ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

ユナイテッドアローズが立命館大学とコラボレーション。 学生たちと取り組む、残反を使ったものづくりとは。

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2025.10.20

ユナイテッドアローズが立命館大学とコラボレーション。 学生たちと取り組む、残反を使ったものづくりとは。

ユナイテッドアローズ(以下、UA)は、創立125周年を迎えた立命館学園の記念グッズをプロデュースしました。これは伝統を受け継ぎながら変革を続ける学園の姿に共鳴し、未来を担う学生をファッションの側面から応援したいという思いから実現したものです。この取り組みを機に立ち上がったのが、立命館大学の学生と共創するものづくりプロジェクト。それもUA社の残反を使うというサステナブルファッションの試みです。このプロジェクトを主導したコーポレートビジネス部の鈴木 脩さんと土屋 晶寛さんに、その詳細を語ってもらいました。

Photo:Yuco Nakamura
Text:Maho Honjo

学生と共創することで生まれる、豊かなケミストリー。

−−まず、立命館学園とコラボレーションすることになったきっかけを教えてください。

鈴木「以前、『田中学園立命館慶祥小学校』の制服を〈ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング〉が担当したことがありました。そのつながりがあって『立命館学園が創立125周年を迎えるのですが…』とお声かけいただいたのがきっかけです。まず制作したのが『立命館創立125周年記念グッズ』のTシャツ、ハンドタオル、ソックスの3種。いずれも2030年を見据えた学園ビジョン“R2030”のタグラインロゴ『Futurize.』をデザインアイコンに据えて、学園の目指す未来像をファッションで表現しました」

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土屋「続いて手がけたのが『立命館大学オリジナルグッズ』です。UAが同大学で架空の店舗『BOOKSTORE』を展開するという設定で、そのロゴが入ったTシャツ、トートバッグ、ポーチ、ソックス、マグカップ、ハンドタオルなどをつくりました。すべて立命館大学各キャンパスの生協ショップ、オンラインショップで販売しています」

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−−今回は新たに「学生さんと共創してものづくりを行う」と聞き、すごく驚きました。

土屋「せっかく大学と組むのならば、学校の主役である学生さんたちも巻き込んで、一緒にものづくりができればいいなと思ったんです。世代が違う、生活環境も違うもの同士が組んだならば、どんな化学反応が起こるのか。お互いにいい刺激がもらえるのではないかなと考えました」

鈴木「UAがお客さまとともに年齢を重ねている今、若い世代が何を感じ、何を考えているのかを知りたいと思ったのもあります。同じものづくりの立場に立つことで、新鮮な気づきが得られるのではないかなと思いました」

このプロジェクトにUAの残反を使う理由。

画像 コーポレートビジネス部 鈴木 脩さん

−−学生と共創するものづくりに、UAの残反を利用したというのも画期的です。

土屋「昨今、アパレル業界の過剰生産や廃棄、またその解決の取り組みが伝えられたりしますが、学生さんがそれらを身近に感じることは少ないと思うんです。今回はその現実を見てもらうことで、より深く考えられたらいいなと考えて『残反を利用するのはどうか』という提案に至りました」

鈴木「これが企業同士ではなく、学生さんとの共創だからこそ、残反を使うことに意味があると思いました。ものづくりのステップだけでなく、その背景まで考える学びの場にもなったらいいなと考えたのです」

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−−これは共創でありながら、教育の側面もあるということですね。

鈴木「『服育』という言葉がありますが、今回は装うことだけでなく、服を取り巻く環境そのものを共有したいという思いがありました。ファッションと社会課題というテーマでゼミができたらいいね、などと話が膨らんでいったのも興味深いことでしたね。今回の学生メンバーは当事者意識も高く、真正面から取り組んでくれたので、私自身勉強になることがたくさんありました」

土屋「参加メンバーのなかに生協ショップのスタッフをやっている学生さんがいたので、UAのVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)担当者に効果的な陳列を相談するなど、売り場のプレゼンテーションに関しての意見交換ができたのも印象的でした。『何をつくるか』だけでなく、「どのようにして売るか」を学生にも感じてもらいたかったので、企画だけにとどまらずVMDまで取り組みました。とても有意義なプロジェクトになりました」

残反を見て「何をつくりたいか」を話し合うことからスタート。

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−−では、今回完成したアイテムについて、教えてください。バッグ、バケットハット、そしてブックカバー。どうやってこの3点に絞られたのでしょうか。

