ウツワ
2025.12.18
日本和文化グランプリ2025 — 伝統と革新が織りなす、次世代への和のかたち
日本の伝統文化の魅力とその可能性を広く伝える「日本和文化グランプリ」。今年、新たに設けられた「ユナイテッドアローズ(UA)賞」をはじめ、審査員の厳正な評価を経て選ばれた受賞者たちの功績を、授賞式の様子とともにご紹介。日本和文化振興プロジェクト副代表理事でありユナイテッドアローズ名誉会長の重松理さんの想い、TABAYA United Arrows ディレクター田村麻衣子さんによるUA賞選定のポイント、そして受賞者である有限会社森工芸・森寛之さんの作品やコメントを交え、授賞式当日の写真とともに、和文化の本質と未来へのつながり、伝統と革新が交差する瞬間を伝えます。
Photo: Kousuke Matsuki
Text & Edit:Shoko Matsumoto
日本和文化振興プロジェクトとは。
一般社団法人 日本和文化振興プロジェクト(以下、JCPP)は、日本の伝統文化を現代に生かしながら次世代へつなげていくことを目的に発足した団体。和文化の理念や価値を社会に広く伝えるため、「知の継承」と「文化の循環」を軸に活動されています。和の分野は、工芸、芸能、衣食住、建築、風習など幅広く、それぞれに独自の歴史がありますが、時代の変化の中で継承の難しさや後継者不足といった課題を抱えているのが現状でもあります。JCPPは、その課題を乗り越えるために、イベントを行うだけではなく、文化の担い手同士がつながる場づくり、作品を評価し発信する仕組みづくりを積極的に行っています。企業や個人が志を同じくして集まり、協力しながら文化振興を進めるコミュニティのようなJCPPは、こうした考え方を土台に文化を広げ、守り、つなげるプロジェクトを継続してきました。その象徴とも言えるのが「日本和文化グランプリ」です。
日本和文化グランプリに全国から集まった技と想い。
2025年で5回目となる日本和文化グランプリには、全国各地から多様な作品とプロジェクトが集まりました。伝統技術を守る活動から、現代の感性を取り入れた新しい作品、地域に根づいた取り組みまで、幅広い和文化の姿が並び、その奥行きと広がりを改めて感じさせる内容となりました。なお今回の授賞式は東京・六本木の国際文化会館で行われましたが、国内外の文化人が集い、多様なカルチャーが交差してきたこの場所は、和文化の現在地と未来を語る場として大きな親和性がありました。
今回のグランプリ(プロデュース部門)には、能登地震の被災地で伝統工芸の復興をめざす「小さな木地屋さん再生プロジェクト/『工藝的復興』活動」が選ばれました。困難な状況の中でも伝統を守り、地域の技を再び灯す活動は、審査員から高い評価を受けました。準グランプリには、金沢美術工芸大学の劉幸運さんによる漆作品「宇宙の境 I」が選ばれ、現在の若い世代による繊細な表現力や新しい感覚も強く印象づけられました。今年は応募作品の幅広さに対応するためカテゴリーがより細分化され、賞の種類も増加、国内外から寄せられた数多くの作品の中から28作品が受賞しました。和文化の担い手を発掘し、発信する重要な機会となった中、今年大きく注目されたのが、新設された「ユナイテッドアローズ(UA)賞」です。
今回のグランプリ(プロデュース部門)には、能登地震の被災地で伝統工芸の復興をめざす「小さな木地屋さん再生プロジェクト/『工藝的復興』活動」が選ばれました。困難な状況の中でも伝統を守り、地域の技を再び灯す活動は、審査員から高い評価を受けました。準グランプリには、金沢美術工芸大学の劉幸運さんによる漆作品「宇宙の境 I」が選ばれ、現在の若い世代による繊細な表現力や新しい感覚も強く印象づけられました。今年は応募作品の幅広さに対応するためカテゴリーがより細分化され、賞の種類も増加、国内外から寄せられた数多くの作品の中から28作品が受賞しました。和文化の担い手を発掘し、発信する重要な機会となった中、今年大きく注目されたのが、新設された「ユナイテッドアローズ(UA)賞」です。
文化を未来に届けるための新設・UA賞。
