ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

ヒト

2022.03.24 THU.

「ユナイテッドアローズ」が考える、従業員価値の創造。

この変化の早い時代に、従業員の価値をいかに創造し、高めていくのか。そのために会社はどのような取り組みを行っているのでしょうか。その根底にある想いや今後の会社と従業員の関係性やあり方について、人事部長の山崎 万里子さんに語ってもらいました。

Photo:Kousuke Matsuki
Text:Noriko Ohba

従業員のスキルや価値が高まれば、お客さまの価値創造に繋がる。

─今日は従業員価値の創造について聞きたいのですが、その前にユナイテッドアローズ社では5つの価値創造を社会との約束として掲げていますね。

ユナイテッドアローズ社は、「お客様」「従業員」「取引先様」「社会」「株主様」という5つの異なる立場の方に支えられています。その5つそれぞれのステークホルダーへの価値(「お客様価値」「従業員価値」「取引先様価値」「社会価値」「株主様価値」)を創造し高めていくことを宣言しています。

わたしたち人事もそのためにさまざまな施策を打つわけですが、大切にしているのは、5つの価値をトレードオフしないということです。

─トレードオフしない、というのは具体的にどういうことですか?

例えば、「利益を上げるために従業員の人件費を削らない」「株主様からの評価を上げるために取引先様に不利益を強いらない」など、一見当たり前のことなのですが、ビジネスの世界ではよくこの置き換えが起こってしまいがちなので注意が必要です。5つの価値創造の中でもっとも重要なのは、「お客様価値」の創造ですが、例えそのためであっても、他の価値を壊さないこと、下げないことはとても大事です。

─5つの価値のどこかを上げるために、どこかを犠牲にしない、ということですね。

逆に言えば、ほかの価値を毀損するならば従業員価値を上げるためだけの施策も行いません。そうではなくて、その施策を行うことで、お客さまが喜んで下さったり、会社や社会の価値が上がったりとほかの価値創造にも繋がるような上げ方でなければ意味がありません。

ですから、わたしたちは従業員価値向上に向けてなにかを提供しようと考えたときに、それが従業員価値向上の先、どこに繋がっていくのか、社会やお客さまにとってどんな価値創造ができるのかといったことは、とても意識していますね。

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─相互的に高まっていくということですね。

例えば、販売員に対してデジタル教育プログラムを充実させたとして、メンバーがECやSNSの知識を高められれば、お客さまがお買い物しやすくなったり、お買い物がより楽しくなるという、お客さまの価値創造に繋がります。個人のスキルが上がることと同様、お客さまにもいい影響があるという結果の部分がとても大事なのです。

そして個人の価値が高まるということは、人材としての市場価値にも繋がりますよね。いまの時代、部門、会社に極端に人材を抱えこまず、個人のスキルアップの結果、社会全体の人材基盤を強くすることにも繋がればと考えています。

─それがユナイテッドアローズ社が考える従業員価値創造なのですね。

はい。ですからスキルを上げるというひとつをとっても、社内だけで通用するものでは意味がないんですよね。どこの会社に行っても、社会全体で通用するスキルだからこそ、その人の価値が高まるのです。だからこそ従業員も社内だけでなく、外の世界にも大いにアンテナを張って、「社会でいま必要なこと」や「いまの時代になにが起きているか」に敏感になる必要があります。わたしたち人事も、この時代に合った従業員価値の創造ができる機会をたくさん作りたいと思っています。

願わくば、従業員価値が高まり、「ユナイテッドアローズで働いていた」ということが、社会でのお墨付きになれば嬉しいですね。そんな従業員の価値創造を目指しています。

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コロナ禍、従業員からのメッセージで見えたこと。

─従業員と会社の関係は、時代とともに変化していると感じますか?

すごく変わってきていると思います。特にコロナ禍以降ですね。2年前、初めての緊急事態宣言が出たとき、販売員はお店が休業している間リモート作業ができず、会社との接点が途切れてしまうという状況になったんです。

─それは不安だったでしょうね。

そう思います。わたしたちは毎年、秋に従業員の意識調査を行っていて、給与や自身の健康について、福利厚生や上司のマネージメントはどうかといった質問にアンケートで答えてもらっています。これが90%近いすごい回答率なんですよ。

─任意でアンケート回答率90%はすごいですね。

アンケートには、自由になんでも書いていいコメント欄があるのですが、わたしは毎年必ずすべてのコメントに目を通すようにしています、ざっと1000通ほどでしょうか。この年は、おそらく個人が抱える不安で埋め尽くされていると予想していたんですね。

─コメントにはどんなことが書いてあったんですか?

