モノ
2026.02.26
スタイリスト服部 昌孝氏が「UNITED ARROWS & SONS」で描いた、クラシックを“学ぶ”ドレスコレクション。
スタイリストとして数々の現場に立ち続ける服部 昌孝さんが、〈UNITED ARROWS & SONS by MASATAKA HATTORI〉として挑んだのはドレスの提案でした。ディレクションしたのは、3型のジャケットとスラックス、シャツ、そしてネクタイ。その背景には、現在のファッションに対する問題定義が見え隠れします。“セットアップ”が一般化し、スーツやドレスの役割が軟化する中で、「崩す前に本流を知って欲しい」と語る服部さん。それは単なる洋服づくりにあらず、ショップで生まれるコミュニケーションのデザインも含まれます。本プロジェクトを通じて提示された、“学び”を感じる新たなスーツの可能性を紐解いていきます。
Photo:Hiroki Oe
Text:Tsuji
きちんとクラシックを学んだ上で、そこから崩していく。
服部:約1年前ですね。何度か〈UNITED ARROWS & SONS〉(以下、UA & SONS)のルックのスタイリングをさせてもらう中で、「一緒に新しい取り組みをはじめたい」というお話をいただいたのがきっかけです。とくにお題はなくて、自分のやりたい方向に合わせてくれるということでした。ただ、普通の洋服をつくってもしょうがないという思いと、中途半端なことはできないという気持ちがありました。スーツを着こなすには文脈を理解したり、知識が必要だと思うんです。最近ではカジュアルなセットアップも増えていて、時代はどんどんコンフォータブルな方向に流れています。自分としては、セットアップとスーツは別物だし、崩しの文化ばかりが主流になってきている感覚があります。なのでスーツをつくりたいと提案しました。
ーきちんと本流の文脈を捉え直す必要があると。
服部:結婚式でも、本当にスーツを着こなしている人って少ないと思うんです。だから今回のプロジェクトを通して、学びの機会をつくりたいと思いました。それはディレクションをする自分自身に対してもそうですし、お客さまにご提案するショップスタッフもです。きちんと相互的なコミュニケーションを通して、クラシックというファッションの本流を知るきっかけをつくりたかったんです。単純にスーツ1型だけつくっても、誰にも刺さらないと思い、チョイスする楽しみをつくって、お客さまやショップスタッフの考える時間をデザインしたかったんです。今回はそれが狙いです。
服部:接客もそうですが、お客さまは自分にどれが合うかを考えるし、お店のスタッフはどう提案していくかを練らなければならないですよね。今回つくったルックも、モデルに対するサイズ感や、スラックスの丈に至るまで、全部こだわりました。裾の仕上げもシングルにするか、ダブルにするかで印象が変わります。モデルやスタイリングのイメージに合わせて現場で全部ジャッジして、パタンナーの方に仕上げてもらいました。
ジャケットとスラックスをアソートできるし、そこにシャツやネクタイの選択も加われば、かなりの着こなしのパターンが生まれます。そうやっていろいろ試しながら、「こういう着こなしが生まれましたね」という会話が突発的に生まれたらいいなと思っています。たとえばビッグシルエットのジャケットに、ナローなスラックスを合わせたり、逆に上がナローで、下がワイドなスタイルにもなる。懐かしいスタイルだけど、いまってそういうスタイルがないと思うんです。ファッションってずっと回っているので、もはや時代遅れっていう概念もないというか。トレンドはあるとしても、それを取り入れないからダサいっていうことでもないですしね。
ー細分化されているからこそ、早い・遅い、流行り・廃りもないということですね。
服部:頭で考える時代は終わったと思っています。だけど、自由になりすぎるのもイヤなんです。だから一度、ちゃんとクラシックを学んで、それから崩しましょうという提案です。
全体を通して色気を大事にした。
服部:今回が一回目ということで、春夏だけど生地はしっかりと厚みのあるウール地を選びました。スタイルはブリティッシュの3つボタンと、ワイドなダブルブレストはやりたいと思ってました。もちろんレギュラーもやりたかったんですけど、自分の中でその定義が固まっていなかったので、そこは〈UA & SONS〉の方々にも意見聞き、一緒に決めていきました。
ーそこで生まれたのが、2つボタンのフロントデザイン。
服部:〈UNITED ARROWS〉(以下、UA)のレギュラーといえば、段返りの3つボタンなのかもしれないですが、それをあえて2つボタンにしました。それが自分の世代のベーシックというか、3つボタンはブリティッシュでもつくっているし、モダンな要素としてそういうのもあっていいんじゃないかと思いました。
しっかりとした厚みのある生地のジャケット。
服部:ピンストライプは単純に自分がやりたかったんです。単色でもよかったんですが、とにかくクラシックにしたかったので。オレンジは、テラコッタ(イタリア語で“焼いた土”の意味)です。これも自分の好きな色なのと、〈UA〉のカラーでもあるから、一回目にふさわしいかなと思いました。
ー服部さんは他にも自身がディレクターを務めるブランドがありますよね。モノづくりをする上で大事にしていることはありますか?
