ウツワ
2020.05.07 THU.
木材加工集団「ティンバークルー」の類稀な拘りとサステナブルな取り組み。
東京の調布市深大寺で日々木材と向き合う、木材加工集団がいます。彼ら〈ティンバークルー〉は、建築デザイナーや設計者たちから絶大な信頼を寄せられていることで業界内で有名です。誰もがご存じの数々の有名ショップやレストランの床の多くは実は彼らによって手掛けられています。かくも〈ティンバークルー〉が高い評価を集めているのはなぜか? その理由を探るべく代表の小久保圭介氏に、仕事に対するフィロソフィやアティチュード、そしてデザイナーの信頼を勝ち得てきた技術について伺いました。
Photo:Keisuke Nakamura
Text:Masaki Takahashi
―最初に〈ティンバークルー〉について、会社としてのスタンスや取り組みについて教えてください。
僕たちは、ひとことで言えば木材加工集団です。現在14名のスタッフで稼働しており、主に店舗や住宅の床を手掛け、その他にも壁や天井、ウッドデッキ、ウッドブラインド、あるいは家具やプランターなどのプロダクトを手掛けることもあります。およそ“木”に関わるインテリアからエクステリアまで、なんでもハンドメイドによるワンオフ製作をしています。
―プロポーションからいうとどの仕事が最も大きな割合を占めているのでしょうか?
9割以上が店舗系の床ですね。数々のセレクトショップや飲食店の床を作ってきました。〈ユナイテッドアローズ〉もそのひとつです。われわれの強みのひとつに、東京・深大寺に延べ床面積約750坪のファクトリーを構えていることがまず挙げられると思います。都内に生産拠点があることで午前中にサンプルを作り、午後には都内のお客様のところへ提案に伺わせて頂くこともあります。フローリングメーカーの多くが工場を地方に構えている中で、僕らは都内に工場を持つことでクイックな対応ができます。
―しかしフットワークのよさだけで高い評価を得られるとは思えません。今や「“木”の建材なら〈ティンバークルー〉に任せるべき」といった評判を耳にするのですが、その理由は他にもあると思います。
ティンバークルーの名を広く知らしめている要因の一つとして僕らのエイジング加工があります。エイジング加工とは傷をつけたり、削ってくぼみをつけたり、またはそれらしく彩色して味付けをすることをいいますが、やりすぎてしまうとテーマ-パークのような作りこんだ印象ばかりが際立ってしまいます。エイジングというと“いかにも”というくらいに強調しすぎた加工が主流だった当時に、あるデザイナーさんから『本物っぽくみせるためには決してやりすぎてはいけない』という目から鱗なアドバイス頂いたことをきっかけに、自分たちのやり方を変えました。それから少しずつ口コミでエイジング加工を施した床のオーダーが増えていきました。床材をキャンバスに見立てて1枚1枚に絵を描く感覚でエイジングを加えるようにしています。それが何百枚、何千枚と集まってひとつの床になった時、本当に経年変化によって風合いを増したような表情にならないといけない。つまり部分を描きながら、最終的な全体像を想像できなければ、お客様はもちろん、僕たちにとっても納得のいく床にはならないんです。
―クオリティの高いエイジング加工を施した床が、〈ティンバークルー〉の名を広めるいわば代表作になったわけですね。
リアリティを追求するために、ときには床板の下に厚紙を敷き、ミリ単位の段差を設けたりもします。歩いた時に微妙に凹凸を感じ、足裏の感触を通して経年による歪みが生じた印象を感じてもらうためです。また、床板をあえて美しく均等に貼らず、不均一に貼ったりもします。床板1枚につき1mmずらして貼れば、当然最後には大きな寸法ズレが生じてしまうので、そうならないようにところどころで少しずつ帳尻合わせをする感覚的な作業を行っています。こうした、手間暇惜しまないことに加え、センスを磨くことも僕らはエイジング加工する上で重要だと感じています。感性を要する細やかな仕事を理解し、評価してくれる設計者さんやデザイナーさんが、〈ティンバークルー〉を指名してくれるのだと思います。
―小久保さんが〈ティンバークルー〉を起ち上げた経緯を教えてください。
もともと僕は大学で造園を学び、約20年前に造園会社を起ち上げました。当初は庭作りが主な仕事でしたが、その延長でウッドデッキ製作の依頼や、さらにその延長で住宅のリビングの床を作る依頼まで広がっていき、結果的に床作りの仕事が増えていきました。〈ティンバークルー〉の屋号に変えたのは約10年前で、それ以前は別の屋号を掲げていました。ユナイテッドアローズとのお付き合いは屋号を変更する前からで、最初はビューティ&ユース ユナイテッドアローズ渋谷公園通り店にグリーンを設置する仕事を引き受けました。床を作り始めるようになってから、店舗の床を依頼されるようになったんです。
(ユナイテッドアローズ 渋谷スクランブルスクエア店)
ユナイテッドアローズ 渋谷スクランブルスクエア店の床は、〈ティンバークルー〉オリジナルデザインのスクエアパーケットを使用している。敷き詰めると柄が美しくつながり、無限の連続性を見せる。素材は堅牢なオークだ。
左がユナイテッドアローズ名古屋店と札幌店のウィメンズ、右が札幌店のメンズの床に採用している〈ティンバークルー〉オリジナルのパーケット。寄木細工のような手の込んだデザインが、さり気ない個性を生み出す。
―〈ティンバークルー〉が製作したユナイテッドアローズの床には、どんな特徴がありますか?
