ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

ヒト

2021.09.02 THU.

ファッションを通じて伝えたいメッセージ。これからのセレクトショップのあり方とは。

大きな時代のうねりに直面しています。暮らしにまつわるすべてがこれまで通りにいかなくなったいま、アパレル業界のあり方についてもたびたび議論されるようになりました。ファッションの力が、いまこそ試されるとき。とりわけ販売という仕事の価値についても、考えるいい機会かもしれません。 そこで、(株)ビームス、(株)ベイクルーズ、(株)ユナイテッドアローズの3社の合同勉強会をメンズ、ウィメンズの2日間に分けてオンラインにて2年ぶりに開催。今回登壇したのは、3社を代表するブランドディレクター6名。ブランドの舵取りをする存在でありながら、現場を支える販売員の存在意義をいまひしひしと感じている彼らが、業界内共通の課題を異なる視点や文化から照らし出します。この時代だからこそのアパレル業界のあり方、販売員のあり方とは?

photo:Jun Nakagawa
text:Masahiro Kosaka(CORNELL)

まずは自己紹介。服好きになったきっかけとは?

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この日司会進行を務めるのは、ユナイテッドアローズ社 営業統括本部 販売支援部 人材開発課の五十嵐 保行さん。1992年にユナイテッドアローズ社に入社し、販売員や店長、サービスマネージャーを歴任。ほかでもない彼自身が、販売員やサービスの現場をつぶさに見守ってきた服好きのひとりです。「ユナイテッドアローズ社の創業者である重松 理氏が掲げた“販売員の地位向上”に背中を押され、それを達成しようと30年間勤めてきました。ちなみに生粋の野球ファンで、31歳のとき、本気でベースボールプレイヤーになろうとフロリダに入団テストを受けに行ったこともあります(笑)」。

続けて、この日勉強会に登壇してくれた6名にも自己紹介をしてもらうことに。現在の肩書きと仕事内容、そして「ファッションを好きになったきっかけ」について教えていただきました。

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〈ビームス F〉 ディレクター 西口 修平さん

西口さんは、〈ビームスF〉のディレクターを務めて約8年。商品企画から仕入れまで、およそ100ブランドを一手に担います。「小学校高学年のとき、当時流行っていたのとは真逆の太いジーパンを穿いている友人がいて。初めてリーバイス501の存在を知ったのがそのとき。そこから、記号的に洋服を掘り下げたり、いろいろな着方に挑戦してみたり。それがいまだに続いている感じです」。

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〈レショップ〉コンセプター 金子 恵治さん

ベイクルーズの金子さんは、〈レショップ〉のコンセプターを務めながら、新規プロジェクトの立ち上げや社内外のブランドディレクションを行うなど、精力的に事業を展開しています。「中高生の頃から抱えてきたさまざまなコンプレックスを好きな服を着ることで乗り越えてきました。服がきっかけで自信がつき、いまではひとつのコミュニケーションツールに。生きていくのに欠かせない存在です」。

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ユナイテッドアローズ社 チーフクリエイティブオフィサー 松本 真哉さん

松本さんは、ユナイテッドアローズ社のチーフクリエイティブオフィサー(CCO)。社会に愛される会社にするために、社内全般のクリエイティブを司ります。「ありがちですが、服好きになったのは両親の影響です。物心ついた頃から、人より余分に服を着せつけられていました(笑)。好き・嫌いというより、身のまわりに服が自然とあった感じです」。

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〈ビームス ボーイ〉ディレクター 伊野 宏美さん

伊野さんは、大学時代にビームスにアルバイト入社。販売員として3年間勤めた後に、〈ビームス ボーイ〉にバイヤーとして異動し、5年歴任。2年前にディレクターになったばかりです。「一緒に住んでいた祖母の影響は大きいですね。毎朝、完璧に身なりを整えて部屋から出てきて、キッチンに立つ。その姿から洋服の持つパワーを感じていました」。

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〈アパルトモン〉ディレクター外山 絵里さん

ベイクルーズの外山さんは、〈アパルトモン〉でバイヤー、MDを経験した後、現在のディレクター職に。「ファッションが好きになったのは、おそらくリカちゃん人形がきっかけです!」。

