モノ
2023.08.10
〈THE NEW DENIM PROJECT® 〉の素材でつくる、サステナブルな背景が見える服。
環境への影響が懸念されるアパレル産業を変えていきたいという想いから、地球への負荷を極力減らした持続可能な素材開発を目指してスタートしたグアテマラのアップサイクルプロジェクト〈THE NEW DENIM PROJECT® 〉。今回、〈ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ(以下、BY)〉では〈THE NEW DENIM PROJECT® 〉の素材を使用し、2つのアイテムを製作しました。アップサイクルの過程や今回のコラボレーションの背景について、タキヒヨー株式会社の富岡 真輝さんと〈ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ〉でディレクターを務める小沼 悠子さんにお話を伺いました。
Photo:Tomoaki Shimoyama
Text:Michiko Ichitani
〈THE NEW DENIM PROJECT® 〉について。
富岡:本プロジェクトの前身は、1956年の創業以来、家族3代で経営を続ける中米グアテマラにあるセントラルアメリカテキスタイル社という紡績会社です。そこでは、織りや縫製の工場も稼働しているのですが、輸出先であるアメリカの市場に中国などアジアで安く大量生産のできる商品が増えていき、危機感を持つようになったことがこのプロジェクトのはじまりです。現社長と出版社や化粧品会社のPRで経験を積まれたふたりの娘さんと3人で、2012年頃からアップサイクルしたデニム生地をベースとしたモノづくりを試行錯誤し、2016年からファクトリーブランドとしてスタートしました。
提供:タキヒヨー
富岡:アメリカやヨーロッパでは2016年よりもっと前から、「サステナブル」といったキーワードへの関心が高く、弊社は海外市場での取引が多いこともあり常にリサーチを行っている状況でした。そんな中展示会で出会ったのがはじまりです。おじいさんの代から持続的な家族経営で引き継がれているという点も企業として共感でき、2018年から日本でのディストリビューター契約を締結しています。
— 国内外でこのような生産体制について関心が高まっていた時期に、〈THE NEW DENIM PROJECT® 〉の突出した点はどういう部分だと思われますか?
富岡:当時はまだリサイクルペットボトルが主流でしたが、古着や残布のリサイクルとして、モノにケミカルな加工を加えずにまたモノに戻すという仕組みがかなり先進的だったと思います。
人の手で地球の負担を減らす、無駄のない循環システム。
提供:タキヒヨー
富岡:〈THE NEW DENIM PROJECT® 〉で再生される糸には4種類あって、一つはアメリカから集められた古着の中で汚れていたり、オーバーサイズだったりといった理由で商品として再販できない古着を再生したもの。2つ目は、グアテマラはデニムの縫製工場でも有名なのですが、その工場から出る裁断くずを集めてまた糸に戻したもの。3つ目はTシャツ。ネイビーのカットソーやTシャツの裁断くずを集めて、糸に戻し、デニム風の色みにしています。そして、もう一つは糸を紡ぐときに落ちてしまう綿を再度紡績するというもので、その4種類の糸でプロダクトを作っています。
提供:タキヒヨー
提供:タキヒヨー
富岡:再紡績すると、さらに糸にできないほど短い繊維長が出てきてしまうのですが、それらはコーヒー農園で堆肥として再利用することで土に還るので、地球に負担なく循環させることができるという仕組みになっています。
提供:タキヒヨー
富岡:非効率な作業を人の手で行っていることです。古着や残布、落ち綿を集めて、再利用できない付属をカットし、選別して、色を分けてとすべて手作業で行っているので、そこがなかなか他社が参入できないポイントなのかなと思います。手間を掛けることで、そのままの色を生かした無染色の生地に仕上げることができ、より環境に配慮したモノづくりに繋がっていることも大きいですね。こういった背景があるからこそ、効率的にどんどん売るというよりも、素材を可視化させて環境への気付きに繋がったり、サステナビリティへの理解を深めるきっかけになってくれたらと思います。
提供:タキヒヨー
富岡:リサイクルコットン全体として、精度のバラつきという課題があります。特に、〈THE NEW DENIM PROJECT® 〉では、もとの原料が古着やデニムの残布など特殊なものが多いので、生地の風合いや個体差についてきちんと説明をした上で、理解してファッションに生かしてもらえるよう努力していかなければなりません。
再生デニムの特性をデザインに生かしたワークウェア。
小沼:ここ数年、ブランドとしても再生循環やエコロジーなモノづくりというのを常に意識していて、リサーチの先でこのプロジェクトと出会うことができました。生産の背景がわかりやすく、かつプロダクトとしても確立されたデニムは、〈BY〉のアイデンティティのひとつでもあるので、ぜひ実現したいと強く思いました。
小沼:定番のインディゴデニムではなく、この素材ならではの風合いを特徴にクラフト感のあるワークウェアを作りました。ジャケットは、ざっくりと羽織れるオーバーシルエットで、レディースのアイテムではありますがユニセックスでも着ていただけます。細かなポケットや襟下についているフープなど、ワークウェアから着想を得たディテールを盛り込み、シンプルながら感度軸も機能軸もアップデートした商品に仕上げました。
— パンツはトラウザーのような上品なデザインですね。
小沼:こちらも少しルーズに腰履きしていただくようなイメージで仕上げています。おすすめはジャケットとのセットアップ。ジャケットはわざと腕まわりを太めにしているので、袖元を少しまくってシルエットの変化を楽しむのもおすすめです。
— この素材ならではのポイントもありますか?
小沼:やっぱりこの色と雰囲気ですね。ムラ感や素材の風合い、ネップが飛ばされて一点一点異なる表情に仕上がっているところも、大量生産ではなく生きている感じがしてすごくいいなと思います。
富岡:素材の特徴を生かした、ファッション性のある商品に仕上がったのでよかったです。ワークウェアを意識された細かいディテールも改めてかっこいいなと思いました。
富岡:多くの企業がSDGsを掲げて発信をしていますが、消費者からすると「リサイクル素材だから買おう」とか、「サステナブルな商品だから買おう」という行動はまだそんなに多くなく、今回のように「かっこいいから買おう」と手に取った商品が、実はサステナブルな素材だったと知ってもらえるような発信をもっと進めていかなければならないと、改めて感じました。
小沼:わたしたちも商品の生産背景とファッション性を両立した発信は常に課題と感じていて、建前だけでなくクオリティもしっかりと期待に答えられる提案をこれからもしていきたいと思っています。今回とても素敵なプロダクトに仕上がったので、今後もなにか新しい素材やプロジェクトがあれば、また一緒にモノづくりをさせていただきたいです。