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2021.04.08 THU.
ファッションと抗菌の融合。「CATIA」のTシャツが生活にもたらすこと。
目指したのは、安心して着られて、なおかつファッション性にも優れた服。〈ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ(以下、BY)〉からリリースされた「CATIA(キャティア)」というカットソーは、そんな発想から生まれました。抗菌防臭機能を持ち、1枚で着てもファッションとして完結する。そして、商品が包まれているパッケージも生活の中で再利用ができる。ありそうでなかったアイデアが詰め込まれたアイテムなのです。今回はBYメンズファッションディレクターの藤橋 享平さんと、その商品開発を担当した同ブランドのチーフデザイナーである野原 智明さんに、商品に込めた想いを語ってもらいました。
Photo:Takeshi Wakabayashi(YUKIMI STUDIO)
Text:Yuichiro Tsuji
抗菌機能があって、なおかつファッションとしても楽しめる服。
ーはじめに「CATIA(キャティア)」が生まれた背景について教えてください。
藤橋:コロナ禍以降、ファッション業界でも「抗菌」という概念はひとつのキーワードとして注目されています。「CATIA」は、世界的にこうした状況になって、ブランドとしてできることはなんなのかと考えた結果生まれたアイテムなんです。とはいえ単に抗菌の服を作るだけではなくて、ぼくらなりの考え方で作る必要がありました。店頭で販売されている服はそのほとんどがそのままの状態で陳列されていますが、「CATIA」はパッケージに入っていて、お客さまがご自宅で開いてはじめて触れられるようにしてあります。
ーパックTのような概念を持たせたということですね。たしかに、店頭で誰にも触れられていないというのはより安心感がありますね。
藤橋:そうですね。店頭では各サイズのサンプルを用意して、お客さまにはそちらでサイズ感をご確認いただけるようになっています。あとはパッケージの内側にも抗菌機能を持たせていますし、圧縮機能のある袋をセレクトして生活の中で再利用できるようにしたかったというのもあります。
ー開けて終わりではなく、その先でパッケージも有効的に利用できるということですか?
藤橋:そうですね。たとえば旅行やキャンプ、運動後などのシーンで、服やその他の持ち物をこの中に入れて持ち運べるものにしたかったんです。なので、圧縮機能を持たせてコンパクトに収納できるようにしています。それに加えて、従来のパックTはアンダーウエアのような感覚が強かったと思うんです。でも「CATIA」はきちんとファッションとしても成立するアイテムにしたいと思いました。
野原:スポーツウエアやインナー用の服で抗菌機能を持たせた服はあったのですが、ファッション性も優れたアイテムというのが、あまりなかったんです。とはいえ、1年に1回着るような服が抗菌になったとしても、それほど意味を持ちませんよね。TシャツやロンTはワードローブに欠かせないアイテムですし、デイリーに着られる服であれば、抗菌の意味合いがより強まるのかなと。
デザインされたアイテムであることを主張するディテール。
ー何度も袖を通してもらうには、デザインがとても重要な役割を持ちます。「CATIA」をデザインする上で、ファッション性に関してはどのような部分にこだわりましたか?
野原:いくつかこだわったポイントがあります。ひとつはシルエットで、1枚で着てもサマになるものになっています。
藤橋:ぼくがいま着ているのは、ロングスリーブのXLです。ぼくは体が大きいのでこれでジャストサイズですが、普通体型の方ならすこしゆるめに着られると思います。
野原:やはりいまの時代はオーバーサイズが主流になっているので、そうしたシルエットを意識しつつも、ダボダボにはならないようなサイズ感にしていますね。〈BY〉では程よくゆったりしたジャストルーズなシルエットがお客さまに支持をいただいていて、半袖も長袖もそうした傾向を参考にしながらデザインしています。
ーなるほど。このステッチも特徴的だと思いました。
野原:ネック、肩、アーム、手首にダブルステッチといわれる縫製を施しています。シャツでよく使われるステッチですね。通常、Tシャツはステッチワークがあまり前にでてこないんですが、「CATIA」の場合はそれをあえて前に出しました。そうすることで、きちんとデザインされたアイテムであることを主張するディテールに仕上がったと思います。
ーネックを見るとしっかり詰まっていて、きちんとした印象に見えますよね。
野原:〈BY〉で〈ヘインズ〉の別注パックTを長く販売し続けているのですが、そのTシャツもネックが詰まっているんです。それがとても評判がよくて、「CATIA」にもそうした感覚を詰め込んでいるんです。リブも少し幅を広くして、存在感のあるデザインにしていますね。
藤橋:1枚で着たときの印象をすごく整えているというか、そういう細かな部分にもこだわって作っていますね。
ーつるっとした表情の生地も魅力的です。
野原:厚すぎず薄すぎない程よい厚みで、目の詰まった生地を開発しています。でも、アメリカのヘビーデューティなTシャツのように無骨な表情にならないように、毛羽を目立たなくしているのもポイントです。生地に使われている糸は、紡績する際に毛羽を内側に閉じ込めるような方法で紡がれていて、それに加えてガス焼きで表面の毛羽も極力少なくしているんです。だから、このようにクリーンでなめらかな表情になっています。
藤橋:あとは色にもこだわっています。パックTはどうしてもインナーの印象が強いと思うんですが、それを払拭するような色展開にしました。白は定番として作りつつ、黒はすこしチャコールっぽいくすんだ黒に。ベージュもややグレイッシュな色にしていて、“いわゆる”な色にしていないところがポイントです。
コットンでも十分な抗菌機能を得られる。
ー「CATIA」の特徴である抗菌機能は、どのような仕組みなのでしょうか?