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〈6(ロク)〉ディレクター 吉田 恵理子さん

吉田さんはユナイテッドアローズ社に入社後、メンズ、そしてレディースの複数のセクションでバイヤーを歴任。7年前に〈6(ロク)〉のディレクターになりました。「生まれも育ちも東京なので、渋谷カルチャーがすぐそこにあったのも大きかったと思います」。

個性あふれるエピソードに、あっと驚いたり、自分と近い経験に親近感を覚えたりしながら、その後180名の参加者たちも、グループに分かれてそれぞれに自己紹介タイム! ひとり3分ほどの持ち時間で、ファッションを仕事にしたきっかけや勉強会への意気込みを共有しました。そして、いよいよここからが本題。パネルディスカッションの時間です。


まずもって、自分自身の“着る喜び”。それが自然と伝播していく。

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今回の合同勉強会開催にあたっては、オンライン参加している現役の販売員の方たちに事前にアンケートを実施。登壇者に聞いてみたい質問を募りました。パネルディスカッションでは、そこで挙がった質問の一部を登壇者たちに投げかけます。まずは、「ファッションでこだわっていること」について。

今年44歳になるビームスの西口さんは、洋服を好きになって30年経ったいま、ようやくおぼろげに、自分のスタイルやこだわりが見えてきたのだといいます。「さまざまな洋服を勉強して、取捨選択するなかで、最近はむしろこだわらないこと、固執しないことにこだわっている気がします」と、さっそくのパワーワード!

その言葉にすかさず、「まったく同じ意見なのでびっくりしました!(笑)」と合いの手を入れる松本さん。「変なこだわりは抜きに、自分に似合う服をなるべくスマートに取り入れること。弊社では“MAKE YOUR REAL STYLE”という言葉もあります」と、さりげなくユナイテッドアローズ社の価値観にも触れます。

自己紹介では体型へのコンプレックスを明かした金子さんからは、「自分のセンスに自信がないんです」とまたもや意外な言葉が。「だからこそというか。その分、バイイングでは泥臭く足で稼ぎ、セレクトする目を磨くことに人一倍心血を注いできました」。

ウィメンズディレクター陣には、「ファッションにはどんなパワーがあるか?」という質問。第一線で活躍する彼女たちだからこそ、日々身にしみているであろうファッションの力。彼女たちの仕事の原動力でもあるはずですが、具体的にどういったことを感じているのでしょうか。

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「単品で見るよりも、何かと何かを掛け合わせることで、ファッションのエネルギーはどんどん大きくなっていくと思っています」と、口火を切ったのは吉田さん。それには伊野さんも深く頷きつつ、「わたしもアルバイト時代は、お金をかけるのではなく、『頭を使っていかに機転を利かせるか』で洋服を楽しんできました」と、実体験を交えながら、スタイリングを楽しむことの大切さを示します。

また、伊野さんは「洋服って、わたしたちの体と一番近い場所にありますよね。どうせ着るからには、仲のいい相棒になって、日々パワーをもらいたい」と、常に身にまとうモノだからこそ、出どころやストーリーを深く知りたくなる気持ちを明かします。そこには外山さんも思うところがあるようで、彼女の娘さんの話に。「5歳にして、すでに自分の好みがあるようで。お気に入りの洋服を着ると、鏡の前を離れず、ずっと自分に陶酔しているんですよ(笑)」。洋服を着ることの純粋な喜びを、ファッションという言葉も知らない身近な存在から教わる。思いがけないところで、改めてファッションのパワーを感じているようです。「好きなモノを着て、気持ちよく過ごす。その積み重ねが人生を豊かにしてくれる。それでいいのかなと思います」。そしてそこから思い至るのは、日々仕事をともにする販売員のこと。

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「お店のスタッフたちにも、とにかくまずは自分自身の着こなしを毎日楽しんでもらいたいんです」と外山さん。それには伊野さんも、「洋服は自分のために着るものですよね。まずは自分の好きなように着ること。自分の気分が上がれば、まわりの仲間たちにも自然と広がっていくと思います」と続けます。自分自身の“着る喜び”が仲間に伝わり、それが店舗やブランドの空気を形づくり、ひいてはお客さまに伝わっていくということ。


