モノ
2017.08.17 THU.
岩手県気仙郡住田町。林業の町の「川上から川下」までを追って。
東日本大震災の被災地支援の取り組みとして始まった「LIFE311」。岩手県住田町の木造仮設住宅建設の費用をサポートするプロジェクトは今年で7年目を迎え、現在までに2億2932万7696円の支援金が集まっています(8月17日現在)。ユナイテッドアローズ社では、「REDUCE SHOPPING BAG ACTION」を通してお客様にご協力いただいた資金を森林保全団体「more trees」が主宰する「LIFE311」へ寄付しております。そこで今回は、住田町を訪れ、木造仮設住宅に使われた木の柱や壁はどのように出来上がっているのか、林業の町で行われている森林の伐採から木材に加工されるまでを追いました。
Photo:Takahiro Michinaka
Text:Noriko Ohba
森に入ると、樹と人間は似ているなと思う。
住田町の仮設住宅の最大の特徴は、木造であること。住田町には、樹木を育て、伐採して加工するという「川上から川下」までのシステムができあがっていたからこそ、世界でも珍しい木造の仮設住宅を、すばやく建設することができたのです。
木材の加工までの流れを追うために、最初にやってきたのは伐採の現場。道なき道を入っていくトラクター、現場では地元の林業会社「松田林業」が、作業をしていました。
トラクターを降り最初に山に入っていくのは、木を切る職人。発注を受け、決められた面積の森林を伐採し、木を収穫します。「この地域に多いスギが成木になるのは、だいたい60年くらい。戦災復興で住宅を多く建てた時期に国策で一気に植えた木が今、収穫の時期を迎えています。樹もお米や野菜などと一緒で、いい時期に収穫しなければ、品質の悪い状態になってしまうんですよ」と語るのは「松田林業」の松田昇さん。
「森林が今、再生可能なエネルギーとして注目されています。木材は収穫したら終わりではなく、一度伐採してもその後に再造林すれば、再び収穫できる資源。この持続可能なエネルギーをきちんと機能させるそのためにも、森の循環やそのサイクルを正しくすることが、大切です。
森で作業していると、樹と僕たち人間はよく似ているなと思います。僕たちも親から受け継いで、自分らのあとには次の世代をつくって…と、このように循環するからこそ、社会はまわるんですよね」。「松田林業」は山で伐った木を馬に挽かせて搬出する“馬搬”(ばはん)をしていた松田さんの祖父から始まり、現在3代目へと、その意志は受け継がれています。
さて、先発隊の職人が伐った木は、機械によって集材されます。山の斜面に足場をつくりながら、倒れた木を集めていきますが、驚くのは、機械の性能の高さ! 山の斜面に足場を作りながら、ただ集めるのではなく、同時に幹についた枝を払ったり、指定の長さにカットして丸太にしたりと、作業が進みます。「林業先進国であるフィンランド製の機械を導入してから飛躍的に効率がアップしました」。
風の人と土の人の両方がいて、いい風土になる。
林業の世界にも今、さまざまな変化が起きています。東日本大震災による深刻なエネルギー危機をきっかけに、2012年にはFIT制度が導入されました。FIT制度とは、自然界のエネルギーである“再生可能なエネルギー”を国が定めた価格で買い取る制度。これにより、今まで山に捨てていた木屑や使われない木材などに値段がついて取引されるようになりました。
集材した丸太を積んで山を降りると、そこには伐った丸太が集結。ここでは、丸太木材ひとつひとつを長さや品質によって仕分けられ、それぞれ製材所や合板工場などに運ばれていきます。そのなかでひと際目を引いたのは、長さや太さなどがそろっていない木材が積まれた一角。これらは、植物などの有機物(バイオマス)をエネルギー源として燃焼させ発電する「バイオマス発電所」へと運ばれます。
「木のエネルギー利用が始まったのはとてもいいことだと思いますが、制度的にはまだ課題も多く残っています。木は燃やした熱をそのまま利用するのが一番エネルギー効率が良いのですが、今は熱は利用されずに発電のみされていることがほとんどです。また、利益が発電に取り組む大企業にだけ集中しないで分散され地域に還元されるなど、木という資源がより効率もよく、フェアに使われるようになっていくといいですね」と松田さんの想いは募ります。
震災直後から始まり、「more trees」と「松田林業」との付き合いも7年目。
