
モノ
2020.06.18 THU.
不要なものに新しい価値を。天然染料から生まれた服の魅力と可能性に迫る。
好きなモノやコトを楽しみながら、社会環境にも配慮する。自分勝手に生きるのではなく、今後の生活や周りの人たちとの共存を目指しながら広い視野と責任を持って毎日を過ごしたい。そんなエシカルな思考を持った人たちが近年増えてきているように思います。そうした状況の中で、〈ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング〉が注目したのは、野菜や果物などの食材でつくられた染料。服をやさしく染め上げ、食料のロスも軽減します。そんな食物由来の染料について、その魅力を掘り下げていきましょう。
Photo:Yuco Nakamura
Text:Yuichiro Tsuji
近年高まってきたエシカルな志向。
近年注目が集まる“エシカル”という言葉。それを聞いて思い浮かべるのはどんなことでしょうか? 難しい社会問題が頭をよぎる人も少なくないと思います。辞書にその言葉の意味を尋ねると「倫理的な」「道徳上の」という答えが返ってきます。“道徳的に正しい”ことを指す形容詞のようです。このようなエシカルなマインドを持って社会のことを考え、よりよい未来を築いていてこうとする意識が、ファッション産業においても高まっています。服づくりの工程において環境負荷の少ない原材料を用いたり、人権問題に取り組むといったことから、積極的にリサイクルを推進したり、買い物袋の使用量を減らすといったことまで様々。
そうした状況の中で、廃棄されてしまう食材を使って服を染める会社があります。豊島株式会社が手がける「フードテキスタイル」と、小松マテーレ株式会社による「オニベジ」です。両社ともに野菜や果物などの食品から色素を抽出して染料をつくっています。
〈グリーンレーベル リラクシング〉は、その2社と手を取り合い、廃棄食材で染められた服をデザインしました。食材を有効活用して資源のロスを軽減し、化学物質の使用を抑えています。では、「フードテキスタイル」と「オニベジ」はどのようにして染料をつくっているのか? それぞれの魅力について掘り下げていきましょう。
廃棄物から染料へ。生み出される新しい価値。
「フードテキスタイル」は、国内屈指の織物産地である愛知県に拠点を構える豊島株式会社によって運営されています。
「『フードテキスタイル』は、廃棄予定の野菜を中心とした食材で染料をつくり、それで服を染める、サステナブルな社会をめざすプロジェクトブランドです。カットサラダの切れ端やコーヒーの出し殻、不揃いな形や規格外の野菜や果物など、従来は捨てられてしまっていた食材を利用して、植物に含まれる成分を抽出して染料にしています」
そう教えてくれたのは、プロジェクトを担当する谷村佳宏さん。食品業界とファッション業界の架け橋として、フードロス問題に取り組んでいます。
「現状、国内の15社を超える食品関連企業、農業、農園と連携し、業界をつなぐシステムを構築しています。廃棄予定の食材原料を回収し、食材から成分を抽出したのちに独自の技術で染料を製造。それによってワタや糸、生地や製品への染色が可能となります。表現できる色は、ひとつの食材で10色ほど。植物の色なので、全体的に淡い色が中心です。化学染料は10%未満で、残りはすべて天然染料となり、単一の色ではなく、角度によっては色の深みが感じられるところが魅力です」
写真提供:豊島株式会社
こうしたプロジェクトが生まれた背景には、トレンドの移り変わりが早いファッション産業が抱える課題を解決していこうという気持ちがあったと谷村さんは語ります。
「ファッション産業はたくさんの服をつくり、たくさんの売れ残りを発生させ、それらを消費者に届けることなく廃棄処分している現状があります。また、その多くの製品が化学染料を使用して染められています。一方で、食品業界も同様に食品ロスの課題を抱えていて、廃棄物から生み出される新しい価値があると思いました。私たちは現代に生きる人々の要求に応えながらも、未来に生きる世代の幸せや生活環境を奪ってはならないと考えています」
そうした熱い気持ちを持って臨んだプロジェクトですが、そこにはたくさんの苦労がありました。
「食品メーカーへ営業に訪れた際、当初はなかなか理解を得られずに苦労しました。それでも『世の中を変えたい』という一心でプレゼン資料を片手にCSR部門に企画を売り込み、なんとか理解を得られたんです。また、工場や農園、お店にも足を運び、それぞれの現場で働かれている方々にお話をうかがいながら、たとえ廃棄されるものだとしても、一つひとつの食材を大切にされているという想いを受け取りました」
一方では技術的な部分においても順風満帆とは言えない状況があったそうです。
「技術的な部分においても染料の開発に時間がかかり、試行錯誤の末に辿り着いた結果も、食品が抱くイメージと色が異なることがありました。たとえば、トマトは赤ではなく黄色。それをどのようにして製品化し、お客さまに理解していただくかという部分にも苦労しました。エシカルな考え方は衣食住それぞれの距離を縮め、つなげる役割を持っていると思います。こうした思考が浸透してきたことによって、『フードテキスタイル』も徐々に日常的なものとして受け入れられてきたように思います」
そのようにして生まれた「フードテキスタイル」と手を取り合ってデザインしたのは、オープンカラーの半袖シャツと、Tシャツ。どちらも淡くやさしい色合いが魅力のアイテムです。
