ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

モノ

2022.02.10 THU.

幸せの道筋が見える。トレーサブルなオーガニックコットン「TRUECOTTON」とは。

創業1841年の〈豊島〉株式会社は、世界中から選りすぐった素材をアパレルメーカーに提案する、日本有数の商社。一般消費者からは少し縁遠い存在ですが、わたしたちが日々身につけている服の生地は多くの場合このような商社が関わっているものなのです。今回フォーカスを当てる「TRUECOTTON(トゥルーコットン)」は、地中海の風に吹かれ適度な乾燥と恵まれた天候で育った、トレーサブルなオーガニックコットン。食品の生産者を確かめるように、洋服が生まれた過程を知ることができたら…。そんな声がファッション業界内で大きくなれば、世界はきっと良い方向に向かっていくことでしょう。

Photo:Jun Nakagawa
Text:Junpei Suzuki

業界を変えるかもしれない、新たな繊維ブランド。

衣料品が作られてユーザーの手に届くまでには、様々な工程があって多くの人や企業が関わります。その一連の流れをファッション業界では川に例え、繊維の原料や糸を調達するテキスタイルメーカーなどのことを「川上」。服という商品を作るアパレルメーカーなどのことを「川中」。流通や小売を「川下」と呼んでいます。

中でも川上は、最も消費者から遠い存在であるものの、製品の根幹を生み出しているポジション。繊維を取り扱うライフスタイル商社である〈豊島〉さんは“トレーサブルな”オーガニックコットンのブランド「TRUECOTTON」を通して、業界全体を巻き込んで大きくシフトチェンジを試みています。今回はそんな「TRUECOTTON」のブランディングや素材調達、品質管理を担当している田中 哲平さんと、広報の佐藤 菜津紀さんにお話を伺いました。

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─まずはじめに、なぜ〈豊島〉さんが繊維にトレーサビリティを求めたのか。そのアクションの理由を教えてください。

佐藤:わたしたちはコットンやウールなどの天然繊維を多く取り扱っており、オーガニック素材も積極的にご提供させていただいています。また、化学繊維のリサイクル糸など数十年前から環境に配慮した素材の取り扱いもあり、その種類はいま現在も増え続けています。

特に近年は、一歩踏み込んだトレーサビリティ(追跡可能性)が明確な繊維を展開。中でも代表的なのは2015年にスタートした、食品会社さんの協力のもと、廃棄予定の野菜などの食品を染料として再活用する「FOOD TEXTILE」というプロジェクト。そして2020年の夏にブランド化した「TRUECOTTON」です。
〈豊島〉は原料、糸、生地の調達を軸足としながら、洋服のOEM、ODM生産、果ては雑貨の販売も手掛けており、川上から川下まで携わっています。それゆえにファッション業界が抱えている生産背景の問題を知る機会も多く、消費者が安心して商品を手にできるようにするために、透明性を示すことは大切だと考えるようになったのです。

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─自然環境や労働環境に配慮した繊維製品に関して、反応はいかがですか。

佐藤:オーガニックコットンやリサイクル、サステナブルな製品というのは、近年様々な方面からお問い合わせいただくことが増えました。2015年に「FOOD TEXTILE」を売り出した当時は、なぜわざわざ廃棄するもので色をつけるの? と疑問を持たれることも多かったのですが、いまでは価値を感じていただける流れになっていますし、「TRUECOTTON」のデビューのときも反響は大きかったです。

各企業様それぞれ力を入れている分野だということもありますが、その背景には環境意識の高い一般消費者が増えているということなのだと思います。

─トレーサブルなオーガニックコットン「TRUECOTTON」とは具体的にどのようなものなのでしょうか?

佐藤:「TRUECOTTON」は、日本トップクラスの綿花流通を誇るわたしたちが取り組みはじめた一大プロジェクト。わかりやすく言えば、「農場と紡績工場の特定ができる、トレーサブルなオーガニックコットンのブランド」です。

綿花農場で働く人が健康で明るい毎日を送ることができて、綿花を紡いで糸を作る紡績工場で働く人も明日も元気に働こうと思える環境。そんな裏付けのあるトルコの専属パートナー農場で作られたオーガニックコットンを、「TRUECOTTON」として発信しています。


高まる環境意識。オーガニックの消費で、みんなが幸せに。

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─オーガニックコットンにおいても、生産者までのトレーサビリティを示すことは大変なのでしょうか?

田中:一般的にはそうだと言えます。例えば、インドは世界で一番の収穫量を誇るオーガニックコットンの産地なのですが、インドの場合は小規模な農家が多い傾向にあります。総体としては大きいのですが、いち生産者あたりの収穫量が少ないので、糸にしたときに誰が作った綿花かというところまでトレースがしづらいというのが現状です。

―〈豊島〉さんが発信している「TRUECOTTON」の生産者との取り組みはいつ頃はじまったのでしょうか?

