ウツワ
2021.06.24 THU.
心を動かす野菜「タケイファーム」が届ける、“衣”と“食”を新たな価値で繋ぐ「あめつちマルシェ」。
なかなか終息の気配が感じられないコロナ禍。こんな時代だからこそ「ライフスタイルをより豊かに、ファッションと同じように楽しんでもらいたい」という想いからスタートした〈あめつち〉プロデュースによる〈エイチ ビューティ&ユース〉のマルシェ企画。キュレーターとなるのは、世界中の一流レストランが熱視線を注ぐ野菜“アーティチョーク”を育てる〈タケイファーム〉。代表の武井 敏信さんにお話を伺いながら、“あめつちマルシェ@H BEAUTY&YOUTH”第一回目開催の様子とともにお届けします。
Photo:Yu Inohara(TRON management)
Text:Shoko Matsumoto
“衣”と“食”、近いようで遠い存在のふたつが手を組んだきっかけとは。
ハイエンドなカジュアル、スポーツアイテムを中心にヴィンテージや雑貨を展開し、この春ショップの地下にキャンプ商品のゾーンを導入したことでも話題のコンセプトショップ〈エイチ ビューティ&ユース〉。人との繋がり、暮らしや健康、ファッションやカルチャーなど、クリエイティブな視点から様々な“食”に関するプロジェクトを発信する〈あめつち〉。
そんなふたつのブランドの想いが一致し、“あめつちマルシェ@H BEAUTY&YOUTH”の開催が実現しました。
高感度のファッション業界では、仕入れで海外へ行くことも珍しくありません。特にパリは、街並だけでなく、至る所で開催されているマルシェまでもが鮮やかで、目を見張るような美しさがあります。色や形やバランスが、まるでアートのようで、全てが刺激的。味も含めて “美しく”見せ、“美しく”売る、ということが、野菜の付加価値を高める上での、ファッションストアの重要な役割なのではないか…そんな思いから〈あめつち〉さんとタッグを組むことに。農業の可能性を模索し続ける〈タケイファーム〉さん協力のもと、新たな試みであるマルシェを〈エイチ ビューティ&ユース〉でスタートしました。
農業をもっと身近に、新しい農家の在り方を求めて。
開催にあたり、キュレーターとして抜擢されたのが〈タケイファーム〉。千葉県松戸市の農園で、日本ではまだまだ珍しいアーティチョークをはじめとする様々な野菜を育てています。このプロジェクトを引き受けた動機はなんだったのでしょうか。
「以前、自分でマルシェを立ち上げたこともあったんですが、例えば千葉の普通の農家は、なかなか東京で野菜を売る機会はないんです。頑張っている人たちを、そういう舞台に立たせたいというのがひとつありました」
「東京だと国連の青山ファーマーズマーケットや勝どきの日本最大級規模の定期開催型マルシェである太陽のマルシェもありますが、今回は〈ユナイテッドアローズ〉さんとやることに意味があると思ったんです。アパレルと組むことで、業界の垣根を超えて新しい農業の展開を臨めるんじゃないかと思ったんですよね」
「今回お声掛けした農家には、表参道のマルシェで売っているということではなく、新しい試みにチャレンジしているということを自信にしてほしいです。まだはじまったばかりで、これからどうなるかはわからないけれど、みんなが成功に向かって進んでいこうと思っているのを感じます。そういうときに、出たい! と思ってくれる人が増えたら嬉しいですね」
5月29日(土)に開催されたマルシェの出店者には、〈タケイファーム〉をはじめとして、〈森田農園〉、〈清水農園〉、〈みかんのみっちゃん農園〉、〈ハチミツHoneybee〉、そして、京都宇治・お茶のふるさと和束町のPR大使の石野ゆう子氏が名を連ねます。
※毎回出店者さまは異なります。
「野菜に関して言うと、パワーのある人に参加してもらおうと思っています。例えば10万円分野菜を持ってきてと頼んだらきちんと持ってこられる人。これからお客さまが増えていって、もっと認知されたら、たくさん野菜があったほうがいいじゃないですか。そういうときにそれだけの野菜を用意できる能力や体力がある人たちと一緒にやりたいですね」
「〈森田農園〉の森田くんは、土曜朝からの出店のために、金曜の夜中0時くらいまで作業しているんです。翌朝は4時に起きて枝豆を掘って持ってきてくれました。そのくらいきちんと頑張っている人を応援したいですね」
「あとは、知り合いの米農家さんが作るお米は、外食を含めていままで食べた中でベスト5に入るほど美味しい。そういう実力がある人たちも認知されてほしいですね。あとは出店する人たちが、ただ単にそこで商品を売るというだけではなくて、自分のPRやブランディングに繋げてくれるような人たちを集めています」
