ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

職人の技術と温もりが宿る、「フィータ」初のハンドニットシリーズ。

モノ

2023.11.02

職人の技術と温もりが宿る、「フィータ」初のハンドニットシリーズ。

世界中の希少な技術によって生み出される特別な一着を、人から人へ“繋ぐ”ことをコンセプトにモノづくりを行っている〈フィータ(Pheeta)〉。ブランド10回目となるコレクションを迎えて、新たにハンドニットシリーズが誕生しました。古くから大切に紡がれてきたネパールニットには、手編みの温もりと個性が宿っています。そんなニットシリーズへの想いから、ネパールの工房での生産背景と技術について、〈フィータ〉でディレクターを務める神出 奈央子さんにお話を伺います。

Photo:Miri Saito
Text:Riho Abe

10回目のコレクションを迎えた、いまの想い。

画像

―2019年にスタートした〈フィータ〉。今回で10回目のコレクションですよね。いまの想いやコレクションテーマをお聞かせいただけますか?

神出:何より感謝の気持ちでいっぱいです。この5年間、“繋ぐ”をコンセプトにモノづくりを続けてきました。無事に10回目のコレクションを迎えることができたということで、テーマは「晴れ着」。晴れ着といっても、ハレとケが混在する今日ですので、ドレスアップしたいフォーマルなシーンにしか着られないということではなくて、着こなし次第で日常着にもなる。〈フィータ〉らしく晴れ着を表現しました。

―どんなアイテムがあるか教えてください。

神出:フリルやレースなどの装飾をふんだんに使った、ブラウスやドレス、付け襟などです。そして、ブランドとして初めてのハンドニットのシリーズが完成しました。

画像 初のニットシリーズ「Clara(クララ)」より。マリーゴールドの柄を配し、ボタンまですべてニットで仕上げたカーディガン。

―ニットの構想は、前々からあったのでしょうか?

神出:ブランドをはじめた頃から、ずっとハンドニットを作りたいと思っていました。ヨーロッパ圏のフィッシャーマンニットを代表するように、世界各地にはさまざまなハンドニットの文化があります。西アジアで物づくりをする中で、ヒマラヤ山脈沿いの高冷地に残るネパールニットに出会いました。

―ネパールのハンドニットの魅力をどういったところに感じましたか?

神出:ネパールは、ブランドの生産拠点であるインドの隣にある内陸国です。ヒマラヤの麓に位置し、農地や産業が少ないこともあり、昔からのハンドニットの文化が残っています。主に家族や近しい人のために編まれてきたそうです。糸の撚りがざっくりで、どこか牧歌的なネパールのニットにたちまち魅了されました。やはり編める人は年々減少しているようで、この小さな文化を〈フィータ〉で繋いでいきたい、と思いました。

画像 去年10月に訪れたネパール・カトマンズでの写真。神出さんが撮影。ネパールの街並みと働く女性たち。

―ネパールには何度か行かれたのですか?

神出:コロナ禍の前に一度訪れたのですが、現地に行けない期間が長く続きました。その間もメールやメッセージアプリでやりとりしていましたが、やはり現地で編み方の詰めなどを行わなければお願いすることは難しく、去年10月にようやく再訪し、生産をスタートすることができました。想定より3年ほど遅れてしまい、今年やっと完成まで辿り着いた、といった印象です。

ネパールで、1年スパンのニット作り。

画像

―待望のお披露目ということですね。現地の制作過程を教えてもらえますか?

神出:現地では、約20人が所属するユニットがいくつかあり、編み子さんは自宅で制作しています。原糸をリーダーに渡して、リーダーから編み子さんたちに分担していく方式でした。編み子さんは他のお仕事も受けているので、一度にお願いできる量は決まっています。1週間後にできたものを集めて、また新たにお願いして…ということを何度か繰り返し、すべて編み終えるためには、8〜10ヶ月必要でした。

―何か苦労したところはありますか?

神出:ハンドメイドなので、幅何cmと指定したとしても、編み子さんの力加減によって、柄やモチーフの数が変わってきたりします。それは手仕事の良さなのですが、個体差が出たときにも素敵に見える形にこだわりました。技術面で言うと、今回カーディガンのボタンをチャイナボタンのようにニットで作ったのですが、かなり苦労されていました。

―インドでのモノづくりと異なる点はありましたか?