田中:「TRUECOTTON」をブランドとして打ち出すようになったのは2020年ですが、その生産者であるトルコ・ウチャク社とコットン原料の取引をはじめたのは2015年からです。それ以前から、弊社も他の国などで生産されたオーガニック原料を取り扱っていたのですが、生産者までトレースすることが必要だと感じていました。その時に候補に上がったのがウチャク社だったんです。

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―ウチャク社とはどんな会社なのでしょうか。

田中:同社は1975年に創業した、コットン農場と紡績工場を営む会社です。地元で根付いていたコットン産業を維持するために自営農地をはじめたり、農家とも専属の契約をすることで品質や生産体制を整え、年間4万トンものオーガニックコットンを生産しています。

わたしたちは、ウチャク社からワタと糸の仕入れを行っているのですが、ワタは自社で農場を経営しているので産地も明確にわかりますし、糸に関しても自社工場なので100%トレーサブル。一気通貫で品質を管理しているというのが、ウチャク社の強みなんです。

弊社は綿花の取り扱い高が世界でもトップクラス、日本では最も多くの綿花を仕入れている商社。ウチャク社は、わたしたちが綿花に対して深い知識とノウハウを持っていること、ウチャク社のオーガニックコットンに価値を感じていていることを理解してくれて、専属パートナーシップ契約を結んでくれました。これによってわたしたちは、信頼できる高い基準を満たしたオーガニックコットンを安定して得られるようになったんです。

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紡績工場内の機械に貼ってあるオーガニックコットンのラインだという目印。


日本が求めるクオリティで、世界に通用する製品を。

─トレーサブルということの他に、ウチャク社製のコットンの優れている点を教えてください。

田中:これも自社で一貫生産していることの強みなのですが、ウチャク社のオーガニックコットンは広大な農地で栽培され、大型の機械を使って収穫されています。そして収穫されたものは、すぐに種子とワタに分けるジンニング工場というところに送られます。オーガニックという響きからは想像し難いかもしれませんが、機械で収穫する為、異物混入の可能性が低く、より良質なコットン原料を供給することができます。

一般にコットン原料調達で課題とされているのは、コンタミネーション(異物)の混入を防ぐこと。例えばコットンのワタを手摘みをするような小さな農場では、綿花の管理が難しく、異物混入の可能性が上がり、原料としてのクオリティが落ちてしまうんです。

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─豊島が取り扱うオーガニックコットンの中でも、中核をなす仕入先となったウチャク社ですが、素材調達での苦労はありましたか?

田中:ウチャク社の製品は「GOTS(Global Organic Textile Standard)」という、オーガニック繊維製品に対する国際規格の認証を受けています。その基準は多岐にわたりますが、原料から最終製品まで、全ての工程がその項目を満たさなければならないという厳しいものです。例えば、トレーサビリティ、水、エネルギーの使用や廃棄物に対する環境配慮、衛生的で安全な労働環境と搾取のない労働条件など。この厳しい基準をクリアしたことが、何よりの品質の保証であります。

それをクリアするだけでも素晴らしいのですが、実はさらなる品質改善もお願いしました。というのも、わたしたちと取引をするまで、同社で生産された糸はトルコ国内で消費されるか、一部がヨーロッパに出荷されるのみだったので、いくつかの観点から、我々が望むレベルに至っていない部分もありました。

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いまの時代、小ロット多品種になってきていて、アパレルメーカーやテキスタイルメーカーはロスに関してとてもシビアになっています。原料となるワタの状態でのクオリティ、糸の状態でのクオリティ、それぞれに細かな物差しがあるので、ウチャク社にも努力していただきました。「日本基準に合わせられたらどこに出しても恥ずかしくない製品ができるので、どうか頑張ってください!」と言いながら(笑)。

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ユーザー意識に変化をもたらす素材として。

─「TRUECOTTON」がアパレルメーカーに期待することは?

佐藤:我々は商社という立場上、アパレルメーカー様と比べますと直接エンドユーザーとの関わりを持つ機会が少ないです。そんな中で「TRUECOTTON」などの環境配慮型素材を使っていただき、皆さんに有益なものを提供できるのはありがたいこと。わたしたちとしては、ブランドさんのご協力を受けながら輪を広げていきたいと考えています。そのためには、わたしたち自身も製品として優れたものを作るのはもちろん、明確な指針を設けてブランディングを行っていく必要もあります。

田中:「TRUECOTTON」は、トレーサブルでオーガニックであることが本質なのですが、消費者の購買理由としてはそれが二の次でいいような気もしています。それよりも「TRUECOTTON」製品にはファッション的な魅力があって欲しい。実のところは、オーガニックの意識の高い方だけでなく、そうでない方がオーガニックに触れていただくキッカケとなる製品になって欲しいと思っているんです。気に入った服が、実は「TRUECOTTON」製品だった。そんなことが頻繁に起こる世の中になってくれたら嬉しいですね。

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─今回「monkey time」がTRUECOTTONを取り入れた「VANTANLOOP」と別注アイテムを作りましたが、いかがでしたか?

佐藤:わたしたちのメッセージに共感していただき、2020年の春夏シーズンから「monkey time」で「TRUECOTTON」を使用したコレクション「VANTANLOOP」とのコラボレーションを展開していただいています。やさしい風合いを活かした、厚手の天竺素材のTシャツやふわふわの裏毛のプルオーバーパーカー。「カッコいいし着心地も良さそう」と、手に取ってご愛用いただけたら嬉しいです。


生産する方達が安全で健全な環境で働いていること、さらに、地球環境にもなるべく悪影響を与えないように配慮して作られていることが示されていれば、私たちユーザーも自らの購買行動に自信を持つことができます。

そして、ストーリーや生産者が見えれば服に対する愛着にも繋がり、きっとその服を大事にしようと思えてくるはずです。今後広がっていくであろう、衣料品のトレーサビリティ。洋服を選ぶ際に生産背景にも目を向けられるようになれば、日々の着こなしにも良い変化が生まれるかもしれませんね。

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PROFILE

田中 哲平

2011年入社、二部一課(原料部)に配属後、国内外に原料(棉・糸・生地)を販売。2020年、素材ブランド、トレーサブルオーガニックコットン「TRUECOTTON」を立ち上げる。

佐藤 菜津紀

2013年入社。営業部署にて通関・デリバリー業務に携わった後、2019年に営業企画室の広報担当へ。営業に関連する広報やプロモーションを担当している。

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