ブランドのルールを示しながらも、個人のキャラクターも引き出す。

続いての質問は、「ブランドの世界観や強みを、店頭スタッフにどのように伝えているか」。

外山さんは、週に3日は店舗に赴いて、スタッフたちとコミュニケーションを取っているとか。あえて特別な機会を持たずとも、ディレクションを店頭に直接届けているようです。また、仕入れや企画についても、極力店頭スタッフたちに相談を持ちかけるようにしているのだといいます。「彼女たちが最初のお客さまなので、そのリアクションは大切にしています」。お客さまに伝わるかどうかは、とりもなおさず、店頭スタッフたちにかかっているというわけです。

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伊野さんと吉田さんは、コンセプトブックを制作することで、ブランドの輪郭や軸をくっきりとさせ、まずは店頭スタッフたちに落とし込むことを狙っているようです。「『〈ビームス ボーイ〉とは?』を必死に浸透させてきた2年間でした」と、伊野さんは振り返ります。「デニムのロールアップは一回まで。なぜならチェーンステッチを見せたいから」、「フライトジャケットはMA-1だけじゃない!」、「着膨れは可愛い」といった“ボーイあるある”を綴ったブックは、今シーズンで4号目。シーズンテーマを謳うのではなく、脇目も振らずにブランドの軸を打ち出してきました。

同じくブランドのルールブックを制作した吉田さん。3年前の大阪店オープンを機に、自分の頭の中を可視化した、心の拠り所となるようなツールを作りたかったのだといいます。「店頭スタッフたちが、ブランドのことをより深く理解するにつれ、ますますファッションにも貪欲になっていくのを感じています」。“ルールブック”とは謳いながらも、絶対の正解を示すのではなく、個々のキャラクターを活かせる“余白”を残したのもポイントだったとか。

たとえブランドの方向性が90%決まっていても、お客さまに伝わらないことにははじまらない。ブランドを完成させるのは、ほかでもない、この勉強会にも参加している販売員たち。そうした想いは、3人ともに通じているようです。


「一販売員としてではなく、洋服が好きなひとりの人間として。SNSを使わない手はない」。

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さて、コロナによってますますデジタル化が進んでいるアパレル業界です。インスタグラムをはじめとしたSNSの使い方も多様化、複雑化し、ECで買い物をする人口も加速度的に増加しています。そんな中「販売員はデジタルツールとどのように向き合えばいいのか?」それが、この日の最後の質問です。

金子さん曰く、スタートした6年前には鳴かず飛ばずだった〈レショップ〉が現在の姿になっているのは、まさにSNSの力だったとか。「店に商品を揃えている僕自身を売ろう、そう考えたんです。SNSやブログなどで、とにかく発信しまくりました」。個人の力でブランドを引き上げる。それは、限られた人にしかできない離れ技のように聞こえますが、「SNSというツールを使えば、販売員誰もに、そうしたことができる可能性がある」と金子さんはよどみなく言ってのけます。

「〈レショップ〉のことを、誰もが僕と同じようなフィルターで伝えてほしいとはいっさい思っていません。それぞれの見方で、それぞれの発信をして、僕が届けられない人にまで届けてもらいたい。販売員それぞれの力を、より活かせたらいいですよね。そうして、“会いたい販売員に会いに来たら、それがたまたまレショップという店だった”それくらいになればちょうどいい」。

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「文章がうまいとか、写真がうまいとか、自分自身を発信することを怠らないことが大事」とは西口さん。店頭の一人ひとりが日々何を考えていて、洋服についてどう思っているか、どんな風にスタイリングするか…。それらを、いかに楽しみながら発信し続けるか。それが大事なのだといいます。「SNSは、何よりタダじゃないですか。使わない手はないですよ。そして、“お店の一販売員として”というより、“洋服が好きなひとりの人間として”何ができるか。それも、ぜひ考えてもらいたいですね」と西口さんは話します。

「実は、SNSのいっさいをやっていないことで業界でも有名な僕ですが…」。と、ようやく口を開いた松本さん。金子さん、西口さんの発言を聞いて、猛省している様子。「なにより、ひとりのファッション好きとしてのシェアスピリットに、勇気をもらいました!すぐにでもアカウント作ろうかな…(笑)」。

「結局、我々が商品を企画したり仕入れたりといったことは、あくまできっかけの部分でしかありません」とさらに松本さんは続けます。ブランドが形づくられるのは、その向こう側にある、人と人とのコミュニケーションにおいて。SNSの時代には、ブランドは本当に小さな存在なのかもしれない。そう自戒を込めて漏らします。「やはり、“MAKE YOUR REAL STYLE”に業界全体も向かっているのかもしれませんね」。


