
モノ
2025.05.29
ミリ単位の美しさにこだわった、辺見えみりさんが手がける「conte」と「blurhmsROOTSTOCK」のTシャツ。
ジャンルの枠にとらわれず、着る人の感性に寄り添うものづくりで支持を集める〈conte(コンテ)〉と〈blurhmsROOTSTOCK(ブラームス ルーツストック)〉。一見異なるようでいて、根っこに流れる美意識には、どこか通じ合うものがあります。今回対談するのは、〈conte〉のディレクションを手がける辺見えみりさんと、〈blurhmsROOTSTOCK〉のデザイナー・村上圭吾さん。第二弾となる別注アイテムを軸に、服づくりの哲学、色へのこだわり、そしてこれからのものづくりまで。静かに、でも確かに響き合う、2人の視点と言葉で両ブランドを紐解きます。
Photo:Yuco Nakamura
Hair & Make:Miho Matsuda
Text :Shun Koda
女性ならではのエッセンスを加えたカジュアル服。
辺見:私が〈blurhmsROOTSTOCK〉のお洋服を買っていて、ファンだったんです。でも、どんな方がデザインしているのかまでは知らなくて。それで〈conte〉が立ち上がって、仕入れをするタイミングに、「あっ!」 と思いだし、それでお声がけしました。最初から別注を組みたいとご相談させていただきました。
辺見:首元のバインダーの幅を少し細めにしていただいてます。ベースのデザインが素晴らしいので、そこは崩しすぎず、でもほんの少し女性らしさを加えたいと思っていたので、「まさにこれ」っていう仕上がりです。些細な違いかもしれないですが、グッと女性らしさが上がりました。
村上:あとは袖口ですね。もともと袖口はTシャツのように縫製しているんですが、ヴィンテージのように断ち切った感じに仕上げています。
袖口をロックミシンで仕上げ、ヴィンテージライクな表情に。折り返した袖先の間に生地を挟み込んでいるため、強度があり、伸びづらい仕様になっている。
辺見:〈blurhmsROOTSTOCK〉のスウェット生地を使いながら、ロゴも作っていただきました。数パターンのロゴを考えていただいた中から選んだのですが、元々はロゴが2つ重なっているデザインだったんです。だけど、自分が着たら、若すぎるかもと思ったので、スウェットはロゴを1つだけにしていただきました。ロゴが重なっているものは、Tシャツにプリントしています。
オーセンティックなライトグレーと、インラインにはないヴィンテージライクなスミクロで制作。ふわっとした柔らかな風合いに仕上がっている。
辺見:そうなんですよ。「この位置だとストリートっぽいかもしれないです」って言われたんですけど、この抜け感のある絶妙なバランスが好きでこれにしていただきました。
細部にまでこだわりが詰まった、別注第二弾。
フロントに〈conte〉のロゴ、バッグにコンセプトをプリントした一着。白とスミクロで、プリントの仕様に変化を付け、スミクロは長年着古したようなかすれた風合いに。
辺見:これも〈blurhmsROOTSTOCK〉のボディを使いながら、オリジナルのプリントを落とし込んでもらってます。胸より少し下にずらしてロゴを入れてるのが、個人的に気に入っているポイント。フロントはあえて控えめに、バックは〈conte〉のコンセプトを大きくあしらっていて、そのバランスがすごく可愛いんです。白と黒でまったく雰囲気が違うので、両色欲しいなと思っています。
ー肌触りも滑らかで気持ちいいですね。
辺見:薄すぎず、重すぎない絶妙な厚みで心地いい生地感が、とても気に入っています。一枚で着てもサマになりますし、アウターにも響かない。女性としてはこのくらいの厚さが一番着やすいと思います。この生地の特徴を教えてください。
辺見:そうすると、どうなるんですか?
村上:ハイゲージとローゲージのニットをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれないです。端的に言うと、ローゲージにかけるような糸を無理やりハイゲージの編み機にかけて編む感覚です。そうすることで、隙間が詰まって密度が高まるんです。度詰めとはまた違って、生地は詰まっているけど、厚みが軽減されるんです。
村上:そんな感じかもしれないですね。そうやって、少し無理させた生地を何回か洗って、乾燥機に入れるとまた目が詰まるんです。最初から目が詰まりすぎていると、どんどん生地が重くなる。なので、これは柔らかさと厚みのバランスを取って作ってます。
辺見:へぇー、勉強になります。普段ここまで聞く機会がないので、面白いですね。
ー実際に触って、試着してみるとはっきりと違いが分かりそうですよね。
辺見:ここまでこだわって作られたTシャツだって、知らない人も多いと思います。すごくストイックですね。
辺見:そうだったんですね! もうミリ単位の世界ですね。そのおかげで可愛いものが出来上がりました。
1センチでもウエストを細く見せるために。
辺見:ウィメンズに関してですけど、〈conte〉は女性らしいデザインの中にワークなど、メンズのディテールを取り入れたりするので、そこは近しいのかなと思っています。
村上:そういうアプローチの仕方は共通しているかもしれないですね。〈conte〉も、かなり細かいところまでこだわってますよね。ダブルフェイスのコートなんですが、かなりテクニカルな縫製をしているんです。それを実現できる工場自体が少なくて。やりたくても、ここまで仕上げられるブランドはなかなかないと思います。相当、研究されてるんだろうなと感じました。
辺見:細かいところまで見ていただけて嬉しいですね。もちろん、私だけで作ってるわけではなくて、チームの協力があってこそ。メンバーそれぞれがマニアックなこだわりを持っていて、全員が納得できるところまで持っていこうと思ってます。とはいえ、マニアックになりすぎず、ちゃんと受け入れてもらえるギリギリのラインまで辿り着けたらいいなと。
辺見:そうですね。でもディレクターなんて、かっこいいもんじゃなくて、私は1人のお客さんみたいな立ち位置。この値段だったら買いたい、着たいと思えるラインを伝えている感じですね。実際、一番〈conte〉を買ってると思いますし(笑)。だから、お客さま目線は失わずに〈コンテ〉を作れたらなと思っています。でもモノづくりは、本当に難しいですよね。
ー別注を経て、新しい発見はありましたか?
辺見:私は毎回が新しい発見の連続、勉強させていただいています。
村上:辺見さんが「1センチでもウエストが細く見えたら嬉しい」みたいなことをおっしゃっていて、自分の中ではそれがすごく新鮮でした。正直、これまであまり意識したことがなかったんですよ。「あ、女性はそんなふうに感じているんだ」とハッとさせられました。すごく大事なことだなと、新しい発見でしたね。
辺見:いろんな方が着るものじゃないですか。もちろん、何を着ても似合う体だったら理想的ですけど、みんなそれぞれ違う顔や体を持って生まれていて、誰にでも完璧にフィットする服なんて、正直作れない。でもその中で、自分に少し自信が持てるような服は届けたいと思っているんです。“洒落てるけど、肩肘張らずに着られる”、それが〈conte〉のテーマでもあるので、そのバランスはいつも大切にしているかもしれません。
それぞれのこだわりが詰まったショップ作り。
村上:正直、お店作りはもうしたくないです(笑)。
辺見:大変ですよね。服作りとはまた違った難しさがありますよね。
村上:服づくりと違って、店舗はサンプルをつくって試すというわけにはいかないので、ある意味、一発勝負。だからこそ、本当に悩みました。でも、いざ完成してみたら、「あの苦労も無駄じゃなかったな」と心から思えたんです。時間がかかった分、思い入れも深くなりました。
辺見:その苦労が垣間見えるくらい素敵なお店です。
オリジナルのランプシェードは、町工場でイチから作り上げたもの。素地のメッキがされていない鉄を使用しているので時間の経過とともに深く濃い色合いに育っていく。
辺見:コンセプト自体はこれまでと変わらないんですが、今回は東京駅が見えるという特別な立地なんです。こんなに恵まれたロケーションでお店を出せる機会って、そうそうないと思って。ふと、“旅”をテーマにしたお店って、昔は多かったけれど、最近はあまり見かけないなと感じたんです。ようやくまた自由に旅行が楽しめるようになった今だからこそ、今の感覚で“旅”を軸にしたショップをつくるのも面白いんじゃないかと思って、今回の丸の内店はホテルのラウンジのような空気感に仕上げています。
ー他の店舗によく行かれている方もまた新鮮な気分で楽しめそうですね。
辺見:そうですね、気軽に遊びに来てもらいたいです。
ースウェットやTシャツなどを別注で作られていましたが、今後作りたいアイテムはありますか?
村上:その辺を作ってみるとまた新鮮なアイテムが出来上がりそうですね。
辺見:毎回〈blurhmsROOTSTOCK〉との別注は好評なので、まだリリースしていないアイテムも早く見ていただきたいです。今日はありがとうございました。
INFORMATION
PROFILE
辺見えみり
1993年に女優としてドラマデビュー。その後、数々のバラエティー番組、舞台に出演。2013年にアパレルブランドを立ち上げ2018年までコンセプターを務める。現在は自身が代表を務める化粧品ブランド「mizuka」とともに、2024年から今を生きる大人の女性のための服を提案するブランド〈conte(コンテ)〉をスタート。
村上圭吾
〈blurhms〉、〈blurhmsROOTSTOCK〉デザイナー。工場、生地、販売、生産など一通り経験し、ミリタリーやヴィンテージなどの古着の要素を深く掘り下げた上で、着心地の良さや着用時のバランスを大事にした服を提案している。ブランド名の由来は考え抜くことで良い物事が造られることを意味している。