
モノ
2021.04.15 THU.
不用なものに息を吹き込む〈WACCOWACCO REVISION〉のモノづくり。
ヴィンテージ素材を解体・再構築したバッグで、モノのあり方、モノとヒトとの関係性を根本から見つめ直そうとする革命的ブランド〈WACCOWACCO〉。そのゲリラ的プロジェクトである〈WACCOWACCO REVISION〉が挑戦するのは、廃棄される運命にある“端切れ”の再構築です。“価値のある資材は、その端切れですら価値を持つ”という考えのもと新たな命を与えられたのは、廃車工場にうずたかく積まれていたエアバッグとシートベルト。役割を終えたモノを、別の形で再び世に送り出し、循環を続けてゆく。〈WACCOWACCO REVISION〉のモノづくりへの想いについて、デザイナーの須藤 絵里子さんに伺いました。
Photo:Wataru Kakuta
Text:Aya Kenmotsu
価値ある素材の価値ある端切れをバッグに再構築するプロジェクト。
ーまずは、〈WACCOWACCO REVISION〉というプロジェクトの成り立ちについて教えてください。
〈WACCOWACCO REVISION〉は、メインの〈WACCOWACCO〉のエコラインという位置付けで、ゲリラ的に行っているプロジェクトです。始めるきっかけになったのは、〈WACCOWACCO〉の3度目のコレクションの後に、大量の“端切れ”が出たことでした。
ー端切れ、ですか?
はい。〈WACCOWACCO〉は、ヴィンテージ素材や、機能性など非常に作り込まれた素材、ある時代のカルチャーを牽引した素材など、過去には脚光を浴びながらも、今では日の目を見なくなってしまった価値ある素材を解体・再構築するバッグブランドなんですが、この時は、イギリスのブランドの素材を使ったコレクションを発表しました。
イギリスに行けばどの家にもあるようなブランドで、その素材はとても素晴らしい。こんな良い生地をこのまま眠らせてしまってはいけない、と、本国仕様のものに限定して素材を集め、全部開いて、バッグの形に再構築したんです。
ーものすごい作業ですね!
集めるところからですから、大変でしたね。結局600枚くらい捌きました。そのコレクション自体は、ご好評いただいたのですが、その後に残ったのが、大量の端切れだったんです。
バッグって、パーツが大きいので、布から取るときに端っこがすごく余っちゃうんですよ。袖や襟などからはパーツが取れないし。もともと、この素材が大好きで、活かしたいと思ってバッグを作ったわけですから、もったいなくて捨てられないんですよ。でも、バッグには使えない。どうにかせねば、と。それで、小さいパーツで構成できるものを作ってみよう、というのが、〈WACCOWACCO REVISION〉のはじまりだったんです。
ーそれが、“価値のある資材は、その端切れですら価値を持つ”という〈WACCOWACCO REVISION〉の考えになっていったのですね。
メインの〈WACCOWACCO〉ラインは、国内の職人さんにお願いして、コストをかけて作っていますが、捨てる一歩手前のような端切れを使ってそれをやってしまうと、人様の手に届きにくくなる。だから、〈WACCOWACCO REVISION〉は大量生産、大量消費の波にあえて乗せて、手に取りやすいものを作ろうと、初めて海外で生産しました。周りの反応もすごく良くて。〈WACCOWACCO〉のコンセプトが好きだと応援してくれていた人だけでなく、〈WACCOWACCO REVISION〉から入ってくれた人もいて。だから、機会があればまたやってみたいと思っていたんですよね。
使命を全うしたエアバッグを助けたい。
ーその後、プロジェクト第2弾となった素材が、エアバッグとシートベルトだったんですね。この素材を使おうと思ったのは、何かきっかけがあったんですか?
これはもう本当に、ただの“出会い”で。最初の〈WACCOWACCO REVISION〉の後、しばらくはメインラインの活動が忙しくて、間が空いていたんですが、わたし自身は、ずっと「またやりたい」と思っていたので、周囲の人に「何かいい素材はないかなあ」って言い続けていたんですね。そうしたら、ある日、知人が、「エアバッグなら、廃車工場に大量にあるよ」と。生地状になっているわけではないし、作りづらい面もあるかもしれないという事でしたが、「エアバッグ!? これは面白くなりそうだぞ」と(笑)。それで、実際に、巨大な廃車工場にお邪魔したんです。そうしたら、もうすごく面白くて。
廃車工場では、車がシステマチックにどんどん解体されていくんですが、フレーム、ハンドル、タイヤ、シートと、それぞれのパーツは、全部引き取り先が決まっているんですよね。最後、ハリボテのようになったボディも、ショベルカーでバリバリ壊してキューブ状にして。そして、それにも引き取り手がいる。全部がまた次の場所へまわっていくんです。素晴らしい! と感動しました。ところが、エアバッグとシートベルトだけは引き取り手がなくて、山のように積まれて焼却処分されていたんです。
取り出されたエアバッグはすべて白。右側にあるネイビーは後染めしたもの。
ーエアバッグは取り出された後、捨てられてしまうんですか?