野原:Tシャツに関しては、医療現場やベビー用品にも用いられる液体原料が加工剤に使われています。抗菌機能を持ったすごく微細な粒子を、生地を染色する段階で一緒に混ぜて、熱を加えることで定着させています。それによって洗っても簡単に劣らないんです。パッケージは抗菌剤を練りこんだフィルムで内側を覆っています。
ー防臭効果もあるんですよね?
野原:そうですね。どうして臭うかというと、衣類に付着している黄色ぶどう球菌が汗や皮脂を餌にして不快な臭いを発生させるんです。でもTシャツに抗菌作用があることで、黄色ぶどう球菌の増加を抑えて、防臭効果に繋がっています。また、部屋干し臭にも効果があります。
ー旅行などで長時間移動する際や、キャンプやフェスなどのアクティビティでなかなかお風呂に入れないときにも、防臭効果のある服は活躍しそうですね。
野原:そうですね。パッケージも含めて、日常ではもちろん、そうしたシーンで使えるアイテムになっていると思います。
ーこうした抗菌防臭機能を持った服は、化学繊維を使用しているイメージが強かったのですが、コットン100%でも実現可能なのがいいと思いました。
野原:化学繊維を使用すると、どうしてもスポーツウエアのようなテクニカルな表情になってしまいます。日常のファッションになじむTシャツはやはりコットンの風合いが魅力だと思いますし、それありきでこの企画を進めていたので、コットン100%という部分は絶対にゆずれないポイントでした。それを実現できる技術がわたしたちの生産背景にあって、コットンでも十分な抗菌機能を得られるということだったんです。
「抗菌」の2文字をパッケージに入れるのは挑戦だった。
ー「CATIA」を作るにあたって、困難なことはありましたか?
野原:Tシャツもそうなんですが、こうした抗菌効果は第三者機関で検査をしてもらい、抗菌能力を数値化して基準に照らし合わせています。でもコロナ禍ということもあり、今回その検査にすごく時間がかかってしまったのが苦労した点でしょうか。Tシャツの検査は比較的スムーズだったんですが、パッケージのほうは想像以上に時間を取られてしまって、納期に間に合うかドキドキしながら結果を待っていました(笑)。
藤橋:あと、このパッケージに「抗菌」という文字がプリントされているのですが、それもぼくたちにとってはある種の挑戦でした。「CATIA」は南米の言葉らしいのですが、深い意味は込めていません(笑)。というのも、「CLEAN」とか「HEALTHY」という言葉を用いると、どうしてもそうしたイメージが強調されすぎてしまって。企画そのものはファッションありきで考えていたので、そのバランスが取れる名前を考えた結果、「CATIA」となりました。なんとなく字面がいいし、響きも覚えやすいし、清潔感もあるので。
ー実際に店頭での反応はどうでしたか?
藤橋:新しい提案がゆえに伝わりづらい部分があるのかもしれませんが、スタッフが接客をするとお客さまもご納得いただいてご購入されるケースが多いです。
ー継続は力なり、という言葉がある通り、地道に提案し続けることでお客さまにその魅力が浸透するといいですね。
野原:そうですね。「CATIA」は今後定番的にお店で展開していこうと思っています。その反応が良ければ、カットソー以外のアイテムも作りたいですね。
藤橋:スタッフからの反応は上々ですし、ぼくらとしてもかなり自信を持ってご提案しているアイテムなので、一度手にとっていただいたらその魅力をわかっていただけると思います。がっかりさせることはないと自負しているので、ぜひお試しいただきたいです。
INFORMATION
PROFILE

藤橋 享平
ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ メンズファッションディレクター 2002年入社。販売スタッフを経て、2010年より商品部に異動。アシスタントバイヤー、バイヤーを経験した後、2018年よりビューティ&ユース ユナイテッドアローズのメンズファッションディレクターを務める。

野原 智明
BY本部 メンズ商品部 企画生産課 課長 兼 チーフーデザイナー
2006年入社ビューティ&ユース レーベル発足時より企画を担当。エイチ ビューティ&ユースのデザイナーも兼務。