モノ
2023.10.30
環境にやさしく高品質。〈グリーンレーベル リラクシング〉が作る、新時代のオーセンティック 。
いまの時代、あらゆるモノづくりにおいて“環境に配慮すること”は至上命題です。しかし、それだけではいけない。同時にクオリティも優れていてこそ、ユーザーに届くというものです。その2つを、高い次元で融合させた〈ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング(以下、GLR)〉のアイテムがこの度発売されます。 コート、ニット、セットアップなど全6型のアイテムは、無染色の羊毛やアルパカなどの素材で作られたプロダクト。これらの製品が生まれた背景や現代のモノづくりについて、〈GLR〉メンズドレスのデザイナーを務める大石貴之さんに話を聞きました。
Photo:Yuco Nakamura
Text:Keisuke Kimura
価格以上の価値があるコレクション。
そして現在。環境問題が叫ばれ、持続可能な社会へ向けた機運が高まるなかで、〈GLR〉のアイテムもまた、環境へのインパクトを極力減らしたものへとシフトチェンジがはじまっています。
今回ご紹介するのは、〈GLR〉のものづくりの姿勢と時代性を反映させたカプセルコレクションです。アンデスの高地で育った羊や、アルパカの希少な原料を使い、かつ環境に優しい無染色の製法でありながら、タイムレス。
それでは早速、大石さんにご登場いただき、本作のことや、その裏側を語っていただきます。知れば知るほど、価格以上の価値があることに気づけるはずです。
自然の色は、どんな時代でも受け入れられる。
大石:2023年秋冬のクリエーションをするにあたって、まずは「タイムレスなアイテム」というキーワードを設定したんです。言い換えると、メンズウェアとしての定番アイテムですね。そうしたアイテムを、いまの価値観に落とし込んで、100年後も着られるようなものに再構築していこうと。
ー「いまの価値観」という部分が、環境への配慮ということだったということですね。
大石:そうです。加えて、シルエットや細かなディテールもそのひとつになるかと思います。
スライバーの状態で輸入し、糸へ紡績していく
大石:通常、服に使われる糸は、そのほとんどが染料を使い染められているんですけど、今回のアイテムは無染色の糸が使われているんです。
ーそれがどのように、環境への負荷を減らすことに繋がるのでしょう?
大石:糸を染めるときは染料を使いますし、水も相当な量を使います。それに伴い、適切な排水処理も必要です。くわえて、染色するときには高温かつ高圧にする必要があり、その際の電力も必要になってきます。一方で無染色だと使う資源も少なくてすみますし、染色や排水処理に係わるエネルギーが必要ないため、CO2排出の削減にもなるんです。
大石:原料本来の風合いを楽しめるというのが1番だと思います。また、見た目の特徴として、動物の毛は色が限られていて、真っ白だったり真っ黒なものがないんです。
ーたしかに、こうやってアイテムを見てみるとベージュやブラウン系が多いですね。
大石:そうなんです。染色しないとなると色の表現が難しくて、真っ黒に見える部分もあると思うんですが、実は限りなく黒に近い焦げ茶なんです。
ーこれまで〈GLR〉が作ってきたもののなかで、無染色の糸を使ったことはあるのでしょうか?
大石:今回が初めての試みです。というのも、無染色の糸は色を分別する手間や時間が掛かってしまうのと、やはり染めたもののほうが色の調整がしやすく、かつコストも抑えられるんです。
焦げ茶色はたくさんの量を確保することが難しく、今回のアイテムに使ってはいるものの、また同じ量確保できるとは限らない貴重なもの
大石:“時代”が、どう思うかなんですよね。何年か前なら「これだけの色数しかできないの?」と一蹴されていましたけど、いまは環境問題も叫ばれるなかで、自然な色の美しさが再認識されだしている。時代に合致してきたように感じています。
ーそして、そうした色はタイムレスという側面で言うと、すたれる色ではないですしね。
大石:天然の色は、たしかにそうです。空の青や、木の緑、土の茶色に飽きたりしないですものね。
アイテムの魅力と、そこに込めた思い。
大石:このセットアップは、100年後の時代にも左右されないような、スリムすぎず大きすぎないシルエットが特徴です。ぼくがいま着ているスーツのようにボディに沿うというカタチではなく、あくまでリラックス感があり、胸ポケットや袖ボタンもつけていない。とはいえ、しっかりラペルドジャケットとして、幅広いシーンで使っていただけるアイテムです。
ービジネスでもプライベートでも、さまざまなシーンで使えそうです。
大石:ぜひ、どちらのシーンでも使っていただきたいですね。さらに、軽い雰囲気を出したかったので背抜き仕立てで、肩パッドも入れていません。タイドアップはもちろんできるんですけど、ニットやカットソーなどのカジュアルなアイテムとも相性がいいんです。
ーパンツはいかがですか?
