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「山栄毛織」とのタッグで生まれた、UNITED ARROWSのエクスクルーシブなスーツ

モノ

2024.04.05

「山栄毛織」とのタッグで生まれた、UNITED ARROWSのエクスクルーシブなスーツ

日本の毛織物工業の発祥の地といわれる尾州・津島市の老舗メーカー〈山栄毛織〉に、〈ユナイテッドアローズ〉が生地制作を依頼。幾度の試作を重ね、ついに誕生したエクスクルーシブファブリックによって、時代に左右されない 、いつどこへ着ていっても様になるスペシャルなスーツが実現。その制作秘話を〈山栄毛織〉の社長・山田さまに伺うべく、工場のある愛知県津島市を訪れました。

Photo:Go Tanabe
Text & Edit:Shoko Matsumoto

100年以上にわたり日本の毛織物産業を牽引する〈山栄毛織〉

画像 木曽川の軟水が糸、織物の染色と仕上げに適していると言われる。

イタリア、イギリスと肩を並べ、世界三大毛織物の産地として知られる日本・尾州地域。尾州とひとえにいっても広く、津島市は豊富な水資源である木曽川流域のなかでも、最南端に位置しています。各地域にはそれぞれルーツがあり、津島市は昔から無地もの、紳士物を起源としてきました。明治時代に尽力した尾州毛織物の父と呼ばれた片岡春吉を生んだのも、この地だと言われています。

画像 創業当時から変わらぬ門構え。今後アトリエとしてリニューアル予定。

〈山栄毛織〉は、その津島市で1915年に創業。今年で109年目を迎えます。1950年頃には、ブラックフォーマルという無地の礼服生地などのパイオニアとして開発に携わり、糸の選定や高度な設計力を身につけていきました。2000年頃には、欧米のハイブランドが来社。高品質の生地だというステータスの耳ネームを入れた生地を作りたいと、実際に足を運び、工場を見学したのは、当時初めてのことだと言われています。その頃から無地のウールだけでなく、シルク、リネン、コットンなど多彩な素材を扱うように。2010年頃からはジャージジャケットなど新しい生地の開発にも尽力し、伝統を重んじながらも、トレンドやニーズなど、柔軟に時代に適応。常に上質で高感度な生地を作り続けてきました。

〈山栄毛織〉だから実現できた、日本の気候に合うオリジナル生地

画像 現在ではとても珍しい両口開口低速レピア織機。

ルーツに裏打ちされた確かな技術力。丁寧なモノづくりと細部への妥協なきこだわり。そんな〈山栄毛織〉に、〈ユナイテッドアローズ〉がスペシャル生地の開発を依頼しました。2023SSシーズンから新たにスタートしたスーツの「REGULAR MODEL」。そのモデルの持つコンセプトに相応しい素材を開発するにあたり、〈山栄毛織〉に白羽の矢が立ったのです。
6万mほどもある糸を、織りやすいように小分けにする。 6万mほどもある糸を、織りやすいように小分けにする。
テンションを揃えるため、経糸を整える。整経という工程。 テンションを揃えるため、経糸を整える。整経という工程。

画像 織機に不備がないか職人がひと目ずつチェックする。

「〈ユナイテッドアローズ〉から、夏が長く、短い暖冬という今の気候に合った快適性や、嵩高性も併せ持った素材、いわゆるポーラ素材のリクエストがありました。そこで僕らから提案させていただいたのは、番手の違う太い糸と細い糸を壁撚りにすること。ポーラは本来、強撚糸を使用した目の粗い多孔性の平織織物で、通気性の良さから夏用の素材として取り上げる事が多い素材。ですがリクエストのあった3シーズン、もしくは4シーズンに対応する素材にするためには、目付を含めた素材感が重要だと感じたんです。糸を撚り合わせるという作業が加わるので、結構手間ではあるですが、通気性の良さは保ったまま、重くなりすぎない。同じ番手だけで作るより、ハードっぽく見えてもなめらかさもあるような絶妙な生地感に仕上がりましたね」

