ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

モノ

2017.01.27 FRI.

77circa森山直樹さん&バイヤー青谷克也さんと探る、なぜ今「リメイク」なのか。

デビューわずか2年の若いブランドでありながら、早くも存在感を発揮し、多くのファンを魅了しているウィメンズのリメイクブランド〈77circa(ナナナナサーカ)〉。ユナイテッドアローズでも、上品な大人の女性のカジュアルスタイルを提案するレーベル「6(ROKU)」や「アナザーエディション」にて好評を博しています。また昨シーズンには「ビューティ&ユース」だけのスペシャルメイクアップとして待望のメンズアイテムが登場し、続く2017年春夏でも第2弾を展開。今回は〈77circa〉のデザイナー森山直樹さん、そして担当バイヤーである「ビューティ&ユース」の青谷克也さんとともに、リメイクの魅力と存在意義に迫ります。

Photo:Kengo Shimizu
Text:Naoyuki Ikura

飽和するファッションシーンに埋もれない、無二の個性と存在感。

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―まず、長年アパレル業界を渡り歩いて来られた森山さんが、リメイクブランドを始められたキッカケから教えてください。

森山:昔から古着が大好きだったこともありますが、前職で自分が管理していたウィメンズブランドで、数型だけリメイクアイテムを盛り込んだのが最初です。それが思いのほか反応が良く、翌シーズンには型数も増やし、結構な売り上げを占めるまでになりました。

青谷:当時も今もそうですが、十分なボリュームでリメイクを打ち出しているブランドはほかに見当たらないので、お客様には新鮮に映ったのかもしれませんね。

森山:そうですね。また世の中には、星の数ほどのブランドやアイテムが溢れている反面、似たようなデザインが氾濫しているように感じます。古着にはそれらに埋もれることのない無二の存在感があるうえ、基本的には一点モノなので、それをベースとしたリメイクなら周囲ともかぶらない。これを世間に面白がってもらえるのではないかと思い、リメイクに特化したブランドを立ち上げました。

青谷:まだ大きなムーブメントにはなっていないものの、そうした他人とは違う個性を求めているお客様は大勢いらっしゃいますし、新たに気付き始めている方も増えている。それは僕らの中にもあって、2016年の秋冬、そして今季と「ビューティ&ユース」で別注をお願いしたキッカケになりました。

―ウィメンズブランドである〈77circa〉に対し、「ビューティ&ユース」は通常のラインナップにはないメンズアイテムを別注されていますよね?

青谷:リメイクを主体とする際立ったメンズブランドがなかったというのがあります。〈77circa〉はウィメンズのレーベルで取り扱っていたので、以前から存在は知っていましたが、メンズの展開はない。それでもデザイン性やクオリティ、プロダクトとしての完成度を含め、男性にも提案できるブランドだと思い、特別に製作していただきました。

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森山:これまでもディーラーさんの要望で、ウィメンズのデザインをそのままメンズ用にサイズアップすることは少量あったのですが、メンズを前提にイチから作り上げたのは「ビューティ&ユース」が初めてですね。

―森山さんは〈77circa〉以前に、ウィメンズもメンズも手掛けてきたキャリアがあります。ウィメンズとメンズのリメイクでは、創作の違いはありましたか?

森山:基本的に大きな違いはありません。方法としては、ウィメンズアイテムの女性っぽさを排除していくような作業ですね。通常はメンズ古着の男性的な要素に手を加えてフェミニンに転換させますが、同時に、どうすればマスキュリンな雰囲気が残るといったことも普段から考えています。例えばスウェットなら、裾リブの絞りを広げることで女性っぽい印象になったり、切り替える生地のカラーリングひとつでも女性らしさ、男性らしさをスイッチすることができます。

青谷:とはいえ、いかにもメンズ然としたデザインではなく、本来あるウィメンズブランドらしさを活かしたい思いはありました。そのうえで男性にも提案できる仕上がりになっています。まったく別物になると〈77circa〉に依頼する意味がなくなってしまいますし、そこに少しだけ「ビューティ&ユース」のエッセンスを注ぎ込むスタンス。あとは数型だけ、完全にイチから考えたアイテムがあるくらいです。

―先ほどのメンズにはリメイク主体のブランドがないというお話のとおり、そもそも男性にとってリメイクアイテムは馴染みが薄く、また、すでに女性には人気の〈77circa〉も、メンズでの認知は低いと思います。実際、店頭での反応はいかがでしたか?