「北海道や宮崎の森など、先進的なことに取り組んでいる13か所の森と提携している『more trees』との交流はとても刺激になります。事務局長の水谷さんは、さまざまな森を風のように行き来していて、「あちらの森ではこんな取り組みを行っていますよ」「この機械の導入が効率的だそうです」など情報を運んでくれる人。いい風土ができるためには文字通り“風”と“土”が必要ですが、僕らのようにその土地に根付いている“土の人”には、『more trees』のような“風の人”が必要。これからも、このつながりを大切にしたいです」と松田さん。
丸太のカットから始まり、集成材ができるまでを見学。
伐り出された木材は、製材所など各所に運ばれていきます。住田町には、製材工場、集成材工場、プレカット工場が1か所に集まった「木工団地」があり、山から伐採され運ばれてきた丸太を加工しています。さっそく、団地内に入ってみると…最初に目に飛び込んで来たのは、丸太を切る機械。
するするする、と丸太の皮が剥かれ、刃で縦向きにカット、くるんと丸太の向きが変わりさらにカット、先ほどまでの丸太はあっという間に四角い木材となり、機械から出てきます。「同じ形をした木はひとつもないので、いかに歩留まりよく、無駄なくカットするかを計算しながら作業を行います」と教えてくれたのは、ここで働く三陸木材高次加工協同組合の佐野清隆さん。
カットされた木材は乾燥室へ。乾燥室では、90度以上の高温で一気に水分を抜く高温乾燥、木の質感を残しながらじっくりと乾燥させる低温乾燥など、木の種類や品質によって使い分けながら乾燥させています。
ちなみに、乾燥機の温度を上げるために必要な熱源は、端材や木屑から生成。端材や木屑をボイラーで焚いて蒸気をつくっているのです。ボイラー横には、巨大な掃除機のようなものがあり、工場内にはりめぐらされた管から吸った木屑を一か所に集めています。
乾燥を終えた木材は、集成材へと加工されます。集成とは、いくつかの木材を接着剤でくっつけて再構成しつくられる木材のこと。たとえば、大きな柱をつくる際にも、1本の木だと同じ方向に力がかかりますが、集成材のように木を張り合わせたものだと、力が引っ張り合うことで狂いの少ない材質になるのだとか。どれだけ太い柱でも、集成材にすればつくることができるのも特徴です。住田町の木造仮設住宅に使われた壁や床、屋根などにも、集成材が活用されています。
さて、木材を接着する前に必要なのは、フィンガージョイントという作業。木材の端の部分をジグザグに削って加工し、まるで指と指を組み合わせたように、互いにはめ込んで接合していきます。そして、つないだ木材は削って表面を美しい状態に。最後は、“高周波接着プレス”作業で仕上げ。高周波による熱で内部まで短時間で接着され効率よく、加工していきます。
轟音響くなか、大きな木が次々にカットされたり、また小さな板が張り合わされて大きな一枚の木材に加工されたり、工場内ではダイナミック且つ緻密な作業が繰り返されていました。常に熱気を感じる工場内ですが、木材の品質を守るために、エアコンは一切無しとのこと。「エアコンの風は木材によくないので、工場内は扇風機のみです。夏場は40度近くまであがるので、それはもう暑いですが、とてもやりがいがあります」と佐野さん。
木工団地では、「FSC認証」を取得しています。FSC認証とは、森林の環境保全に配慮した持続可能な形で生産された木材に与えられる、国際的な認証制度。住田町全体の森林面積の46%がFSCの認証を取得するなど、町をあげて持続可能な森づくりに積極的に取り組んでいます。ロンドン、リオと続いたオリンピックでも、FSC認証の木材を使っていたことは有名な話。東京オリンピックでもその実現が目指されています。
このようにさまざまな行程を経て加工された木材は、仮設住宅や私たちの生活に欠かせない形へと進化を遂げていきます。
今回住田町を訪れ、樹の伐採から加工までをひとつの町のなかで実現していく過程を追いましたが、いかがでしたでしょうか。自然界では、酸素を生み出す生産者である森に対して、私たち人間は消費者。森の環境を考えることは、そこに生きる人だけでなく、都市に生きる人たちにも重要な問題です。“都市と森をつなぐ”をテーマに活動を続ける「more trees」の「LIFE311」を、ユナイテッドアローズ社はこれからも支援していきます。
REDUCEとヒト
『LIFE311』の地、気仙地域に暮らし、働き、生きる人々。
REDUCEとウツワ
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