もちろん、不安を訴える声もたくさんありました。ですが、驚いたのはそれと同じくらい、いやもしかしたらそれ以上に、「会社の現状についてもっと詳しく教えて欲しい、お客さまや会社に対して自分がなにができるか考えたい」という声でした。

自分のことだけでも精一杯のときに人のために自分がなにができるかを考えたいというのは、なんて利他の精神があるんだろうと思いました。物事に対して俯瞰した視点を持っていると感じましたし、わたしもそれに対して真摯に向き合わなくてはいけないなと。「会社は大丈夫ですよ、頑張りましょう!」だけではダメだと思ったんです。

そこで会社のマイナス面もプラス面も含めて詳細な情報を開示しました。これは会社と従業員の関係性が変化したと感じる大きな出来事でした。


会社側から従業員へ。感謝の気持ちを伝える取り組み。

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10年目の社員に送られるお手紙。

─最近では、5年、10年、25年と勤めた従業員に会社から感謝を表す取り組みもはじまりましたね。

はい。それはまさに先ほどのアンケートの例もそうですが、従業員の会社への姿勢から生まれたものです。弊社の従業員は退職するときに、退職届とともに一筆箋を添えるようなところがあります。
そこには「ユナイテッドアローズ社のメンバーになれたことを誇りに思います」などの言葉が書いてあります。ほかにも例えばメールでの質疑を終えた後にも文末に「お時間をいただきありがとうございました」とお礼が書いてあったりと、従業員はお礼の気持ちをその時々で伝えてくれます。先ほども言いましたが、お客さまや会社のためになにかしたいという利他の精神に溢れた人が多いのだと思います。

会社は、目標を達成したり、お客さまから感謝された従業員に対して評価するということはこれまでにもしてきましたし、お客さまに対しては常に「ありがとうございます」とお伝えしています。ですが、従業員がこうしてお客さまだけでなく、会社に対してもお礼を言ってくれるのならば、会社も常に目標や方針だけを発表するのではなく、従業員にお礼をいうことを忘れてはならないと思ったんです。

─それでこのような取り組みがはじまったのですね。

はい。長い販売員の経験を持つ現在の社長からも社員への感謝をきちんと伝えたいという想いもあり実現しました。5年目には社長からメールが届き、10年目には直筆で宛先の名前を入れたお手紙を送ります。そして25年目には、表彰状とともに、記念品を渡していますが、2022年はこれまでの会社の歴史がファッションページとして編集された『Rizzoli(リッツォーリ)』国内版の写真集を名前入りのカバー付きで届けました。

この不安な時代に会社が強いビジョンを示して、従業員に共感して動いてもらうことも大事ですが、同じくらい感謝の気持ちを伝えることも大事にしていきたいと思っています。

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多様な文化、就労感が混じり合っていく未来。

─今回は5年、10年、25年と勤めた人への表彰ですが、転職が当たり前の時代に長く会社に勤めることをどう思いますか?

わたし自身今年で入社28年目ですが、これまで一度も長く勤めよう、と思ったことはないんです。会社にいることが大事なのではなくて、そこにやりがいや使命感を感じる仕事があるから、結果として勤め続けているというごくシンプルなことです。

ですから、長く会社にいることが第一目的ではなく、会社にいることで望む仕事ができ、成長できる環境があって、望む働き方ができるならいて欲しいですし、長く勤めてくれたことに対して感謝の気持ちを示したいと思っています。
人事としても、従業員がここで働きたいと思えるような機会を作り、みなさんがやりがいを感じて働けることを考えて、いろいろな提案をしていきたいですし、していかなくてはいけないと感じています。やりがいや成長を感じ、その結果長く勤めることになれば、とても嬉しく思います。

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勤続25年の従業員に送られる表彰状。

─例えばそれはどのような提案でしょうか?
新しい仕事へのチャレンジと学びの機会です。このふたつは会社との信頼関係を築く上でとても重要な要素です。つまり、これらを欲しているメンバーが多いということです。人事としてもそこは積極的に提供したいと考えています。

─学びの機会とはどういうことでしょうか?
学びの機会とは、将来のための筋トレのようなものですね。いまやっている仕事と直接的には関係なくても将来役に立つことを学ぶことです。最近、デジタルマーケティングの勉強がしたいという声やサステナビリティについてきちんと知りたいという声が多くありますが、学んだからと言ってその後すぐにその部署にいけるとは限りません。

キャリアは螺旋階段のようにスパイラル状になっていると、わたしは思っています。いきたい場所にたどり着くには、直接は関係ない通り道を歩くことも大事です。それが意外にもその人の強みになるので、会社側もその人の将来の道が広がるようなさまざまな学びの機会を提供できたらと思っています。

─最後に、山崎さんが今後やってみたいことを教えてください。

弊社の従業員は、会社の経営理念やビジョンに対して従業員の共感が高いと常々思います。従業員それぞれの会社への参加意識がはっきりとあるんですよね。それは素晴らしい文化ですし今後も続いて欲しいと思います。

その一方で、これからの時代は従業員に対して常にフルコミットすることだけを求めていては会社全体も縮こまってしまうと思うんです。最近では、前職に長くいたという転職組や、社員で副業をはじめた人、逆に弊社が副業だという人などいろいろな働き方が増えてきました。さまざまなタイプの従業員といろいろな文化や就労感が混じり合っていくといいなと思います。そうやって時代の流れを肌で感じることで、従業員それぞれのものの見方が変わったり価値観が広がることが、さらなる従業員の価値創造に繋がるのだと思っています。

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PROFILE

山崎 万里子

人事部長
1993年の大学時代にユナイテッドアローズに学生アルバイトとして入社。販売促進部、広告宣伝部を経て、2005年広告宣伝統括担当へ。2010年に執行役員就任、経営企画室長、その後、経営企画部部長、ユナイテッドアローズ本部副本部長兼事業戦略部部長などを経て現職。

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