「今回は製品染めで商品をつくりました。とくにシャツは『フードテキスタイル』としてもはじめての試みでしたので、技術的な部分で細心の注意を払い、また天然染めの風合いを消さないように心掛けました。お客さまがこの商品を手に取られた際に、このファッショナブルな色合いと共に、そこに込められた意義を知ってもらえたら嬉しいですね」
最後に谷村さんは、こうした取り組みをすることで期待する未来についてこう語ってくれました。
「わたしたちの暮らす社会は大量生産、消費、廃棄の時代ではなく、適量の生産と消費、そして廃棄物のロスをできるだけ少なくすることに価値を見出しています。地球に生きる我々一人ひとりが責任を持って、良いものに出会える感動をシェアできる時代になって欲しいです。そして、少しでも自分たちが後世にできることから行動していきたいですね」
難しかった合成繊維と天然染料の融合を実現。
続いては、ナイロンやポリエステルなどの合成繊維を使用した生地の生産を得意とする小松マテーレ株式会社で営業担当をしている村田遼介さんに「オニベジ」のお話を聞きました。
「捨てるものから生まれる豊かな天然色を表現した天然成分配合ファブリックが『オニベジ』です。タマネギの外皮やその他の植物の廃棄される部分から成分を抽出し、ポリエステルやナイロン素材の染色を行っています。独自の染色技術とタマネギ外皮成分の組み合わせによって、合成繊維を植物成分で染めることが可能になりました」
写真提供:小松マテーレ株式会社
そもそも天然成分を利用する草木染めは、合成繊維への適用が難しかったそうです。「オニベジ」はその課題をクリアしたということ。どのようにして実現したのでしょうか?
「食物染料と合成繊維を結びつけるために必要な材料や条件を検討した結果、タマネギの外皮成分が効果的であることを発見しました。多くの植物をテストした中で、弊社の社員食堂のスタッフが『白い長靴に野菜の色がついてとれない』と呟いているのを耳にし、野菜に集中して検証したところ、タマネギの外皮から抽出した成分との相性が良いことが判明したんです」
タマネギ外皮の成分をベースに、オリーブの葉や絞り殻、ワイン、ぶどうの絞り殻、お米のもみ殻、竹炭などを組み合わせて多様な色のバリエーションを誇るのも「オニベジ」の魅力です。
「6種類の天然成分を使用して25色のカラーバリエーションで染色することが可能です。現在はさらに増やすことができるよう開発を続けています。通常染料とのハイブリッド技術により、ナチュラルな色合いでありながら、天然染料の課題である洗濯による色落ちを抑えていることも魅力です。天然色素にはその中に数十種類の色が含まれています。だからこそ出てくる色に微妙な奥行きがあり、経年するほどに味わいが増していくんです」※ご家庭での洗濯にあたっては各アイテムの取扱い表示をご参照ください。
今回「オニベジ」で染めたのはショーツ。村田さんの言葉にあるように、深みのある色合いが特徴的です。
「いつも〈グリーンレーベル リラクシング〉さんとお取り組みをさせていただく際に定番的に使用しているコットンタッチのナイロンオックスの生地を染めました。生地の風合いを保ったまま、『オニベジ』が持つ独特の色合いを表現することにこだわりました。これを機に『オニベジ』について多くのお客さまに知っていただき、少しでも環境への意識が高まってくれればと考えています」
村田さん曰く「環境との共存を目指して開発された」という「オニベジ」。徐々にその需要が高まっているそうです。
「特に欧州のハイブランドからの人気が高まっています。石油由来の化学染料だけでなく、植物由来の成分を使用し、しかも廃棄物を有効的に活用することで、サステナブルな社会をめざすものづくりとしていい循環が生まれていると思います」
最後に「オニベジ」の今後の展望について村田さんはこう教えてくれました。
「これは当社の中山賢一会長からの言葉ですが99年に『小松精練環境管理宣言』を発表し、人、繊維、自然がともに生きられる地球環境づくりを目指してきました。これからも真のエコロジーやヘルスケアに対する追求を続け、自然との調和を図ることを念頭に置いてアップデートしていきたいと考えています」
消費者の意識として必要なことは?
廃棄される食品を有効活用して服を染める。その裏側には、自然環境との共存への強い思いがありました。普段何気なく生活を送る中で、見えないところでは様々な負荷やロスが生まれていることを意識する必要があるのかもしれません。我々の衣食住はそうした問題と密接につながっています。ひとつの商品を手に取ったとき、それがどのような人たちによって、どのようにつくられたのかを立ち止まって考える。そんな小さな一歩でも、意識的に継続することで、よりよい社会と自然環境が生まれていくように思います。
INFORMATION
PROFILE
谷村佳宏
2007年入社。人事部にて3年間採用活動に携わった後、製品部署へ異動。
カジュアルブランドの生産業務を担当する。ファッション産業が抱える課題を
解決したいという想いから2015年に「FOOD TEXTILEプロジェクト」を立ち上げる。
https://www.foodtextile.jp/
村田遼介
1991年東京都生まれ。小松マテーレ営業3部 東京営業所にて主にユナイテッドアローズの各ブランドを担当。それぞれのデザイナーに提案できる素材のバリエーションを日々模索しているそう。気分も見極めて柔軟に対応する素材のエキスパート。