
ウツワ
2021.12.23 THU.
ツレヅレハナコさんと考える、お正月文化を自分流に楽しむ手引き。
日本のお正月には、長年受け継がれてきたさまざまな風習があり、新しい年のはじまりを祝い、新年の幸せを願ってきました。とはいえ、だんだんにその伝統が簡略されているのも事実。なんだか面倒なものとして、遠ざけてしまう人も多いのではないでしょうか? もしくは実家でやるものであって、自分たちには関係のないものと感じている若い世代の人も多いかもしれません。でも、新年を気持ちよく迎えられ、清々しい空気を一年のはじめにもたらしてくれる文化なので、楽しまない手はありません。今回は、「おせち」や「鏡餅」に関する由来や意味合いをひも解きつつ、ツレヅレハナコさん(以下ハナコさん)の楽しみ方についてご紹介します。きっと、今年はなにかやってみようという気持ちになれるはずです。
Cooking expert:ツレヅレハナコ
Photo:Yoshimi
Styling:Yuriko Kubo
Text:Kyoko Kato
Supervision:Yasuko Miura

▷TOPIC1
お正月を代表する料理「おせち」
もともとは神様をもてなすための料理。
新年に食べるものとして、なじみの深い「おせち」。いまでは、自分で一からすべてを作る人は多くはないようですが、買ってきたり、実家や親戚宅で食べたりする機会もあり、やっぱりお正月を代表する料理です。
おせち(御節)は、節供料理という意味の「御節供(おせちく)」を略した言葉で、もともとは正月や、五節供(1月7日、3月3日、5月5日、7月7日、9月9日)などに神様にお供えしていた料理のことを指していました。それが最も重要な正月の料理だけを指すようになり、「おせち」と呼ばれて親しまれるようになりました。
お正月は新年を司る年神様をそれぞれの家にお迎えするという行事。おせちは、お迎えした年神様をおもてなしするための料理です。そして、年神様と共におせちをいただくことで、神様との結びつきを深め、一年の幸せや健康を祈ります。
おせちを食べるときに両口の祝い箸を使うのは、一方を神様用と考え、神様と人がともに食事をすることを表すからです。
おせち料理一品一品には意味がある。
ひとつひとつ手をかけ、たくさんの料理を盛り込むおせちですが、それぞれの料理に意味があり、思いを託してきました。共通するのは、家族の幸せや繁栄、健康を祈ること。
それぞれの料理に込められた思いに心を寄せることで、味わい方も変わってくるので、いくつかご紹介します。
●伊達巻き
巻いた形が書物や掛け軸などの巻き物に似ているため、知識や文化の発達を願う。
●黒豆
「まめ」という言葉には、「勤勉に励むこと」と「体が丈夫であること」の2つの意味があるので、何事にも勤勉に励み、丈夫で元気に暮らせることを願う。
●田作り(ごまめ)
イワシを肥料にすると豊作になったので、カタクチイワシの幼魚を干したものを使って作り、豊作を願う。田作りの別名「ごまめ」という名は「五万米」と書く。
●紅白かまぼこ
半円形は初日の出を象徴し、魔除けの紅と、清浄の白の組み合わせは、紅白でめでたい。
●煮しめ
根菜類をはじめ、さまざまな素材を甘辛く味つけした煮もの。それぞれの素材に意味が込められていて、れんこんなら穴があいているので将来の見通しがきくように、里いもなら子芋がたくさんつくので子孫繁栄、くわいなら大きな芽が出て芽出度い(めでたい)、手綱こんにゃくなら縁を結ぶように、などと願う
好きなものだけを、食べられる量で。
“ワンプレートおせち”がおすすめ。
「せっかくの日本の風習ですし、まったく作らないのはもったいない気がします。ちょっとだけでも自分で作るとお正月気分になれて気分もいいですよ。味つけだって、自分好みにできますから」と、一から全部は作らないけれど、好きな料理だけを作ったり、自分流にアレンジしたりしながら、おせちを楽しんでいるというハナコさん。
「両親が北九州出身なので、がめ煮(煮しめ)がないとお正月は始まらないという気持ちです。だから、これは実家を出て以来、自分でも必ず作っています」。
市販の伊達巻きは甘すぎると感じるので、こちらも自作しているそう。白身魚の代わりにはんぺん、砂糖にはちみつをプラスして、道具はすり鉢ではなく、フードプロセッサーが活躍。最後はオーブンで焼き上げるというハナコさん流の伊達巻きですが、鬼すだれで巻くことだけはこだわって、おせちらしい仕立てに。
「鬼すだれは1年に1回しか出番がないけれど、お正月のためだけに持っています」。
