見でかっこいい」と感性で惹かれる方に響けばいいなと思います。

ー今後、〈シテン〉とどのような取り組みをしていきたいと考えていますか?

今後も新しいデニムアイテムに取り組んでいきながらも、デニムだけではないTシャツやスウェットなど、自分がいままで携わったアメカジの定番アイテムに関して持っている知識を〈シテン〉に落とし込んでいきたいと思っています。ヴィンテージを通ってこなかった人に、ヴィンテージの魅力や面白さを現代的に提案することができたら素敵ですね。自分自身、どう作っていったら、いまの人に刺さるんだろうと考えることも楽しい。先日もクローゼットを見直したら、厳選したジーンズが70本ぐらい出てきたんです。いままでアホみたいに買っていた古着がやっと役に立つときがきた感じがします(笑)。

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PROFILE

藤原 裕

1977年高知県生まれ。原宿にある人気ヴィンテージショップ〈ベルベルジン〉のディレクターを務める。ヴィンテージに関する豊富な知識をもとに、ヴィンテージデニムアドバイザーとして、ブランドとのコラボレーションや協業を行う。 2015年に、リーバイスの501XXの歴史と51本のヴィンテージジーンズの写真や資料を収録した書籍『THE 501 XX A COLLECTION OF VINTAGE JEANS』を、2020年にヴィンテージのGジャンの写真を収めた『Levi’s VINTAGE DENIM JACKET’S』を発表した。現在、ヴィンテージについて解説するYouTubeチャンネル「 ヴィンテージデニムアドバイザー 藤原 裕 CH 」を毎日更新中。

JP

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