店舗によってエイジングを施している床とエイジングをしていない床がありますが、デザインパターンについては基本的に〈ティンバークルー〉オリジナルデザインのパーケットを採用しています。パーケットというのは、正方形の床材に寄木細工で柄(パターン)をつけたもので、通常は60cm角の中に枠を作り、その中で柄を組み上げるものが多いのですが、〈ティンバークルー〉オリジナルのパーケットは枠を取り払って柄を組んでいるので、並べると柄がきれいにつながります。樹種は主にオークで、ユナイテッドアローズ 札幌店のアウトレット店がそうですね。ユナイテッドアローズ 青山 ウィメンズストアではウォールナットを使っています。
―資材はどういったルートから調達しているのでしょうか?
メインのフローリングは大小様々のメーカー様とお取引させて頂いておりますが、一枚板や無垢材に関しては、最近はネットを通じて今まで出会いようのなかったような地方の製材屋さんや材木問屋さんとお会いすることができ、買い付けに行かせて頂くことも増えました。また僕らのオリジナルのフローリングに関して言えば、海外工場でOEM製作をしていて、コンテナ単位で仕入れを行うことで、コスト面でのメリットを生みつつ、大量発注にも備えられる体制を作っています。
―〈ティンバークルー〉の真骨頂は、エイジング加工もさることながら、調色の技術の高さもあると思います。作業現場を見て驚いたのは、床材1枚1枚を手塗りで着色していたことです。
デザイナーさんの色味の要望は特に多種多様で、「西海岸の海辺に立つカフェに使われていそうな床の色」といったようなイメージ先行の要望を頂くこともあれば、メーカーの色番を指定され、それと全く同じにしてほしいという要望を頂くこともあります。僕らも一回でイメージされた色にたどり着くことはほとんどなく、何度もトライを繰り返し、納得頂けるまでサンプルを提出させてもらいます。そんな中でたどり着いた色の一つが昨今店舗の床で、リピートでオーダーを頂いているグレイッシュな色です。木を使い且つ無彩色なものを使いたいという要望に応える中で、木の素地の色を拾わずにグレー色を出すのに苦労しながら、染色方法を見つけ出しました。
手塗りをするのにも理由があります。機械塗りをすると厚く単調に色がのってしまうので、美しい木目を活かした仕上がりになりません。手塗りで薄塗りを繰り返して、理想の色に合わせていきます。ときには保護剤のトップコートを含めて5度塗りすることもあります。また手で塗ると一定の精度の中で、塗った個人のそれぞれの癖や違いがでますが、それも一つ、フローリングが床に敷かれたときの味になると考えています。
今日はユナイテッドアローズ 池袋 ウィメンズストア(2020年4月23日オープン予定)の床材の調色をしていますが、素材はウォールナットで、色が乗りやすいように一度ブリーチしています。それから調色し、そのあとトップコートを2度塗ってようやく完成に至ります。90㎡の店舗なので315枚使う計算です。もちろん1枚1枚を手塗りで仕上げています。手間はかかりますが、手をかければかけるほど素晴らしい床に仕上がるんです。
―エイジング加工を施すために、どんな道具を使っていますか? 特別な道具を使用していますか?
