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2019.09.12 THU.
ファッションディレクター田中安由美が現地取材。話題のイタリア製生地ブランド「FAbRICA TESSUTI」のもの作りに迫ります。
今シーズン、ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング(以下GLR)では、紡毛産地として名高いイタリア・プラトー地区にあるFAbRICA社が手がける生地「FAbRICA TESSUTI」を初めてコートのメインコレクションに採用しています。そこで、GLRのウィメンズファッションディレクターを務める田中安由美が現地のFAbRICA社を訪れ、開発担当を務めるマッテオ・チャンポリーニさんのナビゲートのもと工場を取材しながら同社の生地作りに対する並々ならぬこだわりと情熱に触れてきました。クラシックな趣とモダンな軽やかさを兼ね備えた、風合い豊かなGLRの新しいコート。2人の対談によって、その魅力の本質に迫ります。
Photo_Shunya Arai(YARD)
Text_Kai Tokuhara
―田中さんがGLRの秋冬コレクションにFAbRICAの生地を採用しようと思ったきっかけとは?
田中:FAbRICA社という生地メーカーが存在することは以前から存じ上げていたのですが、MDと原料担当の2人と実際に生地を拝見した時に「これならGLRのコレクションに今までにはない新しい付加価値をもたらすことができるのではないか?」と。生地そのものの独特の風合いや表情に瞬時に魅了されましたね。
マッテオ:元々ユナイテッドアローズのメンズセクションとはお付き合いがあったのですが、(GLRは)初めてなのにもかかわらず田中さんからビッグオーダーを頂いて驚きました(笑)。
田中:プラトーの工場を訪れたのは今回が初めてですが、想像していたよりもかなり少人数で切り盛りされていることにこちらも驚いています。これはオーダーが多くて負担をかけすぎてしまったかもしれない!と(笑) 。でも仕上がりには本当に満足しています。当初は時間的に難しいのではないかと思われたGLRだけの別注カラーもすばらしいクオリティで仕上げていただきましたし、わがまま放題のオーダーに対してものすごく真摯に向き合ってくださってことに感謝しています。
マッテオ:ピンクやブルーといった鮮やかなカラーはうちではこれまで作ったことがないカテゴリーでしたが、初めてのお客様との仕事に丁寧に取り組みたいという思いが大きな原動力になりましたので、うちの仕事に満足していただけたならこちらとしても嬉しい限りです。FAbRICA TESSUTIとしても今回のGLRとの取り組みを機に新しいビジネス展開のきっかけを頂いたと思っていますし、今後もさらに関係を深めていけたら良いなと考えています。
―今回の取り組みにおいて、GLRのコンセプトやフィロソフィーにFAbRICA TESSUTIのどういったところがマッチしたのだと考えていますか?
田中:FAbRICA の生地は実にモダン。開発も常に現代のマーケットやお客様の要望をリサーチしながら行なっているとお聞きしました。GLRもコートやジャケットなどのアウターに対するお客様の信用度が高く、どんなお客様がどういったオケージョンで着用されるのかをきちんとイメージしつつちょっとした意外性をもたらせるアイテムを作っている自負があるので、そういったもの作りのスタンスがすごくマッチしているなと実感しています。
マッテオ:私たちもGLRの服にシンパシーをすごく感じています。田中さんからいろんなリクエストをいただいてサンプルを作る過程で感じたのは、「温故知新」と言いますか、伝統的な中にも常に新しいテイストを取り入れながらアップデートさせている点がうちのリサーチやとか生地製法に似ていると思いました。仕上がったコートも拝見しましたが、クラシックなのに若々しさにあふれ、着る人がスタイリングする楽しみを得られるようなワードローブですね。
―田中さんは、今回FAbRICA社の工場に初めて訪れて何を感じましたか?
