

バブアー|英国王室ご用達の超名門はワックスジャケットだけにあらず|知っておくべきブランド
いくら直幸
2024年で創業130周年を迎えた<バブアー(Barbour)>は、性別・世代を超えて愛される不動の定番ブランド。しかし、かつての日本では一部のファッション好きの男性が知る程度でした。その歩みや主要アイテムをおさらいしながら、ここ十数年でファンを急増させた新たな魅力をお伝えします。
ファミリーで築き上げた輝かしい歴史
あるとき彼は、不安定で過酷な気象環境にさらされる北海の漁師や水夫、港湾労働者に向けてエポックメイキングな作業用アウターを開発。そう、現在もブランドの核であるワックスドコットンで仕立てたジャケットです。船のセイルに使われるオイルが塗られた帆布にヒントを得て、高密度のコットンクロスにワックスを染み込ませたそれは、とても丈夫で雨風をブロックする非常に機能的なファブリックでした。これが地元で評判となり、徐々に英国全土へ、さらに1908年からは2代目のマルコム・バブアー氏が舵取りした通販カタログによって南米やアジアなど世界の津々浦々から注文が入るまでに成長を遂げたのです。
やがて同社のプロダクトは政府の目に留まり、第一次大戦ではイギリス軍にも防水服を納入。第二次大戦でも潜水艦乗組員の標準装備に採用され、いっそうの信頼と実績を重ねます。

ワックスドコットンの「ビデイル」はブランドの象徴であり、45年来のロングセラー。腰が隠れるミドル丈で、裾にサイドベンツ、袖口には風の侵入を防ぐリブを内蔵。
時を同じくして'64年、4代目に就いたジョン・バブアー氏は上流階級が嗜むカントリースポーツにも進出。しかし彼は若くして急逝。夫の意思を継いで'68年に5代目となった現当主のマーガレット・バブアー女史は、乗馬用の「ビデイル」を'80年にデザインし、フライフィッシング用の「スペイ」もリリース。さらに彼女は’82年に野外散策用の「ボーダー」を、’83年にもハンティング用の「ビューフォート」など、今も展開中のアイコニックな名作を次々と誕生させたのです。
その結果、'74年よりエディンバラ公フィリップ殿下、’82年からはエリザベス女王、’87年以降はチャールズ皇太子(現国王)からも王室ご用達の証であるロイヤルワラントを拝受。授与資格を有する全員に認定された数少ない企業となり、なかでも服飾の分野では片手で数える程度しかない3ワラントを保持するブランドとなります。こうして高い格式をもった不動のポジションを確立し、ブリティッシュ文化に深く根付いた存在となったのです。
伝統を守りながら、時代に即して進化

近年の人気No.1である短丈のトランスポートに、ビデイルのフラップポケットを移植した別注モデル「トランスポートビデイル」。軽快で扱いやすいノンワックス仕様。
UKスタイルが盛り上がり始めた'11年には、先述の難点をクリアしたワックス不使用のナイロンタイプ、時流のシルエットに再編集されたスリムフィットの「SL」といった新機軸も登場。この頃よりトップブランド&有力ショップの別注モデルも続々と提案され、ノンワックスのバリエーションも一段と豊富に。近年ではオーバーサイズの「OS」も好評を博し、ますます幅広いファンを獲得しています。
また専用のワックスも見直され、従来あったベタつきを軽減、特有の匂いのもととなる成分を除去し、環境に配慮されたレシピへと改良。伝統的なモノ作りを守るとともに、時代に即したアップデートも精力的に行われています。
着込むほど魅力が増すロングライフ性
とはいえ、もっと軽量で防水・防風に優れるマテリアルが普及した現代において、ワックスジャケットは優位性に劣るのが正直なところ。それでも手放さない人が多く、むしろユーザーを拡大させているのは、機能だけにとどまらない別の魅力も備えているからこそ。ラフに扱ってもモノともせず、着込んで油分が抜けるとアタリやムラが現れて趣ある表情を楽しめ、ワックスを塗り直せば何度でも撥水力が蘇る。ハイテク素材のように着潰したら終わりでなく、袖を通すほど味わい深く育ち、ずっとずっと付き合えるロングライフウェアなのです。

ヒップ丈の「ビューフォート」は、スーツに合わせてもジャケットの裾がハミ出ないため通勤ユーザーも多数。こちらはノンワックス&ゆったりサイズで仕立てた別注作。
かくして本物を求める目の肥えた大人、トレンドに敏感な若者や女性からも支持される現在。他方、ヴィンテージシーンでも人気が高く、エイジングされたユーズド品や現行とは異なる旧タグを探す古着好きも少なくありません。
最後に、パッと見では似ている各アウターの一番の違いである着丈について解説を。主要なレギュラー商品ではレングスの短い順に、
・ショートの「スペイ」<「トランスポート」
・ミドルの「ビデイル」<「ビューフォート」
・ロングの「ボーダー」<「バーレー」
となります。ぜひアイテム選びの参考にしてください。

ファッションライター いくら直幸
人気アパレルメーカーのPRを経て、1990~2000年代に絶大な影響力を誇ったストリートファッション誌『Boon』の編集者に。現在はメンズ雑誌&ウェブマガジンをはじめ、有名ブランドや大手セレクトショップのオウンドメディアにも寄稿。近年はYouTube番組への出演、テレビ番組のコーディネート対決コーナーで審査員を務めるなど活動の幅を広げている。