ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

経年在庫を再編集して新たな物語を紡ぐ「EDISTORIAL STORE」の仕掛け人、スタイリスト小沢 宏氏と考える循環型ファッションの新しいカタチ。

ウツワ

2023.09.27

経年在庫を再編集して新たな物語を紡ぐ「EDISTORIAL STORE」の仕掛け人、スタイリスト小沢 宏氏と考える循環型ファッションの新しいカタチ。

サステナブルをテーマにしたイベント「LIVE STOCK MARKET in MARUNOUCHI」が去る9月14日(木)〜18日(祝)にわたって、丸の内仲通りで開催されました。その中身は、倉庫に眠る経年在庫の服(DEAD STOCK)に光を当てて、新しい価値を得て生まれ変わった服(LIVE STOCK)を販売するというもの。本イベントのディレクターを務めたのは、「LIVE STOCK」を提唱し、長野県上田市でセレクトショップ「EDISTORIAL STORE(エディストリアル ストア)」を手掛ける、スタイリストの 小沢 宏さん。ファッション業界内外が問題視している服の余剰在庫を、見事なアイデアで解決しようとする小沢さんとともに、服の未来について考えます。

Photo:Yu
Text:Shinri Kobayashi

小沢さんが提唱する「LIVE STOCK」という理念とは。

ーまずは小沢さんの考案された「LIVE STOCK」とはなにか、教えてください。

要するに、死んでいる在庫(DEAD STOCK)ではなく、生きている在庫という意味での「LIVE STOCK」なんです。「DEAD STOCK」というのは、古着業界ではいい言葉ですけど、言ってしまえば、“死に在庫”ですよね。でも、『古い・新しい』『安い・高い』でもない、新しい価値をそこに付けられるのであれば、もともと経年在庫として埋もれて死んでいたものを生き返らせることができる。「LIVE STOCK」とはそんな意味を込めた造語です。

ーなるほど。リサイクルでも、リユースでもない新しいコンセプトなんですね。

知人に話したら、「LIVE STOCK」の本来の意味は全然違うぞと言われて(笑)。だから完全な和製英語なんですけど、和製英語の「DEAD STOCK」に対しての「LIVE STOCK」という言葉であれば、まあみんな大体わかるだろうなと。

ーでは、「LIVE STOCK」をコンセプトのひとつとして掲げる「EDISTORIAL STORE」とはどんなお店ですか?

「EDISTORIAL STORE」というのは、僕が故郷である長野県上田市に2022年にオープンしたお店です。ブランド各社の経年在庫を僕なりの視点でセレクトして販売しています。また、商品タグに手書きメッセージを付けていて、今回の「LIVE STOCK MARKET in MARUNOUCHI」でも同様です。

  • 「LIVE STOCK MARKET in MARUNOUCHI」に並ぶ商品一点一点に付けられた「EDISTORIAL STORE」の商品タグ。

  • タグの中面には小沢さん直筆のメッセージ入り。それぞれのアイテムが持つバックストーリーや着こなし方などが数ページにわたって綴られている。
ー小沢さんによる総合プロデュースのイベント「LIVE STOCK MARKET in MARUNOUCHI」が、去る9月14日(木)~18日(祝)の5日間、丸の内仲通りで開催されました。さまざまなイベントのうちのひとつとして、「EDISTORIAL STORE」のポップアップ「BE YOUR REAL」が行われ、ユナイテッドアローズとビームスの商品が混在するというのがなんとも驚きでした。

両社が「LIVE STOCK」の考えに賛同してくれて、「EDISTORIAL STORE」のポップアップであれば、そこでアイテムを並べてくださいと同時に言ってもらえたんです。これは面白いことになると思い、こういった陳列にさせてもらいました。

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ー画期的な試みですよね。上田のお店でも同様でしょうか?

