
モノ
2023.09.22
メイドインジャパンにこだわり、熟練の職人と二人三脚で作る〈KURO〉のモノづくり。
日本人の独特な感性や感覚を落とし込んでモダナイズされたデザインと歴史と伝統を受け継いだ日本各地の職人の技術による、こだわりのモノづくりが特徴のデニムブランド〈KURO〉。この春は〈KURO for 6〉として、〈6(ROKU)〉との別注カットソーを製作しました。そこで、〈KURO〉のデザイナーを務める八橋 佑輔さんにブランドの起源や服づくりへのこだわりや今回の別注アイテムについてお話を伺いました。
Photo:Yutaro Yamane
Text:Mikiko Ichitani
日本人ならではの緻密さや奥深さを反映した〈KURO〉のデザイン。
ブランドのスタートは27歳のときでした。それまではアパレルの仕事ではなく、音楽が好きという理由でレコード屋さんの会社で働いていました。ジーンズは中学生の頃からずっと好きだったので、いつかはそういった仕事をしたいなと漠然と考えていた頃に、今の会社である「Blues(ブルース)」の社長に誘われて、デニムブランドをスタートすることになりました。
— 2010年にイタリアで開催されたピッティ ウォモ(世界最大級のメンズプレタポルテの見本市)でデビューコレクションをローンチし、本格的にブランドをスタートされました。海外市場でデビューを飾るというのは、意識的だったのでしょうか?
当時はヴィンテージをサンプリングしているレプリカジーンズが流行っていたと思いますが、新しく始めるのであればもっとファッションとして昇華させるようなスタンスでデニムを作りたいという思いと、メイドインジャパンのモノづくりに感銘を受けていたのもあり、それらを軸としたコレクションを海外でスタートさせることにしました。海外進出できたのは、まわりの環境に恵まれていたことも大きいです。工場さんを含めて、身近なところでモノづくりについてのプロが教えてくれる環境でしたし、会社がインポーターもやっていたので、海外との繋がりも作ることができた。あとは、当時は若かったので、情熱で乗り越えたというのもあると思います(笑)。
古来から日本人の髪や瞳の色として象徴されてきた「黒」という色の名前からとっています。見た目の容姿だけでなく、日本人の感覚として、欧米人が見るよりも深く感じられる特別な色というところにも惹かれています。実際に世界で活躍する日本ブランドの多くでもキーカラーとなっていたりするので、ブランド名として使用することにしました。
— ブランドコンセプトにもある、「日本人の独特な感性・感覚」とは、どのようなものだと感じていらっしゃいますか?
日本人にはクリエイティブな人が多いと思うんです。それはデザイナーなど文字通りの肩書きだけでなく、ちゃんと先のことを考えて仕事をバイタリティにしている人や、日常の中で楽しみを見つけている人が多いという意味で。さらに、技術的な面でいうと他国と比べても緻密で丁寧。欧米のクリエイティブはわりと大味なイメージが強いですよね。ハリウッド映画などスケールが大きくて、「どうだ! すごいだろう」といった印象の作品が多くある中で、日本人が作るものはフォーカスする場所が狭いというか、奥深いというような感覚があって。職人さんたちしかり、そういった感性をベースに上手に切り取ってモノづくりに反映している方が多い印象です。
生地、縫製、洗いや加工の3種類をベースに、プリントや刺繍の工程を入れても全部で20社前後だと思います。どこも10年以上の長い付き合いのところが多くて、工場さん同士での繋がりもあるので、本当に良くしてもらっています。
— 熟練した技術を持つ職人の方々に対して、細かいディテールの共有はどのように行っていらっしゃいますか?
