ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

モノ

2022.06.23 THU.

残すべき本物を、扱う者の責任として、
什器リセールに込めたメッセージ。

例えば服でも長年着続けても魅力が褪せず、価値と品質を保ち続けるものがあるように、家具や什器にもそうした名品が確かに存在します。〈ユナイテッドアローズ〉でストアディベロップメント課に所属し、世界中から集まる良品が置かれる空間作りを担当してきた大島 一吉さんはファッションとインテリア、両方の本物に長きにわたって触れてきた人物。その活動を通して抱いた疑問や得た経験からスタートしたのが、〈RE:Store Fixture UNITED ARROWS LTD.〉という店舗で実際に使用していた什器のリセールプロジェクト。無駄を少しでも減らし、価値あるものを新たな愛用者の元へと届けること。そんな一風変わった試みの興りと現在地について、発起人は語ります。

Photo:Masashi Ura
Text:Rui Konno

価値のある家具をなるべく捨てずに、
必要としてくれる方にお届けしたい。

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—大島さんはストアディベロップメント課に所属しているとのことですが、まずはその具体的な役割について教えていただけますか?

〈ユナイテッドアローズ〉で新しい店舗を作るにあたって、物件が出る場所が決まってから店舗の設計業務がスタートするのですが、そこからオープンまでをディレクションするのが僕たちの仕事です。ブランドごとに担当者がいて、僕は〈ユナイテッドアローズ〉を担当しています。

—洋服が置かれる空間づくりを指揮する立場ということですよね?

そうですね。売り場に置かれる什器を決めたりするのですが、例えば、ここに置くテーブルは図面を引いて作るよりも買い付けたものの方が合いそうだな、というような細かい判断をその都度担当ディレクターや設計士さんと検討して、ブランドの世界観を最上級に具現化できる方法を探していきます。

—オリジナルの什器を製作されることも多いですか?

そうですね。もちろん、洋服を一番魅力的に見せるために店舗のデザインをしていくわけですが、ブランディングに見合った空間にしていく上で制作する什器と買い付けてくる家具との両方があります。弊社は基本的に外部の設計事務所さまに委託をして、その方たちが全体の空間をデザインしてくださいます。そのデザインを固めていく過程の中にブランドのクリエイティブディレクターや僕が関わっていきながらひとつの店舗空間を作っていくという流れです。

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—そんなお仕事を長年されている中で、〈RE:Store Fixture UNITED ARROWS LTD.〉という家具の再販プロジェクトをはじめたきっかけはなんだったのでしょうか?

お店の移転やクローズなどがあると、どうしても不要な家具が出てしまうのですが、以前はそれを「またいつか使うだろう」というような感覚で倉庫にずっと眠らせていたんです。長いものだと、10年以上眠っているものもあったんですが、そういうものがどうなるのかというと、結局大半が「もう使い道がなさそうですね…」ということでお金を掛けて処分しなきゃいけなくなるんです。保管しておくのも維持費がかかりますし、何より良い家具って親から子に伝わっていくようなものだって少なくない。一生使えるようなものとして作られているので、これを捨てるのではなく必要としてくれる誰かがいるならその方にちゃんとリペアをしてお届けできたら一番いいのではないかと思ったんです。それが着想源で、2018年にこの企画をフライミーさまにお話しして販売をはじめました。


ブランドの看板に見合った、
見た目+aの新たな価値を吹き込む。

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    英国トラッドのムードを携えたチェスターフィールドソファ。艶のある革の表情はショップでも自宅でも、空間の絶妙なアクセントになる。
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    出自が不明な良品も多い中、織り方に地域性が現れやすく、模様のひとつひとつに意味があるラグは大島さん曰く「特に学びが多いアイテム」とのこと。
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    ウッドとガラスを組み合わせたチェストは、店頭ではニットなどをたたんでディスプレイしていたもの。そんな来歴を踏まえて新たな使い道を考えるのも、また一興だ。※販売検討中。
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    生産国や作られた年代も様々なテーブルは、どれもインテリアの主役になりえるデザイン性の高さ。

—社内でも 「もったいない」というような声は多かったのでしょうか?