お店でもラックに、いろいろなブランドが混在しています。先ほどお話しした「LIVE STOCK」がショップの柱となるコンセプトですが、もうひとつ大きな柱として「雑誌の3D化」という考え方があります。これは「EDISTORIAL STORE」(=「EDITORIAL(編集)」+「STORY(物語)」)の由来でもあるのですが、ウェブであろうと紙媒体であろうと人が見ているのは平面の二次元ですが、洋服は立体物だし着ている人も立体物。なので、“ショップとして立体化することで人と洋服が近くなる”と、そういった考え方で店づくりを進めています。

ー「LIVE STOCK」という考えで集めたアイテムを「雑誌の3D化」という手法で提案するということですね。

そうですね。そのふたつを突き詰めていくと、自分が長くこの業界に関わってきた中で生まれたちょっとした疑問点や、世の中の商習慣としてこれが“一応の正解です”と言われていることに対して、“本当にそうなの?”と追求していくことになる。だから大げさに言うと、ちょっとした“実証実験”みたいなところもあるんです。

画像 「LIVE STOCK」という理念やファッションと環境問題についてなど、小沢さんの頭の中や「EDISTORIAL STORE」のイロハがわかるZINE『LIVE STOCK MAGA-ZINE』。


スタイリスト目線で、“売れなかった商品からどう選ぶか”。

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ーお店をはじめる際に、外野からは「売れなかったものには、それなりの売れない理由があるんだ」という、ネガティブな声もあったとか。実際はどんな基準でアイテムを選んでいますか?

スタイリストという仕事は、基本的に逆張りの考えじゃないとできないと思っています。例えばオーバーサイズが流行っているときに、細いシルエットがかっこいいというカードをどのタイミングで切れるかどうかがスタイリストの腕の見せどころ。3年前に発売されたある商品が、まれにその理由が早すぎたから売れなかったということもあるんです。それはさっき言った、逆張りに近いところもあって、その辺を意識してピックアップしていますね。

ートレンドとして早すぎたり遅すぎたり…というケースですね。

あとは、当然ベーシックなものもあるんですが、ベーシックなものでさえも、残念ながら消化率100%を達成するのは大変です。100%になってしまうというのは、ある意味、需要を読み間違えているとも言えてしまう。作った物と買った物がジャストイコールというのはなかなかなくて、おそらく120%ぐらい欲しい人がいた上で、結果100%売れた、ということなんですよね。

ーなるほど、機会の損失になっているわけですね。

だから、ユナイテッドアローズ社のように分母が大きいと、0コンマいくつの%まで合わせるのはすごく難しいはずです。仮に廃棄率が0.1%だったとしても、数としては何千着とかになってしまいますから…。でも、ユナイテッドアローズの繊維製品の廃棄率が今年0.3%まで下がったと聞いて、それはすごく大きなことだと思いました。

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「EDISTORIAL STORE」をスタートしたことによって生まれた“気付き”。

ーこういったサステナビリティにまつわることは、どうやって“自分ごと化”するかがキモだと思うんです。そもそも、長年スタイリストとして第一線で活躍されてきた小沢さんが、なぜ「EDISTORIAL STORE」をはじめたんでしょうか?

僕は59歳なんですけど、ありがたいことに20代半ば頃から、スタイリストという花形職業でそれなりにやらせてもらってきたという自負があります。その中で、いま振り返るとすごく甘いけど、自分のキャリアを「投げたボール」に例えるなら、地面につかずにずっと飛び続けられると思っていたし、お店をプロデュースしたりブランドをはじめたりと楽しくやっていたんです。でも、10年くらい前にそのボールが引力に引っ張られて地面に近づいているな、と。具体的にどうってわけじゃないんですが、なんかこう背中がざわざわするなみたいな(笑)。

ー今後のキャリアをどうしていくか考えられたわけですね。

僕は紹介されるときにベテランとかレジェンドとか言われるのがいちばんやばいと思っていて、常に現役感を持っていたいんです。でもそれは、雑誌で巻頭10ページをやるとかそういうことではなく、どうすれば自分なりの現役感を保っていけるのかを10年ぐらい前から常に考えていました。2017年頃にいくつかのブランドをすべてクローズすることにして、事務所もスタッフもコンパクトにしようとしたんです。そこで事務所を片付けたときに、予想よりもたくさんの在庫の服が出てきて…。僕たちなりにちゃんとコンパクトにやっていたつもりだったのに、こういう絞りカスみたいなものが出てきちゃうんだなとショックで、ネガティブな切ない思い出として心に残っていました。

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ー当時はまだまだでしたけど、近年はファッション業の廃棄、焼却も大きなニュースになる時代ですよね。

