ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

回収衣料や未利用糸をリサイクル。 循環型ファッション素材「RE:NEWOOL®」の魅力とは。

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2022.11.24

回収衣料や未利用糸をリサイクル。 循環型ファッション素材「RE:NEWOOL®」の魅力とは。

サステナビリティという考え方が生活に浸透しはじめているいま、回収衣料や未利用糸を利用した「循環型リサイクルウール」が話題を呼んでいます。今回注目したのは、創業150年以上の歴史を誇る〈瀧定名古屋〉が生み出した新素材「RE:NEWOOL®」。この秋冬〈ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ〉はオリジナルの服地を発注し、クラシックかつリラックスムード漂うセットアップを誕生させました。長い歴史の中で「RE:NEWOOL®」が生まれた背景、環境配慮に対する思い、さらに今後の展望まで、〈瀧定名古屋〉の永川 晴美さん、宮地 健司さんにお話を伺いました。

Photo:Tomoaki Shimoyama
Text:Maho Honjo

社会の変化で見直される、リサイクルウールの価値。

ー「RE:NEWOOL®」を生み出した〈瀧定名古屋(たきさだなごや)〉さんは、今年で創業158年を迎える老舗企業です。まずはその歴史と会社の特色について教えてください。

創業は1864年、呉服太物卸商からスタートし、現在はアパレルなどの企画開発から、仕入れ、生産、販売まで一貫して手掛ける繊維専門商社です。企画能力に優れ、海外にも生産拠点を持っているのが、我が社の強み。世界的なビッグメゾンからも発注をいただいており、日本有数の繊維企業であると自負しています。

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ー老舗かつ世界に拠点を持つ〈瀧定名古屋〉が生み出したのが、回収衣料や未利用糸を利用した循環型リサイクルウール「RE:NEWOOL®」ですね。この環境負荷を抑えた新素材は、どういう経緯で生まれたのでしょうか。

日本が世界に誇るウール産地、愛知県尾張地方の尾州では、1960年ぐらいから「毛七(けしち)」(ウール70%、その他30%の意味)と呼ばれる再生ウールが存在していました。

ーその昔から、サステナブルなウールがあったのですね。

その頃から一般衣料に使われていて、弊社でも取り扱いがありました。当時、新毛は高価だったので、モッタイナイ精神から生まれたものだったのです。ただ、新毛使いのウールに比べると質の悪いものとされ、表立って語られるものではありませんでした。

ーそれが時代とともにどう変わっていったのでしょうか。

「毛七」がサステナブルな素材だと注目されはじめたのは、6,7年ほど前からでしょうか。地球環境の危機が叫ばれ、リサイクルの大切さが見直されるようになり、社会のあり方、人々の価値観がどんどん変化してきました。回収衣料や未利用糸を反毛(不要になった繊維を機械でもう一度わた状に戻すこと)したものが原料ということは、新毛を使った場合と比べて、水やエネルギー、Co2の排出などを減らすことができます。

なによりわたしたち自身、再生ウールは人の手によって生み出されるもので、職人なしでは存在し得ないものだとよくわかっていたので、ならば、その価値をしっかり見直そうという動きが出てきたんです。

ーそこで生まれたのが「RE:NEWOOL®」というわけですね。

「RE:NEWOOL®」というブランドを作ったのは5,6年前。さらにコロナ禍を経て、サーキュラーエコノミーが注目され始めたため、昨年リブランディングを行い、ロゴも一新。販促を充実させ、WEBサイトや動画も作りました。生地メーカーからアパレルブランドまで、我が社は広いネットワークがありますが、ここ1、2年程で確実な手応えや、注目が集まっていることをひしひしと感じています。

人による、人と地球のための素材「RE:NEWOOL®」。

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ーでは、実際に「RE:NEWOOL®」ができあがるまでの流れを教えてください。

まずは「回収」ですね。全国から集まった衣料は、回収業者さんによって「まだ着られるもの」「ウエス(雑巾)にするもの」「反毛加工するもの」に分けられます。ちなみにリサイクルウールになるのは、ウール80%以上の衣料のみ。回収物全体の約2%と言われています。

ーわずか2%とは。すごく貴重ですね。

とはいえ、それが全国から集まってくるので、月に2万キログラムぐらい。衣替えのタイミングはさらに量が増えます。次が「仕分け」。衣料をまずは色ごとに分け、さらにボタンやタグなどウール以外のものを外していきます。それらはすべて人が手作業で行っていくのが特徴です。

画像 提供:瀧定名古屋

ーその工程は、やはり人が行うことが重要なのですね。

人の手で色分けされることで、彩度の高い糸をつくり出すことができますし、手作業で不要物を取り除くことで、質の高いウールを生むことができます。そして、そこからようやく「反毛」へと進みます。色分けされた衣料を名刺大の大きさに切り、特殊な油をかけ、2日間ほど寝かすと、手で裂けるぐらいのやわらかさに。それらを細かな針がびっしり並んだ反毛機にかけると、ホワホワのわた状態になるのです。

