
ヒト
2017.07.20 THU.
販売員の地位向上のため。ファッション小売業が集結したSSAとは?
(株)ユナイテッドアローズや(株)ビームスなど、専門小売業数社がメンバーとなり、年に2回の勉強会と、年末にチャリティイベントを行う「スペシャリティ・ストアーズ・アソシエーション」(以下SSA)。今回は、SSAの勉強会の様子をレポートします。集まったのは、メンバー企業の“販売スタッフ”の方々。今、多くの方が悩み、課題としている「人の育て方」について、学びます。
Photo:Takahiro Michinaka
Text:Noriko Ohba
登壇者はユニフォームで登場! 今、だれもが知りたいテーマを熱く語る。
SSAが発足されたのは1992年、今から25年も前のことです。その目的は、販売スタッフの“スキル”や“知識”、“マインド”を高め、販売員の地位を向上させること。年2回の勉強会には、メンバー会社の販売スタッフが全国から集まります。毎年6月と9月に行われる年に2回の勉強会のうち、6月の回はSSAのメンバー企業から、1社が登壇。過去には「正しい採寸」や「素材の知識」「私が体感してきた顧客満足」など、各社での取り組みや考え方、また成功事例について発表が行われます。
9月の回では、社外の、しかも異業種の方からの学びの機会が。過去には、客室乗務員訓練士から航空会社のサービスを学んだり、実際に高級レストランに行きレストランサービスを学ぶ回があったり、字幕翻訳家に講義いただくなど、さまざまな角度から「サービスとは」「お客様に楽しんでいただくには」「仕事をもっと好きになるには」など、販売員スタッフだけでなくとも聞いてみたい、各業界のプロフェッショナルたちに講演頂きました。
このように、さまざまな立場や視点から語られる貴重な機会ですが、参加できる販売員は1社につき6名のみ。㈱ユナイテッドアローズでは、この少ない枠に全国から「参加したい!」販売員が手を挙げ、抽選で決定。SSAで得たことは、それぞれが店舗に持ち帰り、スタッフにフィードバックすることも重要な役目です。フィードバックにより会はその場だけでなく全国のスタッフに少しずつ伝播していくのです。
さて、今年も行われた6月のSSAの勉強会。会場は、六本木にある「国際文化会館」でした。近代庭園の傑作とも言われるほどの美しさを誇る庭園を望みながら、勉強会。こんな気持ちのいい空間で学びが得られることもSSAの魅力です。会は、SSAの代表役員7名の挨拶からスタートしました。
「会社が構築した仕組みや考えなど、普通なら手に入らない貴重な情報が公開されるこの勉強会は、きっとたくさんの学びがあると思います。参加できなかったスタッフのためにも、いい情報をたくさん持ち帰ってください」などの言葉に、参加者の気持ちも引き締まります。挨拶後は「起立、礼、着席!」のかけ声とともに、本日講演する㈱ユナイテッドアローズ、人事部の五十嵐保行氏が登場。
…登場するや参加者の顔が笑顔に。「おはようございます。今、なんでユニフォーム?!って思いました?(笑)。この服で少しみなさんの気持ちがほぐれたらいいかなと思ったことと、私自身の野球好きという自己紹介もかねて着てきました」と五十嵐氏。作戦は大成功。最初のひと笑いで緊張がほぐれ全体に一体感が生まれていい雰囲気に。さっそく今回のテーマ「店頭でヒトが育つ仕組みを作る」についての話が始まります。
ひとテーブルに6名ずつ座っている販売スタッフは、実は全員“はじめまして”。あえて違う企業のスタッフ同士をグループにして、他社のスタッフの考えを活発に交わし、刺激を受けることもSSAの狙いです。まずはテーブルごとに自己紹介タイム。「今日は札幌から来ました。ちょうど今の私の課題だった後輩の教育について、視野を広げて帰りたいです」など、名前や会社名だけでなく、この会で何を学びにきたか、など語られています。
自社の情報や取り組みを徹底して公開するのがSSAの精神。
最初のトピックスは今回の鍵となるユナイテッドアローズのES(E=エデュケーター、S=スチューデント)制度。ES制度とは何かについて、詳しく説明が行われます。ES制度とは、教える人(エデュケーター)と教えてもらう人(スチューデント)がふたり一組でタッグを組んで仕事を行う制度のこと。エデュケーターとなる人が、スチューデントの成長を導き、同時にエデュケーターとスチューデントが共に成長していくこの制度は長らく続いてきましたが、2017年度、改めて徹底していこうと、現在さまざまな取り組みを行っています。
五十嵐氏からは、スチューデントの目標を共有し、彼らを導きながら共に成長し、結果的に店舗の大きな成長につながること、エデュケーターの接し方次第でスチューデントの成長度合いは変わること、そして、ES制度の最終着地点は、“創造的商人を生み出す風土をつくること”だと語られます。