その頃はそうでもなかったですね。まだ世間的にもあまりないやり方でしたし、サステナビリティというような言葉も各所で叫ばれる以前だったので。たまたまわたしが当事者で、倉庫を見渡せば良い家具がいっぱいあるのに、それをお金を掛けて捨てるという悪い循環がずっと続いていることが引っかかっていたんです。

—いま倉庫を見渡してみてもミッドセンチュリーの名作家具も少なくないですし、こういうものが処分されそうだったと思うとハッとさせられますね。

本当にそうですよね。僕も店舗を作る上で大きなハンドリングは担っているんですが、こういうものは弊社のクリエイティブディレクターたちが決めてきたので、審美眼は間違いないはずです。

—少し失礼な質問かもしれませんが、正直店舗什器となると見せかけだけでもそれなりに見えると思うのですが、細かい部分にまでこだわられている理由はありますか?

確かにそれなりには見えるとは思います。ですが、〈ユナイテッドアローズ〉という看板を掲げてそのブランディングをする以上、それではダメなんです。例えばフィッティングひとつとっても、壁に鏡を設置して、荷物を置く台は見せかけで作ってしまえばいいと思う方もいるかもしれません。ですが、鏡はきちんと額縁状にフレーミングされていて、そこに上品な佇まいのイスが置いてあるというだけで、理想の世界観にグッと近づく。そういう細かな部分のこだわりが大切なんだと思います。


イギリスやアメリカ、国内の家具まで。
その集合体が空間を彩る。

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—どこか洋服と似ていますよね。フォルムやデザインがいまっぽく見えるだけの服なのか、気付かれにくい部分にもこだわっているのか、というような…。

はい。洋服でそういったセレクトをしているのだから、そのイメージに見合った空間づくりをしなくては、ということは常に意識しています。

—先ほどリペアを施しているとおっしゃっていましたが、今日も倉庫内で実際に職人さんがその作業をされていますね。

そうですね。いまレザーのメンテナンスをされている山田さんは元々最初のオリジナル家具や什器の製作をしてくださっていたんです。名だたる日本のインテリアデザイナーさんの勘所をしっかり押さえている方なので、頼りになります。

—そんな方々が実際にリペアまで担当されている、と。

はい。だから過去にご自身で作ったものをリペアされていることもあります。やはりイスひとつとっても、店舗ではいろいろな方が座りますし、回数も一般家庭より多いと思います。なので、例えばウッドの製品なら販売前に傷があるところにサンドペーパーをかけて色を入れ直したりするんです。また、無垢のウッドには持ちが良くなるようにワックスがけも行っています。

—王道のデザイナーズだけじゃなく特定できないものも多いですし、職人さんたちもリペアやメンテナンスはやはり大変なのでは?

そうだと思います。ミッドセンチュリーでもイギリス系もあればアメリカのものもあって、アジア系のものもあります。意外と国内ブランドの家具も少なくないんですよ。あとは海外オークションで買い付けてきたものや、おそらくインテリア業界のプロが見てもルーツがわからないようなものもあって、そういうものをまとめてお見せできるのは面白いですよね。その集合体が〈ユナイテッドアローズ〉らしさになっている気もします。


売り場での役割を終えた
貴重なプロダクトの数々が並ぶ。

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特注で製作されたウォールナット製のテーブル。深みのある色合いと木目の美しさがひときわ目を引く。

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レザーのソファは汎用性の高い3シーターで、オイルメンテナンスを施して販売される。既にこなれた質感が出ているのも、〈RE:Store Fixture UNITED ARROWS LTD.〉ならでは。

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—現在取り扱っている家具の中で狙い目のプロダクトがあれば、ご紹介いただけますか?