服部:モノづくりでというか、そもそもの人間性なんですけど、コミュニケーションは大事にしています。それは撮影においてもそうなんですけど、自分は“人”と仕事をやっているから、人を大切にしたい。だから今回も〈UA & SONS〉のチームの方々の意見に耳を傾けて、より良いモノにしたいと思いながらディレクションしました。やっぱり、皆さんの知識がすごいんです。とくにシャツを担当してくれた方々は、自分が選んだ生地をみて、自分たちにはない視点があるようでおもしろがってくれているというか、それがすごく印象的でした。自分は男の色気みたいなものを表現したかったので、最終的にやや薄手で透け感のある生地に着地しました。シャツに限らず全体を通して色気というのは大事にしています。
服部:自分もいまブランドのディレクションだったり、その延長線上でオンラインストアもスタートして、洋服を売るということをはじめてやってみたのですが、こんなに大変なんだって身を以って知ったというか。どうしてそれをやるかというと、自分が経験することによって、学びを得たいからなんです。今回のプロジェクトも、その一環だと思っています。本当に日々勉強で、学ばせてもらっています。
ー学びを得ることによって、見えてくるモノもありますか?
服部:実はもう次のシーズンの話もいただいているんですけど、「そんなに早くスタートするの?」という感じで正直驚いています。この前ルックの撮影したばかりなのに、もう次の話? みたいな。そりゃあパリコレとか出ているブランドは大変だろうなって思いましたね。いままではそんな苦労を知らなかったんですけど、知ってからは洋服を見る目も変わる気がします。
ショップが主体となって服を提案していくことに意味がある。
服部:本当にたくさんの人が着てくれたらうれしいです。とくに若いお客さんが興味を持ってくれたら尚更ですね。意外とおじさんにもハマる説があって、クラシックをベースにしつつも、細かなところでモダンを表現しているから、普段スーツを着る人も新鮮な気持ちでスタイルを組めると思います。さっきも話したように、2つボタンのフロントデザインにしていたり、ダブルのジャケットも結構大ぶりなので、そうしたところを楽しんでもらえたらと。
服部:他とは差別化しようということで、ドレスアイテムなので黒くしました。これまで〈UA & SONS〉単体としてはドレススーツをつくってこなかったようなので、お店に新たな枠組みとしてこうしたアイテムが加わるのは喜ばしいことです。スタイリング提案の幅も広がりますし、こうして自分の名前までつけてもらえて、本当にありがたいです。
あとは、セレクトショップのオリジナルとしてこれをやる意義みたいなものも感じています。日本のファッションブランドが海外で結果を残すには、デザインという本質も大事だけど、戦略がものすごく重要になってくると思うんです。
服部:だからこそ国内でファッションを盛り上げて力をつける必要があるし、お客さまとの交流が生まれるセレクトショップが頑張らないと、日本のファッション業界が衰退していくと思うんです。だからショップが主体となって洋服を提案していくこと自体に意味があると自分は感じています。自分がやりたいことも、結局そこです。ファッション業界をもう一回面白くしたい。自分が憧れていたあの世界を、もう一度ちゃんと作りたい。そんな想いを持って、これからもやっていきたいですね。
INFORMATION
PROFILE
服部 昌孝
1985年、静岡県生まれ。2012年に独立し、雑誌やブランドのビジュアル制作をはじめ、MV、テレビCM、ドラマ、映画など幅広い分野でスタイリングを手がける。あいみょんやAwich、RADWIMPS、米津玄師らの衣装も担当。2020年に服部プロを設立。近年はブランドディレクションなど、スタイリング以外の表現にも取り組んでいる。