一方で、美しく、つややかに煮るのが難しい黒豆は自分では手を出さずに、プロが作ったものを買ってくると決めているそう。そしてマスカルポーネと合わせた一品に仕立て、ワインと一緒にいただきます。
「伝統そのままの形ではないけれど、お正月らしさは楽しみたいし、せっかくならおいしく食べたい。だから自分好みのレシピを工夫するようになりました。お重に詰めずにワンプレートに盛る形にするのも気楽でおすすめです。自分が気負わずにできる範囲でおせちを取り入れればいいんじゃないかなと思っています」。
ツレヅレハナコさん流、おせちレシピ4品をご紹介。
01/04
がめ煮(煮しめ)
ハナコさん流レシピのPOINT
大きな鍋にたくさん作るのがツレヅレハナコさん流。「いつもの筑前煮にならないように、人参はこの時期、東京でも買いやすくなる金時人参を使い、飾り切りをします。何回も煮返しながら食べるので、具材の形を維持しやすいように、素材を大きめに切るのもコツです」。
鶏もも肉…1枚(350g)〔下味〕
しょうゆ、酒…各大さじ1/2
ごぼう…1本
れんこん…200g
金時人参…1本
こんにゃく…1枚
干し椎茸(2.5カップの水で一晩戻す)…10枚
きぬさや…8枚
しょうゆ、みりん…各大さじ2
ごま油…大さじ1
〔煮汁〕
干し椎茸の戻し汁…2カップ
酒、砂糖…各大さじ2
1.鶏肉はひと口大に切り、下味の材料をまぶす。ごぼうは皮を包丁の背でこそげ、乱切りにする。れんこんは皮をむいて乱切りにする。金時人参は「ねじり梅(下記①参照)」、こんにゃくは「手綱こんにゃく(下記②参照)」にする。椎茸は半分にそぎ切りにする。きぬさやはサッと塩ゆでする。煮汁の材料を合わせる。
2.鍋にごま油の半量を中火で熱し、鶏肉を皮目から入れて焼き目をつける。ひっくり返して裏面を軽く焼いたら、容器に肉汁ごと取る。鍋に残った脂をペーパータオルで吸い、残りのごま油を熱してごぼう、れんこん、こんにゃく、椎茸を入れて炒める。煮汁を加えて、落としブタをして中火で10分ほど煮る。
3.鶏肉を肉汁ごと戻し入れ、人参、しょうゆ、みりんを加えてさらに10分ほど煮る。煮汁が多いようであれば、少し残る程度まで煮詰める。器に盛り、きぬさやを飾って完成。
ちょっとしたひと手間で、食事がもっと楽しくなる。
せっかくのお正月料理なら、美味しさはもちろん、見た目もキレイな方が気分も上がりますよね。ひと手間切り方を凝ってみると、見た目もお正月っぽく華やかになるので試してみてはいかがでしょうか。
①「人参のねじり梅」の作り方。
②「手綱こんにゃく」の作り方。
02/04
はちみつ伊達巻き
卵 8個
はんぺん 1枚(110g)
砂糖、はちみつ 各大さじ3
しょうゆ 小さじ2
塩 小さじ1/2
1.天板にクッキングシートを敷き、オーブンは200℃に予熱する。はんぺんは手でちぎってフードプロセッサーに入れ、卵、砂糖、はちみつ、しょうゆ、塩を加えてかくはんする
POINT
フードプロセッサーが小さいようであれば、溶き卵1個分を加えてかくはんし、残りの卵を溶いたボールに加えて混ぜる。
2.天板に生地を流し入れて20分焼く。熱いうちにクッキングシートをはがし、鬼すだれにのせる。
3.焼き目がついていない面に包丁ですだれと平行に3㎝間隔で切れ目を入れる(巻きやすくなる)。手前から最後までしっかり巻いたら、輪ゴムで両端をとめ、粗熱がとれるまで縦に立てる。完全に冷めたら、端から1㎝幅に切って盛り付ける。
03/04
黒豆マスカルポーネ
マスカルポーネを器に盛り、市販の黒豆の煮物をのせる。
04/04
飾りかまぼこ
「飽きずに食べ切れる量だけを作ったり買ったりするのも大切だと思います」とハナコさん。
少子化が進み、親戚がたくさんいてあいさつのために家を訪れるという習慣も少なくなっている昨今、従来どおりにおせちを大量に作る必要はありません。
「おせちに飽きてしまっていつまでも残り、最後は捨てるなんてことになったらお正月からフードロスを生むことになります。適量を意識することで、サステナブルな暮らしにも繋がっていきますよね」。
▷TOPIC2
年神様へのお供え物「鏡餅」
鏡餅は神様にいてほしい場所に供える。
正月の行事は、年神様を「お迎えし、もてなし、見送る」ためにするもの。鏡餅にも年神様へのお供え物という意味合いがあり、鏡餅自体が神様の宿る場所になります。古来、鏡には神様が宿るとされるので、昔の丸い形の鏡を餅で表し、「鏡餅」と呼ぶようになりました。大小二段重ねるのは月と太陽を表しているからだといわれています。