エアバッグって、ハンドルの中に格納されているじゃないですか。その工場では、ハンドルに小さな衝撃を与えてエアバッグを噴出させる専用の機械があるんです。それがボン! ボン!って、運転席と助手席のエアバッグを出す。出されたエアバッグは切り取られて、どんどん積まれていくわけです。そして、ハンドルの方は、ちゃんと買われていく。ですが、エアバッグは処分される。
その様子を見ていて、「あともうちょっとのところにいるのに」と思ったんです。「もうちょっとでみんなみたいになれるのに」って(笑)。
ー循環の輪に入れるのに、と。
「エアバッグ」と聞いて工場に行くまで、わたしは、その素材自体に興味を持っていました。でも、そこで考えが少し変わりました。「すごく惜しいな、がんばれ」みたいな気持ちに。
人命を守るために装備されているという時点で、この素材にはロマンがある。エアバッグを助けたい。そう思ったんです。
捨てる、手放すことは悪ではない。大切なのは“その先”があること。
ー製作する上での苦労はありましたか?
エアバッグの素材は、「ナイロン66」という素材で統一されています。この素材は強度に優れていて、ものすごく軽い。摩擦にも強いし、撥水性もあります。そして機械にマッチングするように作られているので、油にも強い。そういう意味では、バッグの素材に向いているんです。また、シートベルトはポリエステル製。人肌に触れることが前提なので、触り心地がやさしいし強度もあって、バッグの持ち手にぴったりです。
ただ、エアバッグって、思っているより小さいんです。特に近年は大型車や高級車よりも軽自動車のシェアが非常に高くなっているので、廃棄されるエアバッグもおのずと小さいものが多くなっていて。だから、パーツが取りにくい。でも、無駄を出してしまうとエアバッグを助けることにはならないので、切り替えを入れるなど有効活用するためのアイデアをたくさん考えました。おそらく1年くらいは試行錯誤を続けましたね。
ーそうして生まれたエアバッグのシリーズから、今回、〈6〉の別注アイテムとしてショッパーバッグが作られました。おすすめのポイントはどこですか?
耐久性や軽さ、撥水性ということはもちろんですが、パッカブルになること、そして、腕にかけたときにも疲れにくい持ち手の長さ、幅広いマチといった、使いやすさですね。しっかり平置きできたり、容量が多くてすごく便利なんです。
ーバッグの中に忍ばせておくのにいいですね。
素材的になかなか色が染まりにくかったのですが、濃紺で落ち着きました。素材本来のシワ感も、服飾の世界ではなかなか歓迎されませんが、バッグなら、おしゃれですよね。時世的にもこういうバッグは必要なので、愛用していただけると嬉しいです。
ー使う度に、エアバッグのことを思ってしまいそうですね(笑)。
このバッグを手に取ることで、その意味が“腑に落ちる”お客さまがたくさんいらっしゃるんじゃないかと思うんです。わたしたちがやっているのは、本当に小さなことで、これがきっかけになって、「そういえば」と、生活全般で再生や循環について気づき、考え、行動を変えるような何かが起これば、それは素晴らしいこと。エアバッグだけでなく、素材は他にもいっぱいあると思うんですよね。
モノが捨てられたり、手放されたりするのは、社会の流れの中で止めることはできませんし、止める必要もないと思っています。ただ、モノとできるだけ長く付き合っていけること、そしていったん不用になっても、その先があることが大切なんです。だから、いいものを作りたい。いいものであれば、それは役目を終えた後も姿を変えて、再び循環することができると思うんです。
INFORMATION
PROFILE

須藤 絵里子
WACCOWACCO / WW REVISION デザイナー。 セレクトショップのバイヤー、商品企画を経て2016年にWACCOWACCOを創立。ヴィンテージ生地を解体・再構築したコレクションを作りつつ、2017年よりエコ素材を使用するWW REVISIONをスタートし現在に至る。https://waccowacco.com/