ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

モノ

2021.02.01 MON.

時代が求める服、資源の消費を最小限に抑える「CFCL」のニットウェア。

「イッセイ ミヤケ メン」を約6年にわたり率いた高橋 悠介さんが、独立して新たに立ち上げたニットウェアブランド〈CFCL(シーエフシーエル)〉。その洗練されたデザインと日常を快適にする機能性を兼ね備えたアイテムは、再生素材と3Dニッティングにより作られています。人にも環境にも配慮された美しい服はどのようにして生み出されたのか──。高橋さんが考えるメイド・イン・ジャパンへのこだわりを紐解くと、これからのファッションの未来が見えてきました。

Photo:Yuka Uesawa
Text:Hisamoto Chikaraishi

いまと次世代を繋ぐために、日常生活にフィットする服を作りたい。

─ご自身のブランド〈CFCL〉を立ち上げたきっかけを教えてください。

学生の頃からファッションデザイナーになるために勉強をしていて、いずれ自分のブランドを持ちたいと考えていました。約10年間イッセイ ミヤケに携わり、デザイナーを務める中で、独立するためのいろいろな条件やタイミングが重なり、中でも昨年の娘の誕生が大きな後押しになりました。大人として次の世代に誇れることをやらないといけない、親として自分の自信や信念を突き通せる環境を作る姿を見せたいという思いが生まれたんです。

かねてより環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんを見て関心を寄せていた環境への配慮と責任を、ファッションのデザイナー、モノづくりをする生産者である自分はどう果たせるか。一般的にデザイナーは服のデザイン、ショーの演出、ショップでの表現を行う役柄ですが、わたしは物流から生産システム、さらに雇用まで責任を持つことが大事だと考えています。

─強い思いを持ってスタートしたブランドのコンセプトに、どんなことを掲げていますか?

イッセイ ミヤケ(三宅デザイン事務所)では、自分たちは社会のために服を作っているということを教え込まれました。決して自己満足ではなく、着る人の目線に立って現代の生活のための服を作ろうと、3つのブランドアイデンティティを掲げています。流行にとらわれない洗練されたシンプルなデザインと快適な着心地を表現する「ソフィスティケーション」、環境に配慮した再生素材を用いた服作りをする「コンシャスネス」、そして、シワになりにくく乾きやすい、自宅でも洗濯できる「コンフォート&イージーケア」。究極は、朝起きた時に部屋着の代わりに着て、そのままレストランまで行けて心地よい服というのが理想です。

ブランド名は、現代生活のための衣服を表す「Clothing For Contemporary Life」の頭文字を取っています。最初は自分の名前を冠したブランド名も考えたのですが、MoMA(The Museum of Modern Art/ニューヨーク近代美術館)やOMA(Office for Metropolitan Architecture/オランダの建築家レム・コールハースたちが設立した建築設計事務所)のように、何をする会社なのか明快であることが大切だと考えました。逆を言えば、この名称、アイデンティティに当てはまらない活動はしませんという指針表明をしたかったんです。

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─〈CFCL〉は、国内で作られる再生素材を使い、日本各地の工場で生産しています。「メイド・イン・ジャパン」にこだわる理由は何でしょうか?

国産による高いクオリティもそうですが、一番は再生素材を手掛けるメーカーや、ホールガーメントと呼ばれる3Dニッティングをお願いしている工場と密にコミュニケーションを取れる関係性を構築できるからです。

主に使っている再生ポリエステルの糸は日本で日本のメーカーが手掛けていますが、厳密に言うと元となるペットボトルの回収と原料の再生工程は台湾やタイなどアジアで行われていますし、原料の石油自体はアラブ諸国から来ています。ただ、それを知ることができる透明性が大事。生産背景においても、OEMや海外のメーカーを通すと基本的に間に人が介在するので、デザイナーの意思がディテールまで伝わりづらい。わたしが直接やり取りできる工場であれば、細かいところまで意識を届けられます。自分が暮らしているコミュニティの中で生産を管理して、完結するのが大事なんです。

