
モノ
2020.12.10 THU.
新たな一歩を踏み出した、「UAデニム」の生産哲学。
サステナビリティ、SDGs(エスディージーズ/持続可能な開発目標)の重要性があらゆる業種で盛んに叫ばれている昨今。ファッションの世界においてもいまや、地球環境に配慮したモノづくりはひとつの潮流の域を越えて本流になりつつあります。そこでこの冬、〈ユナイテッドアローズ(以下、UA)〉がとりわけ注力したのは日本製のオーガニックコットンデニム。ブランドとして新たな指針の打ち出しを、デニムといういわば最もオーセンティックなカジュアルアイテムに託したのはなぜなのか? その芯にある理念と狙いを、構想段階から同コレクションに深く携わるデザイナーの石田 知久さん、生産担当の髙山 泰浩さんのナビゲートのもと、縫製工場や加工場との取り組みにもフォーカスしながらじっくりと紐解きます。
Photo:Taro Mizutani(bNm)
Text:Kai Tokuhara
いま、UAでオーガニックデニムを作る理由。


ーなぜいま、UAで日本製のオーガニックコットンデニムを新たに作ろうと考えたのか。まずはその取り組みをはじめるに至った背景からうかがえますか?
髙山:実はかねてより、UAのモノづくりの現場においては、欧米を中心にスタンダードになりつつある地球環境に配慮した商品開発・経済活動をこれまで以上に推進しなければならないという危機感を持っており、何かしら長期的なスパンで実現可能な取り組みに着手する必要性を感じていました。その第一歩を踏み出すプロジェクトとして、デニムこそが最適なアイテムではないかと考えたのがきっかけですね。
石田:とはいえデニムというアイテムに関して、元々UAは他社と比べて強いほうではありませんでした。しかしトレンドに左右されにくく、シーズンが変わっても長くはける普遍性がデニム本来の魅力であると考えたときに、UAが力を入れていくべきモノづくりにより良く合致するのではないかと思い、オリジナルのオーガニックコットンデニムの開発に着手しました。
髙山:中でも「メイド・イン・ジャパン」にこだわった一番の理由は、やはり世界でも類を見ない日本製デニムの信頼性の高さでしょうか。日本のデニム生産は本家アメリカを凌駕するほど独自の進化を遂げている一方、昔ながらの繊細なモノづくりはどこか日本人特有の資質や人生哲学にも通じるところがあり、またそれによって培われてきた技術とノウハウが文化として若い生産者の方々にもしっかりと息づいています。いまやサステナビリティ、SDGsといったワードとわたしたちアパレルのモノづくりは切っても切れない関係になりつつあるだけに、よりいっそうメイド・イン・ジャパンのデニムの需要が高まっているように思います。
ーUAのオリジナルアイテムとしては初めてのリリースとなるオーガニックコットンデニム。デザインやディテール面での特筆すべき魅力はどのようなところですか?
石田:今回のオーガニックコットンデニムは全4型で、スキニーシルエットが1型、スリムテーパードシルエットが3型というラインナップ。スリムテーパードにはスタンダードな5ポケットとスラックス型があります。色はブラックデニムに注力しながら少しインディゴを差し込んだ感じですね。ただブラックといってもモードな黒ではなく、あくまでUAらしいトラッドマインドを踏襲した“都会的な黒”がコンセプトになっており、同じ黒でも加工違いによって風合いがかなり異なるところもポイントです。
髙山:またヴィンテージをトレースしたようなレプリカデニムでもなく、デザイン性が前に出るデニムでもない、いわゆる着る人のパーソナリティに寄り添うオールマイティなデニム。もちろん黒の繊細なトーンや風合いを表現する上で縫製、ステッチワーク、加工にはかなりこだわってはいますが、それらの製法がもたらす魅力が前面に出すぎず、佇まいにほんのり漂うアイテムに仕上げることがUAらしいモノづくりに繋がるのではないかと。
新時代のベーシックデニムに求められる課題。
ーさて、ここから今回の本題に入らせていただきます。洗いの加工の際に大量の水を要するなど元々デニムは環境への影響という点で課題の多いアイテムであると言われてきました。そんな中、どのような部分に配慮しながら今回のコレクションを製作されましたか?
石田:まずはオーガニック原料にこだわったファブリックをUAエクスクルーシブで生地屋さんとともに共同開発したことですね。環境負荷の少ない有機栽培されたコットンだけを用い、厚すぎず薄すぎず、年間を通して快適にはいていただけるよう11.5オンスの汎用性の高い素材を用意できたことが今回のデニムコレクションの軸になっています。
髙山:それでいてオーガニックコットンを使っているイメージだけが先行してしまうと、お客さまから好評を得たとしてもそれが一過性で終わってしまう可能性もありますから、飽きのこない上質なオーセンティックデニムを作るということを大前提に掲げています。10年、20年と使える、捨てられないモノづくりが広義としてサステナビリティに通じるという考えですね。
今回のデニムコレクションの生地の原料となっているオーガニックコットンは、正しい有機農法で栽培・収穫されていること、環境に負荷が少ない製法で紡績されていることを保証する国際認証「GOTS(グローバルオーガニックテキスタイル基準)」を取得。
石田:そして何より、そのようなUAのモノづくりチームの意思にご賛同いただけるスペシャリストの方々と一緒に取り組みができたこと。先に述べたオーガニックコットン生地開発にはじまり、縫製工場、製品加工場と、すべての製作工程を一貫した流れの中で行えたことは今回デニムを作る上で大きかったですね。
ー縫製は愛媛の〈勝盛縫製〉さん、加工は平塚の〈サーブ〉さんで行われたそうですが、どのような経緯で両工場との取り組みが実現したのでしょうか?