神出:大きく違うのは、編み子さんがそれぞれ自宅で作業しているところです。出荷前、最後に検品する作業所にだけ、複数人が集まって作業していました。あと、インドでは男性の職人と仕事を進めることも多かったのですが、ネパールの編み子さんは皆さん女性。おしゃべりしながら楽しく編んでいる姿が印象的でした。子どもを連れてきている方もいましたよ。

画像 出荷前の検品や糸が出ているものを直したりする作業所。地べたに座り、和気あいあいと作業している。

―特にネパールらしいなというデザインの特徴はありますか?

神出:ネパールでは、ヒンドゥーの神様に捧げる花としてマリーゴールドが飾られています。縁起も良く、コレクションのテーマである晴れ着やお祝いにぴったりだと思い、マリーゴールドの編み柄を取り入れました。
画像
画像

現地の軒先では、飾るようにマリーゴールドが売られている。

―とても素敵ですね! 手編みで花柄を作るのは大変そうに見えますが…実際にはいかがでしたか?

神出:編み目がぎゅっと強くなると、隙間が潰れてしまい花に見えなくなってしまいます。現地で「マリーゴールドにしたいから、ここは必ず隙間をあけて欲しい」と根気強く伝えましたね。いままでもそうでしたが、〈フィータ〉が大切にしているポイントを細やかに伝えて、緻密に詰めて行くことがとても重要でした。

画像


そのままでもレイヤードも楽しい、ニット4型がお披露目。

画像

―見れば見るほどディティールに感動しました。デザインにはどんな想いが込められているのでしょうか?

神出:ありがとうございます。ハンドニットはボリュームが出やすいので、柄は引き立てつつ、幼い印象にならないよう気をつけました。1着を長く愛用してもらいたいと思っているので、「年齢を重ねても着たいと思えるか?」ということをベースにしながらデザインを詰めていきました。例えば、〈フィータ〉の洋服は身幅がゆったりしているものが多いのですが、裾がフリンジになっているものは丈を短くスッキリさせて、他のアイテムと合わせやすくしたり、といった工夫をしています。

―ベストも素敵ですね。

神出:総柄のハンドニットは大仰だとお感じの方は、面積の少ないベストからなら取り入れやすいかもしれません。〈フィータ〉のシャツやドレスにレイヤードして、ルーズなシルエットを楽しんでもらいたいです。

画像 〈ユナイテッドアローズ〉別注のカーディガンはショート丈仕様。黒が展開しているのはこの型のみ。

画像 プルオーバーは、バック部分のセーラーや柄が引き立つように、ボディのデザインはシンプルに。

―色の展開を、白とグレー、そして〈ユナイテッドアローズ〉別注のカーディガンの黒の3色にしたのは、何か理由はありますか?

神出:初めてのニットだったので、ずっと長く着ていただけるような定番カラーを選びました。元々の羊の色や質感が活かされた白は、必ず使いたいなと思っていました。

作り手と着る人を“繋げる”。フィータのこれから。

画像

―ニットの制作は今後も続けていく予定ですか?

神出:念願のニットができたので、ネパールでの製作は今後も続けていきたいです。また、インドの方でもヒマラヤの羊の糸を使って、ニットが編める方々が残っています。ヒマラヤにはたくさんの羊がいるのですが、刈り取った羊の毛を持って山から降りるのが大変なので、そのまま廃棄されてしまうことが多いそうです。「すごくいいものだからもったいない」と、現地でニットにしようと活動している方との出会いもあり、来年に向けてネパールとインドの両方でニットが作れたらと、頑張っているところです。

画像

―作り手との繋がりを大切にしているところも〈フィータ〉らしいですね。

神出:彼らなしでは、モノづくりはとてもじゃないけどできません。自分にはできないことをお願いしている分、彼らの頑張りをお客さまにもお伝えし、よりアイテムに愛着を持っていただけたら、いい循環に繋がると思います。インドの工場や工房との取り組みも5年を越え、いまでは〈フィータ〉が大切にしていることを深く理解してくれています。これからも信頼関係を大切にしていきたいです。

―今日は素敵なお話をありがとうございました。最後に、今後の展望を教えてください。

神出:インドで続けてきた基盤を大切にしながら、今回のネパール、来シーズンに日本と、新しいモノづくりもお披露目します。布にまつわる造詣が深いインドで、まだ形にできていない手仕事がたくさんあるので、挑戦は続きます。少しずつモノづくりの輪を広げながら、それを絶やさないように継続的に取り組んでいきたいと考えています。

PROFILE

神出 奈央子

神出 奈央子

2008年に〈アナザーエディション〉の企画デザイナーとして入社後、2015年より同ブランドのクリエイティブディレクターを担当。2019年春夏シーズンに〈フィータ〉を立ち上げる。

TAG

SHARE