ちなみに反毛機が発明されたのは19世紀だそう。この工場では1970年代の機械が現役で活躍しているんです。

ー半世紀にわたって活躍している機械があるとは…。歴史を感じます。

さて、次が「紡績」。「RE:NEWOOL®」は、糸を染め直したりせず、もともとの色をそのまま生かします。染め工程を省くことで水やエネルギーを使用することがなく、環境負荷を抑えることに繋がるんです。
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提供:瀧定名古屋

ーとなると、欲しい色や狙った色はどうやってつくり出すのでしょうか。

そこで重要な役割を果たすのが「調合士」と呼ばれる職人たちです。工場には色わたの調合表があって、欲しい色は複数の色糸をブレンドして作るのです。狙った色を出すために、どの色をどの割合で混ぜるのかという調合は、尾州地区に受け継がれている伝統の職人技。日本人という国民性があってこそ到達できる、微妙で繊細な伝統技術なのです。

ー染めるのではなく、調合士がブレンドする。これは「RE:NEWOOL®」ならではの工程ですね。

そう、この調合こそが「RE:NEWOOL®」の心臓部と言えるでしょう。色を調合したわたは、リサイクルの化学繊維を少量ブレンドして、強度と風合いを備えた糸に紡績します。その後「製織」「製編」され、油や汚れを洗浄し、風合いを整えて完成。「RE:NEWOOL®」がいかに環境に配慮されたものか、またいかに人の手間が掛けられているか、ご理解いただけたでしょうか。

おしゃれと環境、両方を思う気持ちが共存している。

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ーさてこの秋冬〈BEAUTY&YOUTH〉は「RE:NEWOOL®」に服地を別注して、セットアップを完成させました。

まずはこのサステナブルな製作背景、そしてやはり繊細な色出し、さらにしなやかな着心地、このあたりを熟慮して「RE:NEWOOL®」を指名していただいたようです。

ーウールらしい風合いはそのまま、生地がしなやかで着心地がラク。今季らしいクラシックなムードと時代のニーズ、その両方を備えていますね。

いわゆるブリティッシュ調のゴワゴワしたウールではなく、薄くて柔らかさがあるのが特徴です。オンオフ兼用のジャケット&パンツのニーズが高まっているという要望を受けて、ご提案しました。

ーTシャツやスニーカー、季節が深まればセーターと合わせて楽しめそうです。なにより、どこかビンテージ感のあるチェック、深みのあるネイビー、この落ち着いた色味に心惹かれます。

実はこのチェックが難しかったですね。ファーストサンプルは、もっとクリアで派手な印象のものでした。そうではなくて「RE:NEWOOL®」ならではの落ち着いた風合いを活かしたいという話になり、このラフでナチュラルなトーンに辿り着いたのです。

ブラウンの中に微妙なメランジを入れたりすることで、先染めの糸とは違う、ビンテージライクなニュアンスのある服地に仕上がりました。それはネイビーも同じ。この優しく深く温かみのあるネイビーは「RE:NEWOOL®」ならでは。

職人さんたちとイメージを共有しながら、そして苦労を掛けながら(笑)、我々の経験値を活かしてモノづくりに携わる。これは〈瀧定名古屋〉、そして「RE:NEWOOL®」の強みだと思います。

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ー生地そのものにファッション面での強みがあり、かつ環境負荷を抑えた循環型の新素材でもある、ということですね。

現在のファッション用のウールの主な生産地は、オーストラリアとニュージランドです。その羊毛は、ほとんどが中国に輸送され、洗浄され、製造前のトップ(わたの状態)や紡績糸、織編み物となって日本に輸入されます。要は、産地から直接届くのではなく、途中でたくさんのエネルギーを使っているということ。

それが「RE:NEWOOL®」のように回収衣料などを原料にすれば、原料はもちろん、洗浄に使う大量の水、そして輸送エネルギーまで大幅に減らすことできます。この“都市牧場”を利用しない手はありません。

昔に比べてウールの品質は格段に上がりました。仕分け段階で良質なウールを選別すれば、サステナブルかつ高品質な循環型リサイクルウールの分野を開拓できる。そう考えているのです。

ーこれからもますます注目が集まる分野になりそうです。

ファッションはもちろん、ライフスタイルになじむホームウェアや膝掛けなどの展開も考えています。可能性がある素材ゆえ、トレンドを加味しながら、次世代を見据えて新しい取り組みが続々と始まっているところ。歴史を礎に未来を見渡して、進化していきたいと思っています。

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