画像 〈山栄毛織〉四代目社長の山田和弘さん。


歴史と技術に基づいて、これまでにない理想の生地を作る

二種類を組み合わせたら何番手くらいの太さになるのか、適正な番手を計算する糸番手設計や、どれくらいが今の日本に一番合っているのか、ウエイト感、目付をどれくらいの設定にすればよいのかなど、完成までにはたくさんの苦労がありました。

画像 じっくりと時間をかけ経糸と緯糸がゆっくりと深く打ち込まれることで、空気を含んだようなふくらみのある風合いに仕上がる。

画像 保管されている90年ほど前の設計書。現在の礎になっている。

「夏は蒸し暑さが続き、冬が非常に短かい。そういったことを考えたなかで、一番長く快適に着られるような生地にするための、ウエイト感、目付感を模索していくことは苦労しましたね。あとはストレッチ性を加えること。織物で、特にウールというのは天然繊維のなかでも一番動きがあるので、そこの制御、安定性は非常に難しいんです。UAさんが求めるストレッチ性を叶えながら、収縮、動きを止めてあげる…たとえばクリーニングしてめちゃくちゃ縮んでしまったというようなことを防ぐというか。収縮を安定させつつ、ストレッチ性を生むということも苦労しましたね。でもそれらを克服した結果、なめらかさ、ハードさ、上品さ、男らしさ、快適さ、堅牢さ。すべてを兼ね備えた生地ができたと思っています。この生地には、見た目の良さと着心地が両立できる器用さがあると思いますよ」

現代社会に適応するエクスクルーシブなスーツ

ポーラ本来が持つ多孔性で適度な通気性、素材の表面感、さらっとした手触り。さらにストレッチ性を持たせた快適さを備えた、3シーズン、もしくは4シーズン対応できるスペシャルな素材。〈山栄毛織〉によるエクスクルーシブファブリックによって、時代性に左右される事なく (TIMELESS)、また何処に着ていっても恥ずかしくない(SOCIAL)、を兼ね備えた〈ユナイテッドアローズ〉のスーツ「UA REGULAR MODEL」が完成しました。
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24SSシーズンの新作スーツは、バースアイ生地を採用。 24SSシーズンの新作スーツは、バースアイ生地を採用。
エクスクルーシブのアイテムにはゴールドのネームタグがつく。 エクスクルーシブのアイテムにはゴールドのネームタグがつく。
こちらはバースアイ生地を使用した24SSシーズンの新作スーツ。〈山栄毛織〉の特徴でもある低速織機を用いて、ゆっくりと丁寧に織り上げることで原料がもつ膨らみのある柔らかな生地感を実現。また、ポーラ生地と同様に天然素材100%でありながら、ストレッチを実現した特別な生地です。

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「お客さまといろいろ話して、それが実現していったり、回数を重ねてうまくいったり精度が上がっていくことが楽しい。国内外から望まれる生地が変わってきてもいて、あらためて生地づくりのおもしろさを感じているんです。またうちの生地を世界に広めていきたいと、20代の若い世代の子達が入社を希望してくれている。その子達が安心して働ける土台をもっとしっかり作っていきたいし、それができる環境に〈山栄毛織〉はあると思うんです」という山田さん。今の時代を柔軟に捉え、求められるものに答えながら、また、これからの時代に向けた若手の育成にも積極的に取り組んでいる。日本の毛織物産業は〈山栄毛織〉を筆頭に、まだまだ可能性を秘めています。

PROFILE

山栄毛織株式会社

山栄毛織株式会社

「受け継がれる、織物の無限と感動。」をコンセプトに、脈々と受け継がれてきた織物技術を継承し、100年以上にわたり日本の毛織物産業を牽引。高感度で高品質な生地を織り続ける。
http://yamaeikeori.jp/

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