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これからの循環型社会を考える、L∞PLUS(ループラス)と創造する「ビューティ&ユース」のデニム。

モノ

2023.02.28

これからの循環型社会を考える、L∞PLUS(ループラス)と創造する「ビューティ&ユース」のデニム。

かつて炭鉱で働く人のためのワークウェアとして誕生したデニムパンツは、いまやわたしたちの日常にとって欠かすことができないエッセンシャルなアイテムとして、確固たるポジションを築いています。需要が多いからこそ、裁断時に生まれる裁断クズも多いのが現状。だけど、それを不要物として捉えるのではなく、再生可能な資源として見つめ直したら、きっと世界も少しずつ変わっていくはずです。〈ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ〉のデニムパンツには、そうした裁断クズを再利用した生地が使われています。「L∞PLUS(ループラス)」と名付けられたその生地は、一体どのような工程を経て作られているのか? その現場であるクラボウ(倉敷紡績株式会社)の安城工場を訪ね、サステナブルな未来について考えてみました。

Photo:Yuco Nakamura
Text:Yuichiro Tsuji

環境への高い意識と確かな技術力によって生まれる「L∞PLUS」。

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1870年代、ゴールドラッシュで湧くアメリカの炭鉱で働く労働者のためにデザインされたと言われるジーンズ。そこから派生したアイテムはいま、わたしたちがファッションを楽しむ上で欠かせないものとなっています。誰もが一度は穿いたことがあるであろうデニムパンツ。多くの人にとって普遍的な存在であるからこそ、たくさんの量が生産され、そしてその数だけロスが生まれるのです。

「L∞PLUS」は、例えばデニム等の生地が裁断されるときに生まれる裁断クズを再利用して作られたリサイクル糸や、その糸を使って織られた生地のこと。いまでこそエコや環境活動に対して社会が注目し、SDGsの概念が浸透していますが、この技術を開発した倉敷紡績株式会社(通称:「クラボウ」)は、早い時代から環境配慮に目を向けていたそう。

「アップサイクルということに目を向けはじめたのが2010年頃。そこから繊維関係の環境改善への取り組みを少しずつスタートして、環境にやさしい素材開発をしてきました。「L∞PLUS」の設備を導入したのは2018年で、そこからSDGsへの取り組みをより本格化して動きはじめたんです」。そう話すのはクラボウ カジュアル課の中野さん。

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ここでは製造によって発生するロスを循環したり、まだ少量ではあるものの一般消費者からの製品回収も含めた取り組みを実現しながら、循環型社会づくりにより一層力を入れていくそう。拠点とする安城市とも手を取り合ってプロジェクト化するほど、サステナブルファクトリー化に向けて日々本気で邁進しているのです。

そうした環境への高い意識、そしてクラボウの高い技術力に〈ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ(以下:BY〉が共鳴し、「L∞PLUS」を採用したデニムパンツをデザインするに至ったのです。

元の生地の風合いや色味を生かして有機的に再生する。

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では、どのようにして「L∞PLUS」は生まれるのか…。まずはじめに、集められた裁断クズは“反毛”と呼ばれる作業を通して再び綿状に戻されます。

それを今度は通常の綿とミックスし、繊維の向きを揃え、質量に対する重さを均等にしていきながら、うどんほどの太さに細長く伸ばしていきます。どんどん引き伸ばされていった素材は、精紡と呼ばれる工程によって撚りをかけながらさらにそうめんほどの太さに細長く伸ばして強度を上げていきます。

そして、糸の仕上げの工程です。糸の中には太さが均等でない箇所もあるため、そうしたところを取り除きながら最終の巻き上げを行います。最後にできあがった糸を使用して生地を織り、「L∞PLUS」の完成。実はこうした工程を踏むのは、業界的に画期的なものなのだとか。
「日本ではケミカルリサイクル、つまり使用済みの資源を科学的に分解して原料化し、リサイクルしている企業さんもあります。しかし、我々が行っているのはマテリアルリサイクルです。裁断クズや製品回収したものを有効活用している点に面白さがあります。元の生地の風合いや色味を生かして有機的に再生するというところがひとつポイントになる。はじめに行う“反毛”の作業をするための機械を所持している会社も日本ではそう多くないんですよ」。

とはいえ、より精度の高い生地を作るためには、原料となる裁断クズのクオリティも担保されなければなりません。例えば、いろんな生地の裁断クズを混ぜることによってたくさんの素材が混ざってしまい、色味が均等になりにくいというデメリットも。それを逆手にとって新しい生地を開発する面白さもありますが、今回目指したのは普遍的なデニムの風合い。

画像 ヒップからワタリが太くテーパードを緩めにしたワイド型は、インディゴとブラックの2色展開。

BYのデニム製品の縫製加工をお願いしている工場より、「さまざまなメーカーやブランドからのオーダーによって2カ月で約1トンの裁断クズが出ている」と聞き、今回はそうした工場と手を取り合い、まとまったデニムの裁断クズを確保しながら、アイテムの品質を担保しています。

画像 もう1型はすっきりとジャストレングスで履けるテーパード型。カラーはインディゴとダークグレーをラインナップ。


そして、さらにこだわったのは生地の色合い。デニムの特徴といえば、やはり色落ち(=アタリ)にあります。インディゴに染められた糸の表面が摩耗によってすり減り、芯の白い部分が露出することによってそれがおきますが、今回の「L∞PLUS」の糸はそもそもの原料がデニム生地のため芯の部分まで青味がかっていて、そのアタリ感が出にくいのです。

それを解消するため、今回は経糸の割合をL∞PLUSと通常の糸で1:2にすることで、デニム特有のアタリ感が出るように工夫しました。

「生地全体の『L∞PLUS』の割合は6%という数値。本来であればもっと高い割合の方が社会的な貢献度は上がりますが、結局のところ、作っても穿かれないというのがいちばんの無駄になってしまいます。緯糸に「L∞PLUS」を打つ手もありますが、すると今度はデニムとしてやや奇抜なものになってしまう。そのバランスを上手に取った結果、経糸で1:2の比率で使用することがベストであるという答えに辿り着きました」。

サステナブルでありながら、デザインや見た目も納得のいく仕上がりに。

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そうして生まれたBYのデニムパンツ。サステナブルなアイテムであることはもちろん、ウォッシュを施した自然な凹凸感と加工のバランスが上手に表現され、ワードローブにすんなりと馴染む風合いに仕上がっています。シルエットもすっきりとしたテーパード型と、ワタリ幅のあるワイドの2モデルをご用意。時代耐久性を持った普遍的なデザインに仕立て、長く愛用できるアイテムが完成しました。

昨今のSDGsへの関心の高まりから多様なサステナブル素材を見ることが多くなった現在において、商品が生まれた背景を知ることが重要であるのはもちろんですが、そうしたアイテムをデザインや見た目の部分でも納得していただけるように、クオリティを上げていくことも必要なフェーズに入ってきたのかもしれません。

PROFILE

クラボウ(倉敷紡績株式会社)

クラボウ(倉敷紡績株式会社)

1888年に創業した繊維事業を祖業とする日本の大手メーカー。1973年に国産初のデニム生地「KD8」を開発して以来、創業当時から蓄積してきた紡績や、織布・染色加工における独自の技術を活かし、現在も国内外の有名デニムブランドにおいて常に高い支持を得ている。

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