土屋「学生さんが主体となるプロジェクトなので、UA側からアイテムを提案するのではなく、いろんな残反を持参して、それらを見ながら『何がつくりたいか』をゼロから考える。まずはそこからスタートしました」

鈴木「通常は、つくりたいものが先にあって、そこから生地を調達するのが本来の流れです。ただ今回は残反ありき。生地から始まるものづくりというのは、僕らにとっても新鮮でしたね」

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土屋「この3点以外に、イヤフォンケースやお弁当ケースなど学生さんらしいさまざまなアイテムが候補に挙がりました。なかでも興味深いと感じたのが、サウナハットです。今回伺った衣笠キャンパスのある京都は銭湯がたくさんあって、その文化がしっかりと根づいている街。そのローカルカルチャーをアイテムに落とし込んだらどうかというマーケティング発想が、学生さん自身から出てきたことに驚かされました」

鈴木「そうやってさまざまな話し合いを重ねて、満場一致となったこの3アイテムをピックアップすることになったのです」

−−各アイテムにあしらわれている、遊び心あるロゴも印象的です。

鈴木「実際にキャンパスを訪れてみると、東京や地方からだけでなく、国籍の違う海外留学生さんも多くいることがわかりました。そんな多様性に富んだ環境そのものをロゴに落とし込もうという話になり、ロゴは一文字一文字フォントを変えることにしたのです。本来、ロゴは最終段階で文字と文字の間隔を詰めたり、上下のラインを揃えたりなど、全体バランスを整える作業を行うもの。ですが今回はあえてそれをしませんでした。マルチフォントならではのポップな印象をそのまま残すことにしたのです」

学生さんからは「廃棄物を見直すきっかけになった」という声が。

画像 写真左から、恒松さん、清水さん、平さん。

−−ではここで、今回の共創プロジェクトに携わってくれた学生さんたちのコメントを紹介したいと思います。

「立命館グッズをつくるプロジェクトと聞いて参加を決めました。ファッションに詳しいわけではないのですが、UAのことは知っていたし、アパレル企業と行うサステナブルな取り組みと聞いて、魅力的だと感じたのです。ファッションの制作過程で多くの残反が出てしまうというのは、自分にとって意外なことでした。それらを再利用する環境に優しい取り組みでありながら、オリジナリティあふれる素敵なアイテムに仕上がったのも嬉しいこと。今回の経験をいかして、これまでは捨てていたものでも『何かに使えないかな』と考える時間をつくれたらと思います」(文学部・恒松 晃平さん)

「私自身が所属する委員会で『循環型社会』について考えたことがありました。持続可能な社会をつくるためには、今を生きる私たちの行動こそが大切。今できることに取り組んで社会形成に関わりたいと思っていたので、創業125周年を記念したこのプロジェクトに携わることができたのはとても有意義でした。『ゼロから1をつくる』ことが好きなので、自分たちの意見が商品になったのはすごく嬉しかったし、実際に使いたいと思うものができあがったと思います。この取り組みに関わったすべての人にお礼を伝えたいです」(文学部・清水 優香さん)

「生協ショップで販売するアイテム制作に自ら関わることができること、それがUA社の残反を利用するプロジェクトだと聞いて、興味をもちました。実際に関わってみてわかったのは、限られた材料であっても、アイディア次第でさまざまなものを制作できるということ。廃棄物と呼ばれるものについて、考えを改める必要があるなと思いました。何より勉強になったのは、自分たちの考えを形にするためには、多分野の人々の協力が必要だと知れたことです。だからこそ完成商品を見たときは、心から感動しました。貴重な学びの機会をいただいて感謝しています」(文学部・平 和真さん)

先入観がないからこその斬新なアイディアが満載。

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−−では、それぞれの詳細について教えてください。まずはバッグからお願いします。
土屋「生地を見ながら『こういう質感のバッグが欲しい』という声が挙がって、決定に至ったアイテムです。学生のなかには下宿生も多く、日々の買い物で使えるサブバッグが必要なんですよね。それがただのエコバッグではなく『この生地だったらかっこいい』という意見が出たのです。工夫したのは、斜めがけができるデザインにしたこと。その理由は『自転車移動が多いから』。そうやって学生さんの意見を吸い上げ、反映していきました」
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画像 コーポレートビジネス部 土屋 晶寛さん