2025年から日本和文化グランプリに新たに加わった「UA賞」。ファッションやライフスタイル分野で多様な文化を発信してきたユナイテッドアローズが、なぜ和文化の賞を設けたのか。その背景には、同社の長い歴史と、日本文化への深い敬意があります。プレゼンターを務めたJCPP副代表理事でありユナイテッドアローズ名誉会長・重松さんは、UAが和文化振興に力を入れる理由について次のように話しました。「日本の文化を後世に残していくためには、若い方々にも関心を持っていただく必要があります。私たちのようなファッション企業が関わることで、より多くの方に届けるお手伝いができるのではないかと考えて参加しました」。
さらに、UAの創業時から大切にしてきた理念についても「ユナイテッドアローズは創業当時から西洋と東洋の文化の融合を掲げてきました。和文化は私たちにとって身近な存在ですし、これからもより深く関わりたいと感じています」と触れています。UA賞の創設は、単なる協賛ではなく、文化を未来に手渡すための企業の姿勢でもあります。
初代UA賞受賞。森工芸・森寛之さん。
そして記念すべき初代UA賞を受賞したのは、1953年創業、徳島県で突板(つきいた)貼りの技術を受け継ぐ有限会社森工芸、ツキ板貼り職人の森寛之さんです。森さんの受賞作品「RAYS PLATE 藍漆(レイズプレート藍漆)」は、鋭角な三角形に切り合わせたツキ板を中心からぐるりと貼り合わせて模様にする「光線貼り」という技法を使い、さらに徳島県産の藍を漆に合わせた「藍漆」で仕上げた作品です。光の角度で木の色が違って見えるため、手にとって動かすことで深い藍色が静かに表情を変え、伝統技術の緻密さと現代感覚の両方を感じさせます。
森さんは、受賞について次のように語りました。「日本和文化グランプリに作品を出すのは初めてで、とても光栄です。ユナイテッドアローズさんを通して、新しいお客様にも知っていただける機会になるのが嬉しいです」。また、応募のきっかけについては、「父に“出してみたらどうだ”と言われて挑戦したのが始まりでした。特別に創作したものではなく、日頃から向き合っている作品の中で、趣旨に合うものを選んで応募しました」と語り、日常の制作の積み重ねが受賞へつながったことを明かしました。森さんが大切にしているのは「日本の美意識を日常に溶け込ませる新たな模様表現を目指すこと」と、とてもシンプルでありながら力強いものです。その言葉どおり、RAYS PLATEは特別な器である前に、日常の風景に自然に馴染む柔らかさを持っています。そこがUA賞に選ばれた理由でもあります。
UAが重視した、生活に寄り添う美。
UA賞の選考を担当したTABAYA United Arrows ディレクターの田村さんは、森工芸の作品を選んだ理由について次のように説明しました。「小売業として、生活に寄り添う姿が想像できるかどうかを重視しました。森さんの作品は、技術と素材が凝縮されていて、お客様の生活の中に自然に馴染む姿が思い浮かんだんです」。また、特に評価したポイントについて「木工の応募作品は多くありましたが、その中でも森工芸の作品は独自の模様表現が際立っていました。伝統的な素材・藍を、漆と融合させる試みの完成度が高く、素材への理解と探求心を感じましたし、ただ美しいだけでなく、日常に置いたときの佇まいまで想像できる点が、UAの価値観と合致しました」と語りました。
和文化を未来へつなぐ、新たな一歩。
日本和文化グランプリ2025は、和文化に携わる多くの人の想いと技が集まる大切な舞台となりました。新しく創設されたUA賞は、和文化を未来へつなぐために企業ができることを示し、ユナイテッドアローズというブランドが持つ文化への姿勢が明確にあらわれた賞となりました。森工芸・森寛之さんの作品「RAYS PLATE 藍漆」は、伝統技術と現代的な美意識の調和が高く評価され 日常に寄り添う工芸品を大切にするUAの価値観と、森さんの「日本の美意識を日常に溶け込ませたい」という思いが重なりあいました。JCPPでは、今後も和文化の担い手を支えるため、授賞式に続く交流会や展示販売会、ギャラリートークの開催に加え、海外向けサイトでの紹介・販売を進めていくそうです。伝統は守るだけでなく、使われ、受け取られ、そして次の世代へ自然に手渡されていくもの。これからもJCPPそしてユナイテッドアローズは、文化を大切に思う人たちがつながり、支え合いながら、和文化の魅力を広げる取り組みを続けていきます。