いつ来てもワクワクする、そんな場所にしたい。
今回開催されたマルシェには、目当ての野菜を買いにくる人、通りすがりにのぞいていく人など、第1回目にも関わらず多くのお客さまが来訪されました。
「マルシェとして、告知は充分ではなかったと思うのですが、思ったよりも雰囲気は良かったと思いますね。今後もっと認知されていったら、第2、第4土曜日の朝は、付近の地元の方たちも顔を出してくれるんじゃないかな。それには売る側も、クオリティが高くお客さまにリピートしてもらえるものを出さないといけないなと思っています」
自分を信じて自己プロデュースを続けてきたからこそ、いまがある。
このようなプロジェクトの参加はほんの一例に過ぎず、野菜を通じて、人と人を、お客さまとレストランを繋げ、新たな広がりを生み出し続けている〈タケイファーム〉。今回実際に千葉の農園へ伺わせてもらうと、背の高さほどあるアーティチョークが、いくつも育っている、いままで見たこともない景色に圧倒されました。
「実家が農家だったのですが、学生の頃によくからかわれたので、絶対に農業にだけは就きたくないと思っていたんですね。だけど、何の因果か農家になってしまった(笑)。アーティチョークの栽培をはじめたのは、やりたくない農業をやるなら何かしらでいちばんを取ってやろうと思ったことがきっかけ。いちばんになるには、数字を出さないといけない。味に関して言えば、それぞれの好みがあり主観なので順位をつけるのが難しいじゃないですか。だったら数を植えてしまえ! と思ったんですね」
「そして育てていくうちに、いつの間にか日本最大級になった。それであるとき、うちの畑を見た人が“武井さんはミスターアーティチョークだね”と言ったんです。だから次に別のメディアが取材に来たときに、今度は自分から“ミスターアーティチョーク”って名乗るようにして(笑)。だんだんと第一人者として認識されるようになりました」
当初、アーティチョークは年間140種類作っている野菜のうちのひとつでしかなかったといいます。それを大きくしようと思ったのは、レストランとの関係性が大きいのだそう。ヨーロッパでは日本でいうところのタマネギやジャガイモのような日常の野菜で、1個1ユーロ程度で販売されている。しかし日本では、市場仕入れで800円ほど。値段も高く調理法も広く知られているわけではないので一般のスーパーでは販売が困難ですが、レストランでは季節の野菜として重宝されます。
「アーティチョークは一度植えると5〜6年の間は採れるのですが、収穫は1年の中で2〜3週間の限られた期間だけ。株間1メートル50センチ、畝幅2メートルに1本しか植えられない。そういう意味でアーティチョークはリスクがあるんです。だけど、季節ものとしてレストランに提供できるので重宝されて、これまでに1シーズンで2630個売ったこともあります」
もちろん定番の野菜も作っていますが〈タケイファーム〉を営むのは武井さんひとり。同じものを大量に生産することができないので、そうするとやはり市場出荷は難しい。だからなるべく手が掛からない野菜を選別しているのだといいます。
「基本的には毎日出荷があるので、雨が降らない限り休みがないんですよ。午後から雨が降って仕事ができなくなっても、見習いがいると仕事を充てないといけないですからね。ひとりなら映画を観に行ってもいいわけで(笑)」とタケイさん。
そして2020年、世界はコロナ禍に。昨年の4月くらいから緊急事態宣言が出され、レストランは軒並み休業に追いやられました。取引の95%レストランである〈タケイファーム〉は、その危機をどう乗り越えてきたのでしょうか。
「野菜セットを通販したりとか、スーパーに卸したりとか、そういうことは一切しなかったんです。それを一度やってしまうと、これまで培ってきたものが崩れてしまうと思って。昨年だと、コロナ禍の状況もまだ2〜3カ月の話だと思っていたから、突っ張っちゃったんですよね(笑)」
「その代わり、発信することは止めなかったんです。一流シェフと写真を撮ったり、うちの畑へ見学に来ている様子を記録したり。そうすることで〈タケイファーム〉の野菜を美味しそうに見せること、印象付けることができる確信しました。幸いにも取引しているレストランは体力のあるところが多く、注文がなくなることはなかったので、お互いに切磋琢磨して支え合っているという感じです」
これからの“食”の未来、“農業”の価値を考える。