青谷:僕らとしても正直、どれくらい受け入れてもらえるのか未知数でした。ファーストシーズンは試験的な意味合いも含めて、一部店舗のみの展開でしたが、想像以上の反響をいただき、もっとオーダーすべきだったというのが本音です。なかにはオーバーサイズで着たい女性が買われることもあったのですが、メンズを待ち望んでいた方も多かったようです。

森山:ブランドの設立当初は20代の女性のお客様が中心でしたが、最近では30代のママが着てくださったり、支持していただける層が広がっています。さらに「ビューティ&ユース」の別注を機に、〈77circa〉のSNSに男性のフォロワーが増えました。


セレクトショップで古着が取り扱われ、好評を博している事実。

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―学生時代から大の古着好きという森山さんだけに、リメイクに使用する古着にもこだわりが強いとお聞きしました。

森山:可能な範囲ではありますが、そもそもの品質が高く、信頼あるブランドの古着を使うよう意識しています。またクオリティ面だけでなく、そのほうが手に取られるお客様、また販売していただくスタッフの方々の気分もアガるかなと。

青谷:スウェットであれば代名詞ブランドがメイン、デニムなら三大メーカーなど、そうした確かなベースを使っていることに、安心と高揚感を憶えられる方も少なくありません。

森山:もちろんノーブランドでも生地のクオリティが同等であったり、しっかりと作られているモノはたくさんあるので、ネームバリューがなくても色やプリントが良ければ採用することは多々あります。あと人気がなく、誰からも見向きもされない古着をあえてベースにしたり。その代表が秋冬のアワードジャケット(スタジャン)です。古着市場でも売れていないので、バイヤーにもピックされず、放っておくと処分されてしまいます。しかし、手を加えることで再び誰かに着てもらえる。年代にもよりますが、特にコットンやウールの古い生地は手間暇を掛けて丈夫に作られているので、デザインやシルエットさえ手直しすれば、今でもリアルに着られ、まだまだ付き合えるモノが多いですね。逆に手を加えなくても格好良く、需要のあるアイテムは、リメイクせずそのままでもいいと思っています。

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―青山の「エイチ ビューティ&ユース」しかり、近年では古着も取り扱うセレクトショップが増えており、軒並み好調です。きっと現代の社会的な背景も関係し、新品だけがベストという時代は変わりつつあるように思います。

森山:古着は安さも魅力ですが、一方では新品より高価なヴィンテージも当たり前に存在します。それでも惹かれるのは、もともと大量生産品であったとしても、着込まれて長い年月の経年変化によって同じモノが2つとしてないから。それが今、セレクトショップで古着が売れている理由のひとつではないでしょうか。

青谷:セレクトショップで古着を購入されるお客様のほとんどは、普段はユーズドショップに行かない層だと思います。事実、興味はありつつも古着専門の店には入りづらいという女性や30代以上の方々も多いようです。しかしセレクトショップなら躊躇なく入れて、手を伸ばしやすいと聞きます。

森山:古着店に行き慣れている方は、ヴィンテージショップに並ぶ大量の商品から自分の欲しいアイテムを見つけ出し、状態や相場観も含めて良し悪しを見極めることができるし、それも楽しみのうち。だけどビギナーは何を選べば良いのかわからないとか、不安もあるはず。だけど、信頼度の高いセレクトショップの審美眼から厳選された古着なら、間違いないという安心感がある。


エシカルが表立つ必要はなく、結果的に貢献できるのが理想的。

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―リユース店を利用する方が増えていたり、ネットオークションやネットフリマの市場が拡大しているように、誰かにとって不要なモノを再度マーケットに出し、次のオーナーのもとで使われていく循環が身近になったようにも思います。

青谷:リメイクもそのひとつで、既存の古着に手を加えることで新しい価値を付加し、もう一度陽の目を浴びるアイテムへと生まれ変わらせる。エコやエシカルといった観点からも非常に重要なジャンルだと捉えています。森山さんはどうお考えですか?

