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「フィータ」の新作カットソーにみる、草木染めの染色技術とディレクターの想い。

モノ

2024.02.01

「フィータ」の新作カットソーにみる、草木染めの染色技術とディレクターの想い。

世界中の希少な技術によって生み出される特別な一着を、 人から人へ“繋ぐ”ことをコンセプトにモノづくりを行う〈フィータ(Pheeta)〉。今回は、ブランドとして初の試みとなる草木染めを用いたカットソーが生まれた過程にフォーカス。天然の染料が持つ本来の色の美しさにこだわりながら、理想の品質に辿り着くまでの過程とは? ディレクターの神出 奈央子さんが、出会い、共鳴した大阪の染工場〈福井プレス〉の技術とともに、カットソーシリーズ「Hedy(ヘディ)」への想いについて、お話を伺います。

Photo:Tomoaki Shimoyama
Text:Riho Abe

初めて日本を舞台にモノづくり。そして初のカットソーが誕生。

−11回目のコレクションとなる今季、〈フィータ〉で初めてのカットソーが登場しました。カットソーを作ろうと思ったきっかけを教えてください。

神出:布帛やニットとはまた違う伸びやかな着心地の良さ、お手入れしやすさなどを魅力的に感じていたので、カットソーを作りたいという思いはずっとありました。「〈フィータ〉らしいカットソーとは?」と考える中で、自分が繋ぎたいモノづくりのひとつにあった、草木染めを用いたカットソーはどうか?というところからスタートしました。

−今回、“草木染め”というのも、もう一つのトピックスですよね。こちらもブランド初となる日本を舞台にしたモノづくり。カットソーと草木染めは、どんな風に繋がりましたか?

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神出:草木染めは、〈フィータ〉のモノづくりの拠点であるインドで何度もトライアルはしていました。ただ、日差しで極端に退色・変色してしまうことは避けられず、なかなか当社の製品基準を満たすことができませんでした。せっかくキレイな色に染まったとしても、取り扱いの難しさがあれば、お客さまに長く着ていただくことは難しい。けれど、ひとつ前のコレクションで、ブランド初のニットをネパールで製作したことにより、モノづくりの幅が広がったという実感がありました。日本には、カットソー綿の有数の産地や草木染めの染工場があります。様々な産地を検討する中で、糸の紡績から生地作り、縫製、染色まで、今回はすべて日本で行うことを決めました。

−カットソーの染色を手がけた、大阪の染工場〈福井プレス〉さんとの出会いを教えてください。

神出:私が最も大切にしたいことは、「草木本来の色を生かしながらも、その美しさを保つことができる」という点でした。化学染料を使うならあくまで色止め程度。化学染料の含有割合を極限まで抑えたいと考えました。そんなこだわりを持っていたのですが、なかなか協業できる染色所と出会うことができず、何軒かお断りされました。そのうち、とある染色所の方と話していた際「うちでは難しいけれど…ここならできるかもしれないから連絡してみたらどうですか?」と、ご紹介いただいたのが福井プレスさんでした。

−同業者でも親切に紹介してくださるんですね。

神出:はい。今までインドでも、「こういうことがしたい」と熱心に伝えていると、「あの人がこんなことしているよ」と、情報提供をしてくれることがありました。みなさん全く利益には繋がらないのに、親切に教えてくださいます。これもモノづくりの面白さ、一生懸命探求することの大切さは常々感じています。本当に有難いですね。

画像 カットソーシリーズ「Hedy」より、2枚組のタンクトップ(ベージュ、ピンク)。どちらを上に重ねても素敵なデザイン。一枚で別のアイテムとのレイヤードも楽しめる。

−福井プレスさんのどんなところに共鳴しましたか?

神出:福井プレスさんでは、カフェから「廃棄されてしまうコーヒーのドリップ粕をなんとかできないか?」と相談を受けて、コーヒー染めを始められたり、さらにその抽出粕をキノコ培土として再々利用することで循環させるプロジェクトを進められています。この他にも、麦芽粕などの産業廃棄物をアップサイクルする取り組みに力を入れていて、地球や地域での循環を考え、常に模索されている染工場です。新しいことにチャレンジする前向きな姿勢が素敵で、ぜひ一緒にモノづくりがしたいと思いました。スタッフの方も若い女性が多かったりと、その風通しの良さも魅力的に感じました。

草木本来の色を生かした、草木染めを。

−今回のカットソーは、草木染めのものが3色。どんなふうに色を決めましたか?

神出:草木染めは、鉄やアルミなどの金属イオンを媒染に使います。使う金属イオンにより化学反応が起き、ひとつの染料から複数の色を生み出すことができます。例えば、「Hedy」のカットソーのグレーの染料は「ログウッド」という植物なのですが、アルミで青みのある紫に、鉄で青みのある黒になったりと変化します。染工場への依頼の多くは、理想とする表現したい色に合わせて、50%以上化学染料を混ざ合わせ染められるケースのようですが、私がやりたかったのは理想の色に合わせるのではなく、あくまで草木本来の持ち味を大切にした色合いを表現すること。そのため、草木染めの見本のカラースワッチを拝見しながら色を決めていきました。福井プレスさんにもその思いを伝えると「やってみます!」と、快く返事をしてくださりました。

画像 タートルネック(写真左からピンク、ベージュ、無染色の白、グレー)。一枚ではもちろん、シャツやワンピース、スウェットなどのレイヤードスタイルにも。

−理想の色に辿り着くまで苦労したことはありますか?

