ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

モノ

2022.03.03 THU.

70年間続く匠のワザ。⼿仕事が光るオリジナルランドセル。

お子さまにとっては一生に一度となるランドセル選び。オケージョンウエアにおいても好評を博している〈ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング(以下GLR)〉は、2023年度ご入学の児童に向けて、〈ランドセル工房 生田〉との協業によるランドセルをリリースします。大阪を拠点として創業70年あまりとなる老舗工房を率いる3代目社長、長井 宏治さんにランドセルに込めた想いを聞きました。

Photo:Takeshi Wakabayashi[still]
Text:Masashi Takamura

少数精鋭による高いクオリティのモノづくり。

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創業からおよそ70周年。大阪は生野区で、ほぼランドセルづくり一筋で今に至るのが、〈ランドセル工房 生田〉です。ランドセル作りは革製品の中でも、とりわけ作業工程も多く、人の手もかかるために、高いクオリティを求めるには熟練の専門的な技術が必要となるのは想像にかたくありません。そのため、〈ランドセル工房 生田〉では、「専業」を重視し、一貫して高品質のランドセルを作り続けているのです。

「子どもが大勢いた70年代は、“作れば売れる”といわれた時代。この頃は当社も大量生産をしていたと先代より聞いています。それでも機械化ではなく、工場をひとつ増やし、職人の数を増やすなどして規模を拡大し、なるべく品質を落とさないよう生産数を上げていきました」

長井社長の言葉からも、職人の手によるあたたかなモノづくりを志向していることがわかります。そのため、現在では少数精鋭の職人たちとともに、ランドセルの生産数を年間約5000本と設定しています。ここに至るにも、長い歴史のなかに大きな転換点があったといいます。

「1980年代中頃から少数精鋭の職人によってクオリティの高いモノづくりをしたいという想いから少量生産にシフトしたことが会社全体の転機になりました。先代は、モノづくりをする人ではなく、経営感覚の優れた人でした」

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大量生産のなかで「薄利多売」が台頭していた時代に、現代のようにモノづくりに対するリスペクトがなされていく時代を先取りしていたと言えそうです。また、さらに時代を先取るようにして、1996年にランドセル業界でもいち早く「直販」をはじめたのが同社です。

「ランドセル業界へはおそらく一番手ではないかと自負しています。“作れば売れる”と言われた70〜80年代は物自体の価値よりも価格の安さが重んじられていました。問屋優位といった状況で、作り手側はどうしても売り手側の出す条件を飲まないといけない。すると、クオリティは二の次になってしまいます。

そうではなく、わたしたちは自分たちの納得がいくものを少数精鋭の職人たちによって丁寧に作り上げて、直接お客さまの元にお届けしたい。そういった想いが強かったですね。そして、そのためには“直販”が最善だと考えたわけです」

それに伴ってホームページを立ち上げたのも実は業界内でいちばん早かったといいます。同社のURLのアドレスが「www.randsel.jp」となっているのも、当時は、ほかにランドセル製造業者がホームページを開いていなかったことの証といえそうです。

「他社はまだHPの立ち上げなど考えも及ばなかったと思いますから、大胆なアドレス取得も可能でした(笑)。この頃行った少数精鋭による“直販体制”という舵取りによって、いまの〈生田〉があると思っています」


すべては「選んで良かった」という満足のために。

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〈ランドセル工房 生田〉のランドセルをつぶさに見ると、随所に丁寧な仕上げが施されているのがよくわかります。梱包に際しては、大阪芸術大学の学生によるオリジナルデザインのパッケージを使用した丁寧な梱包も魅力的です。また特徴的なのが、オリジナルランドセルでは、基本的にディテールのカスタマイズを受け付けています。6年間使用する特別なものだけに、こうした“愛情”が高く評価されているのです。

「お子さまにとっては一生に一度の買い物。わたしたちは、想いの強いものに対して選ぶ楽しみを提供したい考えているんです。もちろん、“良いものを作る”というのは、我々がする最低限の仕事。そこから、どのように伝えていくか、届けていくか、という部分が大事だと考えているのです」

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そのために、イベントなども開催しているのは、〈生田〉ならではのこと。例えば、大きな公園で毎年開催している「IKUTA Festa」。これは、お子さまがひとり15分間、希望のランドセルを試着して、公園内を思う存分歩き回り、実際肌身に触れて体感するというものです。