髙山:今回のオーガニックコットン生地製作を一緒に取り組ませていただいた岡山の生地メーカーさんから、縫製、加工に至るまで一貫性のあるデニム製作ができるということで両工場をご提案いただいたことがきっかけです。まず愛媛の勝盛縫製さんは古くから海外の有名デニムブランドからも信頼を得続けているデニム専門の工場であり、また確固とした縫製のノウハウを持つ老舗でありながら最先端の機器を積極的に導入するなど、UAが目指すモノづくりと非常に親和性が高いと感じました。
現在も代表を務める勝盛 佐太郎氏が、遠洋漁業を経て氏の地元である愛媛県西予市三瓶町に創業して今年で52年。〈勝盛縫製〉はデニムに特化した縫製工場として日本有数の生産量を誇り、これまでリーバイスやエドウイン、ラングラーといった名だたるデニムブランドの縫製も数多く手掛けてきた。
昨年から大型の自動裁断機「CAM」を導入し、それまで当たり前だった手作業による裁断を減らすことに成功。小ロットの発注に対しても人員を無駄に割くことなく作業できるようになった。
ずらりと並ぶミシン台は、製作するデニムの工程に合わせて日毎に配置を自在に変えられるシステムになっており、職人たちの作業効率アップに貢献している。
工場の窓の外にはのどかな三瓶湾(みかめわん)の海景色が広がる。屋形船でのフィッシングやクルージング、鯛の養殖などが地元の主な産業だ。勝盛縫製では、町内の掃除を行ったり、釣りや花火大会、盆踊りなどのイベントにも工場をあげて積極的に参加するなど地域との触れ合いや地元活性化への貢献も心掛けているという。
「ミシン縫いは勢いよく」。それが元々作業着であるデニムをより味わい深い表情に仕上げるコツなのだそう。
環境に配慮した加工技術への追求。
神奈川県平塚に本拠を置き、大分県には自社縫製工場を構えている〈サーブ〉。1987年の設立以来、国内有数の加工クオリティを誇るデニムファクトリーとして多くの著名ブランドや企業との取り組みを行っています。近年は、加工に要する水やストーンの積極的削減、沈殿やろ過などで排出された汚泥の建築資材としての再利用、粉塵を減らすサイクロン集塵機の導入など、環境配慮により重きを置いたモノづくりを展開。また、オゾン加工やレーザー加工機の導入など新しい技術を積極的に取り入れている点も重要だといいます。
石田:水を使わないオゾン加工など今後さらに主流になってきそうな環境に配慮した加工技術もしっかり取り入れている工場さんで、現場に若い世代の方がすごく多いので、「ヴィンテージ然としすぎていない、ナチュラルだけれど味わい深い加工を」といったようなわたしたちの感覚的なリクエストもすんなりと受け入れていただけました。そこは今回のオーガニックコットンデニムの製作においてとても重要なメリットになりましたね。縫製の後の加工というのはデニム作りにおいて命のようなもの。だからこそ細かなニュアンスまでしっかりとこちらの意図を汲んでいただけたことで最良のオーガニックコットンデニムを仕上げることができました。
こちらは空気中にプラズマ放電を行うことでオゾンを生成し、その酸化作用によってデニムを脱色させるオゾン加工機。排水を一切生まないエコロジーな脱色方法として注目を集めている。
打ち込んだデータを元にレーザーでひげを入れていくレーザー加工機は、シェービングで使用するヤスリなどの資材削減、騒音問題などにも配慮した設備となっており、人員削減と作業効率化にも役立っている。
ひげやあたりを入れる手法はレーザーと手擦りの2パターンで、レーザー加工を施した場合も慣らしは手作業で行う。「UAさんは『あるかないかくらいのふわっと見える自然なひげ』というのを重要視されていましたので、イメージに合う風合いを実現するためにこの工程のさじ加減をかなり追求しました」(株式会社サーブ 営業企画部 神部 隼さん)。
ー最後に、これまでのお話と重複する部分はありますが、今回このような形でオーガニックコットンを使用したデニムをUAで製作した最も大きな意義とは? おふたりそれぞれの見解をお聞かせください。
石田:今回オーガニックコットンを軸に捉えたように、環境に配慮したサステナブルなモノづくりを追求するためにはもちろん原料や製作工程は重要です。しかし縫製、加工を含めた全行程で完全主義を貫くにはまだまだコスト的な課題も多いのが現状です。だからこそ製造過程にだけフォーカスするのではなく、ケアやリペアを施しながら何年も着続けられる服づくりというところにもこだわっていかなければと考えています。「お客さまに長く愛用いただけるアイテムを届けること」それこそがUAの使命であり、このデニムを起点にその理念をより広くモノづくりに生かしていきたいと考えています。
髙山:サステナビリティと服そのものが持つオーセンティシズムや機能性。その両面を兼ね備えたアイテムの代表格がデニムだとあらためて実感しています。近年はテック系素材のイージーパンツなどに押され気味でしたが、デニムをもう一度ベーシックな普段着として定着させたいなと強く感じています。それこそ何にでも合う万能性やコストパフォーマンスの良さ、イージーケアといったデニムが昔から備えている特性は、「長く着られる」服に最も通じるものですから。