田中:もの作りや仕事に対するスタンスがとても日本人的だというのはかねてよりうかがっていたのですが、実際に工場やオフィススタッフの方々の仕事ぶりを目の当たりにして、その勤勉さに感激しています。イタリアの方々というのはもう少し陽気で、いい意味でのアバウトさがあると思っていたので意外でした。それに少人数ならではの結束力のようなものもすごく伝わってきました。もの作りが好きな人たちが心底楽しみながら生地を作っている姿に刺激を受けました。
マッテオ:この会社は1994年創業で、日本のお客様とのビジネスを開始したのは2003年。そして私は営業担当として15年前ほど前から日本に行く機会が増えました。その中で日本人のメンタリティから多くのことを学びましたし、日本のお客様が何を考え、どういったワードローブを求めているのかも肌で感じてきました。そのフィードバックを、今では生産のスタッフやデザインチームなどに伝える役割も担っています。それはなかなか一筋縄ではいかない作業ですが、これからもどんどん推進していきたいなと思っている部分ですね。
田中:私自身、特に印象に残っているのは、新しい機械と古い機械を生地の特性に応じてとても効率的に使い分けているところです。元々イタリアをはじめとするインポート生地特有の色出しの美しさや風合いの良さに対して「そこにはどんな要因があるのだろう」と思っていたのですが、今回仕上げの工程などを見せていただき腑に落ちました。「あえてこの素材をこの機械で織るからこうなる」といったような組み合わせの妙というか、巧みさを感じましたね。また、マーケット的に新しさがあるけれど決して早すぎない、絶妙なラインの生地を揃える感度や嗅覚にも恐れ入りました。
マッテオ:さきほど田中さんがおっしゃったように、ここにいるスタッフはみんなもの作りが好きで、仕事が好き。また生地作りのコアになるセクションにはエキスパートをしっかり配置していますが、若い人も多いんですよ。歴史の浅い会社ですので、妥協しない姿勢は大事にしつつ、みんなが楽しんで仕事ができる環境作りも心がけています。
―お2人それぞれにお聞きします。今後もGLRとFAbRICA TESSUTIの取り組みが続いて行くとして、どのようにプロジェクトを発展させていきたいですか?
田中:この秋冬シーズンというのは、ひとつの気に入った生地にビッグオーダーで託した形になりましたが、本来FAbRICAさんはすごくバリエーション豊富な生地を開発されている会社ですので、今後はより多様なアイテムを一緒に作っていきたいですし、イメージできるスタイリングの幅も広げていきたいと考えています。毎シーズン、「今季はこうだったから来季はこういう生地にしましょう」といったようなコミュニケーションをより密に取っていけるような関係性を築きながら、GLR、ひいてはユナイテッドアローズとFAbRICA社による取り組みをコンスタントに続けていけるようにしたいと思っています。
マッテオ:もちろんユナイテッドアローズさんの求めるクオリティを維持していくことは当然として、これからはよりお会いする機会が増えると思いますので、田中さんが何を求め、日本のお客様にどういったワードローブを提供していきたいのかという思いをより良い形で具現化できると考えています。だからどんどん積極的にリクエストしていただきたいですね。
田中:それは頼もしいです!
マッテオ:ちなみに田中さんは毎シーズン新しいコレクションのコンセプトなどを考える際に、どのようなところからインスピレーションを得ているのですか?
田中:常に3つの情報を総合的に解釈した中で「一歩先の気分」というのを自分のフィルターを通して発信できるように心がけていますね。パリやミラノ、ニューヨークなどのコレクションの傾向、自分たちのブランドも含めた日本のマーケットの動向、そして素材。私の中ではどれか1つの要素が欠けてもダメというか、例えばデザインのイメージが定まっていても素材が見つからなければ方向性を示せませんので。
マッテオ:なるほど。たしかに今回私たちの生地を使って仕上げていただいたコートも、すごくモダンですがクラシックさがしっかり生かされていて、若い方から年配の方まで着ていただけそうなコレクションだなと直感的に思いましたし、その中で新色を一緒に開発したり、クラシックとモダンという二面性のあるコンセプトをうまく共有できたことを誇りに思います。母国語は違いますが、同じ言語で会話ができたように感じています。
田中:ありがとうございます。こちらも、昨年12月に初めて「FAbRICA の生地でコートを作れたら」と思ってから半年、こうして工場に訪れることができてとてもハッピーです。この素敵な生地たちが、私たちをプラトーの街に連れてきてくれたと思っています。
FAbRICA TESSUTIとの協業によって新たにラインナップされたコートコレクション。
上質感たっぷりな風合い、とても軽やかな着心地、そして洗練されたシルエットを引き立たせるモダンなカラーリングがこのラインナップの特徴。GLRに加え、エメル リファインズ、ワークトリップ アウトフィッツ、クローゼット ストーリーからも同生地を使ったアイテムがリリースされます。そこで各ブランドの最新ラインナップをイタリアにて撮影しました。リリースはもうまもなく。そのクオリティを、各ショップにてぜひともご堪能ください。
(左)クローゼット ストーリー (右)エメル リファインズ
(左)ワークトリップ アウトフィッツ (右)グリーンレーベルリラクシング
グリーンレーベルリラクシング
INFORMATION
PROFILE

田中安由美
2008年〈グリーンレーベル リラクシング〉のデザイナーとして入社。以後カットソー、布帛デザインを経験。2016年よりチーフデザイナーを経て、2018年よりウィメンズディレクターを担当。