森山:ブランドを運営するうちに思ったのは、不要になった古着が毎日どこかで増え続ける中で、新たに資源を使って生地を生産し、資源を消費するのではなく、今あるモノを再利用する意義を漠然とですが考えるようになりました。ただし、リユースが第一義になるとブランドの意味や方向性が変わってしまいます。あくまでファッションとして生み出し、結果的にでも自然環境や社会に貢献できれば、それが理想的なのかな。

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青谷:僕らも常に意識しているのは、新品でも古着でもリメイクでも、まずモノとして良いことが大前提にあり、背景は次のポイントなんです。今、世の中で古着が売れているのも、決してエコやリサイクルが目的ではなく、洋服としての格好良さやトレンドだと思います。それでも一度は捨てられた古着がリメイクによって新たな命を吹き込まれ、我々のようなショップが買い付け、お客様の手に渡って喜んでいただける。こうして皆が利を得ながら循環することが、声高に謳われているサスティナブルにつながるのだと思っています。

森山:エコやリサイクルが前面に立つと、面白いモノ作りが難しくなりますし、それでは買い物が好きな方、おしゃれが好きな人たちの食指は動かない。だから表からは見えない、隠れた要素であっても良いのではないでしょうか。


探す楽しみ、選ぶ楽しみ。買い物とファッションの高揚感を伝えたい。

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森山:ただ洋服が日々消費され、古着が増えているのは間違いありませんが、こちらが求めているモノとなると話は違います。つい最近まで無尽蔵に手に入れられた古着が、気がつくと枯渇状態になっていることも日常茶飯事です。特に年代の古いヴィンテージは著しく球数が減っており、この先はいっそう厳しい状況になるはず。そうした問題や制約の中で、まだ盲点となっている古着、一定量を確保できるアイテムを探し求めながら、いかに良いプロダクトへと落とし込めるかがブランドの課題です。

青谷:選り好みせず、またコンディションのハードルを下げれば集まる古着も、森山さんは妥協しませんからね。

森山:同じトップメーカーの製品でも、20~30年前の生地と現行品では素材感に違いがあります。僕は昔の風合いにこだわりたくて、そうなると長い年月を費やして少しずつ集めるしか方法がない物も少なくないため、そういった物をすぐに商品化できないのが悩みです。

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―〈77circa〉のプロダクトはリメイクというカテゴリーを取り払って見ても、ファッションアイテムとしての完成度が群を抜いて高い。失礼かもしれませんが、もはや古着がベースであることやリメイクという手法は付加価値でしかなく、純粋に一着の洋服として格好いい。それも人気のゆえんなのだと思います。

森山:リメイクは少しでも手を抜くとチープに見えてしまうので、かなり意識しています。可能な限り新品と比べても見劣りせず、そこにはない魅力をどう引き出すか。あと複数の古着をミックスする場合は、すべて僕自身が一着一着バランスを図りながら組み合わせているので、そうした地道な仕事が評価につながっていると自負しています。

青谷:これだけの型数と数量を一人で行うのは、気が遠くなるような作業ですね。しかも、膨大な古着から最良の組み合わせを導き出すのは果てしないですよ。

森山:そこはもう自分の感覚を信じて。色のマッチングやコントラスト、柄のトリミング、ロックTシャツであればサウンドの方向性を合わせたり、バンド同士の関係性、ジャンルは違ってもイギリスのグループで揃えるとか、自分なりに意味をもたせながらパズルします。わかる方には面白がっていただけるかなと。

青谷:きっと〈77circa〉のファンの中には、普段は古着に親しんでいない、または過去に古着を通ってこなかった方も多いと思います。だけどリメイクを入口にして、古着に興味をもたれる方もいらっしゃいますからね。

森山:嬉しいですね。〈77circa〉のアイテムは一点一点すべて組み合わせが異なり、経年変化の表情も違うので、古着と同じように好みに合うプリントや色落ちを探したり、チョイスする楽しさもあります。それこそがショッピングの醍醐味であり、ファッション本来の高揚感にもつながる。実際にお客様の中には、同じスウェットでも自分なりの一番を見つけるために、いくつも取り扱い店を回られる方もいらっしゃいます。

青谷:それって、まさしく古着の買い方に通じますよね。

INFORMATION

〈77circa〉の新作が登場
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PROFILE

森山直樹

1977年生まれ、埼玉県出身。高校卒業を機に古着店で勤務し、その後、インポートをメインとするアパレルメーカーにてレディースブランドに携わる。26歳で独立し、自身のメンズブランドを発表。約10年間の活動を経て、再びレディースファッションにカムバックし、2015年春夏に〈77サーカ〉をスタートさせた。その名は自身の生まれ年と、「約」「およそ」を表すラテン語を組み合わせた造語であり、同じ時代に生まれ育った仲間とともに、これまで触れてきたファッションや文化、価値観を共有するといった意味合いが込められている。

青谷克也

1979生まれ、京都府出身。2003年「ユナイテッドアローズ京都店」の販売スタッフとして入社。その後、関西エリアの各店を渡り歩き、'08年より現職。

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