参加者180名が考える、これから店頭で実現したいこと。

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ファッションのパワー、販売員という仕事の価値を再認識し、これからの接客に繋げる。合同勉強会を通して、そのためのヒントがそこかしこに散りばめられていました。登壇者6名の考えや想いをオンライン参加している販売員の方たちもたっぷりと吸収した模様ですが、とはいえ、と五十嵐さんは言います。「今日の学びや気づきが、みなさんの頭の中にあるだけではいけません。行動を起こすことで初めて、お客さまに届いていくはずですから」。

そこで最後に、参加している販売員180名がいくつかのグループに分かれて意見共有する時間が設けられました。パネルディスカッションを終えたいま、それぞれに見えてきた「これから店頭で行うべきこと」。それを伝え合います。

「ブランドの想いと、お客さまを繋ぐこと。それがわたしたちの役割だと再認識した」「コロナの影響で久しぶりに買い物にいらっしゃるお客さまも多いため、“おしゃれって何だっけ”に立ち返った接客を大切にしたい」という接客の原点に立ち返るコメントをはじめ、「個人のアイデンティティを一層大事にしたいと思った」「まだ販売員歴は短いが、だからこそできることを考え、手を抜かずにお客さまと向き合いたい」「店頭でもSNS上でも、“誰に届けたいか”を常に念頭に置きたい」など、さまざまな行動目標に触れて、また心を動かされたり、さらに新しい気づきがあったり…。参加者同士で意見共有する中で、さらに想いが増幅し、新たな意気込みを持った様子。

販売員一人ひとりがファッションの力に気づき、行動を起こせば、まわりに伝播していく。それがブランドのエネルギーになり、ともすれば、他社の店舗やブランドにまで影響を及ぼすかも知れません。そして、ひいてはファッション業界全体を活性化していく。この日集まった誰もが、そのことを胸に今日も全国の店頭に立ち、お客さまと向き合っています。

PROFILE

西口 修平

〈BEAMS F(ビームス F〉ディレクター兼バイヤー
古着店やデザイナーズブランドを扱うショップで働いたのち、クラシックに目覚めビームスに入社。関西店舗にて約10年間販売職を経したのち、バイヤーとして抜擢され上京。2014年より現職。https://www.beams.co.jp/beamsf/  

伊野 宏美

〈BEAMS BOY(ビームス ボーイ)〉ディレクター
2010年、大学4年の春アルバイトでビームスへ入社。ビームス 新宿やビームス 立川の〈ビームスボーイ〉販売スタッフを経て、2014年より〈ビームスボーイ〉バイヤーを5年歴任。2019年より現職。https://www.beams.co.jp/beamsboy/

金子 恵治

〈L’ECHOPPE(レショップ)〉コンセプター
〈エディフィス〉のバイヤーを務めた後に独立。いくつかの企業、プロジェクトでの活動を経て、15年に〈レショップ〉を立ち上げる。現在は〈STANDARD JOURNAL〉の他、〈outdoor products〉〈ETS.MATERIAUX〉のディレクターも務める。 https://lechoppe.jp/

外山 絵里

〈L’Appartement(アパルトモン)〉ディレクター
2000年1月入社。〈DEUXIEME CLASSE〉での店舗FA店長という管理職を経て〈L’Appartement〉を店長として立ち上げ、その後バイイングを担いながらSMD、コンセプターを経てディレクター就任。2015年 長女出産(1年の産休を経て復職)。https://lappartement.jp/

松本 真哉

㈱ユナイテッドアローズ チーフクリエイティブオフィサー
ユナイテッドアローズ渋谷店や有楽町店、原宿ブルーレーベルストアの販売スタッフを経て、2002年より商品部に異動。バイヤーやデザイナーを経験した後、ビューティ&ユースのメンズファッションディレクター、クリエイティブディレクターを担当。2021年より現職。

吉田 恵理子

〈6(ロク)〉ディレクター
ユナイテッドアローズ 原宿本店や有楽町店などで販売スタッフを経て、商品部へ異動。バイヤー、MDを経験した後、ビューティ&ユース ユナイテッドアローズの立ち上げに携わる。その後二度の出産を経て、現在は育児と仕事を両立させながら、〈ロク〉のディレクターを務める。 https://store.united-arrows.co.jp/shop/roku/

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