というのも、CFCLの服に対する意思は、デザインや生産とあわせて、環境への配慮も含んでいるから。例えば、イタリアから生地を持ってきて、大阪で染めて、東京で作ってとなるとCO2が出ますし、費用が販売価格に反映されます。遠い場所にある工場だとどんな労働条件か把握できません。もしかしたら、天然記念物が棲むデリケートな場所に隣接していたり、産業廃棄物を管理していなかったりする可能性もあります。工場が使っている電力会社を確認して、石炭燃料による火力発電ではなく、風力発電やソーラー発電を活用していくことも促していきます。一つの商品の原料の調達から捨てられるまでのCO2の排出量などの環境負荷を評価するLCA(ライフサイクルアセスメント)を意識しないといけません。食べ物と同じで、ただおいしいものではなく、産地や農薬、保存料の使用を含めた背景にも目を向ける。ちゃんと胸を張って言えることってカッコいいですよね。

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着心地は最大限に、無駄は最小限に。再生糸と3Dニッティングのシナジー。

─〈CFCL〉で採用している再生素材にはどのようなものがありますか?

 今シーズンはキュプラと再生ポリエステルを採用しています。肌に近いインナー類はキュプラを、再生アウターやドレス、パンツはポリエステルを中心に使っています。再生ポリエステルは丈夫である反面、人の肌には強すぎるものもあります。一方、天然素材を原料とするキュプラは肌にやさしく、光沢があって上品に見えるのですが、100%の生地は洗濯機にかけた時に白っぽく褪せたり縮んだりするので、ポリエステルと混紡されている糸も使っています。

現在、再生素材100%の糸は使っていますが、全体としての使用率は100%ではありません。一部の商品は再生ポリエステルを20%、ジャケットやインナーでは再生ポリエステルを35%とキュプラを45%採用しています。日本の法律では、再生と通常のポリエステルを使っていたら表記はまとめてポリエステル100%にしないといけないんです。そこで、消費者庁に掛け合い指導を受けたのち、ポリエステル100%に加えて再生ポリエステル20%と表記しています。ゆくゆくは再生ポリエステル100%にしたいです。また、素材選びでいまいちばん大切にしていることは、認証マークがついているものを採用していくこと。キュプラはGRS(グローバル・リサイクル・スタンダード)認証を取得している旭化成の「ベンベルグ」を採用しています。

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©Mikio Hasui
(上段)3Dニッティング(ホールガーメント)はニットの編み地をプログラミングを入力して決める。右の拡大した画面では、横に編み組織が連なっているガーター組織(横リブ)を指定したプログラミングを示している。
(下段)再生糸を糸立てにセットし、キャリアを通してニットを編むニードルを備えたベッドへと送る。一着に使う色の糸コーンが編み機の上に並ぶ。

─洗練されたデザインと気持ちのいい着心地を提供する〈CFCL〉の服は、先ほどのお話にも出てきた3Dニッティングで作られています。3Dニッティングに注目した理由やその魅力について教えてください。

もともと大学院でコンピューター・ニッティングを勉強していました。服を作るにはパターンを引いて生地を裁断して縫製するという工程が必要な中で、プログラミングをして糸をセットしたらできあがった製品が出てくるという技術が面白いと思いました。ニットをオケージョン(フォーマルな場や特別な行事)で正装として着ることはあまりないですが、ここ数年でニットやジャージを使った洗練されたドレスやセットアップが登場しているので、需要として伸びると考えました。

3Dニッティングは縫い目がないのでストレッチが効いて着心地がいい。素敵に見えて快適。肌に吸い付くようなシルエットのワンピースを作ることも可能です。なので、サイズ展開は1、3、5としていて、多くは丈を変えているだけです。アイテムにもよりますが、原則男性と女性、そして身幅に左右されずに着られます。

そして、糸から直接服を作るので残糸を極力減らすことができます。生産管理の関係で余ってしまった糸も、何種類かを集約して編むことで一点モノを作りことができます。無駄をなくしていくことができることも大きな魅力ですね。

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©Mikio Hasui
(上段左)糸一本一本に対応したキャリアが一斉に稼働する。
(上段右)編み地や糸の切り替えにも対応しながら、縫い目を作らず糸からダイレクトに一着ができあがる様子。
(下段左)色の先から編めないため、最初の編み端には捨て糸が生まれる。
(下段右)捨て糸を切り落としたら完成。横に伸縮するリブ編みと縦に伸縮するガーター編みを組み合わせることで、独特なシルエットに仕上がる。

─プログラミングでニットを作る際、どのように進めていくのでしょうか?

