ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

モノ

2020.05.28 THU.

あらためて注目したい、リネンの魅力。

ありとあらゆる分野での命題である現代のキーワード “サステナビリティ” 。ファッション業界でも、環境に配慮したものづくりが大きな課題となっています。そんな中最近あらためて注目されているリネン素材。ベルギー発祥のコルトレイクリネンを用いた服づくりを軸に、リネン素材の普及に努めるブランド〈ヴラスブラム〉の代表である石井智さんのお話をもとに、今あらためて知っておきたいリネンについて一から学びます。

Photo:Yohei Miyamoto
Text:Rei Kawahara

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身近なようで実は知らない、リネンの歴史。

リネンのことを知るためには、まずその歴史を学ぶことが不可欠。その起源は、近年検証された中ではなんと約3万年前の旧石器時代にまでさかのぼります。実はリネンは人類で最古の素材と言われ、グルジア(現在のジョージア)の人々がリネンを使って染色をしたり洋服に編んだりした形跡があると伝えられています。驚くべきことに、エジプトのミイラに巻かれていたあの包帯もリネンからできたもので、アロマを浸すことによって防腐効果が期待できるのだとか。

王室御用達品として、また軍事品にも使用されることが多かったリネン。つまり高品質で人間の生活に欠かすことのできない素材として重宝されてきた歴史があるのです。長い間あらゆる分野で大事な役割を担ってきたそんなリネンですが、18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命を機に、生産スピードや作業効率が重要視され始め、コットンやウールなどの自然素材、そして近年では合成繊維が主流になっていったのです。

2_vb_storyah_02フランダース地域の黄金に輝くフラックス畑。習慣的にリネンは植物からファイバーの状態までを英語でフラックスと呼び、糸から製品までをリネンと呼びます。

今、見直されているその理由。

産業革命以後、影を潜めていたリネンですが、時は過ぎ再び世に注目されることに。その理由は栽培環境やリネン自体の性質にあります。リネンは雨水を利用するため、灌漑用水を必要としないのが大きな特徴。また、リネンは1年草で約25万トンものCO2を1年間で吸収するという研究結果も。この数値は同じ面積の森林が吸収する二酸化炭素量のおよそ4倍と言われています。

3_vb_storyem_15フラックスが無駄なく再利用されることを示した図。紡績される糸以外には、ロープや建材などのチップボードをはじめとする様々なものへ生まれ変わる。

リネン素材の原料のフラックスと呼ばれる植物は、根っこから種まで色々な製品や資材、飼料として有効利用されるため、廃棄率がほぼゼロ。余すところなく活用できるこの性質こそが、リネンが再注目されるようになった1番の要因かもしれません。そのほかにも、栽培に肥料をほぼ使わず、遺伝子組み換えをしないなど、あらゆる観点で地球環境を崩さない、極めてエコフレンドリーな作物であるということが世界的に認知され始めているようです。

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肌がチクチクするイメージ? リネン素材の特徴について。

だんだんと蒸し暑くなってくるこれからの季節に適した通気性の良い素材。そんなイメージをお持ちの方が多いかもしれません。石井さんによると実は、スポーツ素材の開発のヒントとなるほどの高い自然の機能性を持ち合わせているのがリネンで、その秘密は繊維の中に穴が空いた中空糸という構造だそう。夏は体から出る熱を発散し、冬には熱を保温吸収してくれる優れもの。つまり、実は春夏だけでなくオールシーズンに適した素材なのです。また、乾燥しやすい素材なのでバクテリアなどの菌が繁殖しにくいとも言われているそうです。ヨーロッパなどでグラス拭きにリネンクロスが使われるのはその速乾性の高さからきています。

一方で、リネンは肌に触れるとチクチクするというイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。このイメージは、80年代の世界的なリネンブームに当時リネンの供給量が追いつかず、他の種類の麻などと混ぜられてつくられた粗野なリネン製品が原因だとか。使えば使うほど糸が細かく分かれて肌触りが良くなっていくリネンは、本来下着に用いられるほど繊細な素材で、何を隠そう “ランジェリー” の語源は “リネン”からきているのです。