床の間、神棚、台所など、年神様に宿ってほしい場所にお供えする=飾るのが鏡餅。そう知ると、どこにいらしてほしいかを考えながら、今年は飾ってみよう、そんな気持ちも生まれてきます。お供えした鏡餅は、鏡開きをしてお雑煮などの形でいただくわけですが、年神様の魂が宿った鏡餅を食べると、新年を生きる力が与えられると考えられてきました。また、硬くなった鏡餅を食べることが、丈夫な歯で長生きできるよう願う「歯固め」になるため、いまなお続く風習になっています。
ツレヅレハナコさん流、鏡餅の楽しみ方。
「お正月らしいことをすると清々しい気持ちになるので、ひとり暮らしでも鏡餅は飾ります。誰かのためというより、自分のため。些細なことしかできないにしても、取り入れられる文化は大事にしたいと思っています」とハナコさん。
鏡餅は、スーパーでも気軽に買えますが、ハナコさんのおすすめは、近所の和菓子屋さんで鏡餅を探してみること。
「ひとり暮らしでも取り入れられそうな、小さいサイズの鏡餅も見つかりますよ。普段は行かないような場所に行ってみるだけでもワクワクしますし、近所の人がのし餅を注文している様子などを垣間見られたりもして風情があります。年に一回のことだから、和菓子屋さんも気合を入れて作っていて、やっぱりおいしいと思います」。
レシピは無限大! 鏡餅のおいしい食べ方。
お供えした鏡餅は、いろいろな食べ方で食べるというハナコさん。お供えしたものをきちんといただくのであれば、きっとどんな形でも神様は受け入れてくれるはず。おいしく無駄なく食べきることこそが大切です。
POINT
餅が硬いときは、さっと水にくぐらせて器に入れ、ふんわりラップをかけて電子レンジ(600w)で30秒~1分熱し、切りやすくなるまで加熱してから調理してみて。
01/03
もちみそグラタン
餅(50g) 1個
鶏もも肉 120g
塩、こしょう 各少々
牛乳 1.5カップ
味噌 大さじ1
玉ねぎ 1/4個
しめじ 1/4パック
オリーブオイル 大さじ1/2
ピザ用チーズ 60g
1.餅は2㎝角、鶏肉はひと口大に切り、塩、こしょうを振る。玉ねぎは薄切り、しめじは小房に分ける。
2.小さめのフライパンに牛乳、餅を入れて弱火にかけ、ゴムベラで底から混ぜながら餅が溶けるまで煮て、味噌を溶かし入れる。
3.別のフライパンにオリーブオイルを中火で熱し、鶏肉を皮目から並べ入れる。焼き目がついたら裏返し、玉ねぎ、しめじを加えて野菜がしんなりするまで炒める。餅ソースに加え混ぜ、耐熱容器に入れ、チーズをのせてオーブントースターで焼き目がつくまで焼いたら完成。
POINT
牛乳に餅を溶かすだけでできるソース。鍋底が焦げ付かないようにゆっくりと混ぜる。
02/03
餅めんたい揚げ餃子
餅(50g) 1個
明太子 1/4腹
しそ 2枚
餃子の皮 8枚
揚げ油 適宜
03/03
餅の豚巻き照り焼き風
餅(50g) 3個
豚肩ロース薄切り肉 12枚
小麦粉 適宜
[タレ]
酒、しょうゆ、みりん 各大さじ1
砂糖 大さじ1/2
サラダ油 大さじ1
粉山椒、万能ねぎの小口切り 各適宜
お正月の風習は、自分流に楽しむのがいちばん。
おせちにしても、鏡餅にしても、自分流を意識して、無理せず、いまの暮らしに合った形で取り入れているハナコさん。お正月だから伝統のやり方でとがんばり過ぎず、肩の力を抜いて、自然体に楽しんでいる様子が印象的です。
「お正月の準備が重荷になってしまったら大変だし、続かない。だから楽しい範囲でいいと思うんです。おせちも一品だけ入魂で作るところからはじめて、少しずつ成功体験を重ね、毎年一品ずつ増やしていくのもいいですよね。逆に毎年同じものを数品だけ作るのもありです。一年に一回でも作っていれば、少しずつ上達するんですよ。かまぼこの飾り切りだって、なんだか上達したなって達成感があります」。
料理が苦手なら、おせちの手作りではなく、お正月飾りを作る。買ってきたおせち料理をワンプレートに美しく盛ることにこだわる。そんな風にお正月の風習を自分なりに考えて取り入れるのもあり。「お正月の風習や料理が地方によって違うように、お正月の楽しみ方もそれぞれの家庭で違っていいと思っています」。
やれることから、ちょっとだけやってみる。そんな風に肩の力を抜くことが、おせちや鏡餅、ひいてはお正月という文化を後世へと繋げることになりそうです。
INFORMATION
PROFILE

ツレヅレハナコ
食と酒と旅を愛する文筆家。お酒とつまみと台所道具がある場所なら、日本各地から世界各国まで旅をし続ける。著書に『女ひとりの夜つまみ』(幻冬舎)、『食いしん坊な台所』(河出文庫)、『ツレヅレハナコの旨いもの閻魔帳』(扶桑社)などがある。食や日常を綴るSNSも人気。
Instagram: @turehana1