大石:ジャケットと同じ流れで、タックを入れてゆとりをもたせています。もちろん、単体でも履いていただけるような仕上がりにしています。
大石: UA社に歴史的アーカイブを保存しているフロアがあるんです。そこにあるアウターをパタンナーと一緒に研究し尽くして作り上げたのがこのコートです。
ー昔の銘品は重いイメージがありますが、それと同様にずっしりしているんでしょうか?
大石:そうした部分はいまの価値観をちゃんと反映させていただいています。おっしゃる通り、昔のものはすごく重かったんですけど、このコートは膨らみもしっかりありながら、ずいぶん軽量に仕上がっているんです。
ーいわゆるマスターピースと言われるようなものは、往々にして重たいですものね。
大石:昔のモデルを、そのまま現代に蘇らせることはできるんです。マニアックな人たちはそのほうが良いかもしれないですけど、私たちのゴールは〈GLR〉のお客さまに喜んでもらうこと。なので、アーカイブに敬意は払い、しっかりと理解し、その中の良いところと現代の価値観をミックスして、お客さまに向けて提供するというのが大切なんです。
大石:やはり無染色の糸ということもあり、色数を多く作れないんです。なので、アイボリー調のものと茶色いもの、そして2色を混ぜて作った柄の計3色になります。色味もそうですけど、触っても非常に膨らみのある風合いで、着心地も羊毛のナチュラルさを感じていただけると思います。
変化し続ける価値観とモノづくり。
大石:〈GLR〉で販売するジャケットは基本的に2万円前後、パンツも1万円前後が多いのですが、今回はどうしても、その価格の実現が難しかったんです。とはいえ、お客さまにご納得いただけるよう、価格に見合う価値を乗せなければいけないので、そこが1番難しいところでした。
ー価値があったとしても、それをお客さまにわかってもらうことも難しいですものね。
大石:例えば、イギリス製やイタリア製などのインポート生地を使用しているという理由から、多少の価格でも納得いただける場合もあると思うんです。ですが、今回は「環境に優しい無染色の羊毛やアルパカを使った」という部分に価値があるので、そこの価値をしっかり伝えていけたらと思っています。
大石:思い通りの色を表現すること自体が難しかったんですが、特にセットアップに使用した、黒を表現する原料が希少なもので、集めるのに苦労しました。今回は製作できましたが、次に同じものが作れるかはわからないんです。
ー他ブランドとの比較ですが、無染色の糸でこの価格は驚きました。
大石:たくさん作ったほうが価格は下げられる場合もあるのですが、どうしても原材料に限りがあるし、手間もかかりますので今回は大量には生産できませんでした。とはいえ、〈GLR〉の価格帯に近づけなきゃいけないというところで、いろんなセクションの努力でこの価格を実現できたんです。
大石:サンプルができあがったタイミングで社内会議があり、販売スタッフの皆さんに商品説明をするんです。そのとき、お店のメンバーが「これは売れそう」や「お客さまにも喜んでもらえそう」という反応をしてくれたんですよね。そうした反応はデザイナー冥利につきるといいますか。
ーちなみに、大石さんはドレスのデザイナーですが、今作もそれがベースにありながら、デザインされたんでしょうか?
大石:そうです。なので、いわゆるマナーウェアだと思いますし、お客さまが世界のどこに着ていっても恥ずかしくないものを作ったつもりです。
ーいま、スーツ離れも加速していますが、それに対する思いも教えていただきたいです。
大石:本当に大きな転換期を迎えていて、いまはビジネスウエアの選択肢もタイドアップしたスーツスタイル一択ではなくなっています。数年前からクールビズも非常に浸透してきましたし、コロナがそれに拍車をかけましたよね。そこにはしっかりと対応しながら、お客さまが自信を持って着られる新しいビジネスウェアやドレスウェアを提案していきたいですし、今回のコレクションも、ぜひ仕事にも着ていただけたらうれしいですね。
大石:〈GLR〉は昔から、リサイクルペットボトルを原料としたアイテムなどを長年作ってきました。なので、環境配慮の考えというのは非常に相性が良いですし、ブランドとしても重要なことだと考えています。今後も徐々に、できるものからそうした素材に置き換えていきたいとは思っているんです。なおかつトレンドも踏まえながら、新しいことに挑戦していきたいですね。
ー実際に環境に配慮したものを作るとなると、今作のように、色々なハードルがきっとありますよね。
大石:例えば「この服は再生素材を使用しています」と謳ったとしても、それを見たお客さまが、そこに価値を見出せなかったとしたら意味がない。だからといって「安いからこっちで良い」と思わせるものづくりも違う。その新しい価値観を、しっかりとお客さまに伝えていくことがいまの課題かもしれないし、デザイナーとしてのミッションなんじゃないかと思っています。
INFORMATION
PROFILE
大石貴之
香川県小豆島出身。フランスのパリ留学後、メンズブランドでデザイナーを務めたのち、2012年に入社。以来、<GLR>のメンズドレスウェアの企画やデザインに携わる。