ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

モノ

2021.02.25 THU.

旅にも日常にも。suzuki takayuki × ルーカスB.B.の心を豊かにする下着づくり。

「地上で読む機内誌」をコンセプトにしたトラベル・ライフスタイル誌『PAPERSKY』と〈ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング〉がタッグを組み、旅に持っていきたくなるアイテムを作る「TRAVELING PARTNERS(トラベリングパートナーズ)」という企画を進行中。第2弾では、ファッションブランド〈suzuki takayuki〉との3者コラボレーションにより、至高のアンダーウエアを作りました。今回は、『PAPERSKY』の編集長であり、クリエイティブディレクターのルーカスB.B.さんと、〈suzuki takayuki〉のデザイナーのスズキタカユキさんに、コラボレーションのきっかけやアイテム制作におけるこだわりや想いを余すことなくお聞きしました。

Photo:Hiroyo Kai(STUH)
Text:Hisamoto Chikaraishi

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山の中でも家の中でも着心地のいい
アンダーウエアを求めて。

ー今回、Tシャツとボクサーパンツといったアンダーウエアを作った経緯を教えてください。

ルーカスB.B.(以下、ルーカス):これまで『PAPERSKY』では、「TRAVEL TOOLS」としてさまざまな商品を作ってきて、いつかアンダーウエアを手掛けたいと思っていたんです。ぼくは旅が好きで、山歩きをしたり、自転車に乗ったり、散歩をしたりアクティブに過ごす中で、あまり物を持ちたくないので、できる限り同じウエアをいろいろなシーンで使いたいと考えています。『PAPERSKY』の考え方としても、自然や文化があるところに分け隔てなく行動していきたい。でも、スポーツウエアではランナー用、自転車乗り用と分かれていて、ファッションとも切り離されています。最近はメリノウールの下着を愛用しているのですが、これがベストではないかな、なんて思っていて。

スズキタカユキ(以下、スズキ):おそらくそんなときにちょうどわたしの展示会に遊びに来てくれたんだと思います。シルクやカシミア、コットンなどいろいろな素材を採用したストールに興味を持たれていたんです(笑)。その後にルーカスから、あのストールが印象に残っていると聞いて、素材の配合や調整によって面白いものができるんだねという話で盛り上がりました。

ルーカス:以前、タカユキさんを取材した際に、彼が手掛ける服を見たことがあったけど、じっくり触ったり着たりしていなくて。普通の服で使っている素材は、コットンやポリエステルなどだいたい2種類くらい。でも、タカユキさんの服は、4つ、5つの素材を使っていて、しかも割合も31%や28%で普通とは一味違うなと。ぼくが想像していた以上に、タカユキさんは素材が好きで、着心地と使うシチュエーションにかなりのこだわりを持っている人だと思ったんです。そして、彼ならアンダーウエアを作るパートナーにぴったりだと。「TRAVELING PARTNERS」の企画を進めていたので、上質なアンダーウエアを作って『PAPERSKY』の考え方を幅広い層に届けられたらなと思いました。

2_AI_7658「TRAVELING PARTNERS」第一弾のアイテム。

スズキ:自分としてもアンダーウエアというお題は新鮮でしたね。いまの世の中においてバランスがいいモノづくりをしていきたいという考えを信頼してオファーしてくれたことがすごく嬉しかったです。また、着心地とデザインを両立するために、タグの有無や縫い目、ちょっとしたサイズ感などディスカッションを重ねて、いつも以上に踏み込めた実感がありました。

ルーカス:家で着ていて快適でも、外に出て汗をかいたりすると着心地が悪くなってしまう服もある。その逆もまた然り。その二つの面でバランスが良いアイテムを作りたかったんです。トンカチは日本でもアメリカでもハンドルの形が違うくらいで、おそらく100年くらい変わっていないと思うんですが、今回作ったアンダーウエアもどんなシーンでもそのまま使える定番になったらいいと思って取り組んでいました。

スズキ:今回目指したのは、スタイリッシュに見えることはもちろん、程よくリラックス感があって、ある程度ハードに動いても大丈夫ということ。そんな相反する性質、性能をひとつにギューっとまとめる作業でした。できあがったアイテムはとてもシンプルに見えますが、かなり立体的に作っています。Tシャツも後ろ身頃で生地の分量を取っていたり、パンツも部分部分でちょっと生地をつまんで立体的にしていたり…。「ここ、2mm出そう」など、細かく話し合いました。どういう機能と質感を融合していくかを突き詰めていく作業が面白かったですね。

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ルーカス:そうですね。ぼくがやりたいことをタカユキさんが理解してくれて、自身の解釈でいろいろと提案してくれました。匂いを抑える素材として竹を伝えたところ、ぼくの意図や素材の意味を吸い上げてくれてシルクを使うことになりました。素材自体は日本の要素がありつつ高級感があって、アンダーウエアに使うことが斬新だと思いました。狙っているところを自然と理解し合っていいものができた気がします。


肌触りと機能性を両立する
天然素材8:2の黄金比。

ーコラボレーションでアイテムを作る上で、こだわったポイントはどこでしょうか?