わたしがiPadで描いたデザイン画を元に、ディテールや着心地に適した糸を選び、工場のプログラマーと相談して作っていきます。緻密にプログラムを組んでいても、糸と編み方の相性によって質感やシルエットなど細かい部分がイメージと異なることもあるので、試行錯誤しながら品質をコントロールしています。

─製作工程も含めて、アイテム一つひとつがとても新鮮で洗練されています。

ニットのデザイナーは、ほっこりした柔らかいニットらしいアイテムを好む方が多いので、シャープな印象を持ったモードなニットウェアはあまり存在していないと思います。業界内のブルーオーシャン。その分、これまでのイメージが根強く残っているので、マーケットを創造するためのパワーと時間が必要です。日本は技術力があり、質の良いものを作れる環境があります。そこに、わたしがスタイルという価値を加えて、世界に通用するオリジナルを生み出せたら嬉しいです。


それぞれの意識を変えて、サステナブルを当たり前に。

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─今後持つべきサステナブルの考え方や意識についてどうお考えでしょうか?

ここ2、3年で「サステナブル」がなじみのある言葉になりましたが、どうすることが正しいのか把握することも、それを完璧に実行することも難しいと思います。エコファーは、動物愛護の観点ではポジティブですが、マイクロプラスチック排出の観点では大きな問題になります。また、天然のレザーを使っていた靴を合皮製に変えることで、強度が減り、3年もっていたものが1年で壊れる場合、単純に3倍ゴミを出すことになってしまいます。一人ひとりが普段から、知ることと考えることを意識していかないといけません。

─個々の意識が変わっていくことで、大きな変化を生み出すということでしょうか?

はい。現状は、服を入れるビニール袋も梱包するためのクラフトテープも、再生素材を作るのにかなりコストがかかってしまったり、ロットを積まないと発注できなかったりします。しかし、より多くの人がサステナブルな素材を選択していけば、それが当たり前になり、安価になり、バリエーションが増え、普通の素材として手に入れることができるようになります。

また食べ物との比較になりますが、添加物やアレルギー性の成分はすべて記載しているように、本当は服も裏地やファスナーやボタンなど細かくしっかり明記すべき。そのためには、法律を作っていくことに関与する必要もあるのではないかと考えています。デザイナーは政治と距離を取る方が多いですし、それが常ですが、わたしはこれから各所に働きかけをしていきたい。


世界基準のグッドカンパニーを目指して、「Bコーポレーション認証」の取得へ。

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─高橋さんが、そして〈CFCL〉が今後目指すことは何でしょうか?

先ほど認証マークを取得している素材を採用すると申し上げましたが、会社としても環境や社会に配慮している証を取りたいと思い、アメリカの非営利認証団体が運営する「Bコーポレーション認証」の取得に向けて動いています。そのためには、国連が定めているSDGsに則った形で設けられた質問に答えていき、200点満点中80点以上を獲得すると認証を受けることができます。例を挙げると、協業するサプライヤーが使っている電力会社をどこまで把握しているか、従業員がリモートワークをしている時に出る産業廃棄物を管理しているか、など多岐に渡ります。

─実際、認証取得のためにいま行っていることを教えてください。

Bコーポレーション認証の質問には労働者への福利厚生も含まれていて、まだ我が社は社員が少ないですが、将来を見据えてこの機会に100ページに近い就業規則を作成しています(日本では、社員10人以上の企業は就業規則を作る必要がある)。出張規定や休暇、労災、マタニティに関する規則を充実させています。まだまだわたしたちの会社の規模は小さいので、Bコーポレーション認証でクリアできる項目は少ないですが、ひとつひとつ対応していこうとしています。

Bコーポレーション認証はすでに世界基準となっています。今後はしかるべき認証を受けているか否かで、資材を調達します。近い将来は、ブランドのコンセプトとして「サステナブルである」「環境に配慮している」ということを掲げる必要がなくなることが理想です。「どうすれば良い会社になるか」を常に考えていきたいですね。

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PROFILE

高橋 悠介

1985年、東京都生まれ。文化ファッション大学院を修了した後に、株式会社三宅デザイン事務所に入社。2013年より「イッセイ ミヤケ メン」のデザイナーに就任する。2020年に独立し、株式会社CFCLを設立。www.cfcl.jp

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