「毎年開催していますが、ご好評をいただいております。ほかにも、常に工房はオープンなので、見学もしていただけます。受注してからの生産ですので、事前にご連絡をいただければ、オーダーしたご自分のランドセルの製造工程も見学することも可能です。

購入した後で見学に来られる方も結構いらっしゃいますよ。やっぱり一生に一度の買い物ですから、“これで良かったのかな”という不安もあるようです。工房での職人の丁寧な仕事ぶりを見ることで、“やっぱり良かった”と安心される人も多いんです」

そのほか、「親子職人体験」というイベントでは、実際に自分のランドセルのパーツを一部、親子で一緒に作って取り付けてもらうという体験も行っています。

量を捌いて稼ぐメーカーならば、「イベントに労力を掛けるなら、そのぶん数を作ったほうが利益が生まれる」と考えるかもしれません。しかし、〈生田〉では、ランドセルに込めた大切な思いを自らの理念を元にさまざまな行動で示しているように映ります。

「6年間使う大事なものですから、どのようにして作られるか、非常に気になると思うんです。ですから、最後には“生田を選んで良かった”という満足感、納得感を感じていただきたいですね」

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    1.素材
    かぶせの牛革は、広い面積を使用するので、小傷や血筋(血管の痕)を避けながら裁断をします。そのため、目視で傷をチェックして印を付けます。
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    2.裁断
    パーツの裁断は、専用の金型を使って抜き取ります。機械ではなく手作業という点もならでは。傷を避けながら効率よくレザーをカットするのも職人の経験値によります。
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    3.背中のスポンジ
    クッション性が大事な背当て。硬質ウレタンの芯地に、ソフト牛革を張りつけます。曲面へのアジャストも手作業で行っています。
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    4.背中(ハート刻印)
    「ハート」と呼ばれる背中のカンを止める土台のレザーに〈GLR〉専用の刻印を施します。
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    5.ハートミシン
    曲線に沿って、「ハート」をミシン縫い。
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    6.肩ベルト
    Sフィットと呼んでいる生田オリジナルのストラップ。クッション性のあるEVA製のS字芯地にソフトレザーを手作業で慎重に巻き付けます。美しい仕上がりを保つには、技術を要します。
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    7.ミシン掛け
    ストラップにレザーをミシン掛けしていきます。
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    8.まとめ
    大マチにパーツを取り付けるのが「まとめ」と呼ばれる組み上げ作業。まずは仮留め。マチの内側には、〈GLR〉専用の仕様となるブラックウォッチの裏地を使用しているのがわかります。
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    9.ミシン掛け
    仮留めの後に、大マチにミシン掛けをして組み上げます。外装に関わるステッチなので、失敗は許されません。
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    10.コバ塗り(グラインダー掛け)
    「コバ塗り」の最初の工程であるグラインダー掛け。断面にニスを塗り、水が入ってくるのを防ぎます。
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    11.仕上げ
    グラインダー、ニス塗り、バフ掛け、サンドペーパー、そしてニスの上塗り。この作業を繰り返します。高級なレザー製品に見られる仕上げがランドセルに使用される例は珍しいといいます。
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    12.コバ塗り(磨き)
    サンディング(=サンドペーパーで磨き上げる)をすることで艶やかな表情が生まれます。ここにも熟達の技術が必要です。

「乱暴なことを言えば、個人的には、品質の良いお客さま想いの日本製ランドセルならば、機能性やそこに注がれている技術にそれほどの大差はないと思います。反対に言うと、差がつけにくいアイテムなのです。ですから、そこに掛けている熱量というのをお見せして、納得していただくというのが、わたしたちからお客さまへの“想い”ということになります」


〈GLR〉との取り組みに込められた想いとは。

2023年度の就学時に向けて、〈GLR〉では〈ランドセル工房 生田〉とのコラボレーションモデルをリリースすることになりました。これは、ブランドとしては初めてのこと。

「ベーシックなオケージョンウェアにもご支持をいただいている〈GLR〉に「ランドセルのラインナップは必要という声は、自社的にも、お客様のお声もあった」ということで、このプロジェクトは始動します。

常に「お客さまへの満足」をいちばんに考える〈生田〉の姿勢に共感したバイヤーが、「〈GLR〉のランドセルをご提供するには、最適のパートナー」ということで実現に至ります。