ルーカス:山や旅に出掛けると服を洗濯できないこともあるので、匂いを抑えられるものが好ましい。また、体を動かしているときもリラックスしているときも心地いいフィット感にこだわりました。細かいところでいうと、後ろにタグがあると邪魔になるので、プリントにしたり。タカユキさんと話し合いながら、何度もアップデートしていきました。

スズキ:ルーカスはいまも話してくれたように、山でも家でも快適という、いいバランスを狙っていて、素材に対してオーガニックじゃないとダメということではなくて、使いやすさや心地よさを大事にしていることに共感できました。モノづくりにおいて大切なことは、どういうものを作りたいかということ。ルーカスの要望を満たすために、結果天然素材を組み合わせることになりましたが、そこに再生繊維や竹、和紙などの繊維を入れることも可能性として考えていました。ルーカスとのフラットな関係があったからこそ、いろいろと試行錯誤ができて刺激的な製作期間でしたね。

ルーカス:素材の配合を考えながらサンプルを何回か作ってもらって、いろいろなシーンで気持ちよく着られる理想のアイテムができあがりました。

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ーアイテムの機能性について教えてください。

スズキ:旅に持っていくアイテムなので、肌触りが良く、乾きやすく、匂いなどを抑える効果があるものを目指しました。今回使っている素材は、オーガニックコットン80%、シルク20%。コットンは吸水性に優れていて柔らかく、シルクは吸った水分を発散する性質があって乾きやすい。また、繊維の中に蚕の唾液であるセリシンというタンパク質が含まれていて、汚れが入りづらく、匂いがあまり出ない。さらに、長く使えるように、洗っても機能が衰えないものがいい。最終的にはシルクの割合を30%と20%の2パターンで検証しました。30%だと生地がデリケートになりすぎて、タフさに欠け、20%にするとシルクの特徴へのアプローチが減ってしまう。結果的に、20%の割合にし、抗菌性を持つキトサンの成分を配合することにしました。


最高のインナーがあれば
家族や友人と過ごす長旅も快適に。

ー今回製作したTシャツとパンツを持って旅に行くとしたら、どこにいきたいですか?

ルーカス:まだまだ海外に行くことはできませんが、行けるようになったらアメリカの家族や友人を訪ねたいですね。家族はニューヨークから2時間半くらいのところにある森の中に住んでいるんですが、コロナ禍になってから毎週電話で話すようになって、以前より距離は近くなっていますね(笑)。それと、ニューメキシコに住んでいる友人の家でゆっくり過ごしたいです。彼の家の近くには、かつてジョージア・オキーフという画家が住んでいて、彼女の見た世界を見たくて取材に行ったことがあるんですよ。彼の家に泊まって数日過ごしたのですが、その時のことが忘れられなくて。サボテンのような植物しかない砂漠にある一軒家で、ポーチに出て彼のピアノの音色を聴きながら過ごした時間は最高でした。

5_Lucas_pickupニューメキシコの友人宅での一枚。
写真提供:ルーカスB.B.

スズキ:それはすごく素敵ですね!

ルーカス:はい。あとは友人がいる台湾やニュージーランドやスイスにも行きたいですね。タカユキさんはこのアイテムを持ってどこに旅に出たいですか?

スズキ:コロナ禍の前はルーカスにも取材に来てもらったことがあるのですが、わたしは北海道の根室市に家を借りていて、一年の3分の1くらいは家族と過ごしていました。いまはこういう状況なので控えていますが、落ち着いたら根室に行ってしばらく自宅にこもりたいです(笑)。

ルーカス:いいですね! ぼくもまた行きたいです。今回作ったTシャツとパンツはもちろん旅だけでなく、日常で使ってほしい。ぼくはいま持っているアンダーウエアを全部捨てて、これに替えます(笑)。

スズキ:ぼくも毎日の生活に使いたいです。こだわったインナーやアンダーウエアを着ると、ちょっとした贅沢な気分になりますよね。心が豊かになるというか…。

ルーカス:これ1枚で生活ができると思うと、気が楽だし、天然素材の快適な着心地で豊かな気持ちも手に入りますね。

─旅のプロであるルーカスさんが、旅の持ち物を選ぶ際に気をつけていること、大事にしていることはありますか?