特に珍しい道具は使っていません。ただ1枚1枚の床板を手作業で加工するので、個人が使うハンディサイズの道具(写真上)を主に使っています。表面にキズをつける電動のこぎり、研磨仕上げをするサンディングマシン、木の表面を削って凹凸をつけるスクレーパー、うづくり加工(木の表面を削って木目を強調する)に使うディスクグライダーは必須の道具ですね。これらの道具は、いってみれば木のキャンバスに絵を描くための絵筆のようなものです。
ワークスタイルをもっとカッコよくしよう。その考えをもとに〈ティンバークルー〉ではワークウェアをオリジナルで製作。泥臭さを感じさせないクリーンなユニフォームが、スタッフのモチベと結束力を高めている。
―ファクトリーを見学する中で気がついたのは、スタッフ全員のワークウェアが統一されていることでした。それがとてもクリーンな印象で、なおかつスタッフの団結力を感じました。
どうせ働くならカッコよく働こうというのが根底にあって、ならばワークウェアにこだわろうじゃないかと考えました。既製品のスウェットを買ってきてロゴをプリントするのはつまらない。生地やボタンから選んでイチから作ることにしました。現在はスタッフが増えたのでS、M、L、XL、XXLサイズで作っていますが、最初の頃はスタッフのボディを採寸して、ほぼオーダーメイドで作っていました。
今はTシャツのみ既製品から作っていますが、カバーオール、コーチジャケット、スウェット、半袖シャツは完全にオリジナルです。このウェアをスタッフ全員に支給して着用してもらっています。パンツはブランドにこだわらず自分の好きなペインターパンツを穿くというルールにしています。
―もうひとつ感心したのが、スタッフ全員が一堂に会して昼食をとっていることです。
時間が合う限り集まって一緒に食べるようにしていますね。同じ釜の飯を食うという気持ちや結束感を大切にしたい想いがあるからです。結束を高めるという意味では、うちのスタッフはほぼ全員ファクトリーの近所に住んでいます。それがうちの入社条件でもあるんです(笑)。
―最近、業種間の垣根を越えて“サステナビリティ”がキーワードになっていますが、〈ティンバークルー〉でもサステナビリティを意識した活動や取り組みを行っていますか?
仕事上、木材の端材がたくさん出るのですが、この価値ある資源をみすみす捨てるのはもったいないと考え、昨年端材を使ってゴブレットゴブラーズというコマをかぶせて陣地を取り合う三目並べゲームを製作しました(写真上)。始めは従業員の子供たちへのクリスマスプレゼント用に作り、とても喜んでもらえたんです。本来捨てられるはずの端材が、誰かを楽しませるために生まれ変わるというのは、木材を扱っている僕らにとってはうれしいものです。
―今後開催を予定している〈エイチ ビューティー&ユース〉のポップアップショップでも建材に使えない木材や端材を再利用したオリジナルプロダクツを販売するそうですね。ふたつとして同じものがない自然素材ならではの魅力があり、とても興味深いです。
たとえばこれはヒノキのチェアです(写真上)。伊勢神宮に隣接する森から伐採されたヒノキの切り株から作りました。切り株は丸太を伐採したあと、不要だからと森に置いていかれてしまう。それが納得できなくてチェアとして再生しました。中心に穴が空いているのは、樹木は中心部から腐って空洞ができるから。しかし残っている部分は硬くて強く、チェアに使ってもとても堅牢なんです。
―小物(写真上)もまたそれぞれに個性があり、表情豊かな木目が美しく、惹き込まれます。
オークの幹を一部だけくり抜いたプランター、クスノキやウォールナットのカッティングボード、ケヤキやシタンのオブジェ、ヤクスギのプレートなど、われわれも楽しみながら製作しています。身近なモノから木への愛着を感じてもらいたいですね。
―今後の〈ティンバークルー〉の目標地点を教えてください。
意外に思うかもしれませんが〈ティンバークルー〉のスタッフは全員、木材を扱う仕事の未経験者の集まりなんです。日々経験を積み、実践を重ね、みな腕を磨いている最中なんです。僕が想う理想像は、ワンピースというマンガのように、クルー全員が即戦力という集団です。ひとりひとりが強い個性を持ち、独自の武器を携え、行動力と技術力があるような姿。デザイナーや設計者、はたまたオーナーの方々から、木材に関して困ったとき、何かこだわったことを木材でやりたいときに真っ先に頭に浮かんでくる存在となり、そして毎回その期待を超えて行きたいですね。