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同社が年間5000本生産するうちの150本を〈GLR〉とのコラボレーションに割り当てられるということで、希少性もある一本に。利益を考えると実現も難しそうに思えます。

「正直に申し上げますと、わたしたちもとても嬉しかったですね。なにより、わたしたちのお客さまにも喜んでいただけるなと思いました。というのも、過去、他社さんとも協業したことがありますが、その際にも、嬉しいお声のフィードバックがありました。

〈GLR〉といえば、全国的に知名度があるだけでなく、洗練された印象のあるブランドですから、ありがたいお話だったんです」

ここにも〈生田〉の「お客様想い」の姿勢が垣間見られます。実際に、サンプルが仕上がってみて、発表に至るまで、どのような感想を持ったのでしょうか。

「同じゴールを向いたモノづくりができて、常にモチベーション高く仕事ができました。一般に販売元と製造者というのは、上下の関係になることが多く、ストレスが生じることもあるんです。〈GLR〉さんとはそうではなく、こちらも主張する部分はさせていただきましたし、やれることは喜んでさせていただきました。結果的に非常に建設的に話が進められました」

〈GLR〉としては、大阪発信のブランドなので、東京での知名度はまだ多くないという意味で、〈ランドセル工房 生田〉の魅力を広く伝えるきっかけになれば、という想いも込められています。


互いの”らしさ”を表現したコラボランドセル。

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早速、待望のランドセル本体をご紹介。フラッグシップモデルである本革の「KOBA」をベースに、〈GLR〉がオーダーしたディテールをアレンジしています。

「仕様に関しては、〈GLR〉のお客さま向けなので、こちらからのリクエストはなく、完全な“おまかせ”です。ただ、モデルに関しては、当社を代表する“KOBA”でお願いしたかったので、相思相愛でした」

「KOBA」の特徴は、撥水加工を施したしなやかな牛革を「かぶせ」に使用したり、角当ての二重補強をしたりという細かなディテールを備えています。が、最大の特徴は「コバ塗り」と呼ばれる仕上げ。

革の裁断面に、グラインダーをかけ、ニスを塗り、バフで磨いたのちに何度もニスを塗り重ねます。その工程はすべて専任の職人が行う手仕事。使い込むほどに、味わい深くなるレザーの魅力が詰まっています。

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〈GLR〉モデルならではの特徴は、バイヤーいわく「“KOBA”が、本当に完璧と言っていい仕上がりなので、どこに手を加えるかを本当に悩みました」というなかで、大きく2つの要素にアレンジを加えています。

ひとつは、かぶせ裏とマチの内側などにあしらったブラックウォッチ柄。男女どちらのお子さまにも気に入っていただけるよう、ネイビーをベースに明るいブルーを差しました。もうひとつは、ストラップを留めるかぶせの鋲をオリジナルに。あえてデザインはせずに、燻し加工として風合いを醸しています。

結果、ベーシックなオケージョンを掲げる〈GLR〉らしさと、丁寧なモノづくりを掲げる〈ランドセル工房 生田〉の魅力が存分に味わえる出来栄えとなっています。

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〈GLR〉のオケージョンスタイルを体現するランドセルの本体カラーは、ローズ、キャメル、ブラックの3種類。オリジナル時間割やお名前カードも特製。内袋もダブルネームです。また、大阪芸術大学のデザイン学科の学生デザインによるオリジナルボックスに入って販売します。


人生の節目に寄り添っていけるように。

オケージョンシーンの洋服や小物を展開する〈GLR〉ですが、今回が初めての取り組みになるオリジナルランドセル製作。子どもにとって、小学校生活には欠かせないものだからこそ、6年という時間をともに過ごす相棒選びは重要に思います。せっかくなら丁寧な手仕事から生まれた良いものを、そして作り手の想いが込められたものを選んでみてはいかがでしょうか。

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PROFILE

長井 宏治

大学卒業後、スポーツ量販店で勤務。野球グラブの修理などを担うなかで、徐々にものづくりへのあこがれと、自分で作った製品を直接お客さまに届けたい、という想いが強くなる。2011年、本革ランドセルと製造販売のスタイルに魅力を感じて、株式会社生田へ入社。2019年に社長に就任。

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