ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

卓越した縫製技術が生みだす、長く愛されるリバーコート。

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2024.11.07

卓越した縫製技術が生みだす、長く愛されるリバーコート。

ユナイテッドアローズ(以下、UA)の秋冬の看板アイテムの一つ「リバーコート」。初めて制作した2014年以降、そのミニマルかつシンプルなデザインながら、抜け感のあるシルエットで不動の人気を誇っています。無駄のないデザインゆえに、着用した際のシルエットや着心地の良さは、卓越した縫製技術と選び抜かれた上質な生地が鍵を握ります。今回は、そのリバーコートの縫製技術にフォーカスをあて、担当されている株式会社ラ・モードの代表取締役・米元 三枝さんに、創業51年の歴史や「こだわり」「強み」「技術力」を伺いながら、UAのリバーコートが長く愛される理由を紐解きます。

Photo:Shunya Arai(Yard)
Text:Daiki Yamazaki

高い技術力と長年の解析データが生み出す、羽織るだけで洗練された印象に仕上がるコート。

 リバーコートとは、ウールなど2枚の生地を接結して作られている「リバー仕立て」のコート。裏地がなく、しなやかで軽い着心地が最大の特徴で、秋冬のアウターの定番アイテムの一つです。〈UA〉のリバーコートは、羽織るだけで洗練された印象に仕上がることで、毎シーズン高い評価を得ています。今回は、そんな〈UA〉のリバーコートの縫製を担当されている株式会社ラ・モードの代表取締役・米元 三枝さんにお話を伺いました。

ー貴社のこれまでの歩みを教えてください。

最初は、創業者の松浦シズエが、私塾洋裁教習所の開設をはじめ洋裁技術の習得を目的に専門の学校を設立しました。その後、服飾関係の技術を身につけた人の雇用の場として、株式会社ラ・モード(以下、ラ・モード)を創立したんです。創立当初は、熊本市にあったデパートでお客様に合わせたフルオーダーの洋服を作っていましたが、高度経済成長期に入ると既製服の需要が多くなっていきました。今では既製服の縫製がメインになっています。

画像 熊本県北部に位置する山鹿市に構えるラ・モード。山鹿市は、山鹿温泉や山鹿灯籠まつりで知られる。

ーでは、ラ・モードの他社にない強みやこだわりについて伺えますでしょうか。

ひとつはスタッフ一人ひとりの技術力の高さだと思います。創業から常に完成度の高さを追い求め、挑戦を繰り返してきたことで、高い技術力が培われました。また、経験豊富なリーダーの下で技術指導を行っているのも大きな要因かと思っています。

もうひとつの強みは、「APDS SYSTEM」という素材解析システムを採用していることです。縫製作業に入る前に生地の伸縮率などを解析し、データを残しています。27年前に導入したのですが、生産工場で導入したのは我々が初めてでした。解析データは27年分あり、そのデータを元にパターンを始めとする裁断・縫製・仕上げ等、全ての工程に反映させた服作りをしています。データに基づき縫製するのでより理想の形に仕上げることができるんです。もちろん〈UA〉のリバーコートも「APDS SYSTEM」を基に縫製作業をしています。

ー素材解析システムを導入するきっかけはどのようなことだったのでしょうか。

以前は雨の日に縫製作業をしていると、湿気で生地が伸びて、裏地が足りなくなったりすることが頻発していました。というのも日本の素材の作り方が昔と変わってしまって、経験値ではカバーできないくらい変化する素材が出てきたんです。なので、素材の変化に対応していくためにはどうしたら良いのかというのを考え続けて、素材解析システムに辿り着きました。今では、生地が足りなくなったり、縫製後にシルエットが変わってしまうようなことはほとんどなくなりました。

フランスで魅せられ、試行錯誤しながら生み出したこだわりのリバーコート。

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ーラ・モードでリバーコートを作るようになったきっかけはどのようなことだったのでしょうか。

創業者の松浦がヨーロッパで展示会に行った時にリバーコートを見つけ、その美しいコートに魅せられて、日本に買って帰ってきました。帰国後すぐに解体して、作成方法を研究し、試行錯誤しながらリバーコートを作っていきました。その後、UA社をはじめ、徐々にリバーコートの需要が出てきたこともあり、長い間リバーコートを作らせていただいています。ブランド毎に様々な要望があるので、今までありとあらゆる作り方を模索してきましたし、私たちもそのリクエストに対してブランドさんと話し合いながら作ってきました。

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ー〈UA〉のリバーコートについて、こだわっている点を教えてください。

〈UA〉の製品は、とにかく完成度を求められるので、それをいかに緻密に表現できるかが大事だと思っています。もちろんリバーコートもそのひとつです。また、今回のインタビューの前にスタッフとラ・モードが作るUAのリバーコートのこだわりについて話していたのですが、“手まつり”だという結論になりました。リバー生地は本当に難しい生地ですので、長年培ってきた技術と日々妥協せずやってきている技術が如実に出る工程だと思っています。“手まつり”は1人1着担当します。1人1つずつやっているので、100着あれば100着違う服ができます。それを違わないように工業化していくというのが1つの大きなファクターになる訳です。だからそれを一生懸命にやっているというのはこだわりでもあります。
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(左上)スポンジング機:熱や蒸気を加えることにより生地を自然な状態に戻し、厚さを均一にする。縫製後の型くずれを防ぐことができる。
(右上)ゆる巻き機:スポンジングした生地の長さを改めて測る。
(左下)ディバイダーマシン:縫製の際に縫いしろを作るため、端を一枚の生地を2枚にする機械。リバーコートには欠かせない工程。
(右下)得られた解析結果に基づき、パターン設計の際の注意点を明確し、各工程ごとの仕様・手法を設定し、洗練された感性豊かな服づくりを可能にする。


「お客様の望むモノを形にする」事に注力していきたい。

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ー実際にスタッフの方に作業を拝見させていただくと、この工場が作ったモノを買いたいという気持ちになりますね。

嬉しいです。そうなると良いですね。従業員一同、本当に一生懸命働いています。UA社ももちろん大切なお客さまの一社ですが、お取引先はそれぞれリクエストが違いますし、雰囲気も違う。例えば30社あれば、30の顔造りをするということが工場には求められます。そこをどういう担い手でUA社の顔にしていくのか、他の会社の顔にするのかというのを意識しています。そこはラ・モードの顔ではなくて、それぞれのブランドの顔になるように一生懸命、真面目に取り組んでいます。

画像 株式会社ラ・モードの代表取締役・米元 三枝さん。

ー今後の展望についてお聞かせください。

現在、縫製業界全体が商品開発や自社ブランドの確立といったさまざまな方向性を模索していますが、そこには明確な「正解」がないと思います。そんな中、ラ・モードとしては「受注生産」に特化し、「各ブランド様の望む表情を表現する」ことを目標としています。私たちは、常に技術を進化できるように挑戦し、より良いモノ作りを目指して取り組んでいけたらと考えています。

PROFILE

株式会社ラ・モード

株式会社ラ・モード

1973年に創業。高級婦人服を製造するファッションメーカー。先端技術の活用により、フルアイテムを手掛ける生産システムを構築すると共に、社員一人ひとりが服作りを通して成長できるような人材育成にも力をいれている。

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