鈴木「実はこの生地は、イギリスの高級シャツ生地メーカーのものです。僕らはそれを知っているからこそ、この生地でバッグをつくるという発想はなかった。先入観がないからこそ生まれる、自由な発想に刺激をもらいました。ちなみに男子からの支持を得ていたのがピンク。そのジェンダーレスな視点も、僕らの思い込みを外してくれるものでした。それぞれのカラーをテレコにしたポケットをつくることで遊び心を添えています」

−−ハットに関してはいかがでしょうか。
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鈴木「これはサウナハットの案から派生したものです。残反の中にサウナハットに適する生地がなく、ならばこの生地でバケットハットはどうだろうと。これはメンズのスーツで使われる高級素材。僕らからすると、まさかスーツ生地でハットをつくるなんて思いつきもしないので、驚きました。彼ら彼女ら曰く、きれいめに仕立てたいとのこと。ならばツバをやや小さめにしてフラットにし、この生地を最大限に生かした大人っぽいハットにしようと意見が一致しました」

土屋「ドレス感のある生地でハットをつくる。そんな“いい意味での違和感”がすごく勉強になりました。ロゴのカラーを落ち着いたブラウントーンにしたのもこだわりのひとつ。このマルチフォントを刺繍するのって、すごく大変なんですよね。制作サイドは苦労したと思います」

−−ブックカバーは、すごく学生らしいアイテムですね。
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鈴木「イタリアのインポートの派手なチェック生地を使って、ブックカバーをつくろうということになりました。極限まで厚塗りにしたシルクスクリーンのロゴを載せて、ポップな雰囲気に仕上がっているのが楽しいですよね。カラーバリエーションを何パターンか提案したのですが、やはり“いい意味での違和感”がある色合わせが採用されました。我々であれば、ついバランスのいいカラートーンを選んでしまいがち。学生さんならではの“映える感性”が生かされたアイテムになっていると思います。
ブックカバーは彼ら彼女らから出てきたアイディアですが、基本的に長方形なので、縫製でロスが出ないという点でもすごく優れているアイテムです。裏地を縫い合わせて、まるで洋服のように仕立てたのは、僕らからの提案。派手さがありながら、上品な一品に仕上がったと思います」

次世代へのアプローチをこれからも続けていく。

−−あらためて、学生たちと共創することで、どんな気づきがあったのでしょうか。

土屋「先にも述べたサウナハットのように、学生さん自身が学校の立地や街の文化をものづくりに落とし込んで、自然とストーリーを組み立てていることに驚かされました。おそらく普段からその視点で物を選んでいるからこそ、つくる側に回ったときもその発想になるのだと思います。物語性のある物が選ばれる時代だとは思っていましたが、それが確信に変わった。すごく大きな収穫でした」

鈴木「自分の発想がいかに凝り固まっているか、そのことを実感する時間になりましたね。本来はもっと自由に思い描いていいはずなのに、現実的な側面ばかりを見ていたなと。今の大学は昔のそれとは違って、人も環境も進化しています。僕自身、そしてUAも自由に成長することで、次世代にいい影響を与えていきたい。そんな思いを新たにしました」

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−−では最後に、今後の展望を教えてください。

鈴木「立命館学園との取り組みに関しては、今後もいいお付き合いが続いていくといいなと思っています。次世代へ確実にアプローチすべく、ほかの教育機関、また学生さんたちとの共創についてもさらに実例をつくっていきたいですね」

土屋「ファッションを扱う一企業として、おしゃれをする楽しさに加えて、社会課題とどう向き合うかという姿勢はしっかり提示していきたい。そのサンプルとして、このような取り組みを広げていきたいと考えています」

PROFILE

鈴木 脩

鈴木 脩

2004年ユナイテッドアローズ入社。2012年カジュアル部門の販売スタッフを経て本社へ。ビューティー&ユースで扱うアイテムの企画とデザインを行う。2022年より現在のコーポレートビジネス部に異動。グッズやユニフォームの企画/デザインの監修を行う。

土屋 晶寛

土屋 晶寛

2008年入社。店舗勤務を経て2013年に商品部へ異動し、服飾雑貨のディストリビューター・MDを担当。2017年よりEC事業に従事し、2024年10月に社内公募でコーポレートビジネス部へ異動し現職。

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