神出:色を決めてからは試作と製品テストの繰り返しでした 。“最低限の化学染料で”ということを伝え、技術的な面は福井プレスさんにお任せしましたが、製品テストの結果を見ながら、化学染料の割合を調整していただきました。最終的な化学染料の含有量は、ビンロウジ(ピンク)が0.7%、ゴバイシ(ベージュ)5%、ログウッド(グレー)が25%と、最低限の数字に抑えることができました。

画像 「Hedy」のカットソーに使われた染料。写真左上から時計回りに、ビンロウジ(ピンク)、ゴバイシ(ベージュ)、ログウッド(グレー)、写真右上は、実際に染め上がった3色のカットソー。


  • 草木染めの工程。まずは生地を洗って汚れや油を落とす。規定の量の草木染料と色止めの化学染料を容器に入れて混ぜる。その後、専用機械に染料と水を入れる(写真)。染料の重さによって、水量が変わる。

  • 試験染色機で熱を加えながら撹拌し、色を出していく。

  • カラースワッチによる色味の確認後、問題なければ大きめのワッシャーで一気に製品を染めていく。
−今回、初めて草木染めに挑戦してみてどうでしたか?

神出:予測はしていましたが品質を保ちながらも、草木染めの美しさを生かすことは大変だなと改めて実感しました。今回福井プレスさんにお願いして、一緒に試行錯誤して取り組んだことで、大変な分、草木ならではの柔らかな色合いの魅力を引き出すことができたと感じています。

テーマは、水中をゆらりと美しく漂う「クラゲ」。

−今回のテーマ「Hedy(ヘディ)」について、込められた想いを教えていだけますか?

神出:11回目のコレクションは「クラゲ」をテーマにしました。ブランドができて丸5年が経過し、また次の5年、10年に向けて進む〈フィータ〉の姿をお見せしたいと思いました。クラゲは、成長するなかで何回も姿形を変えていくのですが、その姿に未来の〈フィータ〉を重ね合わせました。私自身もそうですが、歳を重ねるごとに考えが凝り固まってしまったり、代謝も悪くなったり、変化することが難しくなっていきます。時代の流れに合わせ自身を変容させながら、たおやかに、しなやかに進んでいける女性像をイメージしました。

画像 胸元が2枚仕立てで、一枚でレイヤードしているように見えるカットソー(草木染めなしの白、グレー)。袖が長めなので、手首のあたりであえてたるませるのがおすすめ。

−確かに、水中でゆらゆら浮遊しているクラゲのようですね。

神出:暗い海のなかで七色に発光したり、ふわっと漂うクラゲの姿が美しいなと感じていました。やわらかいベールに包まれているような、透ける素材感や色を意識して表現しました。

−アイテムについてもお聞きしたいです。カットソーの素材に関して、何かポイントはありますか?

神出:着心地の良さを追求しました。カットソーの糸には、世界三大綿のひとつである“スーピマコットン”という最高品質の細番手の綿を使用しています。これほど繊細な素材感は、日本の生地工場の高い技術があってこそできることだと思います。長繊維であるスーピマコットンの糸に強い撚りをかけて、肌触りや吸水性、速乾性を高めました。さらに、表面をガスで焼くことで、より美しい表情に仕上げています。薄手で繊細な生地ですが、実はテレコで編み上げているので、伸縮性があり、着心地の良さを追求しています。

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−それぞれのアイテムをどんなふうに楽しんでいただきたいとお考えですか?

神出:薄手なので、一枚で着るのが難しいと思われる方もいるかもしれないのですが、躊躇なく着ていただけるようにデザインしました。胸元が二枚重ねに仕立てになっているカットソーや、パンツは基本的にはレギンスのように重ね履きしていただくのですが、腰回りの透け感が軽減できるようショートパンツをつけています。タンクトップは二枚セットなので、一枚でも、二枚重ねでも、またどちらを上に重ねても着ることができます。〈フィータ〉のアイテムとのレイヤードスタイルを楽しんでいただければ嬉しいです。シルエットは、長めの袖丈や着丈が特徴的なので、足首や手首などでくしゅっとたるませながら、自由に着こなしてください。
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レギンスのように重ね履きして楽しむパンツ。気になる腰まわりをカバーするショートパンツ付きのデザイン。

−では、最後に。カットソーや草木染めは、今後も続けていく予定ですか?

神出:もちろんです。前回のニットもそうですが、一度始めたモノづくりを長く継続し、それぞれを大切に育てていきたいと思っています。また、経年変化で少しずつ姿が変わっても、長く愛してもらえるお洋服をお届けしたいということが〈フィータ〉の基盤です。その上で、これからも少しずつ進化を続ける〈フィータ〉を見守っていただければ嬉しいです。私も〈フィータ〉も、お客さまとともに、しなやかに変化しながら、進化とともに前に進んでいけたら理想的だなと思っています。

PROFILE

神出 奈央子

神出 奈央子

2008年に〈アナザーエディション〉の企画デザイナーとして入社後、2015年より同ブランドのクリエイティブディレクターを担当。2019年春夏シーズンに〈フィータ〉を立ち上げる。

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