例えばそこにある〈ウフル〉というニューヨークのブランドのテーブルは、ボードウォークの廃材を使ったものなんですが、質感はいいけどすごく重いんです。だから、普通の商品としてはまず仕入れないと思います。そういった日本でほぼ出会えないものがあるのは、〈RE:Store Fixture UNITED ARROWS LTD.〉ならではかも知れません。僕たちも元々什器用として選んでいるから高さがあったので、リペアをする際に脚を10cmくらい短くすることで、家庭でも使いやすくしました。

—ここで行うリペアはただの補修ではなくて、そういったカスタマイズも含まれるのですか?

そうなんです。ソファだったら店頭にあった時とは生地を全て張り替えているものもあります。最初の段階で販売してくれるフライミーさんと僕、職人さんの三者が話し合って、どのようにリペアするかを決めています。特にご担当いただいているフライミーの松本さんにはニーズ的にこれで問題ないか、というのを家具の販売のプロとして見ていただいています。

—なるほど。ちなみに〈RE:Store Fixture UNITED ARROWS LTD.〉にも狙い目のアイテムや人気商品はあるのでしょうか?

いま、まさにリペアしているテーブルですかね。特注で作っていただいたもので、〈ユナイテッドアローズ〉の原宿本店で使っていたものなんですが、これが最後の1台です。最初は〈RE:Store Fixture UNITED ARROWS LTD.〉にもいろいろなパターンがあったんですがほとんど出てこないのですぐに売れてしまいます。これは本当にお買い得なアイテムです。


「サステナブル」をあえて意識はせず、
自然に湧き出てきたアイデアを形に。

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—でもお話を聞けば聞くほど安定供給とは程遠いプロジェクトですね(笑)。

そうなんですよ(笑)。もちろん安定供給できるのが望ましいとは思うんですけど、改装するとか残念ながらクローズしてしまう店舗が多くないとアイテムが出てこないんです。そう考えると、〈RE:Store Fixture UNITED ARROWS LTD.〉の商品数が少ない方が企業としては健全だっていうのも確かにあるので、バランスが難しいですよね。これは展望なんですけど、フライミーさまを通じてお客さまとの販路を築けており、ブランドを存続させていきたいという気持ちもあるので、仮にこの家具のストックが減ってきたらゆくゆくはサステナブルな建材などを使って新しいものを作って循環させたり…といったことにも取り組めたらいいと思っています。

—サステナブルと言うと、エコロジーやエシカルという側面に注目が集まりがちですが、ビジネスとしてもちゃんと成り立っていないと持続できないですもんね。

自分自身もその言葉に乗っかってはじまったような商品はあまり買いたくないなという気持ちが正直あります。それよりも、自然に湧き出てきて形になったビジネスの方が面白いんですよね。“結果的にサステナブルだった”っていうのが理想です。

—これだけ情報が溢れた時代にあって、面白いサプライズが期待できるインテリア探しができるのは嬉しいですよね。

そう思っていただけたらありがたいですね。今年で〈RE:Store Fixture UNITED ARROWS LTD.〉をはじめて4年が経ちました。以前、倉庫を解放してポップアップの販売会をやったこともあるんですが、正直利益はあんまり出ないんです。ただ、それよりも“ものをなるべく捨てずに大切に使う”という精神が大事だと思っています。そして、その上でいまは大事にしてくださる方のところに少しずつだけど届いている実感があります。これを続けていくためにも、もっと多くの方に〈RE:Store Fixture UNITED ARROWS LTD.〉の存在を知っていただきたいと思っています。

PROFILE

大島 一吉

前職は内装関係の仕事に携わる企業に所属し、その取引先として〈ユナイテッドアローズ〉の店舗内装やディスプレイなどに携わったことがきっかけで2004年に入社。路面店や大型商業施設など、数多くの店舗を担当する傍らで、以前より親交のあった日本最大級の家具・インテリア通販サイト〈FLYMEe〉(フライミー)と協業し、2018年に〈RE:Store Fixture UNITED ARROWS LTD.〉を立ち上げた。

JP

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