ルーカス:旅や登山では、よく汗をかくので、夜に洗って次の朝に乾いているのが理想。かといって、Tシャツやインナーを増やして荷物が重くなるのは避けたいですよね。なので、今回製作したアイテムは機能性を備えました。長い間旅をしていると、身軽な分、自由になれるということに気づきました。例えば、隣に80kgの荷物を持っている人がいたとします。その人はいろいろなアイテムを持っているかもしれないけれど、身も心も縛られてしまうんです。一方、5kgの荷物を持っているぼくは「まだ余裕があるから、おいしいワインを1本持って行こう」と思うんです。

スズキ:ぼくも紙袋2、3個で引越しできるくらい持ち物が少ないので(笑)。ルーカスのワインの話は共感できます。「物をたくさん持っている」「高価な物をたくさん持っている」ということよりも、どれだけ自分が自然体でいられて、自由に行動できるかどうかという幸福感の方を大切にしたいと思っています。自分の気持ちに正直でいられるような物を身につけていることを考えていきたいですね。

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新しい価値観の扉を開くために
コラボレーションは大きな意味がある。

ーおふたりのこだわりと挑戦の下、シンプルで斬新なウエアが誕生しました。スズキさんがコラボレーションでのモノづくりにおいて大切にしていることや意義を教えてください。

スズキ:できないことを決めないことです。自分でできることしかやらないなら、一人でやればいい。何事も無理だなと思うことの先に答えがあると思うので、常々気をつけています。それは今回で言うと全部なのですが…(笑)。コットンにシルクを混ぜたオリジナルの生地を作るところからはじめていて、コストも含めて「これは困った!」と思うことも確かにありました。ですが、ルーカスやグリーンレーベルさんとコラボレーションすることは、自分がいまより一歩前に進めるチャンスなので、その挑戦を新しいこととしてポジティブにとらえながら、同時にビジネスとして商品を売ることも考えて製作してきました。

ルーカス:「TRAVEL TOOLS」でいろいろな方とアイテムを作らせていただきましたが、これは雑誌を作るプロセスにとても似ているんです。自分自身は詳しいことが多くないけれど、タカユキさんがおっしゃったように、さまざまな人と出会い一緒に作り上げることで、普段開けない扉を開けることができます。また、共同作業をすることで自分の人間性までもが成長できる気がします。同じ課題でも人によってアプローチが違うので、それが刺激となって自分の生きがいになります。そうやって一緒にいろいろな体験をすることで相手のエネルギーを吸収し、クリエーションが循環していくんです。これがコラボレーションの意義だと思います。

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スズキ:今回、アンダーウエアという生活に密着したアイテムを、シンプルかつベーシックなデザインで作らせていただきました。このアイテムをきっかけに、多くの人にシーンを超えて快適に着られるという新しい感覚、今までとは違った価値観に気づいていただければ嬉しいなと思っています。その点で、グリーンレーベルさんとご一緒できたことは、その入り口や人の目に触れる機会を増やす大きな原動力になると感じています。

ルーカス:まさにその通りですね。20年続けてきた『PAPERSKY』はありがたいことにファンの方もたくさんいますし、多少なりとも影響力があると思います。ただ、ぼくたちだけで想いを伝えていくにはやはり限界があります。なので、
〈suzuki takayuki〉さんとグリーンレーベルさんとの3者コラボレーションには大きな価値があると思うんです。ぼくたちが普段触れ合っていない層に届けられるので、この取り組みによってみなさんが新しい価値観を味わうきっかけになってくれたらと。そして、それが“また想いのこもった素敵なアイテムを作ろう”という前向きな気持ちに繋がり、ハッピーな気持ちが巡っていくと思っています。

PROFILE

ルーカスB.B.

1971年アメリカ・ボルティモア生まれ。カリフォルニア大学を卒業し、卒業式の翌日にバックパックひとつで来日。『TIME』『WIRED』『JAPAN TIMES』にて、カルチャーやライフスタイルを専門とするフリーランスのライターとして活動し、1996年に日英バイリンガルのカルチャー誌『TOKION』を創刊。2002年にトラベル・ライフスタイル誌『PAPERSKY』を創刊。「エスノ・トラベル」 という新たな視点で、時間、自然、文化をシームレスに融合させ、未来と繋ぐフレッシュなメディアを創造している。papersky.jp

スズキタカユキ(Suzuki Takayuki)

服飾家。ファッションブランド〈suzuki takayuki〉代表。1975年、愛知県生まれ。アートギャラリーでの作品展示をきっかけにダンス、音楽関係の衣装を手掛けるようになる。2002年より、ファッションブランド〈suzuki takayuki〉を立ち上げ、国内外でコレクションを発表し続けている。また、様々なアーティストとのコラボレーションや、ミュージシャンへの衣装提供、演劇や、ダンス、映画関係の衣装製作、舞台美術等も精力的に続け、布や衣服に関わる多くの活動を行なっている。東京都と北海道根室市の二拠点生活を行う。www.suzukitakayuki.com

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