ときに冗談を交えながらリズムよく話す五十嵐氏の言葉に引き込まれ、参加者も皆真剣にメモを取っています。「ゴールにある創造的商人とは、大切な要素が3つあり、まずはCSマインドと商売マインド、クリエイティビティマインドを併せ持っている人。次に、ひとつの専門性を持ちつつも、幅広い分野に精通している人。例えば、接客もしながら、売り場づくりにもできて、さらには教育もできる人ですね。最後は、自分で計画を立て、行動し修正しながら結果に結びつけられる人のこと。店のなかに創造的商人がたくさんいれば、店舗の生産性はあがりますよね」との言葉に深くうなずく参加者たち。
なるほど!そうだったんだ! 講演は金言の嵐。
続いて、接客と教育にはたくさんの類似点があることを解説。「接客において、自分の提案を聞いていただくには、まずはお客様が求めていることや困っていることを見極めること、そのためにお客様の観察が重要なことは皆さんご存知の通り。ウォッチング、声がけ、ヒアリング、提案。この流れは、教育も一緒です。ですから、接客に携わるみなさんは本来教育も得意なはずなんです。よく観察することが教育の第一歩。新人だとひとくくりにしたり、駒だという目で見た瞬間、彼らは心を閉ざしてしまうことを覚えておいてください」。
ワンパターンになりがちな教育を、販売スタッフだからこそよくわかる“接客の極意”を活用して、後輩を育てようと呼びかける五十嵐氏。その後も信頼関係の築き方、いいコミュニケーションについて、心理学者の言葉なども引用しながら説明していきます。
会場全体の雰囲気も和んできたころ、「みなさん、最近いつ褒められましたか?」との質問。続いてのテーマは、悩んでいる人も多い「褒め方、叱り方」です。ピラミッド型の図を見ながら、事実だけを褒めるよりもその人の行動→能力→価値観→アイデンティティと、矢印の順に心への響き方が深まること、よりパーソナルなことを褒める方が相手は嬉しいんですとの解説。一方、叱り方の矢印は逆で、「あなたがダメ」ではなく「あなたの行動が間違っていた」と、フォーカスすべきはその人自身の人格や能力ではなく、取ってしまった行動だと説明。
演習では、後輩役と上司役で隣の人とペアになり、遅刻した後輩を注意する設定で叱り方を学びます。後輩役の遅刻の理由に「シフトを見間違えてしまって…」と言う人が多いのもどこかリアルで、実演にも熱がこもります。
その後も「後輩の行動が変わることが教育」「コミュニケーションは伝えて終わりではなく、伝わって初めて成立するもの」など上司と部下の関係だけでなく、パートナーや友情、子供との関係など、自分のまわりのあらゆる人間関係に当てはまる名言が次々と飛び出します。
最後は、「後輩の教育に必要なスキルは、日々接客しているみなさん販売員は必ずもっています。いちばん大切なのは、情熱。どうか仲間の成長に携われることを楽しんでください。その想いは必ず通じるはずです」と語りかけ、大きな拍手に包まれ講演は終了。今回の話がこれから企業の枠を超えて広まっていくことを考えると、ここに集まった34人の役割の重要さがわかります。
25年目、節目の年のSSAを終えて。
講演を終えて、㈱ユナイテッドアローズ竹田光広社長からは「現場のニーズに基づいたテーマや各企業で抱える共通の課題について、一社、ひとりでは解決できないことも情報を共有して、討議することで解決のヒントが得られることは、SSAを開催する意義だと思っています。今回のテーマ『店頭で人が育つ仕組みづくり』は、各社共通の、もちろんユナイテッドアローズとしても大きな課題です。これを共有し、解決することで、販売員の皆さまがより誇りをもって仕事に取り組むことができたら、それが各社共通の思いでもあり、また、SSAの目的でもある“販売員の地位向上”につながると思っています」
SSAの顧問であり、25年前に会を立ち上げた発起人のひとり、㈱ユナイテッドアローズ重松理名誉会長からは「四半世紀という節目にふさわしい内容の濃い話だったと思います。私は、販売という仕事ほど、お客様に豊かさや幸せを提供できる仕事はないと思っています。お客様と直に接する身近な職業でありながら、最終的には社会のためになっている。そこに誇りをもって、より意識的になることが、販売員の地位向上につながると思っています。その想いで立ち上げた団体がここまで成長したこと、25年間愚直に続けてきて、本当によかったです」との言葉。画期的なアソシエーションが生まれて25年。販売員の地位向上のため、SSAの地道な取り組みは、これからも続いていきます。
左から
㈱アバハウスインターナショナル 代表取締役 社長 真岸 洋一
㈱ビームス 取締役副社長 遠藤 恵司
㈱ビショップ 取締役 会長 北尾 信彦
㈱ユナイテッドアローズ 代表取締役 社長執行役員 竹田 光広
㈱ノーリーズ 取締役 副社長 榎本 正勝
㈱TKアソシエイツ代表取締役 河村 哲雄
㈱ユナイテッドアローズ 名誉会長 重松 理