職人の方たちは技術に対してみなさんこだわりが強いので、伝え方や距離感によっては汲み取ってもらえないこともあります。〈KURO〉のデザインは手作業が多かったりもするので、うまく伝わらないと仕上がりも全然違う形になってしまったり。自分がやりたいイメージを的確に伝えるためにも、わかってもらえるような関係性を築くことが一番大切だと思います。ビジュアルと一緒にイメージや理想を直接伝えて、最善の方法を一緒に考えながら作っていくようにしています。それはセッションにも近い感覚ですね。
〈KURO for 6〉の別注カットソーから見える職人たちの細やかな技術。
〈KURO〉の商品をバイイングしていただいたことがきっかけです。最初はジーンズとTシャツとロンTというブランドの中でも定番のアイテムからでした。やりとりを重ねる中で、「こういうアイテムを作りたい」「ああいうこともしてみたい」というお話を伺って、コラボレーションを進めることになりました。前回のAWに続いて、今回は第二弾となります。
カラーリングは〈6〉さんのシーズンカラーでもある浅いブルーとグレーでリクエストをいただきましたが、今回やりたかった日焼けで褪せたような加工をするには適した染料の色が限られているので、その中でこの色味を出すのはとても苦労しました。
— この絶妙な色味は染めたあとに加工されているんですか?
そうなんです。ジーンズが穿いているうちに色が褪せて薄くなっていくのと同じような感覚で、濃い色に染めてから、加工で色みを落としています。


ボディを染める過程以外はほとんど手作業ですね。一枚一枚手作業で加工しているので、仕上がりも若干個体差があると思います。加工を前提として、ボディもアメリカ製のシャツのようなタフなコットンを選んでいます。染料や加工との相性もありますし、高級な生地を使えば良いというものでもないんです。丈夫な生地に洗いを重ねて痩せさせることで風合いを出すというのも意識していて、これまでの経験を生かした生地選びもポイントと言えますね。
カットソーなどのリブって通常は生地とセットになっているのですが、このリブはミリタリー物の古着などで使われるリブをベースに、オリジナルで編み立てています。袖のシルエットも太めに仕上げていて、MA-1のようなミリタリーテイストを落とし込んでいるところも気に入っています。
— 首元のダメージなど細かな加工はどのように指示されているんですか?
これはグラインダーという機械を使って仕上げるのですが、最初は僕が実際に作業します。一枚見本を作ってこのような感じでと伝えるようにしています。
— 別注カットソーのおすすめの着こなしを教えてください。
やっぱりデニムと合わせてラフに着て欲しいですね。
工場や作ってくれる人たちの魅力を伝えていきたいと常に思っています。〈KURO〉では当初から、タグにどこの工場で作っているかというのを記載するようにしていて、今回の別注アイテムでも下げ札に入れてもらうようにしています。正真正銘のメイドインジャパンであるということの証明にもなるし、手に取っていいなと思ってくれた人に、どこで作られているのかを知ってもらえる。さらには工場や職人さんの新しい仕事にも繋がったらいいなと思い、ずっと続けています。
— トレーサビリティにも繋がるとても素敵な取り組みですね。
仕事のオファーだけでなく、新たな技術の担い手にも繋がってくれたら嬉しいなと思います。やっぱりどこも人材が減ってきていて、工場を閉じてしまうところも増えています。日本のデニム工場は海外のビッグメゾンからもオファーが殺到するほどの高い技術を持っている。その素晴らしさを〈KURO〉を通して知ってもらえたら嬉しいです。
— 最後に、ブランドとしてやっていきたいことや今後の展望について教えてください。
これだけの技術を注いでくれている工場に少しでも還元できるように、価値を高めて値段が高くても売れるようにしていきたい。また、いまの話の流れでいうと、岡山県の井原市・倉敷市、児島など日本の様々な産地となっている街で、デニムを介したアート要素のあるイベントなどデニムのクリエイションで産地が注目されるようなことをやりたいですね。若い人たちに面白そうだなと思ってもらうとともに、職人としての働き方に魅力を感じてもらえたらいいなと思っています。
INFORMATION
PROFILE

八橋 佑輔
1981年、東京都出身。 独学でデザインを学び、2010年にPitti Uomoにて〈KURO〉を発表。建築的アプローチと現代的な感性によるミニマルで構築的なデザイン、年間を通して日本全国の工場に足を運び、熟練した職人たちと細かく意見をぶつけ合うことで実現する、こだわりのモノづくりに定評がある。日本のファッションを牽引していく存在として、新しい素材の開発、洋服の新たなクリエイションの可能性、表現方法に挑戦し続けている。2016年には、北野 武ら著名人とともに、ドイツのスーツケースブランド〈RIMOWA〉が選ぶ「日本のクリエイター9人」のメンバーとして、同ブランドのグローバルキャンペーンに登場。