リネンのケアは難しい? 実は簡単な正しいお手入れ方法。

繊細なイメージから日常のお手入れが一見難しそうなリネン素材。実はケアで気にしておくべきことは至ってシンプル、と石井さんは語ります。リネンの最大の特徴は「水に強く水分を含むと強度が高まる」その性質を利用して「着たらその都度水洗いをして水を通す」または「スプレーで水を与えつつ同時に適度にシワを伸ばして干しておく」ただそれだけだそうです。リネンにとっての大敵は過度な乾燥からくる摩擦による劣化を避けるため、一度水分を通してリネンの繊維を締めてあげることが重要です。そうすることで繊維の強度が保たれると同時に洗いを繰り返すことで繊維の腰が折れてその度に柔らかさが増して肌にやさしくなっていくのだとか。リネンの良さを生かすためにできるだけドライクリーニングを避けることも素材のアンチエイジングにつながります。ヨーロッパでは、リネン製品はあまりドライクリーニングに出さないのが一般的で、シャツからシーツまで一緒くたに家庭の洗濯機で中性洗剤を使いケアができる、非常に利便性の高い素材として知られているほどなのです。
※実際の取扱い方法は各アイテムの取扱い表示をご参照ください。

5_5_11_0092ret「Kortrijk」はベルギーフランダース地方の言葉フラマン語で「コルトレイク」と発音します。また、英語の「Linen」をフラマン語で「Linnen」と表記します。

ベルギー発祥のコルトレイクリネンとは?

続いては世界を見渡せばいくつか種類があるリネンの中から、今季より〈グリーン レーベル リラクシング〉のリネンアイテムに採用されることになったコルトレイクリネンについて。

フランスにほど近いベルギーはフランダース地方の小さな街コルトレイク。フランダース地方を中心とするフラックス栽培の起源は実に紀元前にまでさかのぼり、数世紀に渡って発展を遂げていきます。フランダース地方以外の隣国でも行われていたフラックスの栽培ですが、フランスの百年戦争(1337〜1453年)で近隣諸国が混乱する中、安定的にフラックスの供給ができるコルトレイク地域を中心に、リネン産業が大きくシフト。コルトレイクを中心とする地域独自の手法で製造されたリネンの品質の高さも手伝って、リネン産業の歴史の礎を築いていったのです。

さて、ここで少し解説とその理解が必要なのがコルトレイクリネンの定義について。実はコルトレイクで製造されたリネンすべてがそれに該当するわけではありません。話を進める上でキーになるのは、産業革命以後、リネン産業が衰退していき数々のリネン産業に関わる組織や会社が消えていく中で、数世紀に渡って伝統と技術力を現代まで守り続けた「ジョス・ヴァネステ社」の存在です。

実は歴史的に産業の中心地として栄えたコルトレイクの町の名をとってコルトレイクリネンと銘打たれるようになったのは、つい最近のこと。先代からの知恵と信念を受け継いだ、現在4代目社長のアレックス・ヴァネステがフランダース地方を中心にその年の収穫が良いとされる農場をまわり、自身の手の感触でその品質を選別し、そのお眼鏡にかなったリネンこそがコルトレイクリネンとして誕生するのです。

6_5_11_0079retコルトレイクリネンの糸。繊維がきめ細やかなため一般的なリネン糸に比べてしっとりした感触。

そんなコルトレイクリネンですが、品質の高さをただ表すために付けられた名称ではありません。コットンといえばシーアイランドコットンやピマコットン、リネンといえばコルトレイクリネンといったように、産地をブランドの呼称とするのではなく、エコフレンドリーな原料であることや、人に寄り添ってきた長い歴史や文化などが多くの人に認知されることを願って一つのブランドとして立ち上げられました。

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知識を蓄えてこそ楽しめる、リネンの着こなし方。

リネンの素材感を最大限に感じることができる着こなしは、やはり何と言ってもリラックス感のあるスタイリング。さらっと羽織るだけで軽やかな印象を与えることができます。程良い光沢感を持っているのもポイントで、イタリアの伊達男たちがいやらしく見えないのは、リネンのジャケットやシャツに袖を通しているからかもしれません。また、シチュエーションを選ばないのも大きな魅力。上質なリネンのシャツを一枚持っていれば、ラフに着たいときには洗いざらしのシワ感を生かしたスタイリングを、フォーマルなシーンではアイロンをしっかりとかけて光沢感を生かしたスタイリングなど、気分次第で様々な着こなしを楽しむことができます。

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この夏こそ、自然素材リネンに注目を。

リネンという名前はもちろん良く聞くけれど、どんな素材なのかはいまいち知らない。およそ3万年もの長い歴史を誇り、環境にやさしい素材だったということを知らなかった方も多いのではないでしょうか。数々のリネンにまつわる知識をもとに、今度は実際に手で触れ、袖を通し、身を持ってリネンの素晴らしさを感じてみてはいかがでしょうか。

PROFILE

石井 智

2006年にリネンブランド〈ヴラスブラム〉を立ち上げる。ブランド発足よりリネンの持つサステナブルな魅力を発信し続け、ヨーロッパリネン協会の国際会議でも講演。ベルギーとの1チームでの生産体制を武器に、独自の素材開発とマーケティング戦略を展開する。 www.vlasblomme.jp

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