人々が生活する上でなくてはならない“食”。今後、定期開催されていく予定の“あめつちマルシェ@H BEAUTY&YOUTH”を含めさまざまな活動に取り組むことで、一農家として臨む展望とは。最後に、食を通じて、どんな未来を描いているのかを伺うと…。
「うちが農業をやっている理由は、農業の地位を上げたいから。ただそれだけなんです。学生時代に友だちからからかわれ、昔は親の職業を隠したくて。後に自分は営業職に就くのですが離職。職業安定所に10カ月通っている間にやりたいことを探すつもりだったけれど見つからず、人生を諦めてこの世界に入ったんです」
「何を思ったかというと、自分たちが死んだあとで“君の親は何をやってるの?”って聞かれたときに、パイロットや弁護士って答えられたらかっこいいじゃないですか。同じように野菜を作っているというのをうらやましがられるような職業にできたらいいなと思ったんです」
「でも、そうするには一生懸命やって、お客さんが美味しいと言ってくれるだけではダメなんですよね。例えばレストランと協力して、ミシュランのシェフがうちの野菜を使っていると言うと、農業が“イイ線”いってる感じがするじゃないですか。それはひとりで言うよりも、より事実として伝わっていくと思うんです。もちろん事実に基づく説得力も必要なので、野菜はチーズとも相性がいいことに目をつけ、NPO法人チーズプロフェッショナル協会が主催するC.P.A.チーズ検定コムラード・オブ・チーズを取ったりもしました」
ショップでは食材以外に<ハンター>も展開。ハンターオリジナルトールレインブーツは、武井さんが愛用していることから農家界隈で“武井モデル”とも呼ばれる。
「最初は乗り気ではなかった農業をはじめて20年も経ってしまった」と笑う武井さん。気付けば横の繫がりもたくさんできたそう。“あめつちマルシェ@H BEAUTY&YOUTH”のような新しい取り組みにも挑戦することができたし、いまは伝えることも自分にとって大切な仕事のひとつだと感じているそうです。
「お声が掛かれば公演もしますし、コンサルもやります。農業総合情報メディア『マイナビ農業』では昨年1年間、週1で連載を持っていました。確かに忙しいのですが、そういった活動も含めて農業だと思うんですよね」
アパレルと組むことで、新しい農業の展開を臨めると考える武井さんは、今回の“あめつちマルシェ@H BEAUTY&YOUTH”を終えてみての感想をこう振り返ります。
「農家は汚れる前提。だから、使い古したTシャツを作業着にするとか、働くときの服装に関して無頓着な人が多いんです。でも今回〈ユナイテッドアローズ〉さんとの取り組みを経て、着るものにも意識を高く持ってくれるようになるといいですね。もしかしたらこれを機に新しい農作業着が生まれるかもしれない。そんな面白い化学反応や、新しい広がりが生まれたらいいなと思います」
真摯に柔軟に、そしてときにはユーモアを持ちながら、農家としての責任を全うしていく。そんな〈タケイファーム〉の姿勢に、感嘆せずにはいられません。
INFORMATION
PROFILE
武井 敏信
子どものころ、一番やりたくなかった「農業」という職業に就いて20年目。今まで350種類を超える野菜を栽培し、年間栽培する野菜は140種類以上。農業の奥深さに惚れ込み、「野菜創りに終わりはない」という思いのもと、おいしい「品種」にこだわって農業を経営している。「ひとつの野菜でさえも、人の人生を変える力を持っている」ことを多くの人に伝える、ベジタブルエバンジェリストであり、ベジタブルデザイナー。2014年3月一般社団法人Green Collar Academy 理事就任、2017年11月京都府和束町PR大使就任。
https://takeifarm.com/index.html
あめつち
わたしたちの生活に必要な基本要素である「衣食住」。なかでも「食」は、生きていく上で欠かすことのできない、営みの原点といえます。 「食」を通じて、わたしたちの幸せにつながる取り組みや活動、こころとからだが本質的に喜ぶことを創出し提供することを目的として「あめつち」は生まれました。「あめつち」は、「食」を媒介に、生産者や料理人、あらゆる分野のクリエイターと共に、環境や循環、人とのつながり、暮らしや健康、ファッションやカルチャーなど、エシカルかつクリエイディブな視点からさまざまな 「食」のプロジェクトを発信しています。体験とコミュニケーションを提供する場所としてイベントの時のみオープンする完全予約制レストランも運営。
https://ametsuchi-official.com/
“あめつちマルシェ@H BEAUTY&YOUTH”出店に関するお問い合わせは下記まで
info@ametsuchi-official.com