ヒト
2016.03.24 THU.
Dr.Denim本澤裕治さん×6(ロク)吉田恵理子さん ”好き”をかたちにしたふたり。
2013年AWに、「ビューティ&ユース」から誕生したレーベル「6(ROKU)」。「SPORTS」「MILITARY」「ETHNIC」「MARINE」「WORK」「SCHOOL」の6つのエレメントを軸とした、上品な大人のカジュアルスタイルが人気を博し、この春にはオンリーショップがいよいよ登場します。今回は、「6(ROKU)」で展開している新生デニムブランド「timemachine®」をコラボレートしている、話題のデニムブランド「RED CARD®」のデザイナーでもある本澤裕治さんをお招きして、「6(ROKU)」のディレクター吉田恵理子さんとの対談が実現。おふたりのファッションに対する想いを語っていただきました。
Photo_Aichi Hirano
Text_Hatsuki Shimomura
おふたりの、古着への目覚めとおしゃれのルーツ。
——古着の出会いはいつですか?
吉田:おしゃれに多感だった時期が1980年代後半で、ちょうど渋カジ世代で育ちました。中高時代から古着に夢中になって。それは今も変わらなくて、「6(ROKU)」の毎シーズンのテーマやデザインも古着から着想を得ていることが多いです。
本澤:僕の学生時代はアイビー・ルックが全盛でしたね。古着の原点はやっぱり1950年代のデニムですね。結果、デニムのデザイナーにまでなっちゃった。
吉田:今日もプレッピーな着こなしですね。デニムは履かないんですか?
本澤:若返り作戦です(笑)。今はもう、ほとんどデニムを履いていないんですよ。古着のデニムはすべて研究対象な感じ。(流行が)いつ戻ってくるかわからないので、資料として取っておくから、引き出しに溜まっていく一方です。
——今日の対談ネタにと、本澤さんの私物から、1985年の雑誌「ポパイ」を持ってきてくれました。
吉田:31年も前の雑誌とは思えないほど、さすが、保存状態がいいですね。
本澤:「ポパイ」はバイブルのひとつでした。このオーバーサイズで着こなす感じとか、今の気分と合致しますよね。ほかにも、高級スーパーの「紀ノ国屋」や「ナショナル麻布」、「明治屋」に行け、なんて書いてある(笑)。
吉田:あのころは雑誌から、衣食住を含めて文化や心意気を学びましたね。当時は
ネットなんてなかったし。雑誌で情報を集めて、自分の足でお店に行って。「デプト」、「サンタモニカ」、「シカゴ」…たくさんの古着屋さんに通いました。
自分の足で探し回った、吉田さんの古着デニム。
本澤:僕たちはそうやって、時間もお金も使って積み上げてきたものがある。
吉田:「6(ROKU)」の核をなす、6つのエレメント「SPORTS」「MILITARY」「ETHNIC」「MARINE」「WORK」「SCHOOL」も、元をただせば、ヴィンテージがルーツの普遍的なテーマ。ブランドディレクターになる前、一時期、デザイナーズのバイヤーをやっていて、クラスブランドの服を着ることが多かったのですが、そのときも、手持ちのヴィンテージを組み合わせたり、HIGH&LOWな着こなしを楽しんでいました。ミックスするのが大好きなんです。「6(ROKU)」のものづくりも、スタイリング提案も、軸はそこにあります。
「6(ROKU)」初のオンリーショップ、2016SSコレクションについて。
——いよいよ、「6(ROKU)」初めてのオンリーショップが誕生しますね。どんなお店になりますか?
吉田:これまでと同様、「6(ROKU)」がこだわる6つの要素を主軸に、オリジナルと買い付けの仕入れ、古着で構成します。ありがたいことに、既存店ではミックスコーディネートされた古着の反応が良いこともあり、1号店となる新宿店ではバランスを考えながら、バリエーション豊かに取り揃えています。メンズ中心の買い付けというのも変わりません。「自分が着られるかな」と思うサイズ感を基準に、お直しせずにそのまま出すものと、リメークを経るものと2パターンあります。アメリカのものが中心ですが、新しい試みとしては、スタイリングの“一点差し”になるような、ヨーロッパのブランドヴィンテージ小物も広げていくつもりです。
——クリエーションのテーマやイメージアイコンを教えて下さい。
吉田:2013年に「6(ROKU)」がスタートするときに決めた、マリリン・モンローを彷彿とさせる「赤いリップが似合う女性」というテーマは根底にあります。彼女のように飾らず、ありのままで心地よく着られるアイテムを提案し続けます。2016SSのビジュアルブックの表紙も赤にしましたが、今季はオリジナルの服にも、キーカラーとしてシックな赤が多く登場します。シーズンテーマである「Low-key Alternative」に通じる、Low-key(控えめ)で奇をてらわない、でも、Alternative(新しい)なマインドをもつ強い女性がイメージ像です。
——2016SSコレクションを総括すると?
吉田:お客様の声を聞くと、次の気分のヒントになるアイテムを求められている、とすごく感じました。オンリーショップがオープンすることもあって、守りに入りたい思いもふと、よぎりましたが、半歩先の提案をしたいと思ってディレクションしました。たとえば、今日着ているツイード地のジャケットは、古着からインスパイアされた新作なのですが、パンツとのセットアップに加えて、中に合わせる共布のビスチェもつくって3ピースに。とにかく、型にはまらず、古着とスタイリングできるブランドでありたいという強い思いがあるので。それから今季は、キャミソールなど女らしいアイテムがいつもより豊富なのも特徴です。
本澤:ビジュアルブックでも、さりげなく「ポロ ラルフ ローレン」や「DKNY」の帽子と合わせてたり、やっぱり吉田さん、すごい上級だな(笑)。
吉田:私たちがつくりたいものと、お客様が着たいもののバランスが取れていて販売につながっている、いい状況に支えられて自信がもてています。1か月に一度は必ず店頭に立って、スタッフからのヒヤリングやInstagramなどを通して、お客様の声に触れるようにしています。本澤さんとコラボレーションしたデニムブランド「timemachine®」も、写真がアップされると「いつ入荷しますか?」などデニムに対しての期待値が高く、質問がたくさん寄せられるんですよ。
本澤さん×「6(ROKU)」の、上質コラボデニム「timemachine®」。
——おふたりは、「timemachine®」以前にもコラボされたことが?