その後、コロナでそれまでの社会規範がいろいろとひっくり返っていく中で、ある日ブツ撮りをしていたんですね。カメラマンがファインダーを覗きながら、何気なく「小沢さん、今日着ている服ってどこのですか?」と聞いてきたんです。「これは昨日高円寺の古着屋で買ったものだよ」と言ったら、めちゃくちゃびっくりされて、「小沢さんに古着や高円寺のイメージは全然ありませんでした、ハイブランドばかりを着ていると思ってました」と。そのときに、ピンボールマシンのボールがビンビンビンといろいろな場所に高速で跳ね返るみたいに、0コンマ何秒ぐらいの間にそれまでモヤっとしていたものが、繋がっていった気がするんです。

ーなるほど。それが大きな気付きになったんですね。

それはなにかと言えば、“数年前の在庫が残っちゃった、どうしよう…”と。僕ぐらいの規模でこんなに残るということは、世の中のブランドや会社にはどれだけ問題があるんだろうというイメージ。あとはそのカメラマンに言われたことなんですが、「僕が着ているとハイブランドに見える」とか。そういうことが全部繋がって、もしかしたらスタイリストであれば、 『古い・新しい』『安い・高い』というわかりやすいマトリックスではないところで、新しい価値を付与して、それを世の中の人に伝えることができるんじゃないかなと思いついたんです。それが「EDISTORIAL STORE」のすべてのもとになってます。

ーSDGsの時代にとてもマッチしているお店ですよね。

確かにお店について説明すればするほど、サステナブルの文脈に集約されてしまいがちですが、5年前に出たあの在庫の切ない思い出をベースに、個人的な思いでやっているんです。サステナビリティは、どっちかっていうと世の中のため、地球の環境をどうにかしようとする大きな話になってしまいがちですけど、僕がやっているのは、もっと小さなレベルの話だと思っています。

切っても切り離せない“ファッションと環境問題”について、どう考えるか。

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ーユナイテッドアローズ社では、サステナビリティ活動「SARROWS」を掲げて、​​2030年の繊維製品の廃棄率を0.0%に目標設定しています。小沢さん自身はどういった未来像を描いていますか?

「LIVE STOCK」という考え方が新しいか古いかは置いておいて、 アウトレットやセールショップともフラッシュサイトとも全然違う「EDISTORIAL STORE」では、“安く売ること”は3番目くらいの価値だと捉えています。値段の話をすれば、当時の上代から40〜50%OFFくらいで売っているので、もちろん安いは安いのですが、安いことをファーストプライオリティーにはしていません。割引率を値札に書くこともありません。いちばん大切なのは、物にはそれぞれに価値があるということを もう一度自分で体験してもらうこと。

僕はオンラインでも物を買いますが、ECサイトで最後には70%OFFになる、つまり安く売るというのは結局商品を捌けさせるための手段でしかないんですよね。だから、安く売るのとは違う手法で、みんなに物を届けられるやり方がないかなと。

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ーということで小沢さんが考えたのは、モノの再生方法としては上手なタイミングと提案の仕方で、売れ残った商品に新しい価値を与えるということですよね。

それこそまさにスタイリストの仕事だなと。僕はただ仕組みを伝えたいだけで、それは古着屋さんがやっていることを、僕は新古品でやっているだけとも言えます。でも、もっとこういう感覚や概念は広がっていくんじゃないかなという想いもあって、別にビジネスを大きくしたいわけではなく、そういう感覚を共有することで海外でも国内でもユナイトできるんじゃないかなと。

そして、「LIVE STOCK」という概念がどういう風に大きく広がっていったらいいかと考えると、完売して廃棄率がゼロになることなのかなと。完売するためにはいくつかの要素があるんですが、雑誌に例えるとそのときにやった特集の内容が良かったということと、コマーシャリズムとジャーナリズムのちょうどいいところを突かなきゃいけない。“ちょうどいい”とか、“お! それそれ!”と思ってくれるような、半歩先くらいを提案するのがいいんですよね。

ーまさに雑誌の理想ですね。

そうですね。あとは、ファッションロスと同じく、フードロスとかジャンルは違えど同じ問題を抱えている分野もあります。今回の丸の内のイベントはファッションだけでしたけど、次からはフードもやってみよう、とか、そうやって分野を超えて広がっていくチャンスは今後増えてくると思います。

INFORMATION

PROFILE

小沢 宏

小沢 宏

1964年生まれ、長野県上田市出身。スタイリストとして、各メディアでのスタイリング、ブランドディレクション、ショップディレクションなどを手掛ける。2022年5月、故郷である上田市に「EDISTORIAL STORE」をオープン。また、「LIVE STOCK MARKET」のディレクターも務める。

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