本澤:最初は2008年、「ビューティ&ユース」の時が初めてでしたね。
吉田:「リーバイス」の私物のヴィンテージストレートをお渡しして、アレンジしていただきました。
本澤:あのコラボがきっかけで、「RED CARD®」をつくったんです。吉田さんがいなかったら生まれていなかった。
——えぇっ!!
吉田:私も初耳です(笑)。そうおっしゃっていただいて光栄です。デニムは男の世界ってゆうか、女性にはわからないだろう、という風潮があったりもしますが、本澤さんが楽しんで受け入れてくださったので、「6(ROKU)」の立ち上がりのときもコラボをお願いしました。
本澤:そのときは、ボーイフレンドデニムが欲しいというリクエストでした。1型だけ、控えめにね(笑)。ロングとショートで100本ずつつくりました。
——そうして、今回の「timemachine®」につながっていくのですね。
吉田:そうです。3回目のコラボレーションで、本格的なブランドとして「timemachine®」を立ち上げました。2015FWから始まりましたが、「6(ROKU)」でしかご購入いただけないエクスクルーシブです。本澤さんが本当に熱くて熱くて(笑)。その熱さにお返ししたい気持ちが山ほどあっても、理想と現実の狭間でなかなか難しい部分がありました。「6(ROKU)」単独では、コアなお客様がほとんどなので、ようやく今、フィットしてきた感じです。
本澤:「timemachine®」をつくるのに、実に3年以上の月日がかかりましたしね。始まりは、忘れもしない2013年5月20日。エクセルで何回も文書をやりとりして…。ボツも何回かありましたが、吉田さんのいいところは、やりたいことが明確。これが普通はなかなかできない。
吉田:ファーストカタログで、50年代の「701 VINTAGE」をアイコンにしました。ハイウエストの、ヒップラインを美しく包むシルエットで、シンプルなトップスをインにした時に決まりやすく、女性らしさが表現しやすいデニムです。お客様のあいだで、「6(ROKU)」が提案するハイウエストデニムが徐々に認知されてきて、「『6(ROKU)』がすすめるデニムをもっと知りたい」という声も増えました。なので、本澤さんが手がける701型の復刻版をぜひ入れたくて、「timemachine®」でもお願いしました。10代のころに購入してからずっとクローゼットにしまってあった、私物の「Levi’s® 701」をベースにしていただいています。
本澤:「Levi’s® 701」は「リーバイス」初の女性用デニムで、マリリン・モンローが好んで履いたことで有名になったモデルだけど、まさか自分が701をやるとは思わなかったな。今は、701ばかりか、「Levi’s® 501®」を知らない人がほとんどですしね。それが現実です。だから「timemachine®」は超上級者向けということ。
——「timemachine®」は何型あるんですか?
吉田:ハイウエストシルエットをはじめ、ハイウエストのスリムシルエット「606 VINTAGE」と、フレアシルエットで8分丈の「646 VINTAGE」でボトムは3型。それに、G-JACKETが2型あって、全部で5型です。
——昨年の10月中旬にスタートしてから、完売→再入荷を繰り返している状況とか?
吉田:本澤さんの熱量もスゴイですからね(笑)。
本澤:整理加工を一切していない未加工の生織デニムを縫い上げて、あえて脇のねじれを出してヴィンテージの雰囲気を出しているんですが、普通の工場じゃ絶対できないテクニックが求められるので、元リーバイス・ジャパンの指定工場にお願いしています。職人のみなさんも、こだわりは一流。ペンキをつけたり、細かな傷をつけたり…。果てしない作業をぜんぶ手作業でやっているんですよ。通常のデニムより手間が3倍かかるので、一度に量産ができないんです。
吉田:本当に奥深いですよね。「timemachine®」は店頭に入るとすぐ出てしまうほど大人気で、うれしい悲鳴です。
本澤:日本に集まる古着は、世界的に見て、質も量もいちばん。それに僕は日本のブランドがいちばんだと思っている。「6(ROKU)」も「timemachine®」も、古着のよさとメイド・イン・ジャパンの素晴らしさを知っている吉田さんの、最上級のこだわりが詰まっていますから。
INFORMATION
www.beautyandyouth.jp/6/
PROFILE
吉田恵理子
1995年入社。ユナイテッドアローズ 原宿本店や有楽町店などで販売スタッフを経て、1999年より商品部へ異動。バイヤー、MDを経験したのち、ビューティ&ユース ユナイテッドアローズの立ち上げに携わる。その後、二度の出産を経て、現在は育児と仕事を両立させながら、「6(ROKU)」のディレクターを務める。
本澤裕治
エドウイン・リーバイス ジャパンの2大デニムメーカーで、それぞれ「エドウイン503」の立ち上げ、「リーバイス501®」のモデルチェンジを担当。日本のジーンズ史を語る上でなくてはならない存在。2005年独立。2009年に自身初のオリジナルブランド「RED CARD®(レッドカード)」をスタート。企業やブランドのデニムのコンサルティングや、プロデュースにも数多く携わる。